すべては君のために   作:eNueMu

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不変の事実

 

 合宿継続決定後。千雨は美智榴と共に入院中の転弧のお見舞いに来ていた。

 

 「……2人とも。合宿はいいのか?」

 「心詠さんたちが居るのはそのためでもあるんだよ。連合もしばらくは動いてこないだろうしさ」

 「あたしも相方のお見舞いぐらいはってことでちょっとだけ休暇出たの。ついでにヒーローネームの改名手続き中!」

 「ヒーローネーム…!?なんで…」

 

 美智榴の言葉に驚きを隠せない転弧。一方で千雨は既に事情を教えてもらっているのか、特に反応はない。

 

 「…ミーティアはさ。あたしのイメージする最高のヒーローなんだ。カッコよくて、強くて、出来ないことなんてひとつもないの。……あたしも、そうなりたかった………でも、無理だってやっと分かったんだよ。あたしはただの那珂美智榴。ルイングレイの相棒…『メテオライト』。それで、いいんだ」

 「……そうか」

 

 「メテオライト」。それが美智榴の新たなヒーローネーム。理想との決別を口にした彼女の瞳は、もう歪みを宿してはいなかった。

 

 「美智榴ちゃん。何度も言うけど…『ミーティア』の名前はそれなりに浸透してる。これから新しいヒーローネームで頑張っていくのは、ちょっと大変かもしれないよ?」

 「…はい。でも、頑張りますから。今度こそ……天国のお父さんとお母さんを、喜ばせてあげるつもりです」

 「……うん。しっかりね」

 

 千雨も彼女に忠告しつつ、今一度その覚悟を確かめて静かに微笑む。続いて、話題はあの夜の出来事へ移る。

 

 「ところで…千雨さん。死柄木が『先生』とか呼んでたあの男は…何者なんだ?あんなバケモンが何で今更出てくる?」

 「……オールマイトにも、許可はもらった。君たち2人とも…少なからず奴と因縁があるからね」

 「お、オールマイト…?因縁…?」

 

 一転笑みを消し、真剣な顔になる千雨。並ならぬことであると窺わせる千雨の台詞に転弧も緊張感を高めつつ、話を聞くことにした。

 

 「────奴の名は『オール・フォー・ワン』。超常黎明期から生き続け、悪意を振り撒くヴィランの総大将だ。6年前、オールマイトと戦って壮絶な怪我を負ったんだけど…逃げられてしまってね。……そこから5年近くは傷を癒しながら、裏で暗躍を続けていたようだ」

 

 悔やむように声を絞り出しながら、千雨はまず美智榴に告げる。

 

 「……奴が君の両親を引き合いに出したっていうのは…多分その期間中に何らかの干渉を行ったからなんだろう。…………あの時私が奴を仕留められていれば、そんなことにはならなかったかもしれない。謝って済むことじゃないけど……本当にごめんなさい」

 

 謝罪し、頭を下げる千雨。美智榴は少し表情を変えたものの…すぐに返事をした。

 

 「……ダストさん。頭を上げてください。…あの後冷静になって、多分そうなんだろうって思ってました。それで悪いのはあの男で、貴女じゃありませんから」

 「………ごめんね。ありがとう」

 

 彼女の赦しを受けて姿勢を戻した千雨は、今度は転弧に視線を向ける。

 

 「…転弧くん。次は君とAFOの因縁だけど……少し、信じられないような話になるよ」

 「……分かった。頼む」

 「うん。………15年前のあの日。私が君と出会ったのは……実は偶然じゃないんだ。私にはちょっと特殊な過去や未来にまつわる記憶があってね…その記憶を辿って、君を見つけ出したのさ。AFOに目をつけられて、悪の道に進んでしまう前に」

 「…」

 

 ある意味かつての美智榴が夢見ていた死者蘇生以上にあり得ざる千雨の独白。しかし、転弧にはようやくパズルの最後の1ピースが見つかったように感じられた。

 

 「そうか。だからあんたは、俺の名前を最初から知ってたんだな」

 「…そうだね」

 「成程なぁ。やっとスッキリ出来たぜ、ありがとな千雨さん」

 「………え?」

 

