『塵化ヒーロー「ダスト」大活躍!3年のブランクを感じさせない獅子奮迅の働きで本日も活動を終える』
自身の携帯で少し古いネットニュースを眺める少年。その顔は何処か誇らしげで、見出しの人物を尊敬しているらしいことが窺える。そこに掛かってきた一本の電話。少年の携帯に登録された番号から掛かってきたもので、画面には「お母さん」という表示があった。
「…もしもし」
『…転弧。今日、入学式でしょ?直接は言ってあげられないから…今言っておくね。入学おめでとう』
「うん」
『…体調に気を付けて。中学生活楽しんでね。それじゃ…また』
「うん。…また」
ぎこちない、電話越しでの親子の会話。それでも彼らは、少しずつあるべき形へと戻ろうとしていた。
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「千雨さん、仁兄から渡す物があるって聞いたんだけど…」
「うん。はいこれ」
「…これ、俺の?」
「そうだよ。設定とかその他諸々はもう済ませてあるから、すぐにでも使えるよ」
「ありがとう…でも、何で今?」
「…そろそろ良いかと思ってね。感情と個性の切り離しも問題なくできるようになったことだしさ。電話の所、見てごらん」
千雨に促されるまま、端末を操作する転弧。すると、連絡先の所に何人かの番号が既に設定されていることが分かった。
「千雨さんに、心詠さん、仁兄。それに…これは」
「君のお母さんとお姉さんの番号も入れてある。…今、掛けてあげて」
「………わ、かった」
しばらく硬直していたものの、覚悟を決めた転弧。僅かに震える手で、まずは母に電話を掛けた。
ワンコールで繋がる電話。スピーカーの向こうからは、久しく聞いていなかった声が聞こえてきた。
『…もし、もし』
「……もしもし。お母さん?」
『────うん…!そうだよ、転弧…!お母さん…!」
「…ごめんなさい。ずっと、会えなくて。俺のせいで、お母さんも、みんなも、悲しませて」
『貴方のせいなんかじゃないわ…!私の方こそごめんね転弧…!貴方を守ってあげられなかった!寂しかったでしょう…?辛かったでしょう…?母親なのに…貴方にそんな思いをさせてしまった…。本当に、ごめんね』
「…じゃあ、お互い様だ。これでお終い。だから…もう泣かないで、お母さん」
『うん…!うん…!ありがとうね、転弧…!』
「…おじいちゃんとおばあちゃんは元気?」
『ええ…。勿論元気よ。ずっとずっと…貴方の事を心配してたわ。今、うちに居るの。代わる?』
「うん。お願い」
母に代わり、彼の祖父と祖母が電話に出る。再び謝罪の応酬が続き、携帯からは涙声が響く。家族再会の通話は、実に二時間近くも続いた。
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『それじゃ、またね。華にも…電話してあげてね』
「うん、わかってる。それじゃ」
幾らか余韻を残した後に、転弧は続いて姉の志村華へと電話を掛ける。此方もやはり、通話が始まるのはすぐだった。
『も、もしもし!』
「…もしもし、華ちゃん。転弧」
『あ、えっと、えっと…!ごめんね、転弧!ずっと謝りたくて、あの時も、謝ろうと思ったの!でもできなくて、会えなくなっちゃって…!悲しかった…!急に色んなこと、起きて、わけわかんなくなっぢゃっで!ほんどに、ごべんねぇ…!』
「…そんなに謝らなくても大丈夫だよ、華ちゃん。謝りに来てくれてたの、分かってたから。お母さんから聞いてるよ、友達の家にいるって。その子にびっくりされちゃうよ」
『…う゛ん…。ねぇ、転弧。許してくれる?』
「…いいよ」
『えへへ…ありがとね』
小さな子供がそうするように。華の「ごめんね」に、転弧は「いいよ」と返す。途中華の友人が乱入するなどのアクシデントも交えつつ、二人の会話は思いの外弾んだ。
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『ばいばい、転弧!またね!』
「うん。またね、華ちゃん」
明るい雰囲気で通話は終わり、転弧は千雨に向き直る。
「千雨さん、ありがとう。俺にこうして…機会をくれて」
「どういたしまして。ちなみに今のは携帯の『機械』とチャンスの『機会』を掛けてたりするのかな?良いセンスしてるねぇ」
「…面白くない」
「あ、あはは…ごめんごめん。何というかつい…」
「千雨さんのそういう所は直した方がいいと思うよ。俺最近千雨さんが実は結構変人だって気付いてきてるからね」
「そ、そんなぁ!一体誰にそんな心無いことを吹き込まれたんだい!?仁くんか!?そうなんだろう!?一人称もいつのまにか『俺』に変わってたし!君を変えたのは彼以外にあり得ないんだあああああ!」
「うるせぇ聞こえてるぞ。そういう所が転弧に白い目で見られてんだよ」
「おのれふてぶてしい奴…よくも幼気な少年を歪めてくれたね?この代償は高くつくよ」
「おい、心詠さん。こいつ何とかしてくれ」
「ダストさん、復帰の手続きがまだ済んでいませんよ。遊んでいる暇があったら手伝って下さい」
「はーい…」
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「お疲れ様、転弧くん。入学おめでとう。学ラン似合ってるよ」
「ありがとう千雨さん。それと…これからもよろしく」
「うん。こちらこそよろしくね」
それぞれが更に歩み寄り、彼らは新たな一歩を踏み出した。