すべては君のために   作:eNueMu

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夏休み(大嘘)

 「皆!体育祭に職場体験、期末試験と、本当にお疲れ様!大変だった1学期ももうじき終わり…お待ちかねの夏休みよ!」

 「「「しゃあああああああーーーッ!!!」」」

 「でも雄英高校ヒーロー科の皆に休みは無いわ!夏休みが始まってすぐに林間合宿があるからね!」

 「「「ぎゃあああああああーーーッ!!!」」」

 

 遊びたい盛りの高校1年生にはあまりにも残酷すぎる仕打ち。しかしながら、これもヒーローとして乗り越えなければならない試練の1つだ。生徒たちもすぐに気持ちを切り替え、話を聞く姿勢に入る。

 

 「これまでの高校生活の中で、各々少なからず課題が見つかった筈。そして、期末試験までにその全てを解決できたってことも無いでしょう?この林間合宿は、それらの消化を目指しつつ主に個性伸ばしを目的として行うものなの!」

 「先生。個性伸ばしって?」

 

 クラスメイトの1人が、そんなことを尋ねる。千雨からその言葉を日常的に聞いてきた転弧も、そういえば雄英では殆ど聞いていないな、と気付いた。

 

 「そうね、まずはその説明からしましょうか。もしかすると、職場体験先のプロから聞いた子もいるかもしれないけど…そういう子にも改めて説明するわね。個性っていうのは、あくまで自分の身体機能の一つ。筋トレをすれば筋肉がつくように、個性を鍛えればその分出力が伸びたり持続力が上がったりするものなのよ」

 「でも、鍛えるってどうすれば良いんですか?」

 

 また別の生徒の質問に答えるように、ミッドナイトは話の内容を補足した。

 

 「それはどんな個性かによるわね。ただひたすらに使い続ければその分強化されるものもあれば、使い方を工夫しないと変な癖がついてしまうものもあるわ。発動に特定の条件を必要とするような系統の個性は条件を嫌と言うほど満たしていれば徐々に条件が緩くなったり、許容量が増えたりするって感じね」

 

 具体的な説明を終え、用意していた『合宿のしおり』を生徒たちに配っていくミッドナイト。

 

 「詳しい日程とかはそのしおりに書いてあるから、各自しっかり読んでおくようにね!」

 

 そのままHRが終了し、生徒たちは授業が始まるまでの間合宿についてあれこれ話を交わしていく。

 

 「なあ、志村はダストの所で個性伸ばしってのはしてたのか?」

 「おう。まあ、最初は伸ばすってよりかは抑える方向で頑張ってたけどな」

 「抑える?…ああ、何となく予想はつくな…。大変だったんじゃねえか?」

 「……そうだな。大変だったよ…本当に。事務所の皆が居てくれたから、何とかなったんだ」

 

 節目となった出来事を思い出し、少しばかり苦い顔になった転弧。クラスメイトもそれ以上追求することはしなかったが、代わりに美智榴が会話に割り込んできた。

 

 「志村くん!合宿楽しみだね!」

 「…そうか?冷てえことを言うようだが、多分楽しさオンリーのお泊まり会にはならねえぞ」

 「えぇ?どうしてさー!」

 

 転弧は己が個性伸ばしに掛けてきた時間がどれほどであるかを美智榴に伝える。

 

 「10年以上、掛かったんだ。俺がここまで個性を扱えるようになるまで…ほぼ毎日休みなくな。それを合宿期間中に押し込むんだぜ?」

 「…おーまいがー」

 「……おい志村。さ、流石に誇張してるだろ?でなきゃ俺たちに待ってる運命は地獄一択になっちまう…」

 「まあ、合宿が始まってのお楽しみだな」

 「もう楽しめないよぉ!!」

 

 達観したような転弧の物言いに突っかかる美智榴だが、無情にも授業開始のチャイムが鳴る。近くで彼らの会話を耳に入れてしまった者達も、この先を憂うあまりその後の授業内容が頭に入ってこなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「…合宿、か」

 

 千雨は今日もヒーロー活動をこなしつつも、頭にこびりつく不安を拭い去ることができないでいた。

 

 「(例年通り雄英は林間合宿を行うらしい……当然だ。『予期せぬ事態』なんて起こるはずはないんだから。…『原作』でも、この年に何かがあったということは恐らく無い。この時点で生徒に何かあったとしたなら、出久くんたちの林間合宿の内容はもっと変わっていただろう)」

 

 そう自らに言い聞かせるが、転弧と美智榴、二人への心配はどうしても消し去れない。

 

 「(……なんて、ザマだ…。彼らは彼らなりにどんどん前に進んでいってる。美智榴ちゃんとも出会ったばかりだけど…はっきりと成長してるってのは分かるのに。…それなのに、恐ろしい……手の届かない所で、大切なものが失われることが。……私は…転弧くんたちを、信頼しきれていないんだ。期末試験で、あれだけの力を見せてくれた二人を)」

 

 不安感に苛まれるあまり、とうとう自己嫌悪にまで陥ってしまう千雨。かぶりを振り、ネガティブな考えを打ち消す。

 

 「(このままじゃ、いつまで経っても私は転弧くんを信じてやることができないままになってしまう。それに、彼のためにも守護霊で居続けることは辞めるべきだ。……だから、今回で…最後にしよう。彼が高くまで、羽ばたけるように)」

 

 千雨は、転弧の保護者であるからこそ。同時に、彼のために全てをつぎ込むと誓った者であるからこそ。今回の合宿を一つの区切りにしようと考えていた。

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