個性把握テスト。入学式の翌日、そういったものがあるとミッドナイトから説明を受けた転弧たちは、体操服に着替えてグラウンドに集まっていた。
「それじゃあ改めて説明するわね。個性把握テストっていうのは、小学校や中学校の時に皆がやったと思う体力テストとはちょっと違うの。科目自体は殆ど変わらないけど…個性を思いっきりフルで使って全力で高スコアを目指すことができるのよ!成績順にランキングも出るから、是非トップを狙ってみてね!」
「へぇー!面白そう!」
「(…多分だけど…苦手な分野かな)」
何人かがはしゃぎ出し、美智榴も目を輝かせる。だが、転弧をはじめとしてそういった反応をしていない者も多かった。それを見てか、ミッドナイトが補足を行う。
「勿論、いいスコアが出なかったからといって気にやむことは無いわ。あくまでも個性を把握するという名目だから、別分野が得意な個性を持っている子はその時に頑張って!ただ、苦手分野を克服するというのもヒーローとして重要なことだから、忘れないようにね」
説明を終え、早速準備を始める彼女。転弧も千雨との訓練を思い出し、自分に出せる全力で臨むことを決めたのだった。
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そして、いざ終わってみれば発表された総合順位で転弧は20人の中の上位に収まっていた。実質無個性の状態でありながら、プロヒーローと長い間鍛錬を続けてきた彼の身体能力は増強系個性を持つ生徒にも負けない程のものになっていたのである。
「志村すげぇな…!個性使ってたのか?」
「いや。昔からトレーニングはしてたからね」
「くぅー、耳が痛えなぁ!個性に感けて碌に鍛えてこなかった自分が恥ずかしくなってきたぜ」
クラスメイトと話しながら、転弧は改めて順位を見返す。彼にとっては意外な結果を出した人物の名が、視線の先にはあった。
『1 那珂美智榴』
ほぼ全ての科目で凄まじいスコアを記録した、転弧の高校生活初めての友人。しかし、いずれの科目でも別段見て分かる変化は彼女にはなかった。
「(単純な増強系の個性か…でも外見には反映されないのか?それに持久走は最初こそ凄いペースだったけど後半は結構息切れしてた気がする。……うーん、気になるなあ。面と向かって聞いてみるのはちょっと恥ずかしいし…)」
「ボーッとしてどしたの、志村くん!」
「おおっ!?…那珂。…その、考え事しててね」
「へぇー…ていうか、どう!?凄くない!?1位だよあたし!ナンバー1!!オールマイトとお揃いだぁ!」
「あーうん凄いよ」
「何か冷たくない!?」
能天気な美智榴に適当な相槌を返す転弧。これほどまでに積極的に絡んでくる相手は初めてで、彼は毎度面食らってばかりだ。
その後も美智榴の個性を推測しようと試みる転弧だったが、結局結論を出す前に答えを知る機会が訪れることになる。
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「オクナイタイジンセントウクンレン?…って何ですか?」
「そのままよ那珂さん。詳しいことは訓練場で話すから、各々ヒーローコスチュームに着替えて集合ね!」
屋内対人戦闘訓練。その後のミッドナイトの説明によれば、ヒーロー役とヴィラン役に2対2で分かれてそれぞれが目標達成を目指す実戦形式の訓練なのだという。
ヴィラン側は核兵器を隠し持っているという設定で、それをヒーロー側が確保するかヴィラン側を行動不能にすればヴィラン側が敗北、ヒーロー側を行動不能にすればヒーロー側が敗北というルールになっているようだ。割り振りがくじ引きで決められていく中、既に引き終わった、あるいは自分の番を待っているクラスメイトたちは談笑に勤しんでいた。
「志村くんのコスチュームカッコいいねぇ!」
「…そう?ありがとう」
そんなこんなで初お披露目となった転弧のヒーローコスチューム。夏場は随分と暑そうな暗色のコートは、明らかにダストを意識したものであった。
そんな転弧を褒める美智榴のコスチュームはやはり外見的特徴の少ないグローブやブーツに加えて全身を覆うようなヒーロースーツ。お互いまだまだ個性に即したコスチュームを考案することはできていないようだ。
「…ダサい?」
「…正直ちょっとだけ思ったかも」
「そんなぁ…戦隊ヒーローだってこんな感じだよ?」
「好きな人は好きだと思うよ」
転弧だけでなくジロジロと奇異の視線を向けられていることに気付き、思わず転弧に尋ねる美智榴。率直な感想を述べられ、少しばかりヘコんだ様だったが…すぐに立ち直り、彼に向き直る。
「まあ、いいや!とにかく見てて!ヒーローらしくカッコよく勝ってみせるから!」
「…うん。期待してるよ」
くじ引きの結果が出るとともに戦闘訓練の順番も割り当てられて行く。偶然にも、美智榴のペアは一回戦だった。
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『それじゃ、用意…始めッ!』
「っしゃあ!んじゃ作戦通り…っておい!?」
「うおおお!!あたしが来たッ!!」
何らかの作戦会議があったであろうにも関わらず、いきなり突っ込んでいく美智榴。興奮しているのか、相方の制止も聞かずに突撃を続ける。
「!?……甘い、そんな無策では────」
「スーパーラリアットォ!!」
「ぐえっ」
そのまま彼女はヴィラン側の一人を正面からノックアウトすると、どんどん上に進んでいく。そして…
「あったァ!核兵器確保しまーす!」
「や、やらせないよ!」
索敵型の個性を持っていたのか、核兵器の近くに待機していたもう一人のヴィラン役の生徒も迫り来る彼女に応戦する。しかし、
「ちょちょちょ!無理だって!那珂さん止まってええ!」
「無駄だよっ!正義は勝つ!はいタッチ!」
人一人にしがみつかれながらもそれを意に介さず核兵器を確保する美智榴。そのままミッドナイトから終了の合図が出された。
「やべぇなアイツ…色々と」
「どうなってんだ?個性把握テストの時も凄かったけどさ」
どよめくクラスメイトに、ミッドナイトが驚きの言葉を放つ。
「那珂さんのことを凄いって思うのは当然かもしれないわよ?彼女、本当は推薦入学する予定だったんだから」
「…何だって?」
思わず聞き返す転弧。さらにミッドナイトの個人情報暴露は続く。
「けど彼女、うっかり入試日を1日間違えて試験を受けられなかったの。びっくりでしょ?」
『おい那珂ァ!作戦はどうしたよ作戦はァー!!』
『あ〜!ごめ〜ん、うっかりしてたぁ!!』
繋がったままの音声から、そんな会話が流れてきていた。
美智榴以外のクラスメイトは多分モブのまま終わります。出しても全員を活かしてやれないと思うので…。すまない有精卵の少年少女。