悠一Side
2001年12月11日
国連軍 横浜基地
佐渡島同胞団ムーア中隊vs国連軍A-01伊隅戦乙女中隊”ヴァルキリーズ”&A207小隊
国連横浜基地に装備性能評価演習―――XM3トライアル演習を実施する事になった。
新型OS搭載機で他部隊との対抗戦に挑む。そしてその内容を計測するという流れだ
漸くお出ましだ、あの伊隅大尉と戦える日が
俺は待っていた。無論白銀達も例外ではない。
そんな訳で俺達は演習開始前に伊隅大尉達がいる会議室に行くことにした
俺と鈴乃、早乙女に紅林、佐竹、鬼頭の6人じゃブリーフィングルームはとてもじゃないが人数オーバーだ
その途中に神宮司まりも軍曹と遭遇し俺は鈴乃達を先に行かせ彼女に話しかける
「お初にお目にかかりますっと、神宮司まりも軍曹☆」
俺は軽い口調で神宮司軍曹に敬礼
「豊臣悠一少尉、私に何か御用ですか?」
「少し仕事上の話に付き合わせて悪いな。アンタがあの白銀武を育て上げたのか?」
「白銀少尉は他のA207小隊衛士を厳しくご教授したまでです」
ご教授ね……成る程な
「伊隅大尉率いる部隊の戦術機だがその新型OSって今までの戦術機の動きより凄かった。俺を自由に空を飛んでる気分だった。何か知ってるんじゃないのか?」
「XM3の事を指していますね」
エグザムスリー………?
それが新型OSの名称か。
「ほぅ、期待できそうですね軍曹☆」
「これからの時代はXM3搭載の戦術機です。旧型OSを搭載した戦術機に乗る衛士は少なくなると思いますよ少尉殿」
「よせよ、俺は堅苦しいの苦手なんだ。と言いたいところだが自分が衛士である以上与えられた任務を全うするしかない」
神宮司軍曹……いやまりもちゃんと呼ぶべきだろうか
「公務に無関係なこと言うが、『まりもちゃん』って呼んで構わないか?俺はアンタとセッションしたい。だから仲良くしようぜ」
「『まりもちゃん』と呼んでも構いませんが公務の時は『神宮司軍曹』と呼んで頂けると幸いです」
きっちりと軍律守ってるな。駒木みたいにガッツリと固く守ってるタイプではない。
恐らく、しっかりとしたお姉さん的存在
まりもも辛かっただろうな……人が沢山死んでるんだ
トラウマ植えつけられるのも無理はない。がこれは戦争なんだ
生きるか死ぬかのデスゲームなんだ
「我々ムーア中隊は伊隅大尉率いるヴァルキリーズと白銀少尉達がいるA207小隊とXM3トライアル演習の対戦相手になってな……香月副司令が「このまま旧型OSとやり合うのは不釣り合いだから特別にアンタ達が乗る機体に新型OSを搭載したわ」と得意気な笑みを浮かびながら言ってたぜ」
まりもは複雑な表情になる
何か間違ったこと言ったか?俺は
全く見当ないぜ
「そうですか……副司令は公平に模擬戦を行いたかったでしょう」
だろうな。でなきゃ俺達の機体を新型OSを載せる事なんて出来はしない
俺はまりもの表情を伺い、斑鳩中佐みたいにニヒルで気障な笑みを浮かびこう言った
「では軍曹、俺が伊隅大尉や白銀少尉達に勝ったらデートに付き合って貰えないでしょうか?」
「考えときます」
まりもは俺のデートの誘いを保留にして苦笑いをした
これは絶対に断られるパターンだな
そうだと思ったが……。
「昨日の事覚えていますか?私が休暇だった日で街で貴方とぶつかって缶コーヒーの中身を零して挙句の果てに服まで汚してしまった事……」
ん?初対面だぞ。
「アンタとぶつかった憶えはないが……」
「それもそうですね、私がハンカチで貴方の服の汚れのシミを拭こうとしたら貴方が慌てて走り去りましたから」
ん~、そう言えば昨日帝国軍の制服を着て一人で街へ散策した覚えがある………あの後鈴乃に般若顔で怒られたからな……とうとう鈴乃まで恭子みたいに鬼姫になったのか?
