すべては君のために   作:eNueMu

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さよなら

 

 「大きくなった所で、僕に攻撃は届かないぜ?」

 『どうかな』

 

 劫火を纏ったまま巨人に接近するAFO。だが、接触することはしない。

 

 「迂闊に触れたりはしないよ。君のことだ、何を隠しているか分かったものじゃない…『鋲突』『火炎』×5『弦』『増殖』!」

 

 10本の長大な燃える黒爪と腕部から無数に伸びた炎の鞭が巨人をバラバラに斬り裂く。細切れになった破片も丁寧に融かし、一切の油断を見せない。

 

 「こうしてゴミを増やすだけだ。どうしようもない相性差、同情するよダスト」

 『結構。悲観的になる程じゃあない』

 

 しかし、千雨もすぐに次なる巨人を生み出す。もう周辺は完全に更地と化していた。

 

 「破片は全部溶かしたと思ったんだけどね。何処に潜り込んでいたのかな?」

 『さてね……君ばかり質問するのは卑怯じゃないかい?私のには答えてくれなかった癖に』

 「ははは、それもそうだ。『イオン化』『収束』『空気を押し出す』」

 『!!!』

 

 AFOから2度目のプラズマ砲が飛び出す。狙いは…巨人の胸部。

 

 「有機物と無機物、人体とそれ以外。中に隠れていてもそのぐらいは分かるよ。また『君』が減ったね?」

 

 巨人の中に身体を分けて隠していた千雨。全てを1度に失うことを恐れたがための行動だったが、逃げ場がないという点では先程までより危険でもある。

 

 『でもこれでしばらく今のは撃てない。ようやくターンが回ってきそうだ』

 「いいや、渡さないよ」

 『強引にでも奪い取るさ』

 

 ダブルスレッジハンマーの体勢で両拳を振り下ろす巨人。塵の操作が動きに直結しており、予備動作は皆無だ。

 

 「無意味だね」

 『なら何故避けるんだい?』

 「容易く躱せることまで含めてそう言っているんだよ」

 

 猛然と迫るそれをいなすように躱したAFO。拳の一部が融解した巨人は、すぐさまその瑕疵を補う。

 

 「そら」

 『な────』

 

 

 

 直後、プラズマ砲が巨人の肩から上を飲み込んだ。2撃目から間髪入れずに放たれたそれに千雨は内心動揺しながらも、AFOを煽る。

 

 「焦ってるのかい、ひょっとして!!あるいは反動があるってのも嘘だったとか!!?」

 「心配は要らないよ。反動で今も身体が麻痺し始めてる。ただ、遊びはもう止めようと思ったのさ」

 「そいつはちょっと遅かったね!!!こっちはそろそろ決着をつけるつもりだ!!!」

 

 

 

 

 崩壊した巨人をすぐに球状に形成し直し、必殺技を繰り出す千雨。

 

 

 

 「『塵に還れ(ダスト・マスト・ダイ)』ッ!!!!!」

 

 

 「こんなもの…」

 「避けさせないよ!!!」

 「!!」

 

 瞬間、辺りからせり上がるのは、未だ熱と流動性を帯びたままの融けた巨人の残骸。…そう、千雨が塵化できるのは決して固体だけではない。融けていった分にも再度触れて塵にしていたのだ。

 

 「(さっき隠れていたのは…これか)」

 「手を灼いた甲斐はあったかな!!?これだけの質量があれば、君を押し潰すぐらい……訳は無いッ!!!!」

 

 巨大な砲弾が着弾するより先に、周囲の溶岩もどきがAFOに覆い被さる。全てを躱すことのできる個性は、今のAFOの手元には無かった。

 

 

 

 「………塵も積もれば何とやら、か。やっぱり気流操作を失ったのは…痛手だった」

 

 

 

 紅い波が、巨悪を呑む。すぐ後に巨塊が着弾し、地鳴りと共に全てを擦り潰した。

 

 

 

 

 

 「……………」

 「おかげで服が燃え尽きてしまった。いやあ、恥ずかしい限りだ」

 

 

 

 あまりにも残酷過ぎる結果。AFOは、当然のように這い出して浮き上がってきた。何かの個性か、外套をどこからともなく引き出しながら、滔々と言葉を並べる。

 

