「くッ!!」
暴風に乗りその場から離脱を試みる千雨だったが、彼女の塵化した身体を猛火が襲う。AFOが追撃を仕掛けてきたのだ。
「おいおい、逃げないでくれよ。仮にもヒーローだろう?もっと必死に喰らい付いてみせてくれ」
「ヒーローは時に退くこともあるのさ…!力を蓄え、全力で敵に打ち克つためにね!『
めちゃくちゃになった一帯から塵を掻き集め、地中より無数の巨鎗を妨害として喚び出す千雨。しかし、暴風に押し負け、あっという間に霧散してしまう。
「ああもうッ!!」
「君の個性の弱点は質量はあっても重量がないことだ。操作速度を上回る勢いの風や波をぶつけられればなす術がない」
「ご教授感謝するよ…!折角だから風以外も見せてくれないか!?ラスボスが全属性を扱うってのは定番だろう!?」
「お望みとあらば。もっとも君が戦っているのはいわゆる『負けイベント』の相手だけどね」
そう言うと暴風を収めたAFOはそのまま爆炎をその身に纏い、同時に激流を千雨に放った。
「チッ!随分と臆病なんだね!そんなに私に触られたくないかい!?こんな美人にボディタッチしてもらえる機会はそうないと思うけどね!!」
「いやはや全くだ。是非とも二人きりでお茶したい所だが…生憎とスーツがハウスダストまみれで恥ずかしくてね。一体誰のせいだろう?」
「それぐらい気にしないさ!!私の個性で綺麗にしてあげるからすぐにその炎を消すといい!!」
凄まじい波濤から逃れつつ、AFOを煽る千雨。負けじとAFOも彼女を揶揄し、千雨も更に言い返す。しかし口振りとは裏腹に、一挙に逃走の準備に入っていた。
「『
天から伸びた鎖、地より出でし鎗。それぞれが千雨を囲むように絡み合い、彼女を護る籠と化した。
「おや。それはいけないね」
すぐさま暴風を再び巻き起こし、塵の巨籠を消し飛ばすAFO。しかし、既にその中に千雨はいない。
「…随分と逃げ足が早いじゃないか」
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「頼む…間に合ってくれ…!!」
高く高くへと逃げながら、縋るように呟く千雨。炭化した塵は総量の半分近くに上り、頭部と両手を除いた塵の総量は大きく減ってしまっていた。そんな彼女の祈りを嘲笑うように、眼前にAFOが姿を現す。
「……ワープ、か」
「ご名答。といってもあの状況からここまで早く君に追いつけるとしたらそれぐらいしかないけどね。そうら」
「!ぐうゥッ!!」
微塵も予備動作を見せずに炎を千雨に叩きつけるAFO。彼女はそれを躱しきることができず、顔を大きく焼かれてしまった。
「おっと…しくじったね。傷つけないと言っておきながら手酷く痛めつけてしまった」
「……ご心配、なく。────ほら、この通りさ」
「おお!素晴らしいね、お見事お見事!」
残る塵を顔に回して見せかけだけの治療を行う千雨だが、そのせいで更に塵の総量が減ってしまう。AFOもそのことを見て取り、わざとらしく彼女を煽ててみせた。
「しかし本当に困ったね。ここまでボロボロにしてしまうつもりはなかったんだが」
AFOがそんな風に嘯く中、千雨の心は驚く程に凪いでいた。
「(……通用しそうな手段はもう殆ど無いかな。そもそも触れないんじゃやりようがない。粘れるだけは粘っただろう…一切ダメージを与えられなかったってのは癪だけどね)」
「ん?どうしたんだい、急に黙ってしまって?辞世の句でも詠んでいる所かな?」
AFOのそんな煽りにも、最早反応することをしなかった。
「(…後は、オールマイトに任せれば大丈夫だ。彼ならきっと何とかしてくれる。それに、今まで色々と頑張ってきたし、『原作』が始まった時点での状況は格段に良くなった筈だ)」
「…本当に反応しなくなってしまったね。張り合いがなくて寂しいよ」
「(…………きっと、私が居なくても…死なずに済む人たちは増えたよね?私……この世界に、必要だったよね?)」
「それじゃあ、終わりにしようか。なあに、苦しませはしないよ。…君の教え子達は別だろうけどね」
嫌らしい笑みと共に紡がれたその言葉だけは、やけに千雨の耳にはっきりと聴こえた。
「(………教え子。被身子ちゃん。それと、…転弧くん。)」
「さようなら麗しき泥棒さん。君は実に興味深かった」
消えかけた灯火が────再び激しく燃え上がる。
「────────────ああ、悪いね。やっぱり死ねないや」
「!?」
頭と両手。残る部位を完全に塵化させ、大気に溶けて消える千雨。勿論、その程度で彼女を見失うAFOではない。
「最期の抵抗がこれかい?君の個性らしく塵のように細やかなものじゃないか。しかし、残念だね…身体は回収できそうにない」
炎を拡げ、散開する千雨の全てを焼き尽くそうとするAFO。己の死が間近に迫る中、蒼穹と同化した千雨は必死に願い続けた。
「(…『原作』でナイトアイは、大勢で一つの未来を信じたエネルギーがあるべき未来を変えたとか何とか言ってた筈だ…!!予知はきっと、此処で私が死ぬ未来を彼に視せたんだろう!?なら、私
奇跡を。希望のバトンが繋がれたことを。
「(確かにこの場にいるのは私一人だけど…
「私が来たアアァァァァッ!!!!!」
「(…ってさ)」
その拳が、未来を切り拓く。