「もしかしてあの時の?」
「思い出してくれましたか」
いや分からねぇ、顔ちゃんと見てなかったしついうっかりと忘れていた
「横浜市街で見たあの時の?」
「そうです、思い出してくれましたか?」
……。
「あ、ああ…クリーニング代は要らないぜ、こういっちゃなんだが白銀達は俺が倒す」
俺がそういうとまりもは優しい笑みを浮かべる
「勝てるのですか?白銀少尉達は私が育てた衛士ですよ」
まりもがニヒルな笑みを浮かべると俺は得意気な笑みを浮かべ言い放った
「ああ、俺が潰す。斯衛崩れの衛士だけどよ…一度受けた勝負は退ける訳にはいかねぇ」
良平Side
東欧州社会主義同盟所属戦術機空母『ヴィリー・シュトフ』
中隊長執務室
俺は彼奴がそう簡単に死ぬわけがないと既に悟っている
日本で起きた帝都クーデターもそうだ
結果的に多数の犠牲者が生んだが、俺達はアイリスディーナの命で介入せず関与しない形でその動向をただ傍観していた
彼奴との決着はまた付いていない
決着付くまで俺は退場はせず、ファム達を守ると決意を固めた
ファムがいる中隊長執務室で俺は呼び出されソファーに座り雑談していた
ラジオはクーデター関連の報道ばかり、この戦術機空母にいる乗組員達含め衛士達は憂鬱になってる
《沙霧尚哉大尉が決起したクーデターの終息から5日の時が経ちます。現場は戦術機の残骸ばかりでその中には日本に派遣したアメリカ軍衛士の遺体が発見され、その遺体の身元が判明しました。アメリカ陸軍第66戦術機甲大隊のアルフレッド・ウォーケン少佐、同じ部隊に所属していたフィンランド出身のイルマ・テスレフ少尉……》
「連日こればかり報道してるわ…」
ファムは複雑な表情で寂しい顔している
何か言わないと……。
「あのクーデター、何か裏があると思うよファム姉」
「裏って……どういう事なの?ダリル君」
言わなくてもわかると思うが一応言っておくか
「これは俺の…いやシルヴィアの推測と思って聞いてほしい、このクーデターはアメリカとキリスト恭順派が仕組まれた事だと思う」
そういうとファムは動揺し一人の男の顔が思い浮かぶ
信じたくはない。
だが現実なんだ
「テオドール君……?」
俺は頷く
信じたくはないのは分かるよ
「こんな事……ベルンハルト大尉が望んだ事じゃないのに。何でそんな事を」
「ベアトリクスも正規の情報網や裏の情報網を利用してまでテオドールを追跡してるが、まだ所在が分かっていない。裏の情報屋でも彼の拠点を把握していないんだ」
「……」
ファムは口籠り黙った
信じたくない。その思いが強い事は俺に伝わった
いつか彼がファム、アネット、シルヴィアだけでなくアイリスディーナと皆で笑い合える日が来る事が
ファムはその思いを強く願っていた
「でも……もう、あの頃のテオドール君は戻ってこないのは分かってる。それでも強引に連れ出してベルンハルト大尉に謝罪させたいの!」
そう言うとファムは涙を流し泣き崩れた
「うぅ……う…ぐすん」
ファムが流した涙は意地でもテオドールを連れ出してアイリスディーナに無理矢理にでもいいから謝罪させたい気持ちが俺に伝わった
俺はファムの涙を拭い強く抱きしめる
「俺が彼を捕まえてファムの元に行かせば……理解してくれると思うよ」
そうだ、もう引き返せない……テオドールをファム達の元に連れて謝罪させる