 「『熱無効』と『低反発』。あらゆる君の攻撃で僕が傷を負う可能性は初めから万に一つも無かったんだよ、すまないね」

 「………ぬか喜びさせるのが…本当に上手いよ」

 

 千雨に残された道は、もう時間稼ぎしかなかった。それすらも反動を無視してプラズマ砲を連発されるだけで容易く綻ぶだろう。

 

 「────ック…!!」

 「ああ、まずいな。呂律が回らなくなりそうだ。次でトドメにしよう」

 

 6年前と全く同じ構図。警戒していたにも関わらず突然のプラズマ砲を避けきれず、千雨は残っていた塵の半分程を失った。あの時と異なるのは、オールマイトの救けが望めないという絶望的な事実。

 

 「さよなら、ダスト。君と出会えて本当によかった」

 

 果たして本心からの言葉か、醜く口角を歪めながらそう嘯くAFO。千雨は諦めずに全身の分離による逃走を試みる…と、見せかけて、

 

 AFOに接近した。

 

 「特攻。悲しいね、ククク────」

 

 

 

 

 

 「『メテオナックル』ッ!!!!!」

 「!?」

 

 上空からの奇跡を呼ぶ一手。劫火が剥がれ、さらに頭上からは小さな瓦礫が飛んできている。射手は転弧。美智榴の背から、コラプションシューターによって放ったものだ。

 

 「(────まずい!)」

 「被身子ちゃん!!!!!斜め下前方です!!!!!」

 「「「『千々塵風』ッ!!!!!」」」

 「な────」

 

 声の方に振り向いたAFO。瓦礫と一緒に躱したつもりだった千雨は、既にそちらへ回り込んでいた。さらにその奥からは、もう3人の千雨が力を合わせてAFOと手前の千雨に暴風を叩きつける。

 

 

 

 「千雨さんッ!!!!!いけえええええええ!!!!!」

 

 

 

 全ては、必然と偶然と運命の上に成り立ったことだった。

 

 

 

 もしAFOが反動度外視でプラズマ砲を連発していなければ、鋭敏なままの感覚が彼らの接近を嗅ぎつけただろう。

 

 

 

 もし襲撃が朝早いこの時間帯でなければ、彼らがここにこのタイミングで集うことはなかっただろう。

 

 

 

 もし千雨が心詠を、転弧を、仁を、被身子を、そして転弧が美智榴を救っていなければ、この結末を迎えることはなかっただろう。

 

 

 

 強風に乗り、

 

 胸から上と右腕だけになった千雨が、

 

 炎が消えたAFO目掛けてその掌を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「惜しかった。本当に、惜しかったね」

 

 ────────彼女の掌は、虚しく空を切った。

 

 追従する彼女の塵が、慰めのようにAFOに乾いた音を立ててぶつかり零れ落ちる。

 

 「那珂美智榴ちゃんも、来てしまったか。残念だよダスト……改めて、さよならだ。またいつか、君が生きているうちに戻ってくるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうだね。さよならだオール・フォー・ワン

 「────」

 

 

 

 AFOの身体が、塵と化して消えていく。

 

 

 

 「……………おかしいな。触られた覚えは、無かったんだが」

 「何を言っているんだい?触ったじゃないか、今まさに」

 

 千雨は、最後の切り札を表に出したのだ。

 

 「私の個性は、私自身に加えて触れたものを塵にする。気体以外は、ほぼ例外なくね」

 

 残りの身体を塵化させ、漂わせながらAFOに話す。

 

 「けど、さ。……………手で触れなきゃならないと言ったことは、ただの1度も無かったよ?」

 「………なる、ほど。こいつは…1本取られたな」

 

 塵堂千雨…ヒーローネーム「ダスト」、個性「塵」。触れたものと自らを塵に変え、さらに塵を操ることができる。小麦粉や灰なども対象。すべての塵は台風の風速にも負けない程の速度で操作でき、自らの塵は半径10km圏内にまで拡散させることが可能。そして、その他の塵に関してはその限りではない。なお────────

 

 

 

 

 

 「適用範囲は塵化部位も含めた私の全身だ

 

 

 

 

 

 相手に触れるのは必ずしも手である必要はない。

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