その後も職場体験は続き、雄英生たちはそれぞれヒーローとしての活動がどのようなものであるか、また自身に足りないものは何なのかを学ぶことができた。今回の経験は、間違いなく彼らの糧となっただろう。
と、そんなこんなで一学期も終わりが近付き、期末試験の時期がやってくる。
「志村、お前中間はどうだったんだ?」
「いや…そこそこぐらいだよ」
必死になって雄英の筆記試験対策を行った転弧にとって、雄英の勉強はかなり大変なものだった。ついていくこと自体はできているが、油断するとあっという間に赤点を取りかねない危うさもあったのだ。
「…そうだ。那珂、お前中間できたのか?」
「あっ!おい志村やめとけ…」
「ふっふっふー」
ふと気になって、美智榴に中間の結果を尋ねる転弧。しかし、彼はこの期に及んで彼女が推薦入学し得る人物であったということを忘れていた。
「学・年・1・位!あんまりあたしを舐めないでよね!」
「……嘘だろ?」
「だから言ったのによ…」
制止したクラスメイトが哀れむように呟く中、二人の会話は続く。
「いつものうっかりは何処いったんだ…!」
「小学生の頃から名前書き忘れまくってたからね!流石にもうテストでうっかりはしないよっ」
微妙にズレた応答をしつつ、美智榴は期末試験についても話す。
「でも、期末は実技もあるみたいだからねー。どんな感じなんだろね?」
「先輩が言うには入試のロボットをどうこうするみたいなやつらしいよ」
「へえ…だったらまあ問題無さそうだな」
そんな転弧の台詞に、クラスメイトが食いつく。が…
「0ポイントが出てもかよ?」
「おう。入試でもう倒した」
「は?…アレって倒せるもんなのかよ」
「……志村くんもやっぱり凄いね」
事も無げに言ってみせる転弧。これにはクラスメイトも驚きを隠せないようだ。
「そーだよ!志村くん、ほんっとに凄いんだから!」
「なんでお前が自慢気なんだ…」
そんな会話をする二人は、まさか自分たちの期末試験だけとある変更が考えられているなど、夢にも思っていなかった。
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その日、千雨は根津校長に呼び出され雄英高校にいた。
「転弧くんたちの実技試験の内容を変更する…ですか」
「そうだね。本来なら例年通り職場体験で得たものを実技試験という形で発揮してもらいたい所なんだが……志村転弧くんと那珂美智榴くん。二人の実力は他の生徒と比べて余りにも桁外れすぎる。同じ試験を受けさせていては折角の才能を潰してしまいかねないと思ったのさ」
「それで、私を呼んだ理由は?」
「単刀直入に言おう。塵堂くんには、二人の実技試験の対戦相手になってもらいたい」
「…なるほど」
ここでそうくるか、と心の中で驚いた千雨。根津はそのまま、続きを話す。
「ヴィラン役を演じる教師との対戦は、一応期末の実技代替案として以前から挙がっていてね。勿論、教師側にもある程度のハンデは背負ってもらうけど…それでも難易度が高すぎるだろうということで今までは見送られてきたのさ」
「……自分で言うのもなんですが…それをチャート4位で試験的に導入するというのは無謀だと思いますよ?」
試験の形式がどうなるか、既に知っているため予測がついている千雨。根津の言うハンデも、彼女にとっては無いに等しいものだ。
「さて…どうだろうね?彼らの力は、案外君の想像を超えてくるかもしれないよ?」
それでも根津は、そんな彼女の心配を一蹴する。千雨もその言葉を聞いて、考えを改めた。
「……確かに、その通りですね。…特に転弧くんは…いつだって、私の予想を覆してきた」
「…引き受けてくれる、ということでいいかい?」
「ええ。…それにここらで、あの二人が協力する所を見ておきたいとも思いますし」
「そうか、ありがとう。詳しい内容はまた後日連絡するよ」
転弧と美智榴。彼らにとって、今までで一二を争う程に高い壁が聳え立った瞬間だった。
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いざ始まった期末試験。勉強に追われ慌ただしいテスト期間を過ごした転弧は、どうにか安心できる程度の結果を残せただろうと考えていた。
そうして筆記試験を終え、美智榴と共に実技試験の会場にやって来た彼だったが、その様子に疑問を呈する。
「…随分と皆とは離れた所なんだな」
「皆も後々離れたんじゃない?二人一組で協力して、みたいな話だったしさ」
美智榴がそう応えたその時、彼らの前に現れたのは担任教師のミッドナイト。
「お二人さん、筆記試験お疲れ様!見ての通りこれから実技試験に移るんだけど……二人の試験だけちょ〜っと内容が変わってるわ!」
「…嫌な予感が」
苦々しい顔をする転弧。哀れ、その勘は的中してしまうことになる。
「二人にはこれからヴィラン役を務める本物のプロヒーローと戦ってもらうわ!当然プロの方はハンデとして錘を身体につけてるけど…あんまりアテにしない方がいいわよ、とだけ言っておくわね」
「おいおい…」
「ぷ、プロ!?ロボットはいずこぉ〜…」
二人の反応を尻目に、ミッドナイトはさらに説明を行う。
「そして、二人の試験通過条件は2つ!1つは今からそれぞれに渡すこのハンドカフスを手か足のどちらかに掛けること!そしてもう1つは、この入り口と反対側にある出口を潜ること!どちらかを満たせば、その時点で両名クリアとするわ!」
「…出口、見えないですよ?」
目の前の会場は入り組んだ市街地を模しており、どうやら相当広いらしい。美智榴が呆然と問うように呟く一方で、転弧は既に憂鬱になり始めていた。
「それじゃ、二人とも!健闘を祈るわね〜!」
早々に走り去っていってしまうミッドナイト。待っていても仕方がないと、二人は会場入り口のゲートを潜る。その瞬間、試験は始まり……二人の前方に無数の塵が集い始めた。
「────────マジ、かよ」
「こ、これって…」
「さあ、お二人さん。実技試験を始めよう」
転弧が誰よりも憧れ、追いつきたいと願うヒーロー。ダストが本気で、彼の前に立ち塞がる。