そして彼奴との決着を付けなければならない
「ダリル君が言いたい事は理解したけど、テオドール君は手強いわよ。ベアトリクスと互角に渡り合った大尉が育てた衛士だから……」
「サイコアリゲートルでどんな戦術機が出てこようと俺が倒して見せる!だから見ててくれファム姉、RBDがどんな機能なのか分かっている筈だ」
重く暗い空気の会話してる中、シルヴィアが中隊長執務室に入室しファムに封筒を渡した
無言で封筒を渡したシルヴィアの表情は……とてもイラつきこの世とは思えないほど怒りを露にしていた
「彼奴、最低よ。ベルンハルト大尉やカティアの意思を傾倒し私達、いや全人類をBETAに吞み込ませようと考えてるわよ……!」
……自分を中心に世界を回ってると思い込んでるのか
ファムは彼を擁護しようとしている
複雑な気持ちだ
「あの時と同じなのね…テオドール君とベアトリクスが革命に勝利を掴む為に互いに対峙していた。結果的に反体制派は革命に勝利を掴む事は出来なかったけど私達を戦力の要の一つとして喪う訳にはいかないからこうして生き延びた。でもテオドール君は不信感を更に高まり続けていきカティアちゃんが死んだ直後にテオドール君はもう……」
「キリスト恭順派を始め難民解放戦線や日本赤軍、真理教同盟等のテロ組織を纏めテログループのリーダーとして君臨したと……ファム、今更言うけどテオドール・エーベルバッハはもう駄目よ。彼奴は義妹のリィズを喪い彼女の死を受け入れる事なくずるずると引き摺って過去に囚われていったのよ」
日本赤軍は本やニュースで見たことある
確か…日本革命を世界革命の一環と位置付け、中東など海外に拠点を置いた日本の新左翼系の国際極左テロ組織…この時点で既に解散してる筈だ
テオドールは日本赤軍と交流があったのか……?
シルヴィアは怒りをゆっくりと静め呆れ顔でファムを宥める
「諦めなさい、もう一度言うけどテオドール・エーベルバッハは壊れたのよ。人格否定してる訳じゃないけど彼はこんな事好きでやってる訳ではないと分かってる」
壊れたか……彼がテロリストに成り下がった理由は恐らくそれだ
好きでやってる訳じゃない……シルヴィアが言ってる事は御尤もだ
シルヴィアが話を続けようとした次の瞬間、ニコラ、カタリーナ、ファルカが中隊長執務室に入る
「ファム・ティ・ラン大尉、シルヴィア・クシャシンスカ中尉、ダリル・ローレンツ少尉……ホーゼンフェルト中尉はどうした?」
「アネットちゃんは部屋にいると思うわ」
ニコラはカタリーナに命令を下す
「カタリーナ、ホーゼンフェルト中尉を会議室に来いと伝えろ」
「了解」
とカタリーナは一旦中隊長執務室から退室
ファルカはとある書類をファムに渡した
「ソ連の研究施設から脱走した衛士1人を見かけたとユーコン基地にいる同胞からの情報です」
シルヴィアもとある書類を見る
「この顔……まさかと思うけど」
「え?嘘……リィズちゃんなの?」
ファムは驚きを隠せず動揺している
死人が何故生きているんだ?
ファルカはゆっくりと言葉を投げかける
「ええ、リィズ先輩…この顔や髪型、リボンは紛れもなく私が知ってるリィズ・ホーエンシュタインです。でも何故生きて…」
リィズは既に死人だ
ここにいる筈がない
そうなると……?
