すべては君のために   作:eNueMu

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更なる一歩

 

 「ただいまー。遅くなっちゃってごめんね、朝起きたら私がいなくてびっくりさせちゃったかな?」

 「あ…!千雨さん!」

 「お疲れ様です。どうでしたか?」

 「丸く収まったよ。エンデヴァーさんも快諾してくれたし」

 「何よりです」

 

 鷹見啓悟…後のホークスをエンデヴァーに託した千雨は自宅に戻ってきていた。サイドキックに任せておいた転弧に詫びながら、一件落着したことを彼女…覚里心詠(さとりこよみ)に告げる。

 

 覚里心詠…ヒーロー名「ラインセーバー」。個性「読心」。周囲の生物の大まかな感情を把握できる他、対象は人間に限られるが意識を向けた相手の思考を読み取ることができる。なお、後者の能力を知る者はこの世で彼女自身と塵堂千雨ただ二人のみ。

 

 「千雨さん…今日はどうするの?」

 「うぅむ…。もうお昼だし今日は訓練お休みしようか。心詠さんと遊んでな」

 「いいの!?やったぁ!」

 

 素直に喜ぶ転弧を見て、思わず顔が綻ぶ千雨。何度か彼女に預けるうちに、すっかり懐いたようだと安心感を覚える。

 ダストのヒーロー事務所は極々小規模なもので、所属ヒーローはダスト本人とサイドキックのラインセーバーのみだ。とはいえビルボードチャート不動の1位であるオールマイトが色々例外であるとはいえ単独で活動していることを思えば、決しておかしなことではない。何よりまだ臆病さの抜け切らない転弧のことを思えば、迂闊に人員を増やすことはあまり望ましくはなかった。

 

 「いつも通りノルマはこなされるとのことですが」

 「うん。ついでにちょっと捜し物みたいなものもあるから遅くなるかもしれないけど…。転弧くんのことよろしくね」

 「お任せください」

 

 鋭い目つきを崩すことなく応える心詠。側から見れば怒っているのかと取られかねない表情だが、彼女を深く知る千雨はそうでないことを理解している。その場の三人はお互い未だ五年にも満たない付き合いの者同士でありながら、その間にはすでに硬い絆が結ばれていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 月日は過ぎ、転弧と千雨が出会って一年が経とうとしていたある日。

 

 「ヒーローとは!見返りを求める者であってはならない!己のためではなく他者のために力を振るえるものでなければならない!何よりも…力が伴っていなければならない!この「英雄回帰」の概念こそが、今の社会には必要なのだ!欲に塗れ、信念を持たぬ贋物が蔓延る現状を変えるべく…」

 

 一人の青年が街頭で声を上げる。高らかに己の理想を語り、正義のあるべき形を主張する。しかし道ゆく人々は目も暮れず、時折り立ち止まって聞く者も何処か上の空だ。真剣に彼の話を受け取る者は、彼の目の前には誰一人としていなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「…声に力はない。正義を語る者が為すべきことは…やはり弁舌を振るうことではない。俺自身が最もよく分かっていたことだ」

 「確かにその通りかもしれないね。ただ…気付いてる?君、後戻りできない道に進もうとしてるよ」

 「…!?貴様は」

 「少し…意見交換していかないかい?」

 

 日暮れ時…青年とヒーローは相対する。

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