その日、緑谷出久は休日であるにも関わらず、オールマイトに連れられて雄英の応接室を訪れていた。
「よう。来たな」
「…」
「どうも。呼び出してしまってすみません」
そこには既に、3人の先客がいた。老人、サー・ナイトアイ、ダスト。出久は思わず質問をする。
「…あ、あの…そちらの方は…?」
「グラントリノ。私の高校時代の担任の先生だよ。OFAのことも知っている」
「オールマイトの先生!?」
出久が驚愕する一方で、ナイトアイは彼を睨め付けるように見る。その視線に気付いた出久は、やや怯みながらも口を開いた。
「…あなた、は…サー・ナイトアイですよね…?オールマイトのサイドキックだった…」
「……如何にも。私はサー・ナイトアイ。ナンバー1の元サイドキックにして…OFAの後継者を育てていた者だ」
「………え?」
ナイトアイの言葉に、耳を疑う出久。オールマイトが彼を制止する。
「ナイトアイ。そう邪険にしないでやってくれ。私が彼を後継者にしたいと思ったんだ」
「……とにかく、ダストの話を聞いてからにしましょう」
ひとまず出久から視線を外したナイトアイ。若干居心地の悪さも感じながら、出久もオールマイトと共に席に座る。
「…それで…ダスト。話しておきたいことがあるそうだね?もっとも、この顔ぶれを見れば何となく予想はつくけれど」
「はい。……その前に、出久くん」
「え!?は、はい!」
突然声をかけられた出久が、緊張のあまり裏返った声で返事をする。大物しか居ないこの空間は、少々彼には落ち着かない場所のようだ。
「ここでの話は、一切合切他言無用でお願いするね。どれもこれも外に漏らすとまずい話ばかりなんだ」
「……はい。分かりました」
しかし、千雨の真剣な様子に彼も気を引き締める。そうして彼女が語り出したのは、尋常ならざる話だった。
「前提として知っておいて欲しいのは、私がこの世界…特に日本での出来事の記憶を過去から未来まである程度持っているということ。そしてその記憶は……私の存在が無かった場合の時間の流れを示していると言っていいものなんだ」
「…?」
言っている意味が分からないという顔をする出久に、千雨は補足する。
「まあ、要は元から色々と知っていたんだよ。OFAのこととか、未来で何が起こるのかとかね」
「え…!?それって、個性がもう一つあるってことですか!?」
「いや…個性じゃないよ。ちょっとこれ以上は難しいけど、とりあえずそういうことだって分かっておいてくれ」
「は、はい」
衝撃冷めやらぬ出久を余所に、千雨は本題に入る。
「さて…今日皆さんに話しておこうと思ったのは、OFAに眠る力についてです」
「OFAに…!?どういうことなんだ、ダスト」
「OFAとは『個性を譲渡する個性』と『力をストックする個性』が合わさって出来た1つの個性です。……しかし、前者が譲渡できるのは後者のみではなかった、ということですよ」
オールマイトの疑問に即座に答える千雨。彼女の回答に、グラントリノもハッとする。
「そうか…!!個性を譲渡するってんなら、OFAを受け継いだ奴自身の個性も譲渡されるのか!!」
「いえ……それはおかしい。だとしたら何故、オールマイトは超パワーしか扱えなかったんだ?」
矛盾を指摘するナイトアイ。千雨はその疑問にもしっかりと言葉を返す。
「紡がれてきた時間か、ストックの量か、或いは両方か…いずれにせよ、オールマイトの時にはそれが不足していたために覚醒には至らなかったというだけです。出久くんも、まだ超パワーしか使えない筈です」
「…は、はい…他の個性が出たことなんて、一度も…」
答えつつ視線を出久に遣る千雨。彼もその視線に応じて自分の今の状態を話した。
「……歴代継承者の、個性か…」
「はい。覚えている限りでは、『発勁』『危機感知』『黒鞭』『煙幕』『浮遊』の5つ。2代目の個性だけは記憶にはありませんが、少なくともこれらは出久くんに発現するでしょう」
「そんなことまで分かるんですか…!?」
出久が目を見開き続ける中、千雨も核心に迫る。
「そして更に、OFAには歴代継承者たちの意識も宿っています。それも薄ぼんやりとしたものじゃない……彼らの個性が発現すると共に、お互いにやり取りが可能になる程に明確な意思を持っている」
「な…何だって…!?」
オールマイトが驚愕の声を上げるが、驚いているのはその場の全員が同じだった。
「確かに彼らの影が見えたことはあった…!!しかし、会話出来たことなど……!」
「言ったでしょう?全てはOFAの覚醒が鍵なんですよ。出久くんがOFAの力を解放できるようになる程、覚醒の時も近付く。大きな変化が起こるのはそこからです」
「……嬢ちゃん。OFAに宿った継承者たちの中には…志村も居たのか?」
その時、グラントリノが千雨に問うたのは、己の親友…志村菜奈についてだった。
「────ええ。居ますよ、グラントリノ…ちゃんと、OFAの中に。彼女の魂は、ここに戻ってきています」
「……………そうか………そうか…!!」
「………お師匠…」
噛み締めるように呟くグラントリノ。オールマイトも、呆然としながら静かに涙を流している。話の再開には、今しばらく時間を置くべきだろう…そう、千雨は考えた。