「……ESP発現体」
「え?」
「?」
「何それ?」
「何ですか、それ?」
俺の言葉でファム、ニコラ、シルヴィア、ファルカの順に困惑したような目つきで驚愕していた
「人工的に造られた人間……簡単に言えばクローンかデザイナーベビーだ」
そうとしか考えられない
「俺はユーコンでそれらしき衛士を見かけた。クリスカ・ビャーチェノワ、イーニァ・シェスチナ……俺が見たのはその2人だけだ」
オルタネイティヴ3
1973年 BETAの地球襲来をきっかけにスタート
ESP能力者とは対象の思考を読み取ったり、対象に自身の持つイメージを投射する能力者。いわゆるエスパーだ。
それによるBETAとの意思疎通、情報入手計画。
具体的には、ESPの素質を持つ人間同士を人工授精により交配・遺伝子操作・人工培養を行うことで強力なESP能力者を人為的に生み出し、言葉の通じないBETAを相手に思考を直接読み取らせる事によって情報を収集したり、直接イメージを投射することで停戦の呼びかけなどのコミュニケーションを実現することが目的だった。
結果としては、リーディング自体は成功しBETAにも思考があることが証明されたものの、BETAは人類を生物として認識しておらず一切の呼びかけが成立せず、計画としては失敗に終わった。
ちなみにESP能力の発現には対象との距離が重要となるため、生み出された能力者はBETAとの接近のために戦術機で出撃したものの、帰還率はわずか6%であった。
俺が知ってるのはクリスカ、イーニァ、マーティカ、もう一人……横浜基地にいる社霞だ。
ソ連主導の計画の一つであり、その全貌を知ってる人間は極僅かである
その結果を接収し始動したのがオルタネイティヴ4に繋がる訳だ
……少し聞き齧り過ぎたか。
「スターウォーズで言えばクローントルーパーだね。それと同じだと思う」
シルヴィアは疑いの目を持ち呆然した
「クローンね……人をポンポン生み出して戦争の道具として利用してまでBETAを殲滅してるのは驚いたわ。幾らクローン人間作っても戦況は変わっていないのはどういう事かしらね」
シルヴィアからにしてみれば信じがたい出来事だろう
ファムは驚愕を隠せなかった
「じゃあ、このリィズちゃんは?どう説明するの?」
「本物のリィズ・ホーエンシュタインは18年前に死んでる。ここにはいない……彼女の皮を被ったクローンだ」
ニコラは険しい顔になりファルカは何か考えている様子だ
「そうだな、リィズ・ホーエンシュタインはこの世にはいない」
「……」
ファルカが何か言おうとしている
何だ?
「リィズ先輩のクローン……リィズツヴァイ、ですか」
リィズツヴァイ……確かにそう言えるだろう
「とにかくだ、早く会議室に向かおう。話はそれからだ」
とニコラは中隊長執務室から退室した後、ファルカはファム、シルヴィア、俺を連れ会議室に行った。
悠一Side
横浜基地第二演習所にて両チーム演習の準備が完了したことを確認した。
緊張するが、まりもに約束した通り必ず勝利を掴む
萌香がいないのは残念だが、伊隅みちる……この女は手強いと確信した。
機体編成は…
・ムーア中隊
94フルアーマー
94サブレッグ
撃震(早乙女まどか専用機)
不知火(帝国軍仕様)
・伊隅戦乙女中隊(ヴァルキリーズ)
不知火(国連軍仕様)
吹雪(国連軍仕様)
簡単に纏めればこんな感じだ
《此方ムーア1、全機配置完了した》
鈴乃は配置完了の知らせをCPの根岸千恵少尉に伝える
《――了解……ムーア中隊全機配置完了を確認》
《ヴァルキリー01全機配置完了した》
《了解……副司令、ヴァルキリーズ全機配置完了しました》
白銀達は…後方支援か
練習機の吹雪は確かピーキーな機体であるためか扱いづらいと聞いたことがある
演習場から1キロ離れたところに別の演習場にあるビルの屋上に恭子がいる。本来であれば普通こんな演習場に来る筈がない
それに恭子は斯衛軍の衛士だ
……ま、俺は嬉しいけどな。
《何をニヤニヤと笑ってるんだ?豊臣少尉》
《鈴乃か、何でもねぇよ》
《ほぅ、何でもない…か》
何が言いたいんだ?鈴乃
《全く…崇宰家次期当主を籠絡しただけでなく大倉大尉まで籠絡したのですね。これだから口が軽い男は…》
