すべては君のために   作:eNueMu

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    :オリジン

 

 「参ったなぁ……ドクターをやったのは、これか…」

 「そういうことだよ。正直何処かで気付かれてたかもって思ってたけど……30年間、隠し通した甲斐があった」

 

 薄く笑いながら、全ての種を明かす千雨。AFOは既に四肢を失い、されど血は一滴も溢れていない。全て塵化し、その所有権は千雨にあったのだ。

 

 「不思議な個性だね………確かにまだ僕の身体だという感覚はあるのに、実際には君の匙加減一つで今この瞬間にも消えてなくなってしまう。ああ、肌が粟立つ。こうなってもまだ要らないと思えるよ」

 「私も最初は制御に苦労したんだ。大雑把な君じゃあ使いこなせないさ」

 「言ってくれるじゃないか」

 

 死の淵に立ってなお憎まれ口を叩くAFO。千雨も少しぐらいは、と彼の今際の言葉を聞いている。

 

 「……最期に教えてくれ。君は、何者なんだい?」

 「自分で考えなよ。残り少ない時間の中で」

 「……………そうだね。そうさせてもらおうか────『増殖』」

 

 

 

 「え?」

 

 

 

 千雨の顔を、AFOの頭から伸びた手が覆った。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 「油断したねぇダスト!まさかそういう手もあるとは思わなかったかな!?文字通り、ね!はははは…」

 

 暗く、狭く、闇が流れるここは千雨の精神領域。何の因果か、AFOとOFAという2つの個性はここを通して相手に干渉することが出来てしまうのだ。

 しかしAFOにとって予想外だったのは、彼女の精神に潜むモノ。

 

 1人は、彼もよく見慣れたいつもの塵堂千雨。

 

 

 

 だがもう1人は、見たことのない人物だった。

 

 

 

 「………油断したよ、ああ。本当にしつこくて嫌になる」

 「…驚いたな。先客が居たとはね。……君の全ての秘密は、彼女が握っているのかな?」

 「そうとも言えるし、そうでないとも言える。ちょっと微妙な所だね。正直、私が今もここにいるとは自分自身思ってもみなかった」

 

 謎の人物…少女とも女性ともつかぬ彼女ははっきりと受け答えを行った。

 

 「ごめん…私が甘かった」

 「ホントにねー。こうなる可能性は0じゃなかったでしょ?勘弁してくれ」

 

 千雨に比べ、ほんの僅かに女らしさを残した口調の彼女は、AFOに向かって手を翳す。

 

 「……悪いけど、()()は要らない。絶対扱いきれないし、おまけで君までついてくるとなっちゃ返品一択だ」

 「それは、私も同意だね」

 「おいおい、冷たいじゃないか!僕も仲間に入れてくれ!!」

 

 千雨と彼女がAFOを拒む。本来ならAFOも2人での侵略が可能な筈だったが、もう1人の意識は殆ど『腐り落ちて』しまっていた。

 

 「酷いとは思わないのかい!?葬は君のせいでこうなったんだぜ!?ヒーローとして罪悪感の一つでも抱いたらどうだい!?」

 「無くはないよ。でも、私じゃ全ては救えない」

 「私は、私のやりたいようにやったまでだよ。そしてこれからも、ずっとそうする」

 「…へぇ…!!君、思ってたよりずっとこっち側の人間だったのか!」

 

 嗤うAFOに、2人は頑として言葉をぶつける。

 

 「死柄木葬が生まれたのは、私が原因だ」

 「でも、死柄木葬を生み出したのは、君だ」

 

 少しずつ、AFOが外へ押し出されていく。

 

 「「私たちの蒔いた種は、私たちで刈り取らなきゃね」」

 「ああ、ダメだ!!まだまだ知りたいんだ、なあ!!ははは、凄いぜこいつは!!コミックの中にだってこんな面白い登場人物は居なかった!!見せてくれよもっと!!君の、君たちのすべてを────────────」

 

 

 

 

 

 光の中に、AFOは消えていった。

 

 

 

 

 

 「私は、塵堂千雨」

 「塵堂千雨は、私」

 

 

 

 「「それじゃあ、またいつか」」

 

 微笑み合う2人は、少しずつ闇に溶けていく。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 「大丈夫か、千雨さん!!?最後にアイツが何か…」

 

 茫洋と浮遊したままの千雨に駆け寄る転弧。他の仲間たちも、続々と彼女の元に集まってくる。AFOは、既に完全に塵化して消滅してしまっていた。

 

 「お疲れ様です、ダストさん」

 「よく見るとこの辺、めちゃくちゃになっちゃってますねえ。請求額が物凄いことになりそうです。……いや、流石に個人に負担はさせないでしょうか」

 「AFOは!?倒したんですよね、ダストさん!?」

 

 「ああ、心配要らないよ。……………はー、長かったなぁ……………ようやく、枕を高くして眠れそうだ」

 

 全身を…否、胸から上と右腕を更地に投げ出す千雨。

 穏やかな笑顔は、眩しい陽の光に照らされて一層輝いているようにも見えた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 日本全国で同時多発的に発生したヴィランの決起と脳無の大量発生。一連の事件での死者や負傷者、また都市や住宅への被害は決して少なくなかったが、最終的には全ての地域で無事鎮圧が確認された。

 特に被害が大きかったのは、オールマイトとオール・フォー・ワンなるヴィラン、そしてダストと敵連合の死柄木葬が激闘を繰り広げた2つの地域。どちらも人的被害こそ軽微だったものの、大都市が跡形も無く破壊し尽くされたその光景は戦いの凄まじさを嫌でも人々に実感させた。

 AFOは捕縛されタルタロスへ送られ、死柄木はダストによって殺害。後者について世間は一時荒れに荒れたが、敵の強大さを鑑みれば致し方なしということで一応の決着を迎えたのだった。





 状況が状況とはいえホークスがトゥワイス殺してもヒーロー続けられてるんでセーフ。

 次回、最終話です。

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