体育祭を終えた雄英高校1年生たち。彼らはここから、更なるステップを踏むことになる。
「皆お疲れ様!本当はもっとゆっくり労ってやりたい所なんだけど、そうもいかないのよね。これを見て!」
ミッドナイトが黒板に映し出したのは、何かのグラフ。多い順に上から並んでおり、グラフの隣には生徒たちの名前があった。
「今回の体育祭での活躍を踏まえて、既に貴方たちの元にプロからの指名が集まっているわ!将来有望と判断されたってことね!」
彼女の言葉に教室がざわつく。生徒たちが各々の感想をこぼし合う中、ミッドナイトは話を続けた。
「見ての通り、優勝したからといって1番多く指名を貰える訳じゃないわ。那珂さんのように広く活躍した子程指名を受けやすいのよ」
グラフは基本的にどれも大きな差ではなかったが、転弧と美智榴が頭一つ抜けて多かった。しかし、優勝した転弧の指名数は美智榴の指名数よりも幾らか少ない。個性の難しさや第一種目、第二種目での活躍の地味さが響いてしまったのだろう。
「まあ何にせよ、重要なのはそこじゃないわ。この指名の本質は、貴方たちの職場体験先を選ぶことにあるのよ!」
「職場体験?」
生徒の疑問に答えるべく、再び口を開くミッドナイト。
「そう!皆は2年生になってから、仮免許取得後にインターンシップに行ってもらうことになるんだけど…そのお試しに、ということになるわね!各々の課題を克服するために、一度プロと一緒に仕事をしてみて足りないものを見つけなさい!」
彼女はそう言って、それぞれに指名リストを渡し始める。転弧も受け取ったものの、あると考えていた名前が見つからずに驚きを隠せなかった。
「(……千雨さんからの指名が来てない?)」
話を聞いた当初から千雨の元に行く気満々だった彼は、思わぬ所で躓かされてしまったのだった。
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そして、その日の夜。
「指名かい?出したのは一人だけだよ」
「…どうして俺には?」
「転弧くんに出したってしょうがないじゃないか。私が君に教えてやれることなんてもう殆どないだろう?」
転弧は自分以外に千雨が指名を出していたと知り、少しばかり憮然とした気持ちになっていた。しかし千雨も考え無しにそうした訳ではなく、転弧の成長のためなのだと説明する。
「実は、体育祭が終わってすぐに私の所に連絡が来てね。職場体験で君を迎えたいから、話を通しておいて欲しいってさ」
「…一体誰から?」
転弧の問いかけに少し間を置きつつ、千雨は答えた。
「ふふふ……オールマイトの元サイドキック、って言ったら驚くかい?」
「な…!?…何で、そんな人が?」
「さて、何でかな?私としても意外でね…理由についてはちょっと分からないけど、とにかく転弧くんにはその人の所に行ってもらおうと思ってさ」
千雨は彼…ナイトアイが指名するなら美智榴だろうと思っていただけに、転弧を指名した理由が本当に分からなかった。もっともOFAの後継としては、どちらも不適格な事情があるのだが。
「(ま、それを今ナイトアイに教えてしまうとミリオくんが成長する機会を奪ってしまいかねないからね。まだ黙っておこう)」
そこに、ひとまず納得した様子の転弧が声をかける。
「ちなみに千雨さんが指名したのって…」
「分かってるんじゃないかい?……美智榴ちゃんだよ」
各々の思惑が入り交じる中、彼らの職場体験が始まるのだった。
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「…ここが、そうか」
転弧が立っていたのは、ダスト事務所とは別の事務所…職場体験先である、ナイトアイ事務所の前であった。
「────よし」
覚悟を決めて、事務所に入っていく転弧。出迎えてくれたのは、ムカデの頭部を持った人物だった。
「お待ちしておりました。私サイドキックのセンチピーダーと申します。これよりサーの元に案内させていただきます」
「…よろしくお願いします」
畏まった態度で転弧を歓迎したセンチピーダー。そのまま彼を事務所の一室の前まで案内し、扉をノックする。
「サー。お連れしました」
「入ってきてくれ」
返事を聞き、扉を開くセンチピーダー。転弧もそれに続き、事務所の主…サー・ナイトアイと相見える。
「志村転弧です。職場体験の間、よろしくお願いします」
「サー・ナイトアイ。これから君の上司となる者だ。よろしく…と言いたい所だが」
「?」
そこで言葉を切って、ナイトアイは転弧に詰め寄る。
「一体何だ今の挨拶は?あまりにも平凡。普通すぎる」
「…はい?」
「まるでユーモアを感じられない…実に冷たい挨拶だ。ヒーローに求められるものが何たるかを、君は本当に理解しているか?」
困惑する転弧を他所に、ナイトアイは続ける。
「ヒーローは常に人々に笑顔をもたらす存在であるべきだ。時に怯え、あるいは悲しみに暮れる人に出会ったとして、そんな人をも明るくしてやれる。…それが、理想のヒーローというものだ」
「…はあ」
間違ってはいないけど、と転弧は思ったが、結局その話はナイトアイの方から打ち切られることになる。
「まあ、君を指名したのはそんな細かいことまで教育するためじゃない。……ただ、恩を返したかっただけなんだ」
「…恩?」
「………君の育て役…ダストには、私も、オールマイトも、ちょっとやそっとでは返しきれない恩がある。だから君の成長を助けてやることで…彼女に少しでも報いてやりたかった」
「…!」
自分の尊敬する人物が、ナンバー1とそのサイドキックの大恩人であると聞かされ、転弧も驚かずにはいられなかった。ナイトアイは、そんな彼に話を続ける。
「それに、当然君自身にも興味がある。ルールに助けられた部分もあるとはいえ、あれ程扱いづらい個性で雄英体育祭を優勝した人物は過去に類を見ない。指名数は伸びなかったようだが…君は君自身が思っている以上に優秀なヒーローの卵だ」
「あ…ありがとうございます」
「だからこそ…この職場体験で教えてやる。これから君が、どう戦っていけばいいのかを」
志村転弧、ナイトアイ事務所にて…活動開始。
ヒーローネームは次回辺りで出します。多分。