早乙女まで……つまりアレか?他人に興味を持てとそう言いたいのか
《早乙女少尉、豊臣少尉を揶揄うなよ》
《失礼しました大尉》
……俺の機体の背部兵装担架に収納してる突撃砲は実弾を密かに仕込んである
鈴乃と早乙女、紅林や鬼頭は訓練弾を装填し入れ替えてる
演習だからって実弾使う予定はない?そんなの知らない
本気でやらせてもらうぜ
《カウントダウン開始します》
根岸が演習開始のカウントダウンをして合図を送る
《演習開始まで5秒前4、3、2、1……戦闘を開始してください》
両陣営が確認をし、いよいよ始まる……。
アイリスディーナSide
東欧州社会主義同盟アイルランド本部
総書記執務室
革命に勝利したベアトリクスは私とその部下達を粛清されると思ってたが、BETA大戦においてこの状況下で戦力の要を喪う訳にはいかないという口実で、私、アイリスディーナ・ベルンハルト率いる第666戦術機中隊は存続し、彼女が望んだBETAに対抗できる究極の戦闘国家としての東ドイツが実現した
私は総書記という肩書を与えられ任命され、その後、ファムが大尉に昇格し666の長となりアネットは中尉に昇格、副官に任命した
シルヴィアも中尉に昇格、ヴァルターの後任として次席指揮官を務めることになった
政治将校であったグレーテルは衛士を引退し東欧州社会主義同盟の政治家になった
カティアは「東ドイツを資本主義に変貌させ無理矢理東西統一させる象徴」としてアメリカに亡命したが、表向きはフィラデルフィアでテロに巻き込まれ死亡したことになってるが本当のところで言えば軟禁状態
国外から出られなくなってしまった。
肝心の私が最も信頼していたテオドール・エーベルバッハは………その後の消息が不明だ。
テロリストのリーダーになったと噂流れてるが、私は信じていない
ベアトリクスも勿論だが、私と兄さんは英雄として拝められ崇拝する者が続々と現れ、そして韓国政府と裏で政治交渉したベアトリクスは朝鮮半島北部を統治。朝鮮自治区が樹立された
朝鮮自治区は事実上ベアトリクスにより支配し朝鮮軍を纏め朝鮮民主主義人民共和国…北朝鮮という国家を樹立させ頑強な国家体制を鉄原ハイヴが建設されるまで維持していた
朝鮮半島がBETAの侵攻により南北朝鮮、北朝鮮と韓国は陥落
北朝鮮は南沙諸島に疎開、東ベルリンと平壌の面積を合わせた人工島、第3平壌市に避難し国家体制を維持するも完全にベアトリクスの傀儡となった…しかし国民全員救ったとは言い切れなかった
韓国は済州島に疎開し臨時政府を樹立、以後国連の直轄で国家体制を維持している
革命終結から18年……私は未だに彼の事を想いつつ私達の元へ戻ってくると信じ切ってるが、それも時間の問題だろう
ユーコン基地でのテロ事件は彼による犯行だと聞いた
その事実を知った私は彼を心底まで失望した
長年、彼を待ち続け戻ってくると信じた私がバカだった。
現在、私は総書記執務室で欧州戦線での立ち直しとその内政干渉に関する執務を励んでいる
「……」
机にある書類を目を通した
リユース・ベアトリクス・デバイス……手足が失った衛士をサポートをして今までの戦術機と比べ物にならないくらい旧型の戦術機でも最新鋭機を勝てると謳われてる機能だ
衛士を確保するのはいいが、手足を失った衛士を利用するのは間違ってる
しかし、この状況下で人権など気にしている場合ではない
可哀想だが、受け入れるしかないのか。
扉がノックされ一人の女性が「失礼します」と一言を添え私は「入っていいぞ」と添え返し、総書記執務室の中に入らせた
ショートヘアで黒縁眼鏡をかけてるド真面目な女性
紛れもなくかつて666の政治将校だったグレーテル・イェッケルンだ
最終階級は中尉。
面と面を向き合い、目を合わしながら話し始めた
「リユース・ベアトリクス・デバイス……『大尉』は…」
「ああ、手足を失った衛士をサポートする機能…とベアトリクスは自慢気に言ってたが人道外れだ。そこまで衛士不足しているのは理解はし難くないが」
「人権に構ってる暇はない。使えるだけ使うんだと確信します」
グレーテルは強張った表情している
認めたくないが認めざるを得ない
この戦況でどう変わるか少し気になる
