「諦めたまえ!!!分かっているだろう!!?貴女1人では脳無たちを倒せない!!!抵抗しなければ…楽に死ねるんだ!!!」
文字通り四方から心詠に襲いかかり続ける脳無たち。やはり彼らも、見た目よりいくらか強くなっている。
「私はあの方から2つの個性を頂いた!!『電波』と『扇動』!!脳無への命令を強化する組み合わせだッ!!!」
「個性を…しかも、2つ…!?」
心詠は攻撃をいなしながらも、音本の言葉に耳を疑う。
「褒めて下さったよ、『3つも個性を持ってなお平然としている者はそう多くない』と!!未起動だった脳無たちは私への敬意を植え付けられたことで、最大限のシナジーが生じている!!攻撃型の個性でない貴女では…」
「…ッ!!舐めないで!!下さいッ!!!」
驚く程に素早い動きで4体の脳無にスタンバトンで反撃を試みる。うち1体にクリーンヒットし、該当する脳無はその場に崩れ落ちた。
「な…!!?」
「貴方の考えも!!命令も!!脳無たちの位置も!!私には手に取るように分かる!!!」
「く…!!」
拳銃を取り出し、心詠に銃口を向ける音本。すぐさま発砲するが、あっさりと躱されてしまう。
「そんな…!?」
「私はッ!!『ラインセーバー』!!!ナンバー3ヒーロー『ダスト』のサイドキック!!!この程度……障害にはなり得ないッ!!!」
心詠は、決して弱くない。いや…強い。彼女は攻撃的な個性の持ち主でこそないが、『読心』によって培われた先読みの先読みをも可能とする近接格闘技術は、雄英において天才と評される被身子ですら未だに足を掛けたばかりの領域。そう易々と揺らぐものではない。かつての『オーバークロック』を携えたマスキュラーに匹敵する存在でもない限り、彼女が何も出来ずに敗れることなどないのだ。
だがそれは…1対1での話。
「◇◇◇!!!」
「あ」
弾丸を躱すことに注意を割いたために位置を拾いきれなかった脳無の拳が、心詠の顔面を強かに打ち付けた。
血を飛散させながら10メートル近く吹き飛んだ彼女に、無慈悲にも脳無たちが追撃を仕掛けようとして…音本に止められる。
「止めろ!……私が、トドメを刺す」
倒れ込んだままの心詠に静かに歩み寄る音本。銃口を突きつけ、見下ろしながらも、彼女に呼びかけた声は酷く哀しさを帯びていた。
「……何故なんだ?[何故まだ立ち上がろうとする?]もう勝敗は、ついている」
心詠は息を荒げ、血を吐き、それでも『真実吐き』に応じる。
「グ、ゲホッ……!!…[まだ、終わっていないから、で、す。]貴方、は、今も、脳無に指示を、出している。……貴方さえ、倒せば…私たちは、勝てる」
「………確かに私の指示が無ければ、脳無たちは動けなくなる。私への敬意を無理に植え付けたせいで、自立思考のキャパシティが擦り減ってしまったからだ。……………だが、もう、不可能じゃないか………!!!」
「…不可能、じゃ、ない。私が、ここにいます。ダストさんが……千雨さんが、私に、託してくれたんです。だから────」
「ッ!!!」
咄嗟に放たれた弾丸を躱しながら弾かれたように飛び起き、スタンバトンを振り抜いた。音本は寸での所でこれを避け、すぐに脳無を動かす。
「うッ……!!!お前たち!!一撃で仕留めろ!!これ以上苦痛を与えるな!!」
「────情けをかけて頂く必要は、ありませんッ!!!!私は貴方を倒して!!!!皆の所に………帰るッ!!!!」
耳を劈く心詠の魂の叫び。
その形相は感情の昂りからか激しく歪み、両目は白目を剥きかけている。ダメージの抜けきっていない身体は、赤子の指1本で倒れそうな程弱々しく震えている。
それでも。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ッ!!!!!」
喉を引き裂かんばかりに己を鼓舞し、急所を狙ってくる脳無たちを切り抜け、後退する音本を猛追する。
加えて心詠の気迫に失われた筈の本能的恐怖を示した脳無たちが『扇動』を掻き消され、動きを止めた。
「(あり、得ないッ!!!!!あれだけ華奢な身体で!!!!!あれだけ重い一撃を受けて!!!!!立っているのもやっとの筈なのに!!!!!)」
銃に残った弾を乱射する音本。手が震え、狙いが逸れる。心を読んで躱したつもりだった心詠の脚に、2発が命中。────が、止まらない。
「ね゛も゛とオオオオオオオオオオォォォォォッ!!!!!」
「う…うおあああっ!!!脳無!!早く!!クソッ!!!![どうして、そこまで!!!!?]」
「[私たちの居場所を、守るため゛ッ!!!!!]」
振り返ることなく再起動した脳無による背後からの追撃を見切り、回避した拍子にスタンバトンを叩き込む。彼らはまたしても数を減らした。
「いいだろう、殺しはしまい!!!!こちら側に来いヒーロー!!!!あの方が貴女に新しい居場所をくれる!!!!」
「お断りしますッ!!!!!私はもう、『救ってもらった』!!!!!」
「────」
霞みゆくような彼女の瞳に、曇りない輝きを見た音本。その光が消えることは、未来永劫無さそうだった。
「(────────そうか。私と同じように、貴女も………誰かに救われた者だったのか。………仮に、何かボタンの掛け違えがあったなら、私たちは────────)」
2人が友人となる未来も、あったのかもしれない。
「はああああああああああッ!!!!!」
心詠が追いつき、スタンバトンが叩きつけられた。
「がッ…」
音本は小さく断末魔の悲鳴を上げ、気絶。
────その瞬間、ダスト事務所周辺地域の全ての脳無は機能を停止した。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「────みさん!!!!心詠さんッ!!!!」
「……!ダスト、さん」
「…はあああッ……!!!良かっ、た…!!!」
心詠が目を覚ましたのは、千雨の腕の中。音本の撃破と同時に、気を失ってしまっていたのだ。
「無事で帰ってくるって、約束したじゃないか……!!」
「………すみません。…お詫びに今度…パスタでも奢ります。事務所の近くに新しいイタリアンのお店、出来てましたよ」
「……うん。私の本体に、それ言ってあげてね」
千雨の言葉に顔色を変える心詠。
「…分身なんですか?」
「?ああ、仁くんに生み出してもらった分身だよ。脳無が動かなくなって、一気に形成逆転したのさ。被身子ちゃんも、本当に頑張ってくれた」
「そう、ですか。………では、ダストさんの救援に向かいましょう」
「…え?」
起きてすぐ、状況を把握した彼女は次なる戦いへ向かうと言い出した。
「その口ぶりでは、ダストさんの本体は現場に来なかったんでしょう?HNで、救援要請を済ませておいたんです。にも関わらず……彼女は来なかった。きっと、向こうでも何かあったんです」
「でも、怪我してるじゃないか!まだ軽い応急処置しか…」
「このぐらい、全てが終わった後で構いません。……………今度は、私が貴女を救いますから」
「航海の唄」は壊理ちゃんの曲ですが、心詠さんにも通ずる所はあるかなと。