すべては君のために   作:eNueMu

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文化祭

 

 「成程…!!心を落ち着けて、あくまで冷静に、ですか…!!」

 「うん、そうだね。感情に呼応して歴代継承者の個性は力を増す。昂った気持ちはそのまま破壊の嵐になりかねない…万が一暴走した時にも、慌てずに無心になろう。焦りは余計に暴走を助長してしまうからさ」

 

 出久にこの先のOFAの扱いについて教授する千雨。出久は自らの左手にビニール袋を持ったまま熱心に聞き入り、それを自分の糧にしようと努めている。しかし一方の千雨には、実の所少々別の思惑があったのである。

 

 「(もうじき8時半………『原作』でもロープの購入だけならそう時間はかかっていなかったみたいだね。助かった)」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 事は少し前に遡る。

 

 「うーん…寮生活じゃない分文化祭の練習は進みが悪くなるんだろうけど……A組の皆ならちゃんと開催までには間に合わせるか。むしろ危惧すべきなのはそもそもバンドをやるのかどうか……いや、そこは問題ないか。壊理ちゃんにあげるりんご飴を作るための材料は確実に当日の朝に買うことになる筈だから、ロープを前日のうちに買ってしまうかそもそも必要ない出し物になるようならそこで足止めを…待てよ?壊理ちゃんは…確かまだ経過観察中だ、大丈夫。あれからかなり廻くんに懐いたようだけど、きっと出久くんとミリオくんにも会いたがるだろう。2人とも事件の時はあの子の側ですっごく頑張ったらしいし……」

 

 千雨は夜な夜な自宅で出久がよくやるようにブツブツと何事かを呟きながら、己の考えと方針をまとめていく。

 

 「(ジェントルとラブラバは、あそこで出久くんに止められるのがある意味では最良だろう。そのために少し手を加える必要がありそうだけど…練習の様子とか、一応覗いておくかな)」

 

 

 

 そうして日を経ていく中で、千雨は「原作」との差異を確認し、その都度対応の必要性を考慮しながら、当日の動きを計画していった。無事A組の出し物はバンドに決まり、出久とミリオも壊理との面会に呼ばれたことから、大筋に変化は無さそうだった。

 

 「(最大の懸念は出久くんの成長の差異……フルカウル20%、瞬間最大出力40%。発目ちゃんのサポートアイテムがどうなるか…まあ、彼女の才能を信じるしかないね)」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ということで、文化祭当日。発目のサポートアイテムはしっかり出久の成長に合わせた性能で彼の手に渡り、原作通りの時間まで試運転と調整を行ったようだった。前日の段階でホームセンターにてロープは買ってしまっていたため、その分の時間稼ぎは行うことになったが。

 

 「やあ、出久くん」

 「あ…!ダスト!おはようございます!こんな所で何を…?」

 「ちょっと雄英の文化祭を見に来たのさ。少しばかり早い時間だけどね」

 「成程、そうだったんですか」

 

 偶然を装って出久をいい感じの所で立ち止まらせた千雨は、そのまま彼に助言をしつつ更に時間を稼ぐ。

 

 「ところで、OFAの調子はどうだい?まだ歴代の個性は発現していないかな?」

 「はい、それはまだ…でも、面白いことを思いついたんです!これ、サポートアイテムなんですけど、指を弾いた時に生じる風圧に指向性を持たせて…」

 

 その後も色々と会話を交わしつつ、冒頭へ戻る。

 

 「あぁ!忘れてた、大事な用があるんだった!ごめんね出久くん、話に付き合わせちゃって!文化祭、頑張ってね!」

 「え!?は、はい!ありがとうございました!」

 

 そう言ってすぐにその場を離脱した千雨は、丁度喫茶店から出てきた人物…ジェントル・クリミナルとラブラバが出久と接触したのを確認する。

 

 「(よし…後は『原作』通りに行くだろう。………ごめんね、ジェントル、ラブラバ。2人を見逃し続けたのは、私のエゴだ。どうか君たちにも明るい未来が待っていることを祈るよ)」

 

 

 

 ────ジェントルとラブラバは、出久に敗れた。彼らが辿る未来は、千雨にもまだ分からない。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「見ろ、壊理。始まるぞ」

 「う、うん」

 

 雄英文化祭の開幕より1時間。体育館ステージでは、ゲストとして招かれている壊理と治崎が1-Aの出し物を観覧する所だった。

 

 「いくぞコラァアア!!」

 

 爆豪のシャウトと共に始まった1-Aによる「Aバンド」。それぞれが懸命に練習したのであろうことを感じさせる完成度の高い演奏に加え、各々の個性を活かしたパフォーマンスは、見るもの聞くものを引き込ませる。一部そうでない者も居るようだったが……サビに入ると、そんな彼らですら圧倒される程のサプライズが飛び出した。

 

 「これは…凄い、な」

 「…!」

 

 体育館全体に架かる氷の橋から、A組の面々が実に色とりどりの演出を披露する。ヒーロー科に隔意を持っていた生徒たちも、後ろで観ていたイレイザーも、そして…壊理も。この演出に、目を丸くして────

 

 

 

 「わあぁ!!」

 「(────壊理が…笑った)」

 

 彼女を抱き抱える治崎が、その光景を見て感嘆を覚える。

 

 「(そうか……お前は今日、ようやく………自分を赦してやれたんだな)」

 

 静かに涙を流し、小さく呟いた。

 

 「ありがとな……ヒーロー」

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