既に双方のコートは転弧の個性によってボロボロになっており、特に美智榴の方は凄惨といってもいい程の状況にあった。それでも彼女はそんな足場をも跳び回るように駆け巡り、転弧にボールを当てる隙を与えない。
「ちょっとぐらい立ち止まってくれたっていいんだぜ?」
「ふふん!1発ぐらい当てられたら考えてあげてもいい…よッ!」
「くそッ」
一方の転弧も飛来する剛球をどうにかやり過ごしつつ、逆転の機を窺う。絶望的な展開にも見える中、彼の目は決して諦めてはいなかった。
「(落ち着け…冷静になるんだ。焦ってるのはあいつも同じはず!
そう考えながら、ほんの少し静止した美智榴をすかさず狙う。命中はしなかったものの、明らかに美智榴の表情が曇ってきていた。
『これは…那珂さんの動きが守りに傾きつつあるように思えます!球数が限られ自分から攻めにくくなったのでしょうか!?』
『そうだね……それもあるだろう。けれど、転弧くんが投げてくるボールをキャッチすればその問題は解消できる。一度彼に攻撃させることにはなるけどね』
そう実況を行う二人だが、教師であるミッドナイトは当然のこと、千雨も彼女に何が起きているのかを理解している。その上で、公平性を保つべく直接そのことには触れないようにしているのだ。
「とのことだけどよ…いっぺん俺にターン回してくんねえかな?」
「……うん…いいよ…!どんと来いっ!」
先程とは打って変わって、転弧に攻撃チャンスを譲る美智榴。ボールを受け止めるべく、正面から彼を迎え撃つ体勢に入った。
「そんじゃあ…遠慮なくッ!」
転弧が投げたボールは、美智榴に届かず彼女の前方に落下する。暴投かと思われたが…
「くううッ…!」
壊れゆく足場から飛び退かざるを得なくなる美智榴。転弧はボールからコートのみへ崩壊を伝播させることで、反撃に対する反撃を狙ったのだ。更に、着地した美智榴も少しばかり姿勢を崩している。
「はぁ…はぁ…!」
『おっと!?那珂さんの息が上がり始めた!長期戦によるスタミナ切れなのかーッ!?』
疑問を浮かべるような実況に応えるように、転弧が瓦礫から姿を現し口を開く。
「継戦能力……それがお前の弱点だ。那珂」
「…!」
「個性把握テストの時には持久走の成績が良くなかった。戦闘訓練の時のアレも、今思えば長引くのを嫌った結果なんじゃねえのかってな」
一つ一つ、転弧は答え合わせをしていく。
「そして原因はお前自身の体力不足じゃない…個性の燃費が悪いんだろ?」
「………すごい、ね。そこまで、分かるもんなんだ…それとも、またあたしが、うっかりしちゃってたか…なッ!!」
「うおッ!?」
息を切らしながら返事を返し、近くのボールを拾い上げ転弧に投げつける美智榴。転弧は疲労困憊といった様子の人間が放つ速度の球でないことに慄き、寸での所でそれを回避した。
「だったらもうここで全力を出し切って……!それで!優勝するだけだよッ!!」
「な…!?」
『美智榴ちゃんの動きが…また!!』
『速い!どんどん速くなっていきます!!これぞまさしくプルスウルトラッ!!那珂さんが限界を超えてきたああーッ!!』
そのまま再び速度を取り戻し、ボールを次々と拾い、投げていく美智榴。思考を挟まない直情的な攻撃であるために辛うじて転弧は軌道を読んで躱すことができていたが、どう考えても被弾は時間の問題だった。
「(那珂が持ってるのは2個!あいつのコートには…くッ!あと…5個……チッ!4個!無理だッ!次が多分………限界だッ!)」
「あああああああッ!!!」
『美智榴ちゃん…!本当に目を見張る個性の扱いだ!この短時間で更に精度を上げてきているッ!!疎密の切り替えがここまで上手くできるのか…!!』
本心を実況に乗せる千雨。それは美智榴への賞賛と同時に、彼女がどれほど凄まじいことをやってのけているのかを会場に知らせる意図もあった。そして実況が途切れると同時に、美智榴が拾ったボールを投げる。
「やああっ!」
「くそ……ッ!!しま────」
彼女は転弧の回避を読み、既にもう一方のボールを投擲していた。
「いっけえええええ!!!」
「(────────負け、られねえんだああッ!!)」
ボールは……転弧の掌に吸い込まれるように飛んでいった。直後、ボールは粉々に砕け散り、転弧はすぐさま地に手を触れる。
「うおおおおおおおおッ!!!」
「きゃあああああッ!?」
対象は、コート全域。荒く砕いた両名の足場は衝撃で凹凸を形成し、転弧と美智榴は宙に投げ出される。
「(まずい!場外に…!)」
瓦礫を蹴ってコート…だったものの内側に戻ろうとした美智榴。意識をそちらに奪われた彼女は、宙に浮いたままの転弧が持っているものに気付くのに遅れてしまった。
「────あ」
「…へへっ」
『あ…あれは!!』
彼が両手で掲げていたのは……破壊されたボール出しロボットの籠。蓋は取り外されており、中には無数のボールが入っていた。
「喰らいやがれえええええェェェェェッ!!!」
先に地上に降りんとしている美智流に向けて、籠の中のボールが放たれる。着地の姿勢に入っていた彼女は、これを躱すことなどできそうになかった。
「……やっぱり凄いや…志村くん」
ボールの雨が、彼女を襲う。数えるまでもなく…3ヒットは確実だった。
『試合終了オオオオオーッ!勝者…志村転弧くんッ!!一瞬の勝機を逃すことなく華麗に逆転し!!見事雄英体育祭優勝だあああああーッ!!』