AFOとの戦いからしばらくして、千雨はオールマイトに呼び出された。呼び出し先にはグラントリノとナイトアイもおり、何らかの重大な話をするのであろうと推測できた。
「やあダスト。…まだ怪我は完治していないのか」
「そうですね、これを怪我と呼ぶのであれば。まあそろそろ日常生活に支障がなくなってきた頃ですし、お気になさらず」
千雨は未だ頭部の分しか塵の回復が進んでおらず、大部分を他の塵で補った姿のままだった。それでもそんな彼女を見て、ナイトアイは目を見張る。
「……本当に。生きて、いたのですね」
「ああ。ご覧の通りね」
「………未来は…変わったのか」
動揺するあまり、今にも座り込んでしまいそうな彼をオールマイトが支えつつ、彼らは本題に入る。
「もう察しているとは思うけど…ここに君を呼んだのは、この間のヴィラン…AFOについて話しておこうと思ったからだ」
「奴は超常黎明期から現在に至るまで、絶えず歴史の影で暗躍し続けてきた。個性によって寿命なんてもんは克服しちまったんだろうよ」
グラントリノがAFOの概要を話す。千雨は敢えて自らがそれに続けた。
「そんな彼の『個性』はヴィラン名そのまま『AFO』。他者の個性を奪い、自らのものとし、時に他者に分け与える。それによって多くの信奉者を得てきた訳だ」
「な…!?………お前さん…一体」
「…ダスト…君はどうしてそこまで?ナイトアイの個性の件といい、知っていることが不思議でならない」
千雨は彼らがAFOについて話してくれる気になったことを受け、自らもある程度は誤魔化しつつも一部の真相を語ることにした。
「私、記憶を持っているんです。AFOとOFAのルーツについても、志村菜奈さんについても知っています。ナイトアイの個性のことも、そうやって知りました」
「!?」
「………おいおい。どうなってやがる」
「OFAの、ことまで…!?」
驚く3人を尻目に、彼女は言葉を繋ぐ。
「記憶の出処までは、残念ながら。けれど私の記憶通りなら、志村転弧くんが家族を殺め、AFOによって凶悪なヴィランへと変貌する未来が来るはずでした。この前の戦いで、オールマイトがAFOと痛み分けになる未来が来るはずでした」
「……だが、そうはならなかった」
「…待ってくれ。ずっと、気になっていたんだが…志村転弧、というのはまさか」
「オールマイト、恐らくは貴方の考えている通りです。転弧くんは貴方のお師匠の孫ですよ」
「────」
あまりの衝撃に硬直するナンバー1。グラントリノも思わず溜め息を吐く。
「…それが、ヴィランに、か……どうやら俺たちはAFOのことをまだまだ甘く見てたらしい」
「…しかし何故それほど多くの未来を変えることが?……私自身ですら、予知で見た未来を覆すことなど不可能だと思っていたのに」
「君の予知とは違うからね。私の記憶には、絶対に私が出てこない。私の視点だからとかじゃなくて、そもそもそこに居ないんだよ。だから、知っているのは私がいない世界の記憶なんだ」
千雨はナイトアイの予知とは事情が違うことを説明しつつ、それでも未来の不確かさを述べる。
「でも未来なんて普通は誰にも分からないものさ。予知という形でそれを視ることができてしまう君は、気付かないうちに自分の個性が未来を確定させてしまうものだと思い込んでいただけだよ」
「……予知はあくまで、予知でしかないと」
「沢山ある可能性の一つをたまたま視ただけ。大事なのは変えようと心の底から思うことじゃないかな?私、死にたくなかったからね。…皆も、そう思ってくれてたみたいだったし」
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『たダいま』
「────千雨さんッ!!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「…何だよ、それ!死んじまったりしねえよな、オイ!!」
「……ダストさんは、このぐらいでどうにかなったりしませんよ。……………でも、心配したんですからね」
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「……確かに私が視た未来は貴女が命を落とす未来だった。だが……未来を変えようとする意志、か」
噛み締めるように呟くナイトアイ。彼もまた、変えられない未来に何度も苦しんだのだろう。千雨は希望を示してやれたことに満足していた。
「…ダスト。転弧くんのこと、本当にありがとう」
そこでようやく、固まっていたオールマイトが口を開く。出てきたのは千雨への感謝だった。
「君がいなければ、どうなっていたかと思うと…感謝してもし切れない」
「俺からも礼を言う、嬢ちゃん。アイツの想いを、護り抜いてくれたことに。ありがとうな」
親友の決意を、覚悟を台無しにされずに済んだことを喜ぶグラントリノ。彼らにとってダストは疑いようもない恩人だった。
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「それじゃあ勿論今日の話は他言無用でな。大勢を巻き込む訳にはいかねえ」
「ええ。またお会いしましょう、グラントリノ。オールマイトとナイトアイも」
「ああ!君から受けた恩、必ず返してみせるからさ」
「…本当にありがとうございます、ダスト。貴女の存在は、きっと私の未来も大きく変えた。視るまでもなく、そう確信できる」
紆余曲折はあったものの、「原作」開始までの最大の山場を乗り越えた千雨。彼女の帰路は、実に穏やかなものだった。