雄英高校ヒーロー科の林間合宿中、生徒たちがヴィランの襲撃を受けた。このことはすぐにメディアによって大々的に報じられることとなり、高校側も急遽会見を開く。
「こうなる可能性は事前に予期できなかったのでしょうか?」
「情報規制は万全を期しておりました。今回の襲撃は完全に偶発的なものであり、此方の対応に遅れがあったことは否めません」
「生徒に負傷者が多数出たとのことですが、来年以降も林間合宿は続けるおつもりですか?」
「林間合宿は雄英のカリキュラムにおいても最重要といえるものの1つです。教師、プロヒーロー間の連携を緊密にし、より強固な安全対策とした上で来年以降も続行したいと考えております」
歯に衣着せずストレートな質問を投げかけてくる報道陣に、ミッドナイトもしっかりと応答を行う。会見は、実に3時間以上も続いた。
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「お疲れ様です先輩」
「…!?相澤くん!白雲くんも!珍しいわね?こんな所に」
「ちょっと心配になりまして。大変なことになっちゃいましたね」
会見を終え、一旦負傷した生徒たちを見舞いに病院へ向かおうとしたミッドナイトを待っていたのは、後輩たちだった。
「…ええ。下手をすれば、教え子の誰かが亡くなってしまってもおかしくなかった…。本当に、不幸中の幸いだったわ」
「……そう、ですね」
相澤は高校2年生の時の記憶を辿る。当時のインターン、ダストが現場にいち早く駆けつけてくれなければ万が一のことがあったかもしれない。そう思うと、ミッドナイトの懸念は正しいものである気もしたのだ。
「…ただ、生徒たちもヒーローの卵です。そう易々とやられる程やわじゃないでしょう」
「……相澤くん」
それでも気を落とす先輩を見て、励まさずにはいられなかった。さらに、相澤と白雲は目配せをしあうと、ミッドナイトにあることを告げる。
「先輩。俺たち、あの話受けたいと思います」
「…!それって…!」
「はい。…山田も合わせて、3人で雄英の教師に加わりたい。生徒たちを近くで見守ってやれる大人は、多い方がいいでしょう?」
「……ありがとう…!」
イレイザーヘッド、プレゼントマイク、ラウドクラウド。3人のヒーローが、雄英に教師として戻ってくることになったのだった。
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「転弧くんッ!!」
病室に勢いよく飛び込むのは、千雨。彼を心配するあまり、脇目も振らずにそこまでやって来たのだ。
「千雨さん。…心配かけたか?ごめん」
「…!!…ああ……心配、したよ…!!こっちこそ、ごめんね…!すぐに駆けつけてあげられなくて…」
酷い顔のまま、転弧に駆け寄る千雨。彼女の言葉を受けて、転弧はこう返す。
「…いいんだ。……千雨さん、俺…言われた通り、ちゃんと那珂のこと、見てたよ。…ちょっとは、ヒーローらしくなれたかな?」
途切れ途切れ呟く彼に、千雨も思わず彼を抱き寄せる。
「……うん…!偉いぞ、転弧くん…!!本当に…よく、頑張ったね…!!」
かつて出会ったあの時よりも、少年の背はずっと大きくなっていた。
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「脳無、か」
「現れる筈のなかった悪夢…しかし、それは覆ってしまった」
今回の件は、既にグラントリノ達にも情報共有されていた。千雨が殻木を始末したことはAFOによって彼らにも露呈してしまっていたため、その辺りのことを話してしまっても構わないという千雨の判断だった。
「ダストの嬢ちゃんが言うことには…記憶で見たもん程強烈ではないらしいがな」
「しかしグラントリノ。問題は素体が人間であると言うことです…その上AFOが協力者なしに、1人で駒を増やす術を手に入れてしまったということでもある」
「……やれやれ。ギガントマキアとかいうのを捕らえられたのは大きいが…一難去ってまた一難って訳か」
正義と悪のいたちごっこ。現状はまさしくその通りになってしまっていた。
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そうして合宿から時間が経ち…夏休みも終わる頃。
「むぅ〜!」
怪我もだいぶ良くなったことで面会が許された美智榴は、見舞いに来た転弧と千雨を前に不満を露にしていた。
「頭打ってたわけじゃないよっ!アレがあたしのカッコいいと思う理想のヒーローなのっ!!」
「…へー」
転弧は合宿での彼女の変貌を話題に出し、その変人っぷりに大層驚いたと話した。美智榴はそれを聞いて機嫌を損ねているのだ。しかしその時、側で会話を聞いていた千雨が彼女に質問する。
「……美智榴ちゃんは、覚えているんだね?その当時の記憶を」
「…え?は、はい、まあ…」
「なるほどね…」
美智榴の答えに、千雨は彼女の将来性を垣間見る。
「(つまり、何かの拍子で現れた別人格とかそういうことではなくて…あくまでも自己暗示の類いだって訳か。それだけで単身ギガントマキアと互角にやり合うなんて……AFOがさっさと彼女を始末したがったのも頷ける。まあ、失敗したけどね)」
千雨が考え込む一方で、美智榴と転弧は会話を続けていた。
「だから、ヒーローはああいう時も逃げたりしないんだってばー!」
「そりゃお前の押し付けだぜ……親の前でも同じこと言えんのか?泣かれるぞ」
「うーん、どうだろ?もう2人とも死んじゃったから…」
「────え」
するりと彼女の口から飛び出した言葉に声を詰まらせる転弧。流石に千雨も聞き逃せず、美智榴に問う。
「……ご両親は、いつ?」
「あたしが中学生の時です。でも、大丈夫ですよ!ちゃんと本物のヒーローになって、お父さんたちを喜ばせてあげますから!」
普通に聞く分には、悲しみを乗り越えて亡き両親に成長した己を誇らんとする立派な少女のような言葉。しかし千雨たちには、その中に未だ強く根付く歪みがあるように思えた。