────焼け焦げた治崎の身体が、健全な状態へと一気に「巻き戻って」いく。同時にはっきりと呼吸をし始めたことで、壊理は己の個性の発動を理解した。
「!!……やっ、た……!」
振り返った死柄木は、その様子を見て思わず目を剥いた。
「オイオイ…!!想像以上だぜコイツは……!!女脳無!!!ガキを早く捕まえろ!!!」
「ララ」
超速で再生して起き上がった女性型脳無に声をかけ、壊理の確保を指示する。しっかり死柄木の声に反応するようになっているようで、キュレートスと共にミリオを牽制する彼に代わって動き出した。が……
「させない!!!」
「緑谷くんッ!!!!」
脳無が手を伸ばすより早く、出久が治崎と壊理を両脇に抱えてその場から退避する。
「うぐ!?」
「ダメ…はなれて!!!『消えちゃう』っ!!!」
「(これ、は……!!!)」
しかし、壊理の個性が停止しない。彼女に触れている出久は、このままでは巻き戻った果てに完全に消滅してしまうだろう。さらに、動きを止めた出久に女性型脳無が襲いかかる。
「ヮラヱ」
「ッ────」
咄嗟に脚で迎撃した出久。思わず制御を忘れ、フルパワーで放ってしまったが…
「…あ、あれ……!?そっか、壊理ちゃんの…!!」
本来ある筈の反動ダメージは無かった。治崎の巻き戻しを見ていた出久は、彼女の個性によるものだと気付き────
全身から、碧い光を迸らせる。
「……すみません、治崎さん。すぐに…終わらせます」
治崎を横たえ、彼の上着を身体に結んで壊理を背に固定する出久。
「壊理ちゃんも、ごめんね。きっと今から…凄く危ないことになる。でも、僕だけの力じゃあいつらを倒せない。────力を、貸してくれるかい」
「平気、なの……?」
「うん。君の『個性』が、優しいおかげだよ」
「優、しい…」
ワン・フォー・オール・フルカウル────100%。
全身を絶え間なくOFAの反動で粉砕し続け、それを壊理の個性でカバーする。これにより、彼は今だけ真の全力での戦闘を可能としたのだ。
「君の、治崎さんを救けたい、守りたい…そんな想いを利用する形になってしまうけど……それでも僕と一緒に戦ってくれるかな?」
「……うん…!!私も、戦う…!!」
「…ごめん。本当に、ありがとう」
恩人を守るという覚悟。壊理の心は、ようやく前を向き始めた。
後は、悪を成敗するのみだ。
「………今のはちょいとビビったがよ……ガキがガキ背負って何になるんだ?巻き戻されねえ理屈は知りてえけどな」
彼らの会話が終わると、すぐに死柄木がOFA100%での攻撃を受けて吹き飛ばされた女性型脳無を連れて現れた。疑問の声を漏らしながらも、自らの勝利を疑っていない様子だ。
「……いや、やっぱ何でもいいか。女脳無、さっきみてえに抑えてろ。キュレートスで焼き殺して」
しかし…口に出来たのは、そこまでだった。言葉を詰まらせる間もなく、回り込んだ出久によって瞬くよりも先に失神させられる。
「な!?」
「これは…!!」
ミリオやナイトアイ、その他大勢のヒーローの驚愕の視線を浴びながら、出久は女性型脳無に殴りかかる。こちらも一撃で再び遠くまで吹き飛び、姿が見えなくなった。残るは、制御を失い暴走しつつあるキュレートスだ。
「ヴオオオオォォォォォ!!!」
「こっちだッ!!!!」
熱線の乱射を止めないキュレートスの脳を跳び上がって蹴り付け、上空に意識を向けさせようとした出久。目論見通り、キュレートスは出久の方に向き直り、砲塔の照準を彼に合わせる。
「ヴオォッ!!!」
「(ダメージは無い……ならッ!!!)」
キュレートスはそのまま熱線を照射するが、超高速でそれを難なく掻い潜った出久がその頭部に渾身の連打を浴びせていく。
「オオオオオオオッ!!!!!」
「ヴ、オォオオ…!!」
一瞬の揺らぎ。…キュレートスが確かに、怯んだ。
「サー!!!」
「ああ…!!……通じた…!!」
「い、いけえええッ!!!」
「頼むッ!!!……倒れろ脳無!!!」
ヒーローたちが、声援を贈る。
出久はキュレートスを蹴り上げ、殴り、たった1人で袋叩きをやってのけている。
「────────────!!!」
奇声にも等しい絶叫。キュレートスは完全に出久を排除対象と見做し、全力で彼を仕留めに掛かる。
「なッ!?」
「は、速い…!!!あんな巨体で!!!」
フルカウル100%の出久に肉薄せんばかりの速度を見せるキュレートス。異常な捕捉の難しさの正体はこれかと出久は納得しつつも、更に攻撃を激化させる。
「ヴオオオオッ!!!」
「キュレートスッ!!!!お前がどんな人間だったのかは、僕には分からないッ!!!!でも、これ以上何も奪わせはしない!!!!────此処で、お前を、止めてやるッ!!!!」
出久の碧い稲妻と、壊理の角から放たれる煌々とした燐光。2つの輝きが尾を引き、星空を明るく彩る。
それが、ナイトアイには何よりも眩しく感じられた。
「……緑谷、出久」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ダスト。本当に私情では無かったのか?奴にOFAを託したことは、貴女の記憶があったからこそじゃないのか」
『言ったろう?オールマイトには何も教えちゃいないし、私も継承についてなにか手を加えたってことは無いよ。彼らが出会ったのは運命だ』
「……それでも、私は…」
『…まあ、見てなよ。出久くんは…君が思ってるよりもずっと凄い子だ。いつか、分かる時が来るさ』
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「墜ちろオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」
出久の叫びに、キュレートスは反応を返さない。既にぼろ切れのようになってしまったその姿は、絶対防御の艦が沈む様を想起させた。
出久はキュレートスが突っ込んだ、八斎會付近の大穴に彼を叩き落とす。
────もう、動く素振りは無かった。
「ウ…オオオオッ!!!!」
「やった…あの子、凄いぞ!!!!」
轟く歓声。しかし、出久は激しく苦しんでいるようにも見える。
「デク!!?」
「(まず、い……!!!壊理ちゃんの個性が、出力を増して…!!!)」
全身が何かに引っ張られる苦痛のあまり、壊理を降ろすことが出来ないようだ。同様に、壊理の膂力では固定された己の身体を出久から離せない。
「(お願い!!!止まって!!!この人が……消えちゃう!!!)」
彼女の願いは……今度は神には託されなかった。
「(────救けて!!!!!治崎さん!!!!!)」
「ごめんな、壊理。俺1人で、守ってやれなくて」
気付けば起きて出久の側までやって来ていた治崎が、壊理の伸びた角を分解し、小さく修復する。「巻き戻し」は、それで止まった。
「治崎、さ…」
「もう大丈夫だ。お疲れ、壊理。ありがとう」
消耗のせいか、気絶してしまう壊理。治崎は息も絶え絶えの出久から彼女を受け取り、愛おしむようにその腕に抱く。
暁の空は、彼らを暖かく照らしていた。
壊理の巻き戻しが角だけを分解して止まるのかは、だいぶ怪しい所です。ただ、この展開以外だとちょっと色々厳しいので…ご了承を。