すべては君のために   作:eNueMu

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今日のアニメも見終わりました。
『あの時誰かが手を差し伸べてくれていたなら、この痒みは止まっていたのだろうか』
個人的にはこの台詞が志村転弧と死柄木弔の分かれ目を表しているな、と思います。あれをただのストレスからのものとするか、AFOの言う通り破壊衝動の表れだったのか…結局は本人の意思次第だったのかもしれません。


されど無法の口実に非ず

 

 被身子を迎え、更に人員が増えたダスト事務所。しかしながら日中は彼女と転弧は学校に行き、休日も訓練を行うことがままあるため、数年前までよりも寧ろ事務所内は静かであることが多い。そんな事務所内で千雨はあることを考えていた。

 

 「(デトネラットに何度か掛け合ってみたけど…あまり反応が芳しくない。そりゃあいきなりCEOに会わせろなんて取り合わないのが当たり前だけど、異能解放思想に共感するプロヒーローである可能性…それもビルボードチャートトップ10経験者がそうかもしれないってのをみすみすスルーするのか?……いや、そういや荼毘がホークスに出してたテストみたいなのがあったっけ。結構めちゃくちゃな要求ばかりだったし、スケプティック辺りがリ・デストロに何かしらの助言をした可能性も考えられる。面倒なことになってきたな)」

 

 その後も色々と考えるが、いい方法が中々思い浮かばない。そして…ついに彼女は、隠しておいた切り札の一つを投入することを決意する。

 

 「(これをもしAFOに見られれば……ドクターの件と私を繋げられてしまう可能性が高まる。それでも超常解放戦線を結成させることだけは避けないといけない…ギガントマキアだってまだ見つけられてないんだ。もっとも奴については6年後に千載一遇のチャンスが訪れるから、そこが合流する可能性をあまり心配する必要はないけれど。……とにかく、リ・デストロは今のうちに何とかしてしまうべきだ。頼むから無駄撃ちにならないでくれよ)」

 

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 デトネラット本社にて。同社CEO…四ツ橋力也は、自室でとある著書を読んでいた。名は、「異能解放戦線」。何度も読み返したのか、装丁はよれ、所々に瑕疵が見られる。出版日はやけに古い物であったが、彼はそこに意味を見出しているようだった。

 

 「デストロの遺したものが時代の流れの中で歪められていってしまうというのは…実に残念なことだ。検閲など必要ない。彼の言葉は直に伝えられて初めて全てが理解できるものになるというのに」

 「それでどうなるというのだ?デストロの言葉を理解した先に、貴様は一体何を求める」

 「!?」

 

 しかし、彼以外何人たりとも許可なく通されることはないはずの部屋に突如として男が現れる。男は深くフードを被っておりその顔を確認することは難しいが、一般的に高身長と言っても差し支えのない四ツ橋でさえも間近では少しばかり見上げるほどの体格を誇っていた。

 

 「…一体何者だね?土足で我が社に…ましてやこの部屋に上がり込むとは礼儀知らずにも程がある」

 「まずは此方の質問に答えてもらおうか。貴様はデストロの思想の先に何を見る?」

 

 意外にも取り乱すことなく侵入者に対応する四ツ橋。しかし妙なことに彼の顔は少しずつ黒いアザに覆われていっているようだ。

 

 「デストロの思想の先?そんなものはない。彼の思想をそのまま体現することこそ私の…ひいては我々の悲願だ。『異能解放』。全ての人々が己を思うがままに曝け出し、現社会の抑圧から解き放たれる。真に自由な社会を実現することを理念とする、我らは『異能解放軍』!君も興味があるというのなら…歓迎しよう。少しばかりテストはさせてもらうがね」

 

 額に親指をつき、天に向かって人差し指を立てる。独特なポーズを取った四ツ橋は目の前の男を勧誘するが、

 

 「滑稽なことだな。我々?ここにいるのは…貴様だけだ」

 「…ッ」

 

 にべもなく一蹴される。露骨に顔を歪めた四ツ橋は、黒いアザを一気にその全身に広げ…瞬く間に膨張する。身に纏うスーツもそれに合わせて伸張し、気付けば彼と男の体格差は逆転していた。

 

 「……残念だ、君とは分かり合えなかった…。だが安心したまえ、名も知らぬ傲慢な愚者よ。君のことは私が忘れない。解放に犠牲はつきものだ…せめて未来の礎として散るがいい」

 

 プロヒーローでもないというのに、そう言って個性を行使したと思しき腕を眼前の男に振るう。しかし男はそれを驚くほど軽やかな跳躍によって回避した。

 

 「(!?速い…!それになんと静かな着地!見た目程の体重は無いのか…あるいはそういう異能なのか?)」

 「その態度が答えだな。結局のところデストロも貴様も、目指す所は無法を正義とした秩序なき社会に過ぎない。彼の母が望んだのはきっと…ただ少しばかり個性的な自分の子が胸を張って生きていける寛容な社会でしかなかっただろうにな。報われないことだ」

 「!!!」

 

 男の言葉に、四ツ橋は裂けんばかりに目を見開く。極々一部の人間のみが知るはずの真実を、彼がその口から語ったからだ。

 

 「何故…何故そのことを知っている!?そこまで知っていて何故異能解放思想に共感できない!?社会はデストロを否定し!彼に関わる真実を歴史の闇に葬り去った!そのおかしさに…何故気付けないッ!!」

 

 巨躯を踊らせ男に襲いかかる四ツ橋。既に室内はめちゃくちゃになりつつあるが、気に止める余裕もないようだ。

 

 「テロリストの所業を教科書に載せる阿呆が何処にいる?デストロの母が『個性の母』であったという真実も、秩序を守るためには隠すべきだったというだけのこと。知りたい者だけが知っていればいい…その上でどう考えるかも個人の自由だろう。俺はそれを知り彼の母を憐れんだ。それで終わりだ」

 

 熱のこもった四ツ橋の問いかけにも、男はあくまで冷たく返す。彼は更に言葉を続けた。

 

 「虐げられたことを言い訳にするな。どんな理由があれど『異能解放』は力を振り翳したいだけの幼稚な人間の発想に過ぎん。……まあこれも俺の主観でしかないがな。それでも…今の社会の形が全てを物語っているとは思わんか?"革命サークル"のリーダー殿」

 「きっさまああああああ!!!!」

 

 二人の争いは、尚も続く。





Q.何で誰もこの騒ぎに気付かねえんだよ
A.完全防音仕様ってことにしといてください

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