すべては君のために   作:eNueMu

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最後にすべく

 

 その後も出久のトレーニングは順調に続いた。一方で千雨の方も、被身子の行事や脳無の出現など様々な出来事を経験して…あっという間に1年が過ぎた。

 

 結論から言えば、出久は当然というべきか雄英高校に合格。他の顔ぶれにも変化はなく、概ね「原作」通りの状況に落ち着いているようだ。少しばかり異なっているのは、2年B組に被身子が在籍していることと、出久がダストとの面識があること。

 特に後者は何度かトレーニングに顔を見せるうちにそれなりに仲良くなったこともあり、彼の中では圧倒的殿堂入りであるオールマイトに次いで信頼できるヒーローだと見做してもらえるようになった程である。

 

 「(入学後すぐにフルカウルの発想については伝えておいた。入試と個性把握テストはまあアレはアレでいい経験になっただろうからそのままにしておいたけどね)」

 

 そのことを活かし多少のアドバイスを出久に行っていた千雨。素直な彼ならヒントさえあればすぐにモノにするだろう…そう考えて彼に関する思考をひとまず切り上げ、現状の敵勢力予想を立てる。

 

 「(この先立ちはだかって来そうなのはムーンフィッシュとMr.コンプレス、それにマグネ。マスタードは…まあ、個性自体は強力だけど範囲が広すぎてある意味目立つ。出てきたらすぐに分かるだろう。スピナーは多分いない。ステインがヒーローになった今、彼に感化されてヴィランになるってことはない筈だ。………問題は、死柄木弔にあたる人物がいるのかどうか。それと、脳無かな…)」

 

 自身の行動がもたらした変容までは流石に読みきれない千雨。特に脳無はあらゆる可能性を秘めていると言ってもいいため、出てきて欲しくなかったというのが正直な所だった。

 

 「(USJか、あるいは林間合宿で相手がどう出てくるか。そこ次第でこっちの取れる選択肢も変わってくる。狙い通り、転がってくれればいいんだけどね……今年ですべてに決着をつけられるように)」

 

 ある程度方針を固めておいた千雨は、そのレールに敵が乗ってきてくれることを祈りつつ…ある場所に向かう。読みきれない変容の一つを、確かめるべく。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「壊理。いい子にしてたか?」

 「…うん」

 「そうか。…壊理、見ろ。プレゼントだ。お前が、何が好きなのか分からなかったから…とりあえず、プリユアのフィギュアを買ってみたんだが…どうだ?」

 「…いい。いらない」

 「…そう、か」

 

 場所は、死穢八斎會の一角。1人の青年が、小さな女の子と会話しているようだ。しかし、少女は随分とそっけない態度。何が彼女をそうさせるのか…知っているのは、青年と八斎會の現組長だけだ。────千雨を除けば。

 

 「廻くん」

 「えっ?」

 「!?……な…どう、して」

 「…久しぶり」

 

 彼女の目的地は、ここ。治崎廻が、壊理をどう扱うのか…それが心残りで見に来たのだ。

 

 「急に来たからびっくりさせちゃったかな?元気そうで何よりだ」

 「…まあ、あんたには質問するだけ無駄だな。訳がわからないのは昔からだ」

 「……こ、この人、誰?」

 

 唐突に何処からともなく現れた千雨に、治崎は驚きながらも深入りはしない。まともな答えが返ってくることを期待していないというのもあるにはあるのだが。一方で、壊理の方は千雨のことを知らないようだった。

 

 「…壊理、知らないのか。この人はヒーローだよ」

 「その子は?」

 「………壊理。俺を拾ってくれた…オヤジの孫だ」

 

 治崎はそれぞれの質問に答えつつ、壊理の身の上を話していく。

 

 「この子は…俺と同じだ。自分の個性のせいで、親を失った。引き取ったオヤジから、この子の個性について調べてやってくれと頼まれたが……正直、人の手にはあまる個性だ」

 

 治崎の言葉を耳にして、壊理はただでさえ小さな体をさらに縮こまらせてしまう。彼もそれを見て、不用意な発言を悔いて壊理を抱きしめてやる。

 

 「!あぁ…ごめんな、壊理。俺がよくなかった」

 「…ううん。だいじょぶだから、はなれてて…」

 「……壊理ちゃん」

 「…なに、ですか」

 

 壊理の様子を見た千雨が、かつて治崎に言ったのと同じ言葉を彼女に投げかける。

 

 「自分の個性が、嫌いなんだね」

 「……大きらい」

 

 目を硬く瞑り、治崎の背を抱きしめ返そうとして…躊躇う壊理。治崎がそのまま、千雨に打ち明ける。

 

 「この子の個性は…『巻き戻し』とでも言うべきか。とにかく、触れたものを巻き戻してしまうんだ。……生き物であれば、生まれる前にまで。………ダスト。俺はどうしたらいい?この子が自分を赦すには、個性と向き合えるようになるには…何をしてやればいいんだ?」

 

 なまじ自分が1人である程度結論を出せてしまっていたために、自身にまで絶望してしまった壊理を救い出す手立てが、治崎には思いつかなかった。千雨も、慰め程度の言葉しかかけられない。

 

 「……少しずつ、前に進んでいくしかないんじゃないかな。いつか、折り合いがつけられるその日まで」

 「…少しずつ、か」

 「(ごめんね…。今壊理ちゃんの心を救えるのは、多分君だけなんだ…廻くん)」

 

 しっかり壊理を大切にしている様子の治崎に安堵を覚えつつも、申し訳なくも思う千雨。少しでも助けになればと、壊理に幾つか質問を行う。

 

 「壊理ちゃん。おじいちゃんのことは好きかい?」

 「…わかり、ません」

 「廻くん…治崎さんのことは?」

 「……それも、まだ…」

 「じゃあ、嫌い?」

 「きらいじゃ、ないです」

 

 最後の質問にはすぐに答えられた壊理。治崎はそれを聞いて、壊理の顔を見る。

 

 「……大丈夫だよ、廻くん。ちゃんと歩み寄れてる。急がずに、ゆっくりね。…それじゃ」

 「もう、行くのか」

 「…うん。君が、どうしてるのか…少しだけ見に来たかったんだ」

 「………そうか。…ダスト。────ありがとな」

 

 治崎の礼に、返事はなかった。それでもきっと彼女には届いていると信じつつ…彼は壊理との時間を歩んでいく。





遅くなってすみません。
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