今日も島で訓練中の被身子と転弧。しかし、いつもとは少し様子が違うようだ。
「27…28…29…30!」
「よし、次は腕立てね。用意」
「はい!」
「こっちだよ被身子ちゃん」
「あう!」
「まだまだ視覚に頼ってる部分も多いね」
「うう…難しいのです」
転弧は身体能力向上を目的としたトレーニングを、被身子は目隠しをした状態で頭の風船を割られないよう立ち回る一種の戦闘訓練を行っていた。話は数ヵ月前に遡る。
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「…そろそろ次の段階に移行しても良い頃だね」
「…次?」
普段通り個性伸ばしの訓練を行っていた二人だったが、千雨が不意に呟いたのを聞いて動きを止める。
「そうだね。今まで二人とも個性の制御や強化、同時並行で感情との分離を頑張って来た訳だけど…一旦その辺りの訓練は終わりにしよう。といっても完全にやめてしまうつもりはないよ」
「…成程。別のことに時間を割くって訳か」
「そういうこと。でまあ色々考えてみたんだけど……ひとまず転弧くんは自分自身の強化をしていこうか。軽めの…といっても最初は大変かもしれないけど、筋トレと…あとはランニングとかかな?大体体育の授業の延長ぐらいに思ってくれればいいよ」
「うげ…マジ?」
千雨の言葉に否定的な反応を示す転弧。あまり身体を動かすのが好きではないらしい。
「そりゃそうさ。転弧くんの個性は強力だけど、自分が動けるに越したことはないからね。私も最低限素手で戦えるぐらいの力と技術はあるよ」
「へぇ……何か意外」
「ま、使う機会は殆どないけどね。でも身体機能を高めることが重要なのは間違いない。できることが増えて、個性の使い方も柔軟になる可能性だってあるだろう。早速明日から始めていこうね」
「…了解」
渋々ながらも納得した様子の転弧。被身子も自身の新たな訓練が気になるのか、自分から千雨に尋ねる。
「私は何をすればいいのですか?」
「被身子ちゃんはまだそういうのは早いからね、先に簡単なゲーム形式での実戦訓練でもやってみよう。ただし……毎回何かしらのハンデを背負ってもらうよ。耳を塞いだり、目隠ししたり…あとは変身禁止とかね」
「何だか楽しそうです!」
「ふふっ、そうだね。あんまり気負わずにのんびりやっていこう。こういうことを他の皆がやるのはまだまだ先だから、ほんの少しだけでもスタートダッシュを決めるぐらいのイメージでね」
ヒーローとしての訓練を着実に施していく千雨。言葉とは裏腹に、二人は既にライバルよりもずっと先に進んでいた。
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一方で、こちらも新たな段階へ踏み出し始める。
「…先生…これは?」
「君へのプレゼントさ。もっとも、本当は別の使い道を考えていたんだけどね。お下がりのような形になってしまってすまない。喜んでくれるかい?」
「……はは…!嬉しいよ、先生…!ありがとう!」
少年の前に置かれているのは、大きなグローブにブーツ、マント、そして人の顔のマスク。ヒーローらしいグッズの数々はボロボロになってしまっているものの、マスクは新品らしく、
「(素晴らしいよ…この短い期間でよくここまで育ってくれた。稀に見る逸材!天然の芸術だ!君を選んで正解だったよ…もうすでにオールマイトの顔が目に浮かんでくるようだ。怒りと憎しみに囚われた……ヒーローらしからぬ彼の顔がね。フフフフフ…さあ僕に見せてくれ…
彼らが邂逅する時は、未だ遠く。
思っていたより此方の事情が忙しくなりそうです。可能なら昼にも投稿しますが、基本的には朝と夜に投稿するようになると思います。