「イェッケルン議員、ベアトリクスはこの戦争を早期終結を目指している。これは事実だ」
「ええ、理解はありますが四肢欠損になった衛士を戦場に送り込むなんて国連が黙ってはいないでしょう」
「経済制裁か。それくらい覚悟は出来てる……」
一人の兵士が「失礼します」と一言を添え私に近づき、テログループのリーダーの所在について報告した
ガセだろう……見つけることは極めて難しい
私は「分かった、下がれ」と兵士に言い放ち退室させた
執務室にあるテレビの電源をつけニュースを視聴しタイトルに『時事カメラフォーカス』と書いてる文字を強調し番組は始まった
《最近、南朝鮮軍が国連軍横浜基地副司令、香月夕呼と手を結び、BETA大戦の毒牙を更に露骨に表しています》
番組は進み、ニュースアナウンサーはこう告げる
《BETAの脅威に対処した強力な対応体制維持、南朝鮮国連軍米軍合同軍事演習正常化、作戦計画21更新》
作戦計画21は国連軍、日本帝国軍共同で行う佐渡島ハイヴ攻略する作戦である甲21号作戦を意味を表す
《口角泡を飛ばしながら、挑発的な暴言を躊躇なく吐いているのは、瓶をひっくり返して吠えている犬ころと同じです。軍部の好戦狂共が、横浜基地軍事合意書採択以後、外面的には『対話』と『平和』、『緊張緩和』、『佐渡島消滅』について騒ぎ立て後ろを向いて妨害する軍事的敵対行為に切れ目なくしがみ付いてきたのは、自他が認める事実です》
番組を進行し続け視聴してる私は頭を抱えた
《このように夜の猫のように行動していた南朝鮮やアメリカ、国連の軍部好戦狂共が来年の2月から軍事演習を公開的に行い、その種類と規模を拡大する事を公然と宣言するに至りました。こうして、今まで擬装用に使っていた平和と協力の仮面は完全に脱ぎ捨て国連軍、米軍主導の鉄原ハイヴ攻略作戦計画実現の追従者、突撃隊としての南朝鮮軍部の正体ははっきりと露にしました。そして南朝鮮、国連各界と情勢専門家の中から、『軍部が対BETAハイヴ先制打撃のような無差別な野望を抱いている当選者と拍子を合わせて刀踊りを始めた』、『保守勢力の戦争演習狂気が度を越えた』、『こんな事していたら、人類は滅亡する』という憂慮の声が次々と出ています》
こんな事していたら、人類は滅亡する……か。
確かに言えてる、シュタージ打倒しカティアの願いが叶ったとしたら、ベアトリクス曰く『シュタージがなくなったら国民全体が騒ぎ立てるだけでなく世に蔓延る外道…半グレやマフィア、ギャングの連中が好き放題で犯罪し続ける。普通の警察や司法が裁かなければどんなに法に背いても罰を与えられない者達も存在するわ。私は必要悪としてここにいるのよ?』と述べている
考えるだけで頭が痛くなる
《結局、その時になって、南朝鮮、米軍、国連軍部好戦狂共が対決と侵略の毒牙を表した結果がどれほど残酷なものなのかを骨に染みるほど後悔しても関係ないというのが、内外の一致した評価です》
エンドロールが流れ番組は終了した
悠一Side
演習開始から20分経過
俺は鈴乃のペアでヴァルキリーズの連中と模擬戦を繰り広げていたがどうもそう簡単に撃墜って訳にはいかないよな
生憎、俺が乗る94フルアーマーは従来の不知火より火力が高い
……少し不安が過った
「ん!?何だ速い……」
ヴァルキリーズの不知火の機影が見えた。
突っ込んでくるな、こりゃあ
負けてられねぇ……!
《隊長機の動きではないな、あれは下っ端だ。豊臣少尉、相手の動きを読んでから行動に移せ!》
「了解…っと早速ぶち込んで早急に撃墜させてもらうぜ……!♡」
トリガーを引き94フルアーマーの2連装突撃砲で36mm弾を牽制で撃つ。
相手の不知火が反撃してきた。
オロオロとした動き……築地か!?
紅林が乗る不知火が築地が乗る不知火に向け突撃砲を握り構え120mm弾を放つ
《豊臣少尉、フォローをお願いします》
「おう!ケツはアンタに任せるぜ」
俺は築地機を追撃し2連装突撃砲で迎撃
築地は後退しようとしていたが、どうやら紅林機の砲撃から振り切れないようだ。
「逃がすか!」
俺は躊躇なく築地機の背後に120mm弾を放ち脱落させた
トリガーを引き94フルアーマーの36mmを牽制で撃つ。相手の不知火が反撃してきた。
この動きは……副官クラスか!