 そこで言葉を終わらせてしまった転弧に、千雨は思わず声を漏らす。

 

 「も…もっと聞きたいこととか無いのかい?私の言ってることが本当かどうかも…」

 「いいんだよ千雨さん。俺はもう納得してる。あんたと出会えた。あんたに救けられた。それで十分だ」

 「……転弧くん」

 「きっかけがどうであれ、皆と過ごした15年は本物だ。だからさ…気にすんな。あんたはいつまでも俺にとってのヒーローだよ」

 「………そっか」

 

 あるいはこの先彼女の全てを知っても…転弧が千雨への想いを変えることはないだろう。美智榴も交え、再び楽しく会話をし始める3人。4年前の合宿後と比べても、ずっと清々しい空が彼らの頭上には広がっていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 改名手続きを済ませるべく美智榴が帰ってからのこと。転弧は1つだけ、まだ気になっていたことがあったのを思い出す。

 

 「……そうだ。千雨さん…死柄木のことなんだけどよ。アイツの顔が…ちょっと気になったんだ」

 「死柄木の顔…?ごめん、あの時はAFOに気を取られててね……死柄木が居たのは分かってたんだけど顔までは────」

 「俺の…ヒーローだったお婆ちゃんに瓜二つだった」

 「────────何だって…」

 

 彼の告白に目の前が暗くなったような錯覚すら覚えた千雨。転弧もその反応を見て、確信する。

 

 「……お婆ちゃんのことも知ってたか。ついでに…お婆ちゃんはAFOってのにやられたんだな?」

 「………うん。そうだね」

 「…そうかい。尚更見過ごせねえ因縁だな、そいつは」

 

 ────転弧は静かに、闘志を燃やす。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「…死柄木。何があったんだ一体?」

 「急に脳無に抱えられて…かと思ったらここまで戻ってきちゃって。びっくりしたんだから」

 「……脳無どもの保管場所を…いくつかダストの奴にめちゃくちゃにされたんだと。先生が教えてくれた」

 

 一方敵連合アジト。特に戦果も無かった彼らの間に漂う空気は重かった。

 

 「はぁ!?どういうことだ…!?ダストは合宿先に居たんじゃなかったのかよ!?」

 「…先生曰く、ダストはあの時全部で4人居たらしい。完全な姿で、うち2人は全く別の場所に居たってよ」

 「ちょ…ちょっと!チャート3位が4人ってどういうことよ!?」

 「合宿所に居たのは本人と別の奴が個性でダストに化けた姿。去年の体育祭見たろ?あの時の1年優勝者がそれだ」

 「オイオイ…!!随分ふざけた個性じゃねえの…!」

 

 ヒーロー側の戦力がかなり充実していることにうんざりしてきているコンプレス。しかし死柄木はさらに無情な話を伝える。

 

 「重要なのはここからだ。脳無の方を襲撃した2人のダストは全く正体不明。先生が手を出したら一瞬で泥みてえに消えちまったらしい」

 「…やれやれだな全く。名を上げるどころかとんでもねえ勢いで追い詰められてねえか?」

 「第一、葬くんの先生は何をしてるのよ!?強いんでしょ!?もっと力を貸してくれてもいいんじゃないの!?」

 「……俺が戦わなきゃダメなんだ。先生は昔オールマイトに痛手を負わされてる。目も耳も鼻も潰れちまってるし今出て行ってもオールマイトにやられて終わりだ」

 

 AFOにも限界はあると死柄木は今回の件で理解した。終始オールマイトを警戒し、更には最終局面で思わぬミスをした師に少なくない失望を抱きつつも、次なる策を講じていく。

 

 「幸い先生から色々と情報はもらってる。次こそは目的を果たすぞ」

 

 目つきを険しくしたままの死柄木。AFO譲りの気味の悪い笑顔はとうに消えていた。





(追記)転弧が死柄木の顔に言及しないのは不自然過ぎたのでその辺りの描写を追加しました。
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