すべては君のために   作:eNueMu

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崩れ去る認識

 

 その日の夜。地獄の個性伸ばしをひとまず終え、雄英生たちは肝試しに興じていた。A組とB組に分かれてお互いを個性を駆使して驚かしあうことになり、今はA組が驚かす番だ。

 

 「(志村くん、それじゃ作戦通り!)」

 「(…ちょっとやりすぎじゃねえか?)」

 「(そんなことないよ!あたしB組のヤツで心臓止まりそうになったんだから、このぐらいしてやらないと!)」

 

 美智榴と転弧は協力して…というよりも、美智榴が半ば強引に彼を引き込み、先程B組に散々驚かされた仕返しをしようと試みていた。転弧の崩壊によって脆くなった地面は、人が踏み入れれば丁度落とし穴のように沈み込むようになっている。また茂みの裏にある崩壊で掘り抜いた穴は、美智榴が仕上げに移るためのものだ。

 

 「(あとは地面の中からあたしがその人の足を掴んであげれば大パニック間違いなしだよっ)」

 「(俺が何も知らなきゃ落とし穴だけでも十分パニックになりそうだけどな…)」

 

 殆ど転弧1人で完結しているトラップだったものの…美智榴は随分と楽しそうだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そして、彼女の期待通り次々とB組の面々は肝を潰されていく。

 

 「あはははっ!さっきの子たちの反応聞いた?もうあれ新しい言語だったよ」

 「声でけえって。またすぐ次のペア来るぞ、バレねえようにしとけ」

 「おっとっと、了解」

 

 そうして再び美智榴が隠れようとして…二人は違和感に気付く。

 

 「……?揺れてる…?」

 「わわ…地震!?」

 

 揺れは少しずつ大きくなり、並行して転弧がその源を知覚した。

 

 「…おい……何だ…あいつ」

 

 肝試しのコースからは外れた場所から、少しずつ巨大な何かが近付いてくる。明らかに生徒や学校関係者ではなかった。

 

 「…えっ?……し、志村くん、どうしよう」

 「とりあえず逃げるぞ…ありゃ普通じゃね────」

 

 「お前だ。やっと、見つけた」

 

 美智榴の言葉に逃走を促そうとした転弧の耳に、地鳴りのような声が届く。巨躯は突如、彼らに向かって爆進し始めた。

 

 「主の命令ッ!!危険分子の…早期抹殺ッ!!」

 「おい嘘だろッ!?」

 「やばいよっ!!!」

 

 それを見た転弧は逃走の助けにすべく、自分たちの前方の地面を崩壊させて男との間に空堀を作り出した。そのまま美智榴に担がれ今二人に出せる全速力でその場を離れようとするが…

 

 「オオオオオッ!!!」

 「志村くん!!あいつめちゃくちゃ速いよ!!!」

 「クソッ…!!下せ那珂!俺なら足止めできる!」

 「無理に決まってるでしょッ!?どうにかして二人で…」

 「そっちの方が無理だろうが!!!…!?」

 

 大男は凄まじい速さで二人に迫っており、追いつかれるのは時間の問題だった。自身を囮にしようという転弧に対し、珍しく余裕を見せずに提案を却下する美智榴。彼女を守るべく何としても意見を通そうとした転弧だが、すぐに違和感を覚えた。

 

 「何だあいつ!?どんどんデカくなってねえか!?」

 「ウオオオオ!!!」

 

 既に木々を超えて、更にその体躯を伸ばし続ける大男。流石にここまで来ると肝試しをしていた生徒たちも異常に気付き、絶叫と共に逃げ惑う。

 

 「し、志村!!何なんだソレ!?」

 「分かんねえよ!!先生たちに来てもらわねえと…ッ!!那珂!!」

 「!?嘘、もうこんなに!?」

 

 一刻も早いプロヒーローの助力を必要とする転弧だが、先に此方側に限界が訪れた。大男が美智榴に追いつき、その拳を振り上げる。

 

 「潰れろオオオッ!!」

 「チ……!やるしかねぇッ!!」

 「志村くん!!!」

 

 美智榴の腕から無理矢理飛び出し、男に向かって掌を突き出す転弧。ただでさえ免許も持っていない彼には許されない行いだったが、最早そんなことを言っていられる状況ではなかった。

