「ナイトアイの事務所に、ですか…!?」
「ああ。彼もそろそろ直接育てたいと考えたようでね。君を指名してくれたんだ」
1年生のインターンは、結局条件付きで了承されることとなった。千雨からAFOの後継について聞いていたオールマイトも、出久の成長を少しでも早めたいとインターン実施に賛同。ナイトアイから出久への指名が届いたのは、そんな時のことだった。
「ただ、インターンということはある程度の力も示さなきゃいけない。ナイトアイのお眼鏡に適うかは君にかかってるぞ」
「…はい。しっかり示してきます!僕で良かったって、ナイトアイに思ってもらえるように!」
「うん!頑張れよ!」
オールマイトの激励を受けつつ、ナイトアイの指名に応じることにした出久。この先彼を待ち受ける出来事は…まだ誰にも、予期出来ない。
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「え!?通形先輩もナイトアイの元でインターンを!?」
「うん!だからこうして一緒に案内してるんだよね!」
インターン開始当日。出久はナイトアイ事務所までの道のりをミリオに案内してもらっていた。その途中で交わした会話の内容、そして以前の千雨の台詞から…彼は一つの答えに辿り着く。
『ミリオくんは、君にとっての────』
「(……そうか。通形先輩が…ナイトアイが後継者として育てていた人だったのか)」
そんなことを考えているうちに、気付けばナイトアイ事務所の目の前まで来ていた。
「着いたよ。ここがサーの事務所だよね」
「ここが…」
「ほうほう、思ってたより緊張してないね」
「あ…いえ、実は以前顔を合わせたことがありまして。ナイトアイは凄い人だし、緊張はしてるんですけど……それ以上に…何というか…」
「まあ、言いにくいなら構わないよ。とにかく入ろう!」
言葉に詰まる出久を見て、話を切り上げさせるミリオ。2人はそのまま事務所に入り、目的の部屋までの案内中に再びミリオが話し出す。
「今回緑谷くんはサーから指名を貰ってるから、あまり心配は要らないかもしれないけど…これからサーと会って話し終えるまでの間に彼を1回ぐらいは笑わせておくことをお勧めするよ」
「…ナイトアイを、笑わせる…?」
彼の話に疑問を呈する出久。ただでさえ笑顔を見せないナイトアイを笑わせるというイメージが湧かないこともあり、思わず聞き返してしまったのだ。
「サーはユーモアを最も尊重してるんだ。『元気とユーモアのない社会に未来はない』ってよく言っててね」
「元気と、ユーモア…」
確かにオールマイトはそれを体現していると、そう考えながら出久は反芻する。既に2人は、事務所の一室の正面に立っていた。
「さあ、君の手で扉を開くんだ。第一印象は大事だぜ!」
「…はい!」
意を決し、ドアノブに手を掛ける出久。少しばかり
「緑谷出久です!!」
彼が披露したのは────オールマイトの顔真似。並の人間であれば唐突にそれを見たなら噴飯不可避の中々達者な芸だが、ナイトアイは黙して立ち上がり開口一番。
「オールマイトを馬鹿にしているのか?」
出久とミリオは、確かに場の空気が凍った…即ち、スベったのを感じ取った。
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ナイトアイの怒りは、微妙に不完全な顔真似に対してのものだった。出久も負けじと己のオールマイト雑学を語り、何とかナイトアイを納得させる。
「…良かろう。本題に入らせてもらう…ミリオは退室を」
「イエッサー!!」
2人だけになった部屋の中で、ナイトアイは出久に1つ前置きをした。
「もう気付いているとは思うが……先程までそこにいたミリオこそが、私がOFAの後継者として育てていたヒーローだ。結局OFAは貴様に譲渡され…ダストの言からミリオには継がせられないことまで分かってしまったがな」
「…はい」
「……貴様をここに呼んだ理由はただ一つ。私を認めさせてみせろ。OFAの継承者が貴様で良かったと、これからのインターンを通してな。というわけでまずは最初のテストを行う」
「て、テストですか…?」
さらに出久に試練を課すナイトアイ。懐から取り出したのは、印鑑。
「3分……いや、1分だ。1分以内に私からこの印鑑を奪ってみよ。それに伴ってこの部屋をどうしようと構わない」
「えっ…!!?」
出久はその難易度を理解し、絶句する。
「不可能だと思ったか?私の個性を知っているからか?そんなようではOFAは任せられない。人々が安心して暮らせる社会など…作り出すことは出来ない」
「!!……いえ…行きますッ!!!」
ナイトアイの挑発を受け、躊躇いを捨てた出久。正対して飛び掛かり、印鑑奪取に挑み始めた。
「正面奪取。下段、壁を蹴って攪乱。右後方より頭上…からのフェイントを織り交ぜつつ足払いを試みる。全て予知の範疇だ」
「くっ…!!」
OFAフルカウル…18%。それを以ってしてもナイトアイに到底及ばない事実に、出久は焦りを感じていた。ナイトアイがそこに拍車をかける。
「残り30秒。この程度か?3年前私がインターンに指名したルイングレイは増強型の個性でないにも関わらず今の貴様よりもう数段動けていた。彼も林間合宿に居たと聞いているぞ?」
「(ルイングレイ…!ダストが昔保護してそこから高校卒業まで直々に鍛え続けたっていう生粋のヒーロー!ここにインターンに来てたのか…!?合宿では顔を合わせたぐらいだったから知らなかった!!)」
「速さ自体は優っているかもしれない。だがあまりにも単調。フェイント如きで捻りを入れたつもりになられては困るというものだ」
「ッ…!」
彼の言葉に、どうにか予知を防ごうと四苦八苦する出久。本棚を倒して視界を塞いだり、全速力で部屋の中を跳ね回り視界から外れようとしたり…しかし、いずれも効果はなく…無情にもナイトアイが宣告する。
「1分経過」
「────」
出久は…力なく膝を折ろうとして、ナイトアイに止められる。
「立て。ヒーローが屈することなどあってはならない」
「…す、みません」
それでも項垂れたまま、ナイトアイのテストを乗り越えられなかったことに絶望すら感じ始めている出久に、ナイトアイが改めて話をする。
「よく分かった…今の段階ではこんなものだろう」
「…え?」
「言ったはずだ…これからのインターンを通して認めさせてみせろと。いきなりこれをパス出来るとは初めから思っていない。それなら指名などしなかった」
「ナイトアイ…」
彼は見限ってなどいないと出久に伝えながらも、いくつもの改善点を指摘する。
「取り敢えずオドオドとした顔を止めろ。辛く苦しい状況でも前を向け。ヒーローは不安を表に出してはならん」
「は、はい」
「それと……予知を防ごうとするな。覆そうとしろ」
「…覆す、ですか」
「そうだ。……かつてダストは、私の予知の強制力を知っていながらそれに抗い続けた。結果…彼女の死の運命は覆った」
「な…!?ダストが、死…!?」
ナイトアイの驚くべきカミングアウトに目を剥く出久。彼は言葉を繋ぐ。
「だがそうはならなかった。彼女曰く、予知を覆すには幾人もがその未来を拒み、変えようとする意志が必要だとのことだが……とにかく、私の予知は決して完璧ではない。外れることもあり得るんだ。そのことを頭に入れておけ」
「……はい!分かりました!」
如何なる未来が待っているかは、誰にも分からない。それは予知が可能であるナイトアイ自身にも言えることなのだ。そのことを出久は理解し、力強く頷いた。