今更ですが、本作ではヒロアカに加えて外伝のヴィジランテに含まれる要素も登場します。ジャンプ+で読めるので是非。
ある日、島での訓練中に千雨が仁に相談を持ちかけていた。
「転弧に勉強を教えたい?」
「うん。小学校に通うってのは少し厳しいからね。できれば私がその分を補ってやりたいんだけど…如何せん忙しくて。仁くん、お願いできないかな?」
「構わねえ。と言いてえが…俺も出来は良くなかったからな。正直上手く教えてやれる自信がない」
「そっか…」
訓練による成果が見込みにくくなり、それならばいっそその時間を幾らか勉強に回したいと考え始めた千雨。しかし、ダスト事務所で転弧に付きっきりでいられる人員は事務員の分倍河原仁ただ一人。そして彼も勉強を教えることに自信はないと話す。これまで極少人数で事務所を運営してきたことによる弊害が生じてしまっているようだ。
「最初はコネを利用すれば、とも思ったんだけど…」
「何だ?問題でもあるのか?」
「問題というか…」
千雨は仁に、雄英高校での一幕を語る。
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「…難しい、ですか?」
「そうだね。雄英高校の教師たちは皆同時にヒーローでもある。生徒に教え、市民を守る。それだけでも相当な苦労があるのさ」
「な、なるほど。言われてみれば確かにそうですね…。(そりゃそうじゃないか…。先生の仕事をしながらプロヒーローとしても活動するなんてのは決して簡単なことじゃない。その上転弧くんの家庭教師なんてまあ無理だ。うっかりしてたよ…)」
「それに転弧くん自身、あまり知らない人と接触するのは嫌がるだろう。勿論親しくなっていけばいい話ではあるけれどね。やっぱり君の事務所の仲間と教えてやるのがベストだと思うよ?」
「そう、ですね。それが手っ取り早そうです。わざわざ御時間を取っていただいてありがとうございました、校長」
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「なるほどな。アテが外れたって訳だ」
「結局心詠さんに頼るしか無いのかなぁ。今でも結構大変そうなのに…」
「…二人とも何の話してるの?」
「あっ、転弧くん」
訓練の一環として仁の分身と鬼ごっこをして遊んでいた転弧が、休憩がてら二人に近づく。
「転弧、お前勉強したいか?」
「え!?う、う〜ん。あんまりしたくない…かも…」
「だってよ。別にいいんじゃねえか?」
「そういう訳にはいかないよ。転弧くん、勉強しないとヒーローにはなれないぞ?私も心詠さんもしっかり勉強してきたんだ」
「うぅ…。ヒーローって、大変」
「夢も希望もねぇ言い方しやがるぜ。転弧ぐらいの歳の奴に世知辛い事情を教えてやるこたねぇのによ」
「わああ!!だ、大丈夫だよ転弧くん!君なら絶対ヒーローになれる!諦めちゃダメだあああ!」
「ほ、ほんと?」
「取り乱しすぎだろ…」
転弧がヒーローの現実を知って自信を失いそうになっているのを見て、慌てて雑なフォローをする千雨。その場は丸く収まったが、転弧に勉強を教えるという根本的な問題は解決していなかった。
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「てなわけで…どうしようか、心詠さん」
事務所に戻ってきていた千雨は、心詠に縋る。少し考えたのちに、彼女はとんでもないことを言い放った。
「活動休止しては如何でしょう?転弧くんが小学生レベルの勉強内容を修得しきるまで」
「…は?おいおい、流石にそれはできねぇんじゃ…」
「それだああ!何で出てこなかったんだろう、ありがとう心詠さん!」
「な…良いのかよ!?もっとこう…活動する日を減らすとかはダメなのか!?」
「詳しくは省きますが、ダストさんがヒーロー活動を続けられているのは高い活動頻度とヴィラン検挙率があってこそです。今より減らせば免許剥奪の可能性も見えてきますし、それならいっそやむを得ずヒーロー活動を休止するとした方がいいんですよ」
「…?千雨さん、ヒーロー辞めちゃうの?」
「ううん、ちょっとお休みするだけさ。その分転弧くんに勉強を教えてあげるから…サボっちゃダメだよ?」
「う…わ、分かった」
「…千雨さんはそれでいいのか?」
「構わないよ。私がいなくなったって他にもヒーローは沢山いるし、最近は以前よりずっと増えてきてる。10年もすればヒーローは飽和状態になるとまで言われてるんだよ?しばらくは彼らに任せるとしよう」
「まあ…あんたが良いなら何も言わねえよ」
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その日の夜、プロヒーロー「ダスト」がヒーロー活動を休止するという衝撃の知らせがあった。未だ活動期間2年程度、ダスト自身も二十歳そこらであるにも関わらず3年近くも休止するという本人からの報告に、世間では様々な憶測が広がったが、1年もすれば彼女の話をする者は殆どいなくなっていた。
1年飛ばしたばかりで申し訳ないのですが、次は一気に5年ほど飛びます。白雲を助けるためだけにこの時間に飛ばしたようなもんなので…。重ね重ね申し訳ございません。