しかしあんな麗しさな動きするのは、宗像だな
と感心した途端、宗像機は離脱
「ちッ……逃げんのかッ!」
一撃離脱戦法……宗像は離脱しつつ後退しようとしていたが、どうやら94フルアーマーを振り切れないようだ。
《くっ……しつこい男は嫌われるよ!しかしほんとによく動く……》
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
《――宗像!援護するわよ!そらそら!私からのご挨拶よ!》
もう1機をレーダーで確認した。速瀬は120mmを94フルアーマーに砲を向け射撃を行うが不意打ちの射撃を紙一重で躱す
「腕は良いようだが、並の衛士だったらやれたかもしれねぇけど……俺には当たんねぇな」
94フルアーマーは急降下し、地面に着地して避けまた跳躍ユニットを吹かし速瀬機に照準を合わせる
《軽い動き……しま》
戸惑った速瀬は冷静になって回避
そして94フルアーマーの回避運動をモニターを見た鈴乃、紅林、鬼頭は今の動きを見逃さなかった。
《油断は禁物だ……紅林、鬼頭。今見た動きをよく覚えとけ。後々役に立つかもしれないぞ?》
《了解っす…大倉大尉は物好きですね》
《流石、B中隊の長を務めていただけ甲斐があったか的確な動きを見抜いてる》
《鬼頭、あの動きは昆虫で例えると何だと思う?》
《バッタですね》
《いやイナゴだと思いますよ鬼頭さん》
《これはバッタの動きだ》
おいおい、揉めるなよ……痛々しい会話だぜ
今回、俺達ムーア中隊の演習での勝利条件は敵機を撃墜する
ただ、それだけの勝利条件
でもヴァルキリーズ戦終えたら白銀達がいる小隊と相手だからな
「このまま撃墜させて貰うぜ!」
進路を妨害するように伊隅大尉の不知火が射撃を行う。
「もう1機…隊長機の御出座しか」
《よし!速瀬、頭を抑えろ!》
《了解です大尉!……さぁ~て上を取ったわよッ!》
……ッ!2対1かよ。
ハッ!そんな事は予想済みだ。
俺は勝機があると確信したと思い込み92式多目的自律誘導弾システムに搭載してる弾頭ミサイルで伊隅機と速瀬機に目掛けて放った
そして……
「頂き!」
伊隅機に目掛けて2連装突撃砲で36mm弾を放つが躱される
「そこよっ!」
速瀬機に背後から回され0距離で120mm弾を放とうとしたが次の瞬間、稲妻みたいに光り肉眼では見えない速さで速瀬機を狙い撃った
《速瀬ッ!高度を下げろッ!》
《――えっ!》
突然の長距離射撃警報が鳴り速瀬機は即座に躱す
《くぅッ!……》
レールガン……鈴乃か!
《避けられたか……!早乙女少尉。これを預かるぞ》
《了解です!》
早乙女機はサブアームで94サブレッグのレールガンを掴む
鈴乃が乗る94サブレッグはサブレッグに懸架された専用コンテナに収納している突撃砲を握り構える
俺…ではなく鈴乃に向かってくるのはさっきから一番動きが良い隊長機。伊隅大尉の不知火だ。
拙い、鈴乃がやられる!
《同じ不知火で幾ら動きが速いだろうと…》
94サブレッグは跳躍ユニットと同時にブースターユニットを噴出し伊隅機に36mm弾を放つ
《対応力が遅かったら意味がない!》
大型追加装甲を伊隅機に投げつけ突撃砲を収納し急接近しナイフシースで短刀を握り切りかかるが振り下ろしてきた伊隅大尉が乗る不知火の長刀を短刀で弾き返す
94サブレッグと大尉の不知火が鍔迫り合いを演じている。不知火の長刀と94サブレッグの短刀の激しい摩擦熱で火花のようなものが散る。
弾き返した後、今度は此方から伊隅大尉に切りかかる
《くっ……なんて重い一撃だッ!こっちは演習用の長刀だというのに短刀一つで…》
短刀で長刀を受け止める
《駒木を倒したのは貴女だったとは……やりますね。流石国連軍のエースというべきか》
《駒木……?クーデターに参加した衛士か》
《鬼籍になった坂崎大尉に代わり私、大倉鈴乃が貴女を……倒す。貴女を倒させて貰います!》
鈴乃は気迫ある表情で伊隅機を襲い掛かる
《大尉ッ!こちら速瀬中尉と交戦中。其方は》
《早乙女か!貴様は速瀬中尉を抑えろ》
《了解です!》
おいおい、俺の役目はどこ行っちまったんだ!?
