※一部美智榴視点
「(────な、にが…)」
気付けば倒れていた美智榴。目を覚まし、必死に記憶を辿ろうとして…目の前にいる、顔面が潰れたような男に焦点を合わせた。
「(…こいつ、だ。凄い、衝撃が飛んできて…あたし、意識を……ッ!!!ルイングレイ!?)」
立ち上がり、転弧に近寄る死柄木と男の前に立ちはだかる美智榴。密度を高めていたためにある程度防御できた彼女と違い、彼は明らかに重傷だった。
「は?マジでゴリラだな…今のでそんなもんなのか。ま、無駄なんだけどよ」
「…」
早くも動き出した美智榴に驚愕しつつも、己が信頼を置く「先生」…AFOの実力を知っているがために嘲笑う死柄木。対してAFOは、いつもの笑みを消して彼女を見据えていた。
「先生、コンプレスとマグネは回収したい。急ごう」
「……心配要らないよ。2人とも脳無が連れて逃げた。………それよりも、だ」
────────その時AFOは、焦っていた。脳無工場のうち4つを、複数の千雨の急襲を受けて破壊されてしまったのだ。気付いてすぐに対処したものの、脳無の総数は大きく数を減らしていた。何故工場が見つかってしまったのか…何故千雨が完全な姿で複数人に分かれられているのか…彼女の隠していた手札が想像以上に多く、彼は己の認識が甘かったと猛省した。
そしてさらに…彼は致命的な選択をしてしまう。敗北のイメージが、ここにきて劇的に膨れ上がってきているのを…自覚していたが故の、ミスだった。自分の弟に、個性を与えてしまった時以来の────重大な。
「────ミーティア。お父さんとお母さんに会いたくはないかな?」
「………え?」
「…!?先生、何を…!?」
突拍子もない提案。しかし、美智榴は目を丸くしてAFOを見る。願い続けた奇跡が…いきなり目の前に転がってきたからだ。死柄木も声を上げ、AFOに抗議する。
「まさか…引き入れんのか!?俺はコイツに腕折られたんだぞ!?」
「本当にすまない葬…すぐに治してあげるからね。少しだけ僕に勝手を許してくれ」
「……クソ…!」
死柄木に謝りながら、美智榴の勧誘を試みるAFO。早くから彼女の危険性が分かっていたからこその、敢えての選択。今は1つでも多く強力な手駒が欲しかった。
「…あ、の、どういう…」
「言葉通りさ。僕なら君の両親を蘇らせてあげられる。ただ、いくつか僕のお願いを聞いて欲しいんだ。約束を果たしてくれたなら、その時は好きなだけ彼らと共に過ごしても構わないよ。勿論、受け入れてくれるならルイングレイも見逃そう。どうだい?もう一度……ご両親に会ってみないかい?」
当然、嘘だ。いかにAFOといえど、そんなことが出来る筈がない。それでも今の美智榴には、この上なく魅力的な提案に思えた。…だが、彼女の後ろでひっそりと意識を取り戻した転弧は、激痛の中で冷静に分析していく。
「(………こいつが…そうか。ミーティアの両親はきっと……事故死なんかじゃなかった。死柄木の野郎が千雨さんと俺にやけに執着してやがるのも…多分こいつのせいだ。────────こいつが…全ての元凶だ…!!!)」
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「…本気で…言ってんのか?」
「うん!だってヒーローの話でよくあるでしょ?最後に大切な人たちが愛の力で奇跡の復活!皆揃って大団円!現実でもあり得ないってことはないよきっと!」
メテオルイン事務所の結成から1年程経ったある日。転弧は美智榴の両親について尋ね…その闇に目を回しそうになった。
「……ミーティア。確かに冗談みたいなことが現実で起こることは少なくない。でもな、死人が生き返ったなんて話は俺は聞いたことねえ。………そろそろ、向き合うべきなんじゃねえのか」
「そ、それはだって奇跡なんだから!前例が無くたって創ればいいの、あたしたちが!」
「………百万歩譲って可能だとして。俺たちの個性でどうやってその奇跡を起こすんだ」
「こう…宇宙からの交信的な?」
「…やっぱり本気じゃねえだろお前」
「なっ!真面目も真面目、大真面目だよっ!」
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あの日、ルイングレイと話した夢物語。それが今、手の届くところにある。目の前のこの人は死柄木と知り合いみたいだし、凄く悪い人に見えたけど……もしかしたら、何か事情があったのかもしれない。
『私はミーティア。全てを救う最高のヒーロー』
お父さんとお母さんに、一目でいいから見てほしい。あたしがどれだけ大きくなったのか。
『君の心の中だけの、空想の英雄』
ルイングレイのことも、話さないと。彼と出会えたから、あたしはこのハッピーエンドを迎えられたんだよって。
『本当に全てを救える人なんて居ないんだよ』
だから、この人の手を取るんだ。
『もう気付いてるでしょ?あとはあたしが受け入れるだけ』
最高のヒーローになるために。
「……
「────うん!」
………ダメだ。
ごめんね、お父さん、お母さん。
あたし、
ミーティアにはなれなかったや。
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「先生!!!!」
「……あぁ、良くないね。つい…欲張ってしまった。今回ばかりは………完全に僕のミスだ」
美智榴は全身全霊を以ってAFOに殴りかかった。咄嗟に複数個性を掛け合わせ、彼もそれを正面から迎撃するが…最早彼女の勧誘はおろか、転弧の殺害も不可能になってしまった。
「(枷が……外れてしまったのか。オールマイトを彷彿とさせる程に力強く澄んだ瞳だ。………本当に惜しい。あの時始末できなかったのは…まさしく痛恨だった)」
「…!!ク、ソ…!!最悪だぞ先生…!!!来やがった!!!」
追い討ちをかけるように…千雨がついにその場に到着する。
「…AFOッ…!!?美智榴ちゃん、これは…!!!」
「ルイングレイが重傷です!!とにかく先にコイツらを撃退しないと!!」
「ッああ!!そうだねッ!!」
意識はあるが立ち上がれない程に深手を負った転弧を目にし、千雨も怒りを爆発させる。すぐさま炎を纏うAFO。
「こんな所まで出張お疲れ様だねAFOッ!!!ひょっとしてサプライズに気付いたのかな!?気に入ってくれたかい!?YESなら炎を消して握手しよう!!NOなら炎を消して慰めのハグといこうか!!」
「……ハッキリ言おう。君はいわばゲームのバグだ。プレイヤーを不安にさせ、それでいて対処方法がわからないような、ね。────俄然面白くなってきた。オールマイトも戻ってくるだろうし、今回はそろそろ退かせてもらうとするよ」
死柄木を黒く伸ばした爪状の個性…「鋲突」で持ち上げながら猛烈な勢いで退却していくAFO。一応両名の塵化を試みたが、飛ばした両手を劫火に焼き尽くされてしまった。
「……熱いと思う暇も無かったね」
「ダストさん!!ルイングレイを!!」
「!!!そうだった!!転弧くん、しっかりね!もう大丈夫だから!!」
「…千雨、さん」
「!何だい!?」
痛みを堪え、千雨に想いを伝える転弧。
「俺の、生まれた意味、さ。あんたと出会う、ためだったんだ、きっと。あんたは…どうだ?」
「……ふふっ。そうだね…私も、君と出会うためだったのかもしれないな」
転弧と美智榴。それぞれが己との戦いに決着をつけた林間合宿は、生徒たちに軽傷者を出しつつも無事全てのヴィランを捕縛もしくは撃退。警察に捕縛者を引き渡しつつ、その後も日程通り続けられることになったのだった。