すべては君のために   作:eNueMu

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終わりにしよう

 

 千雨とAFOの戦いは、膠着状態にあった。

 

 「いつまでそうやって溶岩作りに勤しむつもりだい?もう誰もこの辺りには住めそうにないね」

 「心配しなくとも掃除は得意なんだ。賠償金だって喜んで支払おう」

 

 周辺地域の人間は千雨が塵を操作して移動させたことで、既に避難が完了している。この場に居るのは2人だけだった。

 

 「(まだまだ無機物は沢山ある。最初の方に炎を防いだ塵化アスファルトも冷えてきた……変な個性が飛び出してこなければ負けはしないだろう。………勝つのも不可能だけど、ね)」

 

 今のAFOは気流操作によって千雨の塵操作を妨害することも、増強型を掛け合わせた圧倒的な身体能力でその速度を上回ることも出来ない。だが、同時に千雨がAFOの炎を突破する方法もない。彼らの戦いの余波により、ただただ街ばかりが破壊されていた。

 

 「『鋲突』『火炎』×5『カマイタチ』『増殖』」

 

 両手から伸びた黒爪にも炎を纏わせ、一息に振るうと灼熱の真空波が千雨に襲いかかる。更にはそれらが無数に分裂するが、塵を圧し固めた無機物の障壁で全て防ぎ切った。融解して地面に広がるアスファルトの成れの果てを尻目に、2人は言葉の応酬を続ける。

 

 「好きだねそれ」

 「『気流操作』を手放してからはお気に入りの組み合わせだよ。今は1番使いやすい」

 「芸が無いと言っているんだよ」

 「そいつは失敬、地味なのは好みじゃないんだ。しかし…このまま時間を稼がれるのは、確かにまずいね」

 

 千雨の挑発に乗るように戦法を変えるAFO。次なる攻撃は…

 

 「『イオン化』『収束』『空気を押し出す』」

 「え────」

 

 プラズマ砲。万を超える温度を秘めた破滅的な一撃が、凄まじい速度で放たれる。

 

 「チィッ!!!」

 「おぉ!よく避けた!!本当は今ので勝負を決める算段だったんだ!!」

 「全然地味じゃないじゃないか!!!本当に汚いな!!!」

 「人聞きの悪いことを言わないでくれよ!他は地味なのしかないなんて言わなかっただろ?」

 

 僅かに巻き込まれてしまったが、大部分は無事にプラズマ砲の回避に成功した千雨。AFOは人を食ったような笑みを浮かべてそんな彼女に弁解しつつ、言葉を繋ぐ。

 

 「今の組み合わせが反動が酷くてね。あまり好き放題撃てるものじゃないんだ……『雷』。こうやって適当な個性を繰り出してる方がよっぽど燃費はいい」

 「人が話聞いてあげてるんだから攻撃しないでくれ!じっとしてられないのかい!!?」

 「もう十分じっとしてたさ。久々に楽しく運動が出来るんだ、少しぐらい付き合ってくれたって構わないんだぜ?」

 「誰にも迷惑かけないならね!!こっちは現在進行形で大迷惑してる所だ!!!」

 

 息をするように様々な個性を披露し、千雨を仕留めにかかる巨悪の顔は、どこまでも楽しそうだ。彼女が必死に防ぎ、躱し、恨み言を吐き捨てる様は、AFOにとって筆舌に尽くし難い光景だった。

 

 「フフフ…君は実に素晴らしい。常に僕の望み通りの反応を返してくれる。打てば響くとは正しくこのことだ」

 「ああそうかい!!!」

 

 「千々塵風」で劫火を吹き飛ばし、そのまま風に乗ってAFOに接触を試みた千雨。しかし、風力が足りない。彼女が到達するより早く、炎が復活してしまう。その上離脱が間に合わず、さらに自身を構成する塵が減った。

 

 「随分と器用じゃないか…!!私も攻撃したいんだけどね!!?」

 「残念だけど、この戦いはターン制のRPGとは違うんだよ。アクションゲーム、やったことあるかな?あの手のゲームはね、下手くそなうちは全く自分にチャンスが回ってこない。ちゃんと付け入る隙を見抜かなきゃね」

 「悪いね、ゲームはあまりやらないんだ!!不出来な私に君の隙ってのを教えてくれるとありがたい!!」

 「ダメだぜ?不出来だからこそ自分で探さないと!簡単に答えを教えちゃ面白くないだろ!?」

 

 AFOが攻撃し、千雨が対処する。

 

 「『火炎』×5『充填』『空気を押し出す』────っと。これもちょっと制御が難しいな。即興での組み合わせはこうなりやすい」

 

 地力の差で、少しずつ天秤がAFOの方に傾いていく。

 

 「元気が無くなってきたかな?『鋲突』『スパーク』『マルチプル』。どうだい、線香花火みたいで綺麗だろ?笑ってくれよダスト!」

 

 

 

 気付けば────千雨の身体はもう半分も残っていなかった。

 

 

 

 「よく粘る!流石はヒーロー、諦めが悪い!」

 「……そりゃ…まだまだ勝てると思ってるからね」

 「ははは、君の悪い所だぜダスト。救けが来ると思ってるんだろ?けどね、現実はコミックのように甘くはない。そんな都合の良いことが────」

 「あるさ。分からないんだろう?『あんたは3巻までしか読んでいない』から」

 「────」

 

 嘲笑のつもりでかけた言葉が、思わぬ方へ転がり始めた。

 

 「『兄さん、知ってるか』」

 

 千雨の姿が、声が。いつか見たあの日の光景と重なる。

 

 「『悪者はな。必ず最後に敗けるんだ』」

 

 目の前に居たのは、確かに巨悪の弟…死柄木与一だった。

 

 

 

 

 

 「ハハハハハハッ!!!!!そうかそうか、そうだった!!!そういうことも出来たんだった!!!お前なのか、弟よ!!!?生まれ変わりって奴なのか!!!?いいや違う、弟ならドクターを殺すなんて大それたことは出来る筈が無い!!!なら何故!!!?どうしてその台詞を知っているんだ!!!?止してくれよ、殺したくなくなるじゃないか!!!なあダスト、君は一体何者なんだ!!!?今すぐ頭を切り開いて何が詰まってるのか見てみたい!!!本当に、本当に!!!面白すぎるぜ君は!!!」

 

 狂ったように笑うAFOに、千雨は静かに言葉を返す。

 

 「喜んでもらえてよかった、練習した甲斐があったよ。………私の正体が知りたいなら、その炎を消してくれ。それか…地獄の閻魔様にでも教えてもらうといい。もしあるならの話だけどね────『澌塵灰滅』」

 

 顕れるのは、塵の巨人。マスキュラーの時とは異なり、全身が顕現している上に、塵の一粒一粒が強く固く結びついている。劫火やプラズマ砲には耐えられないだろうが、命中箇所が融けきるまでには幾らか猶予があるだろう。

 

 『もう、君の相手をするのにはほとほと疲れた。ここで全部、終わりにしよう。────来い』

 

 密着した塵同士が擦れ合い、耳障りな音が絶え間なく流れる。あたかも、巨人の産声であるかの如く。

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