「る、ルイングレイ!あんなのただの…」
「言い掛かりだって言いてえのか?ところがそうでもないんだぜ……っと。それはこっちの話だったか」
転弧に気にしないよう言い聞かせたかった美智榴だが、死柄木は彼女の言葉を引き継いだ上で畳みかける。全ては転弧にダストへの不信感を抱かせるため……何より、単純な嫌がらせのため。
「……」
「どうした?ひょっとして受け入れられねえか?ヒーローに成れなかったかもしれねえ自分が!!社会のゴミに堕ちたかもしれねえ自分が…」
しかし。
「…そうだ。あの人は多分…最初から知ってたんだ。だって俺は、名乗ってねえ。一度だって。………偶然なんかじゃ、ねえさ」
自分に言い聞かせるようにブツブツと独り言を呟く転弧。気に障ったと言わんばかりの顔をして、死柄木が問いただす。
「何だよマジで壊れちまったのか…?偶然じゃなけりゃ何だってんだ!?運命だとかクセェ台詞でも吐いてくれんのか志村転弧ォ!?」
「運命でもねえよ。────俺が生まれた意味の話だ」
よく分からないことを言い始めた転弧に、ますます顔を顰める死柄木。あまりにも思い通りにいかないので、かなり苛立ってきているようだ。
「…イカレてんのかァ…?会話になって……ねえだろうがァッ!!!」
勢いよく飛び出す死柄木。目を見張る速度だが…
「そりゃテメえに返した答えじゃなかったからな。今のは俺自身で出した結論だ。……真相がどうであろうと関係ねえ」
目に狂気的なまでの力を取り戻し、転弧は死柄木に告げた。
「俺は千雨さんと出会うために生まれた。それが俺にとっての事実だ。誰に何を言われても……もうそこは曲がらなくなった。たった今な」
「〜〜ッッ!!!」
明らかに冷静さを欠きつつある死柄木。転弧に執着するあまり、美智榴からの攻撃も直撃が増えてきている。
「が、あッ!!ご、ゴリラ女ァァ…!!死んじまうじゃねえかァァアアアァァッ!!!」
「それだけ叫べるならまだまだ大丈夫でしょッ!もっとも……ここが年貢の納め時って奴だけどね!!」
転弧が引きつけ、美智榴が叩く。USJ時点での死柄木ならばどうとでもなった筈の相手に、彼は追い詰められていた。
「……キレてるせいじゃねえ。テメえ…直接雄英襲った時より弱くなってんじゃねえか?」
「訳わかんねぇことを…!!それとも敵の心配か?お優しいことだなヒーロー!!吐き気がするぜ…!!」
転弧の疑問の声にも耳を貸さず、ひたすらに彼を仕留めにかかる死柄木。凄まじい暴れように、美智榴も却って迂闊に近付けない。
「ルイングレイ!!森から出よう!ダストさんならきっと空からも見てる筈!!」
「…!成程な、分かった────」
提案の直後。美智榴が死柄木と転弧の奥に見たのは、この騒がしい森の中で不自然な程にゆるりとこちらに歩みを進める1人の男だった。
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「仕事、肉面、んんんん…」
「爆豪!!デケェのはまずい!!相手の動きも…」
「分かってらァ半分野郎!!牽制したかっただけだ!!」
少し前。轟と爆豪は、「原作」通り凶悪ヴィラン「ムーンフィッシュ」と遭遇していた。若干連合の出現タイミングや場所が変わっていたためにムーンフィッシュが常闇たちを襲うことはなく、後続の彼らとそのままぶつかった形になる。
「クソ…逃げるっつっても限度があるぞ…!」
「交戦許可は出てねぇんだ…つまり俺らが自衛しねえウチにすぐオールマイトか粉女が…」
僅かに危機感を抱く轟と爆豪。しかし後者はもうじき状況の打開が為されることを予期しているようだった。そして…
「生徒2人、見つけたわ!!紅白少年とトゲトゲ少年!!」
「よし!後は我らに任せろ!!」
「テメェらかよッ!!!」
「助かりました、プッシーキャッツ!!」
彼らを守りに現れたのはマンダレイと虎。無線で別行動中のラグドールたちに連絡しつつ、ムーンフィッシュを迎え撃つ。
「ヒーロー…ヒーローも、仕事?ああ、ダメだ。また見れない…」
「ぬうう…!!厄介な!!」
「くっ…《ヒーロー、増援願います!!場所は肝試しコース北部近辺!!》」
「ダメだ…2人とアイツの相性が悪い!」
「(言っただろうが『テメェらかよ』ってなァ…!アレどうにか出来んのは来てるメンバーじゃオールマイトか粉女ぐれえだ!!)」
ところが、近接戦闘主体のマンダレイ・虎では空中に逆立つように居座るムーンフィッシュの攻撃を防ぐので手一杯。下手に反撃を喰らって切り裂かれては元も子もなく、撃破は難しそうだった。
「オイ猫!!交戦許可出せ!!」
「心配無いわ!!宿舎に戻ってなさい!!」
進言を即座に却下され、歯痒そうにする爆豪。轟も手を出したいと考えているようだが、マンダレイたちを巻き込みかねないと二の足を踏んでいる。…そんな彼らの元に、彼女がやってきた。
「マンダレイの言う通りさ。もう大丈夫だからね」
「ダスト!迅速な救援感謝する!!」
「もおおー…邪魔するなよおおおお」
特徴的な個性の形状を感知し、既に此方に向かって来ていた千雨が到着したのだ。標的を変えて襲い掛かってきたムーンフィッシュの「歯刃」を撫でるように触り、一度に全ての歯を塵にする。支えを失ったムーンフィッシュは、そのまま落下した。
「おあ゛!?」
「……君にはこの程度じゃ手緩いけどね。急いでるから手短に行こう。仲間の居場所は?」
「に、にぅ゛ううぅ!!かえへええぇえぼぅ゛の────」
「…端から期待してなかったよ」
芋虫のように地を這うムーンフィッシュの顔面を掴み上げ、さっさと目的を果たそうとした千雨。案の定会話にならず、捨て台詞を吐いて結局彼を気絶させた。
「虎、彼の拘束は頼んだ。まだ連合が3人残ってる」
「…うむ」
「連合…!?やっぱり奴らだったのね…!他にも追加のメンバーが?」
「ああ。彼と合わせて多分2人だけ。ここに来るまでに見たと思うけど、脳無も大量に湧いてる。情報共有お願いね」
「了解!」
マンダレイにある程度得られた情報を伝えつつ、すぐに死柄木の再捜索に向かう千雨。凄まじいスピードで離れるその背を、轟と爆豪は確と見つめていた。
「……アレが、3位か」
「…テメェんとこの親父と比べてどうだったんだよ」
「…さあな…正直、分からなかった」
「………チッ」
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「先、生……どうして…ここに」
「すまない葬。少し…いや。かなり予想外の事態が起きてね。すぐにここを去ろう。脳無たちも引き上げさせる。……だが、そうだね。志村転弧くんだけでもトドメを刺してしまおうか」