月日は流れ、早くも転弧の雄英受験の日がやってきた。一年間猛勉強と猛特訓を重ねた彼の顔は、心なしか随分と凛々しくなったように思える。
「それじゃ、行っておいで。気負わずに、リラックスしてね」
「うん。…行ってきます」
かつて幼い頃に千雨とくぐった門を、今度は一人でくぐる転弧。千雨は過ぎし日を想い、彼の成長に目を潤ませた。
「(……本当によく、ここまで立派に育ってくれた。君ならきっと大丈夫さ。存分に力を発揮してくるといい)」
校門の前に立つ千雨を見て、受験生達も彼女を二度見する。声を掛けようとした者もいたが、実行に移すより早く千雨はその場から消えてしまった。
今日も彼女はヒーローとして活動する。己の教え子は必ずや結果を出すに違いないと、そう確信しながら。
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筆記試験はあっという間に終わった。転弧は自身の解答にやや不安を抱きながらも、合格点には到達しているだろうと考えていた。そして、教員により実技試験の内容が説明される。
市街地にて出現したヴィランという名目で配置されたロボットを撃破していく形式の試験。各タイプ毎にポイントが割り振られており、さらには「お邪魔キャラ」として0ポイントのロボットまで登場するという。転弧は話を聞きながら、既に攻略のイメージを練り始めていた。
「(単純に高ポイントのロボット程攻略難易度は高いのか。下手するとこっちが行動不能になるような攻撃なんかもしてくるかもしれないな…とにかく遭遇次第速攻で壊してしまうべきだ。0ポイントってのが気になるけど…まあ、後は臨機応変に対応していこう。ここまで来たんだ、焦る必要は無いさ)」
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「はいスタート」
放送の声を聞くや否や、転弧は真っ先に飛び出す。そのまま後方の喧騒とは別に、周囲から聞こえてくる音を意識していた。
「(大体右斜め前辺りに一体。さらにその奥に多分もう一体。……上の方にもいるな。いきなり結構出てくるじゃないか)」
予測通りに建造物の影から現れたロボットを一瞬で粉々にすると、攻撃準備に入っていた奥の別タイプのもう一体にも高速で接近し破壊。上に陣取ったロボットに対してはお仲間の残骸を投擲することで機能を停止させた。
「(他の受験生たちも動き出してる。ここからは早い者勝ちってことか…それにしても、千雨さん実技試験の内容知ってたみたいだな。確かにこれは目で見て確認するより動き回って音を聞いた方が早い。きっとあの人の時と同じ内容なんだ)」
師の方針の的確さに感謝しつつ、次から次へとロボットの動きを止めていく転弧。訓練の成果が明瞭に出たか、不意をつかれるということもなく順調にポイントを稼いでいった。
「うわ…くそッ!思ったより強い…うおっ!?」
「悪いな。怪我は?」
「…い、いや。大丈夫だ」
時には返り討ちにされている他の受験生を救けるついでにロボットを破壊してみせたり、
「次は…えっ?」
「まだ動いてた。油断禁物だよ」
「あ、りがとう…」
対処が甘い受験生の尻拭いをしたり。彼自身気付いていない
「オイオイ!!なんだあのバケモン!?」
「アレが0ポイントだろ!?倒しに行くバカが出ねぇようにってよ!!逃げるぞ!!」
ビル群を薙ぎ倒しながら派手に登場した超巨大ロボット。事前説明にあったお邪魔キャラというのはあいつのことか、と転弧は思いながら、同時にどうすべきかを考えていた。
「(皆が逃げてる所のロボットも狙えるし、ほっとくのがベストのような気もするけど…予想外の事故が怖いしやっちゃうか。それに…多分千雨さんだって……そうした筈だよな!)」
臆することなく0ポイントに立ち向かう転弧。なお、彼は預かり知らぬことだったが、入試時目立たないよう手を抜いていた千雨は普通に0ポイントを無視していた。
「足元が…お留守だぜッ!」
破壊規模ばかりが目立つ0ポイントだが、他のロボットに比べて動きは鈍重。手で触れればどうとでもできる転弧の敵ではなかった。
「お、おい!アレ見ろよ!」
「0ポイントが…崩れてくぞ!?」
受験生達の驚く声が広がり、その後すぐに彼らが再び転弧の周辺に近づいてくる。取り残したロボットを戴いてしまおうという訳だ。
「(俺もさっさと……!)」
その時転弧は、0ポイントの破壊痕に巻き込まれた受験生を発見する。瓦礫に埋れ、明らかに気を失っているようだった。
「(────)」
転弧の身体は、考えるより先に動いていた。
ただ目の前の人間を救うべく、受験のことも忘れて駆け出す。瓦礫を手早く崩壊させ、声を掛けた。
「おい!あんた、大丈夫か!?」
「…うっ…?」
「……意識、戻ったな。よかった」
「…あれ?私、何してて…?」
気を失っていたためか、僅かに混乱している様子の彼女。転弧もまた現状を思い出し、彼女に語りかける。
「雄英の実技試験中だ。思い出せたか?」
「………あぁっ!?や、やばい!!ありがとね誰かさん!!」
「え!?お、おい!」
先程意識を取り戻したばかりだというのに妙に元気に去って行った彼女を見て、流石に唖然とさせられる転弧。気を取り直してロボット退治に励みつつ、じきに終了の合図が出たのだった。