すべては君のために   作:eNueMu

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可能性の一つ

 

 「(クソ…!!どれだ…!?脳無は2()()に任せるとして、死柄木がどれかが分からない!もうどのグループも散り始めた…!!とりあえず近場から────)」

 

 焦りを見せ始めた千雨だったが、森の中に不自然な空気の流れが生まれたのを認めたことで…思わず獰猛に笑ってしまう。

 

 「(────そこだッ!!!まず1人目だ…『マスタード』ッ!!!)」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「この辺りからなら……上手いこと逃げ道を塞げるね。それとも学歴ならではの頭脳プレーでも見せてくれるのかな?まあ、無理だろうけど」

 

 ガスマスクと学ランを身につけた少年…ヴィラン名「マスタード」。コンプレックスを抱えたような発言を頻繁に繰り返す人物だが、その個性は決して弱くない。彼の個性、「ガス」は長時間吸えば意識を失う有毒の気体を自らの肉体から発生させるというもの。さらにガスは彼の身体の延長としての役割を果たし、ガスの中での相手の動きが手に取るように分かるのだ。

 

 「雄英生も…プロも。結局の所皆同じなんだ。僕という存在を攻略できないまま惨めに────」

 

 徐ろに銃を取り出すマスタード。そのまま銃口を前方に向け…高速で飛び出してきた千雨を狙い撃つ。

 

 「死んでいくのさ」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「さっさと喋ってくれるかな?あまり気は長い方じゃない」

 「ご…がぁぁ…だ、誰が…ぐぇぇェ!!」

 

 惨めなのは、どちらだったか。呆気なく千雨に捕まり尋問されるマスタード。予め塵化していた千雨に銃など通用しないし、ガスも呼吸を必要としない彼女との相性は最悪だ。慢心が過ぎる彼に千雨も内心呆れながら、喉笛を握る手の力を強めていく。

 

 「(な…なんだコイツ…!?とんでもない馬鹿力じゃないか……!!息、が…苦しい!!喉が痛いッ!!)」

 「早く言ってくれなきゃ千切れちゃうかもね」

 「お゛、ま゛え゛ッ!ぞれ゛でも、ヒーローかッ!?」

 「酷いなぁ。その気になれば今すぐ塵にできるっていうのに……これでも相当優しくしてあげてるよ?だから早く。仲間はどこだい?」

 「ぐぐゥ…ッ!!……し、知らない゛ッ!!アイツら、手当たり次第とか、言ってた!!!」

 

 流石に苦痛に耐えかねて喋り出すマスタード。千雨はそのまま、いつの間にか目の前にいた相手に囁くように真偽を問う。

 

 「(心詠さん、これホント?)」

 「(はい。心の声とほぼ一致しています)」

 「りょーかい。じゃあ…用は済んだね。眠ってな」

 「がひゅッ…」

 

 マスタードを絞め落とし、心詠に預ける千雨。そして、側にいた()()1()()()()()にも声をかける。

 

 「被身子ちゃん、大丈夫だったかい?」

 「はい!心詠さんも一緒だったから、心強かったのです!」

 「そっか、良かった」

 

 2日目、宍田が抱いた一瞬の疑問の正体は…絶賛インターン中の彼女、渡我被身子…ヒーローネーム「スマイル」。彼女は最初にB組のバスに心詠と乗ったときからずっと、千雨に変身し続けていたのだった。

 被身子はその天才性ゆえに、1年前倒しで仮免試験を受けてそれに合格している。そのため、一応はヒーロー活動が容認されているのだ。

 

 「心詠さん、どうだった?」

 「ええ、読めましたよ。────脳無の心」

 

 そして…今回の逆襲の鍵を手にする千雨。

 

 「意味不明な思考が多くて苦労しましたが……いくつかの個体ごとに特定の地名や有名な建造物名が共通して聞き取れました。大まかに分けて7〜8パターン程」

 

 千雨が考えたのは、心詠の個性によって脳無の思考を読み取れないかということ。知能は低い筈であるから、唐突にボロを出したりするかもしれないと…そう考えていた。

 しかし、普段どこに出現するかもわからない脳無のために心詠を連れていくことは難しい。何よりAFOに余計な勘繰りをされてしまう可能性もあった。だからこそ、ヒーローとして雄英生を守るという大義名分が使えるこの合宿は千雨にとって最大のチャンスでもあったのだ。

 

 パターンごとの情報を心詠から教えられた千雨は、それを電話である人物たちに伝える。

 

 「大体その辺りを当たってくれ!頼んだよ!」

 『了解。ようやく一泡吹かせられそうだ』

 『死柄木はそっちに任せたよ』

 

 相手は…またしても千雨。今度は仁の個性で増やした2人分の分身だ。事務所の方で待機していた彼女らも、連絡を受けてすぐさま動き出す。

 

 「よし…!後は私たちに託そう!死柄木を早く見つけないと…!」

 「このヴィランを宿舎に届けた後、もう一度被身子ちゃんと残りの脳無を当たってみます」

 「千雨さんも気をつけてください!」

 

 千雨は再び心詠たちと別れ、広大な森を駆け巡る。連合を、何よりも死柄木を見つけ出すべく。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「ミーティア!携帯は!?」

 「あたしもさっき壊された!」

 「悪いなァ…ダストに連絡入れられちゃ流石にヤバいからよ。これからは腰ポケットに入れるのやめといた方がいいぜ?」

 

 そして今。メテオルインの2人が対峙していたのは、死柄木葬。奇襲を間一髪で躱したものの、死柄木の狙いは元から彼ら自身ではなかった。

 

 「(…速い。俺が見てきた中でもトップクラスに…身体能力が強化されてる筈は無えんだがな)」

 

 彼の驚くべき身のこなしに舌を巻く転弧。一方で、それでも違和感を覚えていた。

 

 「(ただ…報告じゃ雄英でオールマイトとやり合ってたそうだが……とてもそれが可能には思えねえのも事実だ。オールマイトのコンディションが悪かったらしいことを差し引いても。まだ本気じゃねえのか…?)」

 「なあ」

 「!」

 

 考え込む転弧だったが、死柄木の声に意識を戻す。変わらず襲いかかりながら、死柄木は思いもよらぬことを口にし始めた。

 

 「ルイングレイ…だっけか、今は。お前、昔ダストに助けてもらったんだろ?そっからずうっとアイツに育てられて……さぞ幸せだっただろうなあ」

 「…何だ、テメえ。何が言いてえんだ」

 「何でお前だったんだ?」

 「────」

 

 転弧の思考が、一瞬止まる。その隙をついて彼に掌を向ける死柄木だが…美智榴がそれを横合いから殴りつけた。

 

 「グッ…痛ってえ……折れちまってるよこれ…絶対にさぁ!」

 「ヴィランに文句言う権利なんて無いよ!」

 

 右腕が半ばからおかしな方向に曲がりながらも、不気味な笑みを絶やさない死柄木。そのまま先程の話を続ける。

 

 「なぁルイングレイ!!!何でお前は救われた!?どうして俺は見捨てられたんだ!?まぐれか!?そうだよなァ!?俺とお前の生まれが逆だったら!!!あるいはダストが居なかったら!!!()()にいるのは…お前なんだよ志村転弧ォ!!!」

 

 辺りの喧騒に打ち消され、思ったほどの音量にはならなかった死柄木の言葉。それでも、転弧にはしっかりと届いてしまっていた。

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