すべては君のために   作:eNueMu

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改人激発

 

 「…そうですか。また…」

 『ああ。全国で脳味噌丸出しのイカれたヴィランが急増中だ。奴さん、本格的に動き出してきやがった』

 

 ある日、千雨はグラントリノとの電話にて現在の状況…どうやら全国各地で脳無の目撃情報が相次いでいるらしいということを把握した。

 

 『今んとこ捕まえた脳無は全部爆発してお釈迦だ。こっちに情報を渡したくねえのか何なのか…』

 「……それもあるとは思いますが…恐らくはただの寿命でしょう。AFOは本来の出来よりも遥かに劣悪だと話していました…きっと素体が個性の複数所持にまともに耐えられるようにはなっていないのではないかと」

 

 千雨はAFOの話から、おおよその推定を行う。

 

 『なるほどな。それで作ったそばから放してやがるって訳か』

 「はい。ただ、起動させずに取っておいているのも少なくないと思います。向こうも戦力は可能な限り蓄えておきたいでしょうから」

 『チッ……相変わらず悪趣味な野郎だ。命を弄んでおいて要らなくなりゃさっさと処分するってか』

 

 邪悪すぎるAFOの行いに、悪態をつかずにはいられないグラントリノ。

 

 『とにかく、また何かあれば嬢ちゃんにも連絡する。またな』

 「はい。よろしくお願いします、それでは」

 

 電話を切った千雨は、別れの余韻に浸る間も与えてくれない巨悪にうんざりする。

 

 「(やれやれ……怪我はどうやら回復したようだ。『原作』よりも多少傷が浅い分、向こうもそれなりに個性を保有したままだと思っても構わないだろう。………『ハイエンド』と『マスターピース』に関しては流石に作れない筈だけど…可能性は考慮しておくべきか)」

 

 千雨がこれからに頭を悩ませる一方で…転弧たちも、脳無に手を焼いていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「クソ……また出たぞミーティア!脳味噌だ!!近くの市で救援要請!」

 「うげ!あたしアレ苦手なんだよね…!動きも読めないしさ!」

 「とにかく急ぐぞ!この時間…学生が下校する頃だ!!下手したら巻き込まれる!!」

 「!うん、分かった!!」

 

 近辺からの救援要請に従い、現場に急行する2人。美智榴が転弧を背負う形となりやや不恰好ではあるが、結局これが1番速い。緊急時にはしばしばこのスタイルになることも多かった。

 

 少しして到着した彼らは、驚きの光景に目を見張る。

 

 「な…!?ありゃ中学生か!?戦ってんのかあの馬鹿!!」

 「やばいよ!急ごう!」

 

 現場には、3体の脳無と…数人の通行人。その中には、中学生とみられる子供も何人か混じっている。救援要請を行ったヒーローは既に倒れているようだ。その一方で、派手な見た目をした中学生の1人がヒーローに代わって大立回りを繰り広げていた。

 

 「三奈ぁぁあ!!無理だよ逃げよう!!」

 「ダメっ!!こいつら暴れさせたら…皆も危ない!!2人とも先に逃げて!」

 

 派手な少女は己の個性か、酸性らしき液体を脳無たちに振り撒きつつ軽快な動きで上手く彼らを捌いていた。間違いなく雄英志望だろうな、と転弧は考えつつ、美智榴と共に彼女と脳無の間に割って入る。

 

 「えッ!?」

 「無許可で公共の場で個性を使うことは許されねえ。肝に銘じとけガキんちょ」

 「もう大丈夫だよ!あとはあたしたちに任せてッ!」

 

 転弧が少女を諌めつつ、美智榴が安心させるように話す。2人はそのまま脳無たちに向かっていった。

 

 「脳味噌はやっちまっていいんだっけか」

 「一応捕まえてって警察の人たち言ってたよ!」

 「りょーかい」

 

 正面の脳無に転弧が触れる。すると、骨が砕ける音と共に脳無の動きが止まり、その場に崩れ落ちた。その間に美智榴が残る2体を一撃でノックアウトし、瞬く間に鎮圧は完了した。

 

 「こないだのよりだいぶ遅かったね」

 「ああ。反応も動きも鈍かった」

 「…す、ご…」

 

 あまりにも鮮やかな2人の対処に、感動を覚える三奈と呼ばれた少女。彼女の友人も駆け寄り、彼らに礼を言った。

 

 「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!」

 「…おう。まだ危ねえから離れてろ。こいつら自爆しやがる」

 「っえ!?み、三奈!早く!」

 「あ、うん!あの、本当にありがとうございました!」

 「どういたしまして!もう危ないことしちゃダメだからね!」

 

 それぞれ感謝の言葉を口にしつつ、去っていく彼女たち。その背を見届けた転弧と美智榴が脳無たちから少し距離を取りつつ、美智榴が倒れていたヒーローの介抱に、転弧が周囲の警戒にあたる。そんな時、転弧に1人の少年が近づいてきた。

 

 「…ん?おい、危ねぇから…」

 「……どうしたら…勇気が出せますか」

 「…あん?」

 「どうしたらッ!!あいつみたいに皆を守れるようになりますかッ!?2人みたいにカッケえヒーローになれますかッ!?」

 

 少年は、今にも泣き出しそうな顔で転弧に問うた。先程の3人と同じ中学の生徒か、と転弧は考えつつ、彼の質問に答える。

 

 「馬鹿野郎」

 「あだっ」

 

 ひとまず、少年の頭にチョップをくれてやりながら。

 

 「お前…まだ中学生だろ?変に危ねえことしようとしなくていいんだよ。あのピンク色したガキんちょも立派といえば立派だけどな、まあ無理してあんなことした訳じゃねえだろうよ」

 「…でも、俺…同級生が襲われそうだったのに、身体が…動かなくて」

 

 やけに卑屈さを見せる少年の言葉に、転弧も自身の考えを返す。

 

 「…別に構わねえよ、そんなの。完璧な奴なんていやしねえ…俺にも怖いもんくらいある。……お前、ヒーロー志望だろ?憧れのヒーローとかいねえのか?」

 「……紅頼雄斗(クリムゾンライオット)

 「………悪い、知らねえ」

 

 微妙な空気が広がる中、転弧は続ける。

 

 「…ま、とにかく。そのクリムゾンって人に憧れる要素があったんだろ?その人のこと、もっと詳しく調べてみな。多分勇気がなきゃヒーローにはなっちゃいけねえなんて言ってねえよ」

 「…そう、ですかね」

 「大事なのは……自分が納得できるかどうかだ。後で間違ってたと分かっても、アレで良かったんだと後悔しねえで済むように…そのぐらいじゃねえか?だからまあ、本気でヒーローになりたいってんならこんな所で油売ってねえでやるべきことやっとけ。『あの時もっと勉強してたら』とかなったら笑えねえからな」

 「……ッス!アザッス!」

 

 転弧の台詞を聞いて、とりあえずは納得した様子の少年。ここからどうするかは、彼次第だろう。だが、去っていく彼の背中は、こっちに向かってきた時の縮こまった姿勢に比べて随分と伸びやかなものに見えた。

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