すべては君のために   作:eNueMu

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天才・渡我被身子

 

 ところで、転弧の卒業より程なくして、入れ替わるように雄英に入学した人物がいる。

 

 「渡我ちゃん、おはよう!」

 「おはようございますっ!」

 

 渡我被身子。千雨によって彼女もまた、ヒーローを志す者となったのだが…その才能は千雨を何度も驚かせた。

 

 近接格闘技術はめきめきと上達し、音もなく回り込むことを可能とする独特の歩法は時に千雨や心詠を捉えることもあった。塵化して消える千雨を真似たというが、どう考えてもその範疇を超えていると千雨は思っていた。

 

 個性とそれに関わる事象の伸び方も尋常ではなかった。来て一年も経たないうちに吸血衝動には改善が見られ、個性と自身の欲求を上手く切り離すことができるようになっていた。少ない血液量で長く変身できるように訓練している最中、期せずして変身した人物の個性も使えるようになった。

 共同生活をしていた心詠は千雨の助言もあり、被身子に己の秘密を話しておいた。変身されて個性を使われてしまえば、どの道バレてしまうことだったからだ。被身子はそのことを秘匿することに素直に同意した。彼女自身心詠に懐き始めていた頃だったために、秘密の共有は丁度彼女らの絆を深める切っ掛けにもなった。

 

 学業においても極めて優秀。素行も良く、内申点は雄英の推薦ラインを容易に超えていた。当然のように雄英の推薦入試を受けた被身子は、これにトップで合格。勿論彼女も努力はしていたのだが、自身の苦労が嘘であるかのような展開に転弧も思わず目を剥いた。

 

 雄英入学後も、その実力は遺憾無く発揮された。個性把握テストや実技系の授業では他の生徒がひっくり返る程の成績を残し、担任のブラドキングも驚愕で口が閉まらなくなることは一度や二度ではなかった。

 

 そして、今日。被身子の雄英体育祭が、幕を開けた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 最終種目のスポーツチャンバラ…ルールは以下の通り。

 

 ・個性使用禁止。

 ・武器種はリーチ順に短刀、小太刀、長剣、槍の4種。ただし、それぞれの材質は十分に柔らかいものとなっている。

 ・無差別にトーナメントは組まれる。己が得意だと考える武器種を自由に選択すべし。

 ・3本勝負。武器によるクリーンヒットを1本とする。安心と信頼のビデオ判定。

 ・場外は1発アウト。降参もあり。

 

 「考えなしにリーチの長い武器を選んだって勝てるとは限らない」というミッドナイトの司会通り、短いリーチの武器を選んだ生徒も一定数トーナメントを勝ち進んでいく。その中には、やはりというべきか被身子の顔もあった。

 

 『勝ったのはB組渡我被身子ォーッ!開始早々勝負を決めたァ!つーか速すぎて全然分かんねぇ!!』

 

 『またしても渡我が秒・殺ッ!リーチの不利を物ともしない快勝だァッ!』

 

 『な…何だ今のはァーッ!?こっからじゃ殆ど見えなかったぞ!?サンキュービデオ!』

 

 去年雄英に教師として赴任したプレゼントマイクの実況が光る中、実況席に座るもう1人…イレイザーヘッドがちょっとした説教を行う。

 

 『見てるかB組のヒヨッ子ども。これが渡我の実力だ。……今年の体育祭最終種目が個性禁止のチャンバラになった理由の1つはお前らだって知っとけ。ブラドキングが愚痴ってたんだよ…「渡我のことをズルいと言う生徒が何人かいる」ってな』

 

 心当たりがあったのか数人が俯く中、イレイザーは続ける。

 

 『だから個性無しで渡我がどれだけ戦えるか、お前らにも見せてやろうってのがルール決定の要因の一部になった。結果はこの通りだ……そして何より、渡我はズルくも何ともない。アイツが現チャート3位のダストの所で鍛えられてきて、個性発動にもあの人の協力を得てるのは事実だ。だが、それが何だ?運もコネも実力の内だ。アイツはそれだけ大変な思いもしてきてる。ヒーロー志望ならこのことはしっかり胸に刻んどけ』

 

 そこまで言って、イレイザーは再び口を閉ざした。まだ退場していなかった被身子は特に何かを言うでもなかったが、彼への信頼度を少しばかり高めてもいいだろうと考えていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 『さて、決勝戦は私も実況に参加させてもらおう』

 『…2年前以来ですか、ダストさん。今年は謎の暴走が無くて何よりです』

 『あ、あはは……見てたんだね』

 『そりゃ雄英体育祭ッスよ!?アンタのアレはもう国民ほぼ全員が知ってると思った方がいいぜェ、ダストさん!』

 

 3人の賑やかな会話が少し続いたのちに、決勝が始まる。選手は被身子とA組の推薦入学者。被身子が扱うのは短刀、対して相手はスタンダードな長剣。四方から攪乱するように攻撃を仕掛ける被身子だが、相手も堅実に守りを固め迂闊に攻めることはしない。それでも千雨たちとの訓練で鍛えた立ち回りは、徐々に彼を追い詰めていく。

 

 『すっげぇ激しい攻防だ!息が詰まりそうだぜ…!!』

 『一進一退……いや、傾き始めたね』

 

 「ふふっ…あんまりカァイイって感じはしないイベントだと思ってましたけど……なんだか凄く楽しくなってきたのです!!」

 「へっ……そうかよッ!イレ先が持ち上げるだけあって面白え奴だな、渡我ァ!」

 

 高校生らしい青臭い一幕。ミッドナイトが激しく猛る中、決着の時は訪れる。

 

 「!やっべ…また消え────」

 「お終いですッ!!」

 

 心地良い程に轟く快音。3本目が決まり、ミッドナイトが試合終了を宣言する。

 

 「そこまでッ!勝者渡我さん!!体育祭…優勝よッ!!」

 

 『決着ゥゥーッ!!全種目でしっかり注目を掻っ攫っていきやがった渡我が文句無しの完全優勝ォォー!!!総合力においては間違いなく1年最強だァァァ!!!』

 『流石被身子ちゃんだ!私もラインセーバーも鼻が高いよ!』

 

 実況の千雨の声に、自らの功績に実感を抱き始めた被身子。弾けるような笑顔は、今回ばかりは皆が手放しで称賛する可愛らしさに溢れているようにも見えた。





転弧と同じような展開を繰り返してもアレなので、殆どダイジェスト形式になってしまいました。トガちゃんの活躍を期待されていた方はごめんなさい。
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