ボロボロの家から出てきたのは、両親とその子供であろう、寝起きと思しき三人。母親はあからさまに気が動転しており、他の二人を急かしている様子だ。
「(これは…。バレたのか?この位置で?大事をとって視認できるギリギリまで高く陣取ったんだけど…流石はホークスの個性を形作った個性だというべきかな)」
もっとも、いかに早く察知できた所で彼らが千雨から逃れるのは不可能だ。仮に啓悟が協力したとしても今の彼の個性では逃げ切れる程の速度は出せないだろう。
急降下して三人の前に立った千雨を…ダストを見て、両親の顔が凍りつく。それでも幾分か冷静だった母親に対して、致命的に対応を誤ったのは父親の方だった。
「こんにちは。ご家族でお出掛けですか?」
「あ…そ、そうよ。いっちょん贅沢できんで、今日は…」
「おい!なしてダストがこんな所おる!?啓悟おめぇ俺んこと売ったな!?」
「違うよ…昨日も街行く途中で帰ってきた。なんもしとらん」
「あんた!!」
妻の制止も聞かずに我が子に詰め寄り掴み掛かろうとする男。千雨は塵化した下半身で彼を拘束し、残る上半身で少年を抱き寄せる。
「お父さんはいつも?」
「こんなん…こんな感じです」
「啓悟ォ!!おめぇよくも…」
「児童虐待…もう言い逃れはできないよ。奥さん貴女も同罪だ。見過ごしてきたというだけでもね」
「あんた…ずっと見とったと?」
「昨日の夜中からね。辺鄙な場所に…言い方は悪いが普通じゃない風体の家が建ってたもんだからさ。徹夜して正解だったよ」
「…こすい人ね」
恨み言を吐く彼女だが、その顔にはすでに諦めが浮かんでいる。程なくして二人は警察に引き渡され、また交渉の末彼らの子供…鷹見啓悟は一先ずプロヒーローのダストに預けられることとなる。これにより廃屋のような一軒家は、真の意味での廃屋と化したのだった。
「(母親…遠見絵さんの方はそこまで重い罪を犯していたわけじゃない。児童虐待にくわえて犯人蔵匿って所か。ただ…原作での待遇を思えば悪いことしちゃったな。一方で父親の方は連続強盗殺人。もう表に出てくることはないだろうね)」
「あの…ありがとうございます」
「ん?ああ、どういたしまして。といってもヒーローとして当然のことをしたまでだけどね」
「ヒーロー…」
少年の目が輝く。千雨はそんな様子を微笑ましく思いつつ、ふと彼が抱いている人形に目を向けた。
「啓悟くんは…これからどうしたい?」
「ヒーローになりたいです。あなたみたいに…悪い奴をやっつけられるヒーローに」
即答。彼が辿る将来を幻視し、千雨は鳥肌を立たせずにはいられなかった。
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「それで俺の所に?」
「はい。正直言って転弧くんで手一杯で…でもこの子を中途半端に育てることはしたくない。引き受けてくれますか?」
「ふむ……まあ、構わない。基本的にはサイドキックに任せることになるだろうが…皆俺が認めた一流のヒーロー達だ。決して悪いようにはしない」
「ありがとうございます!啓悟くん、良かったね」
「はい。ダストさんも本当にありがとうございます。俺、頑張ります。頑張って追いついてみせますから…待っててくださいね」
力強く応える啓悟。そのままエンデヴァーに向き直り、彼と視線を交わす。
「突然一人になって驚いただろう。ここも周りは知らない大人ばかりだが…君をぞんざいに扱う輩は誰もいない。ようこそエンデヴァー事務所へ。歓迎するぞ、啓悟」
「…!はい!よろしくお願いします!」
「(…私の時より輝いてるね…)」
目の前に立つ己にとってのヒーローの代名詞。啓悟は興奮と感動を覚えつつも、これからの生活に想いを馳せる。その横で千雨はまあまあショックを受けていた。
多分原作ではこんなに両親の方言はきつくなかった…何ならエセ方言なので正しいかも怪しいです、ごめんなさい
ホークスはこの後しばらくエンデヴァー事務所で鍛錬を積んだのち、公安にスカウトされる形になります
エンデヴァーはだいぶ渋るでしょうがまあホークスの意思を尊重したということで