ここからまた時間の進みが早くなります。転弧の高校時代はあとインターンぐらいで終わるかも?
その年の下半期ビルボードチャートには、波乱があった。
「No.10!経歴も素顔も、全てが謎に包まれた男…『スタンダール』ッ!!次々とヴィランを検挙し、ついにここまで上り詰めたァッ!!」
「No.5!早い!速い!!疾すぎるッ!!!デビューして未だ一年足らず!!!『ホークス』ッ!!史上最年少でのトップ10入りだァァァーッ!!」
片や詳細不明。片や18歳。どちらも凄まじい勢いでチャート順位を上げ、突如としてこの場に立った者たちだ。そして同時に、双方が千雨と少なからず縁のある人物でもあった。
そして、その千雨はというと…
「No.3!支持率の急激な上昇の要因は、皆様も知る所のものでしょう!!『ダスト』!!上半期に引き続き順位をキープ!!」
そんな実況と共に、会場には穏やかな笑いが巻き起こる。千雨は気にしていない風にも見えるが、実際には羞恥心で消えてなくなりたくなっていた。
「(上半期の時もそのことでいじったじゃないかぁ…もう勘弁してくれよぉ〜ッ)」
ーーーーーーーーーーーーーーー
そして始まる、それぞれへのインタビュー。トップバッターのスタンダールは、いきなりとんでもないことを言い始めた。
「…今の社会には…贋物が蔓延っている!英雄足り得ない人間が我が物顔でヒーローを名乗り、私腹を肥やす…!この私!スタンダールはッ!それら偽りの英雄を排し!正しき社会を取り戻すべくここまで来た!我が理想に共感できると言うのならば!或いはヒーローであろうとするのならば!真なる英雄たれッ!…さもなくば……淘汰されるのは必定だ」
「……あ、ありがとう、ございました…」
引き気味に反応を返す司会者。しかし、会場の中にはちらほらと拍手の音も聞こえる。彼の意気と気迫が伝わった人間も、多少は居たようだ。
そのままインタビューは続き、少ししてもう1人の新トップ10…ホークスの順番が訪れる。司会者からマイクを受け取った彼は、特に何かを言うでもなく簡潔に終わらせた。
「これからも頑張りますんで、応援よろしく!」
時を同じくして大舞台に上がった2人は、実に対照的な印象を残した。それでも彼らを見て、千雨は様々な思いはありつつも小さく口元に弧を描く。2人の今が、良い方向に転がってくれていることを喜んで。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……ダスト」
「やあ。呼び止められると思ってたよ」
式典終了直後。千雨はスタンダール…赤黒血染に声をかけられた。薄々話の内容の予想はしつつも、彼の方に顔を向ける。
「…考えは変わらないのか?己のために平和を成すという…その考えは」
「そうだね。……もうあれから、10年も経ったのか。どうやら私は自分でも驚く程に頭が固いらしい」
「……フン…。やはり貴様は気に入らない…そうして自分に都合の良い言葉で誤魔化してばかりだな」
「…何だって?」
思いもよらないスタンダールの台詞に、疑問を浮かべた千雨。それに答えるように、彼は続ける。
「貴様は……平和のためなら己の命さえ捨てられるタチの人間だろう。『自分のため』だと己に言い聞かせて」
「……随分と買ってくれてる所悪いけどそんなことは無いと思うよ?」
「…どうだかな。……人間の本質とは、考えるよりも早く現れるものだ。自身が気付いていなくとも、いざというとき咄嗟に露呈させてしまう」
スタンダールはそこで言葉を切ると、そのまま千雨の横を抜けて行ってしまった。
「………『気に入らない』だって?…嘘ばっかり。私の大ファンじゃないか」
その場にいない彼を揶揄うように、千雨は1人呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ダストさん!お久しぶりです!」
「やあ啓悟くん。それともホークスかな?どちらにせよ、本当に久しぶりだね」
続いて、エンデヴァーと談笑中だったホークスと話を交わす千雨。エンデヴァーもホークスのことは大層気にかけており、実の我が子のようにも思っているようだ。
「どうだダスト。啓悟は実に立派に育っただろう?じきに君をも超えていくぞ、こいつは」
「やーエンデヴァーさん凄い自慢気ですけど俺半分以上は公安で育てられましたからね?」
「何を言う啓悟!お前の意志を尊重したまでだ!その気になれば奴等よりもずっと上手くお前を育ててやれた!」
「ホントですかぁ?」
エンデヴァーにも気安く軽口を叩くホークス。実際に良くここまで成長してくれたと千雨は一種の感動すら覚えながらも、彼が結局公安に所属したことに若干の申し訳無さも感じていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「貴女が塵堂千雨さんね!素晴らしい才能を持ってると聞いてるわ!」
千雨はかつて、高校在学中に公安からのスカウトを受けていた。当時は実力を隠していたため、彼らが接触してきたことは千雨にとって少々意外な出来事だった。
「(雄英の情報を盗み見たのか?ご苦労なことだね)」
「どうかしら?ウチでその力、社会のために役立ててみない?」
自身が公安の職員であり、千雨を勧誘しに来たのだと話す女性。高校は中退することになるが破格の待遇を約束すると語った彼女の言葉を、千雨は半分も覚えていない。『原作』を知る彼女にとって、その話は微塵も魅力的には見えなかったし、転弧救済を最優先に考えていたからこそ最初から頷くつもりなどなかったのだ。
断られた後も、公安は定期的に勧誘を図ってきた。免許を取り消されそうになった時も、各機関に働きかけて譲歩してもらったと千雨に恩を売ってきた。それに関しては大変ありがたいことであったが、それでも彼女は公安に所属しようとは思わなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「…?ダストさん?」
「……ああ、ごめんね。ちょっと考え事しててさ」
ともあれ、ホークスは今の仕事にやり甲斐を感じているらしい。千雨はひとまず、彼の飛躍を素直に祝福することにしたのだった。