出久のインターン開始から数日。日々のパトロールの中で少しずつ成長しつつある彼は、その日はまだ他の事務所のメンバーと共に事務所内に居た。
「『バブルガール』。報告を」
「はい!死穢八斎會には全体として特に大きな動き無し!一方で若頭『治崎廻』は、変わらず個性に関する研究成果の情報開示を求めてきています」
「…あの、すみません。『死穢八斎會』とは?」
待機ののち始まったサイドキックの報告の中に、聞き慣れない単語が出てきたことで疑問を口にする出久。すかさずバブルガールの隣に居たセンチピーダーが補足する。
「『死穢八斎會』とは、この付近に居を構える指定ヴィラン団体の1つです。目立った悪事は働いていませんが透明性が低く、念のためナイトアイ事務所が監視などを行っている形になります」
「そうなんだよね。ただ、最近は若頭の動きが活発化しててね。といっても恐らく悪意は無いんだけど」
「悪意は無い、ですか?」
「指定ヴィラン団体」という物騒な分類を為された組織の中核人物が悪意なく行動するものなのか、そう出久が疑問に思ったのをナイトアイが拾う。
「治崎は1年と少し前から1人の少女を預かっている。八斎會組長の血縁に当たる人物のようだが…詳しくは分からない。ただ彼女の個性について治崎は何かしらの懸念を抱えているらしく、頻繁に個性研究…とりわけ発動の抑制などに関する分野の成果を開示してくれと要求してきている」
「要求…それよりもその子をもっとちゃんとした所に預けてあげるべきだと思うんですが…」
本当に悪意は無いのかと勘繰る出久。しかし、そんな彼の考えにもナイトアイははっきりと答えを返す。
「勿論提案したが、駄目だった。実際に少女…『壊理』ちゃんを向こうに出向いた私たちの目の前まで連れてきて、挨拶させようとしていたんだが…酷く怯えた様子で、終始治崎の足元から離れようとしなかった。何より治崎自身が彼女の引き渡しを拒んでいる。まるで我が子を慈しむ父のような姿でな……アレで演技だというのなら中々の役者だ」
「そう、ですか…」
「緑谷くんが不安に思うのも無理はないよね。でも、俺たちに出来ることはまだ無いんだよね…」
ナイトアイの説明に憂いを隠せない様子の出久。彼を見てミリオが励ましの言葉を投げかけた所で、バブルガールが報告を再開する。
「ミリオくんの言う通り、治崎の要求を大学や研究者側が飲まない限りこちらから何か働きかける、というのは少し難しい状況です。八斎會の方で何か進展があれば分かりませんが…」
「壊理ちゃんとの接触機会が少ないのも厳しいですね。心を開いてもらうには何もかもが不足しています」
「それに、仮に引き取ってどうするかだよね。治崎が何を危惧しているのかが分からないままなんだしさ」
問題の難しさに頭を悩ませる一同。相手側の動きを待たなければならないというのは、出久にとっても非常にもどかしいものだった。
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「極道?何だってンな時代遅れの奴らのとこに行く必要があるんだよ?」
「しかもキュレートスまで持っていくなんて…随分と用心深いのね?」
所変わって敵連合アジト。彼らもまた、死穢八斎會に目をつけていた。
「キュレートスは万が一に備えてだ。最初から暴れさせてちゃダストに勘付かれるかもしれねえからな。それだけ今回は失敗する訳にはいかねえ」
「…一体何があるんだ?」
「……さあな」
「さ…さあなって!よく分かってもねえのに失敗する訳にはいかねえってどういう…」
コンプレスが死柄木に詰め寄るが、彼は至って冷静に言葉を返す。
「とんでもない代物なのは確実なんだとよ。……死穢八斎會の若頭…いわゆるナンバー2の個性は『オーバーホール』。対象の分解と修復が出来るっつう個性だ」
「凄いじゃない…!!その若頭を引き込むのかしら?」
「いや…違う。欲しいのは………そいつが世話してるらしいガキだ」
マグネの質問に首を振りつつ、死柄木は得た情報から立てた自らの推測を語る。
「若頭の『治崎』は最近、妙に個性の制御に拘ってる。裏のルートや表社会の研究機関、あらゆる伝手を利用して必死に抑える術を捜してるとか……ところで治崎は1人のガキを預かってる。最近の動きはそいつを引き取ってちょっとしてからのもんだ…結びつける方が自然だと思わねえか?」
「…つまりアレか。やべえ個性持ってる奴がそれでもビビっちまうぐらいのチカラをそのガキが持ってるかもしれねえってことか」
「でも、偶然じゃないの?治崎ってのがそのタイミングでたまたま個性の制御が出来なくなったって可能性は0じゃないでしょう?」
そんな仲間の疑問を、死柄木は肯定した。
「そうだな…偶然かもしれねえ。けどこっちとしてもそろそろ動かなきゃまずい。目ぼしい戦力になりそうなのはもう居ない……先生は今もダストの偽物か何かがたまに脳無工場を襲って来やがるせいでこっちまで手が回らないらしい。……余裕こいてられる状況じゃなくなってきてんのさ」
「…そうね」
「………クソッタレが…どれもこれも……ダストが居やがったからだ。アイツさえ居なきゃ戦局はもっと俺たちに傾いてた。苛つかせてくれやがる……」
「(…?)」
千雨への憎悪をさらに募らせていく死柄木。────心なしか、近頃彼の呼吸がやけに荒いようにも思えると…コンプレスは考えていた。