ちなみに、天才・渡我被身子や改人激発からは少しばかり前の時系列です。
感涙に倒れ込み咽ぶ少年を眺めながら、オールマイトはかつて千雨と交わした会話を思い返していた。
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「ダスト。君の知っている記憶というのは…一体どれ程のものなんだ?」
「…さて?分かりませんね」
「オイオイ!はぐらかすのは止めにしないかい?僕たちの仲だろう」
オールマイトの問いにはっきりとした答えを返さない千雨。思わず彼も食い下がるが、千雨の言葉はそう変わらなかった。
「いえ、そうではなくて。本当に分からないんですよ…1週間か2週間か…大体そのぐらいの間隔で新しい記憶が湧いてくるんです。自分でも全部思い出せたと思っていたんですが、どうやらそうでもなかったようですね」
「────思い、出す?その言い方では、まるで────」
「オールマイト」
「!」
ついうっかり口を滑らせたのか、核心に迫るような物言いを見せた千雨。それをオールマイトがすかさず突っ込むが…その時彼女が見せた顔は、見たことのないものだった。
「すみません。それについては忘れて下さい。これ以上の詮索も、しないで下さいね。……今の所これを教えられる可能性のある人間は、この世界でラインセーバー…覚里心詠ただ1人なんです」
「…分かった。この話はここで終わりにしようか」
妙な気迫を見せる千雨に、オールマイトもそれ以上追及することはしなかった。代わりに彼は、自分が本当に問おうと思っていたことを彼女に話す。
「さて、此方の本題に入ろうか……君の知る限りでは、OFAは誰に譲渡されるんだい?」
「………何故譲渡されることが確定しているように話すんですか?」
「君の記憶では私はかつてのAFOとの戦いで大怪我を負ったそうじゃないか。だとすれば、今このぐらいの時期に譲渡を済ませていてもおかしくないと思ってね」
彼女からの情報を元に自身の推測を述べるオールマイト。千雨もそのことを肯定しつつ、内容は話せないと言う。
「……確かに貴方の言う通り、OFAは本来なら貴方から次の人物に譲渡される筈でした。ですが、それがいつか、相手が誰かまでは言えません。言えば貴方は、その人間に譲渡することを決めてしまうでしょう?」
「…まあ、そうなんだけどさ…結局渡す相手が変わらないのだとしたら、今話してくれてもいいんじゃないかい?早めに譲渡すれば、その分後継を鍛える時間も長く取れるだろうし」
しかし、オールマイトはどうしても教えてほしいと理由も交えて千雨に頼み込む。彼女は、それを拒むべく己の考えを告げた。
「……オールマイト。貴方はそれで良いんですか?私の言う通りに譲渡して、私の言う通りに事を進めて…まるで傀儡ではないですか。…私は、そんな貴方は見たくない。貴方は貴方の意思で、自分がヒーローに…OFAを受け継ぐに相応しいと思った相手にそれを渡してあげて下さい」
「それで、歴史が変わってしまっても?」
「もうとうにめちゃくちゃにしてしまいましたから」
あくまでもオールマイト本人が選ぶことに拘る千雨。穏やかに微笑む彼女は、彼を心の底から信頼しているようだった。
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「(なあ、ダスト。きっと────この少年だったんだな)」
目の前で泣きながら蹲る、無個性の男子中学生。己の選択が変わってしまったとは思わなかった。自分はきっと、どうあっても彼を選んでいただろうと…そう、オールマイトは思っていたのだ。
「…少年。君なら私の『力』、受け継ぐに値する!!」
「へ?」
呆ける少年に、オールマイトは己の個性の秘密と…提案の内容を話していく。全てを話し終えたのち、少年は…
「お願い…します」
「即答!そう来てくれると思ってたぜ」
オールマイトの提案を快諾。平和を想い、脈々と繋がれてきた灯火は…今、次世代の手に渡ることが決まった。
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ということで、OFAを継承させるべく少年…緑谷出久を鍛え始めたオールマイト。2人が朝早くから居たのは、ある海浜公園の沿岸部だった。
「あの…オールマイト、人が居ますけど」
「ああ、心配しなくともいい。彼女はOFAのことも知っているからね」
その日は、トレーニング用品代わりの山積みの粗大ゴミに加えて、海岸線に1人の女性が立っていた。思わずオールマイトに尋ねる出久だったが、彼は問題ないと言う。
「え、ええ!?彼女、一体……あれ!?」
「ふふ。さっきまでの格好じゃ分からなかったかな?初めまして緑谷出久くん」
困惑しつつ、正体を問おうと女性に視線を向けた出久だったが…女性は忽然とその場から姿を消し、次の瞬間には彼の背後から声が聞こえてきていた。出久はすぐさま振り向き、その正体に気付く。
「────ッあ!!ナ、ナンバー3!!塵化ヒーロー『ダスト』!!?」
「やあ。今日はちょっとだけ暇だったからね、様子を見に来てみることにしたんだよ」
「(…名前までは教えていなかった筈だけど…やっぱり、彼だったか)」
出久がまたしても超有名人との遭遇に驚き目を輝かせる中、オールマイトは心の中で静かに答え合わせをした。もっとも、出久を不安にさせる必要はなかったために口には出さなかったが。
「オールマイト…言ったでしょう?貴方の思う相手を選べばいいと」
「…そうだね。全くもって、その通りだったよ」
「…??」
出久にはよくわからない会話をしつつ、オールマイトは彼に向き直る。
「それじゃ、いつも通りトレーニング開始だ!今日もお掃除頑張ろう!!」
「あ、はい!」
千雨は2人を眺めつつ、頬を綻ばせる。出会うべくして出会った彼らの行く先が、良きものであれと願いながら。
千雨が1対1で直接緑谷少年を鍛えてやることは多分ないと思います。あくまでも彼はオールマイトの弟子であり、OFAの継承者なので。