「…やけに態度が大きいですね…。結局のところどう言い繕ってもあんたが誘拐犯であることに変わりはないじゃないか!保護するっていう名目があれば許されるとでも…」
「だったらわざわざ児童相談所にでも通報してから職員と仲良くお伺いすれば良かったと?結果論ではありますがそんなことをしていたら今頃ご家族全員この世にはいませんよ。地獄を自らの手で生み出してしまった転弧くんもどうなっていたか…」
「お二人さん。そろそろ落ち着こうか。話を戻すとしよう。」
ヒートアップする弧太朗と千雨の口論を根津が諌める。
「…失礼」
「すみません…」
「あ、あの…それで、転弧の個性が危険だというのは…」
「事実です。当時彼女が転弧くんを連れ出していなければ…先程の彼女の推測は現実のものとなっていたかと」
「そんな…」
転弧の母の顔がみるみる青褪めていく。流石に弧太朗も事の重大さに気付いたのか、冷や汗が止まらない様子だ。
「転弧は…どうなるんですか?」
「私が責任を持って個性の扱い方と…家族との向き合い方を教えます。時間はかかると思いますが…いつか必ず彼をご両親の元に送り届けます」
「…ちょっと…待ってくれ。家族との向き合い方…とは?」
「…結論から言います。転弧くんは弧太朗さん…あなたに殺意を抱いている」
「…は」
「思い当たる節があるはずです。あなたは彼の夢を、憧れを。ヒーローという存在を否定するあまり…彼自身を否定してしまっていた」
弧太郎が愕然とする。己を捨てた母を想い、ヒーローというものが存在することに憎悪を抱いた。しかしそれに固執し続けたことによって自分が犯した過ちに…とうとう気付いてしまったのだ。
「…今転弧が我が家に帰って来れば…転弧は私を?」
「…」
千雨は言葉を返さない。代わりに己を塵化させ、胴と首を分離させて見せる。それが全てを物語っていた。衝撃的な光景に弧太朗は言葉を失い、彼の妻はか細く悲鳴を上げる。
「崩壊は伝播します。命を落とすのは…あなただけじゃない」
「…時間。どれくらいの時間が…かかるんですか?」
「少なくとも…彼が高校を卒業するまでは」
「…ううぅぁあああッ!!」
声を震わせながら問う転弧の母に、千雨は無情な答えを返す。直後、応接室に彼女の慟哭が響き渡った。
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「転弧を…よろしくお願いします」
「うぅっ…ぐすっ…」
日が傾き始めた頃、ようやく彼らの話し合いは終わった。弧太朗は来た当初の見る影もないほどに憔悴しきっており、彼の妻は会話すらままならないようだった。
「気休めを言うようですが…転弧くんの心が安定してくれば、電話越し程度であれば弧太朗さん以外となら会話は可能になると思います」
「!…あ、りがとう、ございます」
絞り出すような感謝の言葉。千雨はより一層、転弧の教育に力を入れることを決意した。
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「転弧くん、帰ろっかー」
「…!うん!」
迎えに来た千雨に元気よく返事を返す転弧。その時、千雨の携帯が鳴った。
「もしもーし」
『ダストさん、お疲れ様です。ようやく出てくれましたね』
「ごめんね。さっき終わったところだったんだよ。それで…報道の件かな?今どんな感じ?」
『そのことですが…各テレビ局、更には各新聞社にまで、エンデヴァー事務所やその他大手事務所からの共同通達が為されたらしく…「児童保護の事実を捻じ曲げ報道することはメディアの信頼性を著しく損なうものであり、今後我々は該当する社のすべてのインタビューを拒否し、スポンサー契約も行わないこととする」とのことで…テレビも新聞も今回の件については見事にだんまりですよ』
「えぇ?マジぃ?」
『大マジです』
「お姉さん…どうしたの?急にニヤニヤして…怖い」
「え!?あぁ大丈夫だよ!ちょっと上手くいきすぎちゃってね、思わず笑っちゃった…ふへへ」
「ブキミ…」
未だデビューして2年足らず。それでも彼女がビルボードを駆け上がる過程で、あるいはそれ以前から築き上げてきた数多のコネクションが神がかり的に彼女の味方をする。それもそのはず、ダストと深く関わった者は皆確信していたのだ。彼女が理由もなく罪を犯すことなどないと。
「(ああ…本当に、嬉しい。誰かに必要とされる。誰かが信じてくれる。それだけで…何もかも報われた気持ちになるよ)」
だからこそ、彼女は転弧にも希望の光を見せてやりたいと…改めて強くそう思う。
「(大丈夫だよ、転弧くん。君が生まれてきたことも、ヒーローに憧れたことも。何一つ間違いなんかじゃない。絶対に救けるって誓ったから…救けきってみせるから。私が君の…)」
「(君だけのヒーローになってみせる)」
この締め方が3話辺りでできてるつもりだったんですけどねえ…小説って難しい