すべては君のために   作:eNueMu

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掌中に握られた命運

 

 種を明かしてしまうと、男の正体は千雨である。塵化した己を操作し、声帯や体格などを変化させることで全く異なる人物としてその場に存在することを可能とする能力。あくまでも千雨自身の塵のみで肉体を構成しているため、現在服の下は大部分がスカスカのハリボテでしか無いが、触れられさえしなければ特に問題はない。ドクターを始末して以降、決して人前でこの能力を使ったことはなかった。

 

 「はぁっ…はあっ…!」

 「もう限界か?存外体力は少ないらしい」

 

 四ツ橋を煽る千雨。実に見事な演技は、男が実際には女性であるということなど誰にも気付かせることはない程のものであるといえるだろう。

 

 「(おのれ…!無駄に消耗させられている!クレストロさえ使えれば……いや、それでもこの男を捉えることは難しいだろう。速さもそうだが、何よりあり得ない動きが多すぎる…!水平移動や空中での方向転換、まるで全身をラジコンか何かで操作しているかのようだ!)」

 「最初の質問に答えていなかったな。俺が何者であるのか」

 「!」

 

 思考する四ツ橋の耳に、男の声が届く。

 

 「俺はリバース・デストロ。異能解放軍を解体すべく、歴史の裏で戦い続けてきた男だ。四ツ橋主税の血を引く者よ…諦めろ。今代の異能解放軍はここで終わる」

 「……私はリ・デストロ。異能解放軍の悲願を達成すべく、歴史に抗う戦いを始めた男だ!私は決して諦めない…!彼の理想を……成就させるまで!!」

 

 男の名乗りに対抗するが如く声を上げる四ツ橋。再び巨体で男を捩じ伏せようとするが、簡単に躱されてしまう。その後も激しい攻撃が続いたが、ついぞ四ツ橋が男に触れることはなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「………殺すがいい。だが、異能解放軍は終わらない。誰かが必ず…私の意志を継ぐだろう」

 

 力尽き、倒れ込んだまま動くこともままならない様子の四ツ橋。そんな彼に男は言い放つ。

 

 「殺しはしない。だが異能解放軍として大々的に活動することも許さない。私の要求はそれだけだ」

 「……どういうつもりだ?」

 「好きにすればいいと言っている。デトネラットがどんな商品を出そうが、ヒーロー業界に参入しようが…余程露骨なものでなければ見逃してやろう。だが選択を誤るなよ?仮に秩序を乱すような動きがあれば…すぐにその命を貰い受ける。貴様の同志も含めてな」

 「…今は何も知らぬ次世代の子らもか?」

 「いや…そこまでは関知しない。この先貴様に子が生まれ、その子をどうしようと口は出すまい。言っただろう…『今代』の異能解放軍は終わりだと。次が現れるならその時に再び潰すまで。だが、今一度考えてみることだ。己と同じ宿命を子に背負わせるべきなのかをな」

 「…」

 

 覚悟を決めた四ツ橋に、男は思いの外慈悲深い宣告をする。もっとも四ツ橋にとっては死よりも辛い措置であるかもしれないが、敗者に口を出す権利は無かった。

 

 「最後に…リバース・デストロの名は誰にも話してはならない。そして何より……他の悪に与することは絶対に許さない。たとえ命が懸かっていてもだ。そこを切り抜けたとしてもすぐに私が貴様を始末する。努々忘れることのないようにな」

 

 男はそう言い残すと四ツ橋の視界から外れる。その先に彼が目線を向けるが、いつの間にか男は消え去っていた。

 

 「(……リバース・デストロ。聞いたこともなかったが…腑に落ちた。いやに恐ろしい男だ…私の心臓は既に奴の掌の上。同志たちよ!不甲斐ない指導者を赦してくれ…!『異能解放』は、次世代に託す…。いつか必ず、デストロの理想が実現するその日まで────)」

 

 四ツ橋はそこまで考え、男の言葉と己の過去を思い出す。

 

 『力を振り翳したいだけの幼稚な人間』『己と同じ宿命を子に背負わせる』

 「(………ずっと。そう言い聞かされて育った…デストロの悲願を達成するのだと。彼の血を継ぐものとして、それが当然なのだと。…我が子にそうするつもりはなかった。私の代で、全てを終わらせるつもりでいたからだ。そう、それだけ……ただそれだけのこと)」

 

 黒いアザは、既に消えていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「(……正直言って、初めは始末してしまうつもりだった。けれど彼を変えたのは環境だ。だから…情けをかけてやるべきだと思ってしまった。これで良かったのかは分からないけど…少しでもいい方向に転んでくれることを祈るよ)」

 

 デトネラット本社を離れ、本来の姿に戻った千雨。自分の選択に僅かながら後悔を覚えるが、不思議と心は晴れやかだった。

 

 「(しかし…AFOにはバレてしまっただろうか。まだ決め手には欠けるはずだから確信はしていないだろうけど…まあ気にしてもしょうがない。さっさと仕事に戻ろう)」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「ドクターの空いた穴を補うつもりで彼を誘い込もうと目をつけていたんだけど…先を越されてしまったね。それにしても彼女にあんなことができたとは思わなかった。ここまで来ると…ただの偶然として片付けるにはいかないかもしれないな」

 「…先生?何の話を?」

 「ああいや、此方の話さ。さあ、『授業』を続けようか。君がこれから…何を為すべきなのか。しっかり学ぶといい」

 

 巨悪は一人、笑みを深める。





思ってたよりリ・デストロが長くなってしまった…
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