「先生、那珂さんの個性って…」
「!」
クラスメイトの一人が、期せずして転弧の知りたかったことをミッドナイトに問うた。
「彼女の個性は『密度』。簡単に言えば自分の身体の密度を上げ下げできるみたいね。本当はもう少し細かいようだけど、とりあえず密度を上げればそれだけ強く頑丈になっていくと思っていいわ」
那珂美智榴…個性「密度」。筋肉や骨、皮膚など、自身の身体構造の密度を変化させられる。体積は変化しないため、密度を上げればその分質量が増して頑強になる他、筋肉の密度を上げれば筋力も増す。逆に減らせば脆くなる代わりに軽くなり、ある程度衝撃を受け流すといったことも可能となる。
「(そうか…!だから入試の時は目立った怪我が無かったのか!そして多少のタイムロスはものともしない位の地力も…!)」
己の友人が並外れた実力者なのだと理解した転弧。雄英という場所が如何にレベルの高い環境であるのかを、入学早々思い知らされることとなったのだった。
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「ひぇえ…!志村もやるなぁ…!」
「アレじゃ対策しようがねえな…」
とはいえ転弧も他の追随をそう容易に許すほど弱くはない。ヴィラン役として訓練に参加した彼は「崩壊」によって開始と同時に階段を全て崩してしまうと、増強系の相方と共に四苦八苦するヒーロー側を磨き上げた近接戦闘能力で一網打尽に。殆ど反撃を行わせないワンサイドゲームを展開した。
「ちなみに志村くんは中学に入る前からプロヒーローの『ダスト』の元で鍛錬を重ねてきてるのよ!彼はもう貴方たちよりずっと前からスタートを切っていた、という訳ね」
すかさずミッドナイトのプライバシー暴露を伴う補足が入り、再びクラスメイトたちがざわつきだす。そんな中、美智榴は静かに映像に映る転弧を眺めていた。
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下校時刻。各々が授業や訓練の振り返りを行う一方で、転弧はさっさと帰宅の準備に入っていた。下駄箱を出た彼だったが、後ろから一人の少女がその背を追う。
「志村くん!」
「…那珂。どした?」
転弧を呼び止め、少し言葉に詰まってから、はっきりと彼女は宣言する。
「体育祭!あたしが優勝するから!」
「…!」
転弧は今、己が彼女にとって好敵手であると見做されていることに気が付いた。その上で、言葉を返す。
「俺なんだ?お前のライバル」
「うん!何かそんな感じがする!」
「何だそれ」
漠然とした理由を告げてきた美智榴にやや呆れながらも、転弧もまた彼女に宣言した。
「優勝するのは…俺だ。1位獲って、喜ばせてやりたい人がいるんだよ」
「…負けないよ!」
夕暮れの中、力強い眼差しを交わす二人。彼らは早くも互いを認め、同時に互いを越えようと切磋琢磨し始めていた。
「ちなみに体育祭って何?」
「……志村くんってあたしより抜けてるとこあるね」
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「…ってことがあったんだ」
「なるほどねぇ。ミッドナイトが見てたら鼻血流してそうだ。案外どっかで見てたのかも、なんて」
「知り合いなの?あの先生と」
「ま、昔ちょっとだけ顔を合わせてね。彼女がプロになってからもたまに連絡は取ってるよ」
夜、千雨宅。学校でのことを話す転弧に、千雨が色々反応を返す。中でも彼の話によく出てくる那珂美智榴という少女のことが、彼女は気になっているらしい。
「(今の転弧くんから見ても明確に凄いと思える同級生か…。それだけの人物が『原作』でなんの音沙汰もないというのは不自然だ。転弧くんの話を考慮すれば眠ったままヒーロー科を落ちた、というのが正しいんだろうけど…普通科でも十分体育祭で活躍し得るだけの個性を持ってるみたいだしね。編入制度も考慮すればその子がヒーローになっていないというのは違和感が大きい)」
千雨は少し、嫌な想像をしてしまった。
「(……AFOに、目をつけられてしまっていたのかもしれないな。ドクターがいない分こっちでは派手に動くことは難しいだろうけど…警戒しておくに越したことはないだろう)」
「…千雨さん?何か考え事?」
しばらく沈黙したままの千雨に、転弧が思わず問いかける。彼女は意識をそちらに戻し、念のために転弧に忠告しておいた。
「その…那珂ちゃんって子のこと。…ちゃんと、見ててあげてね」
「…え?う、うん。…分かった」
願わくば、転弧の良きライバルであり続けてくれますように。千雨にはまだ、そう祈るしかできなかった。