すべては君のために   作:eNueMu

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地道ながらも急速に

 

 転弧の高校1年の秋冬と2年の春夏は特に何事もなく過ぎていった。ある意味ようやく普通の高校生活を満喫することができていたと言えなくもないが、転弧としては少々物足りないというのが本音だった。

 

 「……仮免取ったばっかりだって言うのに…やけに退屈そうだね?」

 「それは、まあ。去年のB組との対抗戦は良かったけど……正直言って仮免試験は拍子抜けだったよ。成長を実感できる程じゃなかったかな…」

 「当然だろう?前も話したけど雄英のカリキュラムは他とは次元が違う。1()()()()()にでもしない限り雄英生が仮免試験に落ちるなんてことは早々無いよ。かといってそこに合わせると他の高校のヒーロー科の子たちが合格できなくなっちゃうからね…しょうがないのさ」

 

 千雨も彼に実情を話しつつ、同時に彼の成長速度が理由の1つでもあると感じていた。

 

 「(『原作』でもヴィランとの遭遇経験が少ないB組だってちゃんと強くなってた。変なことはせずに普通に雄英で過ごすだけでも得られる経験値量は計り知れない。しかも転弧くんはその上で小さい頃から私たちと訓練を続けてきてたんだ……適正レベルを大幅に上回ったって何もおかしくないってことだね)」

 

 そう考えて、千雨自身も今の彼の実力を知りたいと思い始めた。

 

 「転弧くん。インターンシップの話はもう雄英で出てるかい?」

 「…ん?ああ、聞いたけど…ッ!もしかして!?」

 

 身を乗り出す転弧に笑みを向けながら、千雨は彼に告げる。

 

 「私の所に来るといい。勿論、美智榴ちゃんも一緒にね。目の前で見せてあげよう…ナンバー3の本気の仕事を」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「久しぶりです、ダストさん!今回もよろしくお願いします!」

 「うん、よろしくね『ミーティア』。…『ルイングレイ』も、改めてよろしく」

 「…よろしく、お願いします…!」

 

 初めて千雨に呼ばれた自身のヒーローネーム。遂に彼女に一人前だと認められたような気がして、転弧は万感の思いだった。

 

 「お二人とも」

 「!は、はい!」

 「…何でしょうか?」

 

 そして、千雨と共にいざヒーローとして最初の活動をしようとした2人を心詠が呼び止める。

 

 「頑張って下さいね。…きっと、ついて行くのも大変ですから」

 「「…はいッ!!」」

 

 千雨の仕事をずっと見てきた心詠の言葉に、2人は尚も気を引き締めていく。

 

 「ふふ…それじゃ、行こうか。しっかり見ててくれよ?自分の糧にできるようにね」

 

 スタートラインを切るように事務所を出て行く3人。ここにインターンシップが、始まった。

 

 「脅すようなこと言っちまってまあ…良かったのかよ?」

 「ええ。…彼らももう、ヒーローですから」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「…って!!速すぎだろ…ッ!!」

 「あ、あぁ!もう捕まえちゃった!」

 

 そんな彼らの前で繰り広げられるのは、早送りのような光景の数々。事故が起きそうになれば未然に防ぎ、ヴィランはその殆どが危険な素振りを見せた段階で拘束される。迷子を懇切丁寧に親元に送り届けているかと思えば、並行して様々な場所で塵が悪を懲らしめる。

 転弧がコスチュームに備え付けたサポートアイテムによって機動力を向上させてなお追い付けない今の美智榴…その彼女ですら全くその全貌を把握できない千雨のヒーロー活動。2人のインターン初日は心詠の言葉通り、ついて行くだけで精一杯であった。

 

 「はははっ、それで拗ねてんのか転弧」

 「思ってたよりずっと千雨さんが遠かったんですねえ」

 「悪かったよ転弧くん……ちょっと張り切り過ぎちゃって…」

 「……目の前で見せてくれるんじゃなかったのかよ?」

 「うぐぅ…」

 

 結局その日の活動が終わった頃には、転弧のご機嫌は斜めになってしまっていた。美智榴も事務所組のやり取りをみてオロオロしつつ、心詠に視線を向ける。

 

 「(ら、ラインセーバーさ〜ん…!!)」

 「…ルイングレイ。ヒーローである以上、貴方の活動にダストさんが無理に合わせる必要性はありません。この辺りの治安を維持する程度ならば…彼女1人で十分だからです」

 

 そんな視線を受けた心詠は、敢えて転弧に冷たい言葉を投げかける。彼が心詠の方に顔を向けたのを確かめて、彼女は言葉を続けた。

 

 「そしてナンバー3のインターンシップに赴いたのもまた貴方自身。……彼女から得られるものがあると、そう思ったのでしょう?であるなら、拗ねるより前に今日の振り返りでもすべきです。今日ついて行けなかったのなら、次からはもっと早く動けるように努めるべきです。────甘えていられる時間は終わったんですよ、転弧くん」

 

 ハッとする転弧。認めてもらいたいと思ったから、インターンに臨んだ。しかし今自分は、千雨に加減を乞うている。これでは何の意味もないと…冷静になって気付いたのだ。

 

 「……ありがとう、ラインセーバーさん。…それと、すみませんでしたダストさん。やっぱり、明日からも全力でお願いします」

 「……うん、分かった。…ちゃんと、着いてきてね?」

 「はい!」

 

 転弧が成長するたびに、千雨は嬉しくなりながら心の中で寂しさも強くなっていく。千雨と転弧の別れの時は、着実に近付いていた。

 

 

 

 「美智榴さん、蚊帳の外ですねえ」

 「あはは…」





トガちゃんがめちゃくちゃ久々に登場したかも?一応職場体験の時に美智榴とは会ってる設定です。
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