 

 「悪く思うなよ────」

 「遅い!!弱い!!」

 「な…!?」

 

 しかし、その途轍もない巨体からは想像もつかない程の身軽さでそれを躱され、そのまま男は転弧の背後…美智榴のいた場所に着地する。周辺は激しい揺れに見舞われ、空気の荒ぶりが転弧の絶叫をも掻き消してしまった。

 

 「那珂アアァァァッ!!!!!」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時間は、少し前に遡る。

 

 「(……バカ、な…!!これは…ギガントマキアか!?あり得ない!!!こんなタイミングで出てくるなんて…いや、出してくるなんて!!!)」

 

 転弧に内緒で彼を尾けてきていた千雨は、合宿所周辺を延々と「索敵塵形」で調べ上げていた。そうして肝試しが始まって少し、彼女はここに現れる筈のない大敵の存在に気付く。

 

 「(何にせよ流石にこれは転弧くんには任せられない!!今すぐ私の手で────)」

 「◯※△」

 「────え?」

 

 次の瞬間、千雨が居たのは見覚えのない廃屋の一室。そして、彼女をそこに連れてきたのは…

 

 「……脳、無…?」

 「□☆$?」

 

 無意味な音の羅列のみを発するだけの奇怪な化け物。特徴的な剥き出しの脳髄を頭頂に据えたそれは、もうこの世界において生まれることはないと千雨が考えていた存在だった。

 

 「ァ゜」

 「ッ!!」

 

 直後、脳無は即座に自爆。ごく小規模なものであったが、骸が木っ端微塵になってしまい、捕獲して情報を得ることは不可能となる。

 

 「(どうして!?ドクターはもう居ないのに!!もう作れる筈ないのに!!どうしてこんなことになるんだッ!?)」

 『やあ。これを聞いているということは…ワープの子は自爆してしまったのかな?』

 「!?」

 

 混乱する千雨の耳に、部屋のスピーカー越しの音声が届く。声は、AFOのものだった。

 

 『あの戦いの後、怪我のせいで沢山の個性を手放す必要が出てきてね。けれどドクターの本拠地はめちゃくちゃになってしまっていたから、本当に困っていたんだよ。だから……久々にお勉強したのさ。幸い各地に散りばめていた小規模の研究施設は大体無事だったからね、彼のノウハウはしっかり活かすことができた』

 「……神野以外にもあったのか…!」

 

 脳無製造工場が先んじて消し去っておいた神野区のもの以外にもあったことに、ショックを隠しきれない千雨。音声は途切れることなく続く。

 

 『おかげで想定よりずっと悲惨な出来にはなってしまったけど…ドクターとの合作、「脳無」を作り出すことができたんだ。今回君をここに連れてきたのはワープと…幾らか他にも便利な個性を譲ってやった子でね。特にあの個性は容量を食うから、泣く泣く手放したんだよ。オールマイトのせいでこんなことになってしまって…心底悲しいものだ。ククク…』

 

 言葉とは裏腹に、邪悪な笑いを溢すAFO。

 

 『彼は僕の忠臣…「ギガントマキア」の側に置いていたんだ。万が一オールマイトかダストが彼に近付けば、すぐに反応して遠くに飛ばしてやれるようにね。近々合宿中の雄英生の1人をマキアに襲わせる予定だから、引っかかったのは志村転弧くんを心配してついていくだろうダストの方に違いないね?でなきゃここまでベラベラ話したことの意味も半減だ』

 「…ッ」

 

 全てを読まれていることに、少なからず千雨は焦りを覚える。

 

 『まあ、ついでに他の子たちも巻き込んで存分に暴れてもらうつもりなんだけれどね。本当はまだ彼の存在は伏せておきたかったんだが…ダスト、君のせいでそうもいかなくなった。……つまり、これで志村転弧くんに何かあれば原因は君に────』

 「クソオオオッ!!!!!」

 

 半笑いのまま嘲るように千雨を煽る音声。最後まで聞かないまま、彼女はスピーカーを破壊する。そしてすぐさま外に出て、全身全霊で合宿所への帰還を目指した。

 

 「(AFOッ…!!お前だけは…永遠に許せそうに無いよッ!!)」

 

 それがいかに無駄な労力であるかを、知っていながら。

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