伊隅大尉は鈴乃に任せよう
俺は他の連中とやり合うぜ
「残ってるのは伊隅大尉含め、速瀬、風間、宗像、柏木に涼宮だけか」
よぉし、早乙女は速瀬に食いついたか
紅林と鬼頭は風間と宗像
俺は柏木を撃ち落とす!
レーダーで探知して敵機の位置を確認する
……俺はにやりと笑みを浮かべ操縦桿を握りフットペダルを踏み最大全速で2連装突撃砲で120mm弾を放った
「逃がしはしないぜ!」
柏木機は俺が放った弾を躱した
油断してるうちに左腕に装備してるロケットランチャーで弾頭を躊躇いもなく発射し柏木機に直撃
柏木は脱落した
「さぁて、誰の援護しようか?」
鈴乃は圧されてないみたいだ
となると……
「紅林と鬼頭だな」
あの2人に関しては……どうでもいいか
俺は早速、御二方の援護に向かう
残機は、俺含め鈴乃、早乙女、紅林、鬼頭だけか
乱戦状態ってか……
とりあえず俺は紅林と鬼頭のところに向かった
まどかSide
《さぁて、佐渡島の衛士としての腕前、見せて貰いましょうか?》
「――望むところです。速瀬中尉」
長刀を構えた私が乗る専用機が近接の間合いに踏み込んでいく。
「ッ!早い」
紙一重でギリギリ躱す。
ここで足止めさせて……長刀を振り回す
しかし、速瀬機は躱し続ける
頭部、両腕、両足、管制ユニットに向け長刀を切りかかるがそれも外れ躱される
《何処狙ってるのかしら?》
そう言って速瀬中尉は銃口を向ける
申し訳ありませんが、ここで摘ませて貰いますよ
そう言葉を投げた同時に速瀬機は空を裂いた
《日本帝国本土防衛軍の早乙女まどか少尉!アンタ本当に強いの?撃震で不知火を挑むとは良い度胸してるじゃない!》
凄まじいスピード、距離が一瞬で0になる
《ほらほら!最短距離で終わりよ!》
《くっ…!》
速い!これがXM3……
拙い、管制ユニットに当たりかける。
がまだ動ける
今まで長刀使いや短刀使い等は散々見てきた
《スピードアップよ!この連射はどうするかしら?》
速瀬機は120mm弾を放つ
ギリギリで躱したが、こんなに速く射撃する衛士は見たことがない
くっ…こんなの躱しきれる筈がない
「…ッ!」
悔しいですが才能が違う……操縦テクニックが私とは違い過ぎる
異次元のスピードに加えて速瀬機の射撃は変幻自在
《突撃砲ばかり気を取られちゃあダメよ》
「ぐぅ…!」
悔しい……速瀬美月は頭までキレキレです
そして速瀬機が放つ120mm弾が私が乗る専用機の頭部を貫いた
《止まって見えるわよ!捉えたわ!》
「がああああああ!?」
頭部が損壊しメインカメラがやられた
「良い射撃ですね」
《ふふ、ごめんね。恨みはないけどアンタを脱落して貰うわ》
ここまで来れば嫌でも分かる。スピードと射撃センスに差があり過ぎです
本当に理不尽ですね……この戦争は
私は生きるか死ぬかの修羅場を潜って潜って乗り越えて坂崎中隊長の遺志と大倉大尉の願望……やっと少し強くなれたのに
速瀬中尉は頭もキレて、こんなに強い
《いい加減墜ちなさい!このおお!》
「ぐっ…!」
左側の跳躍ユニットがやられた……更にスピードが上がってくる。不平等過ぎますよ
速瀬機の攻撃は防御することが極めて難しい
《アンタは何の為に衛士になったのよ!蹴りを食らわしてあげるわ!》
「ぐがああああ」
何とか放たれた弾を外したが、いつかは必ず捉えられる……!
……そうよ、私には才能がない。
坂崎中隊長や大倉大尉、草野少尉、村田少尉、沙霧大尉に……駒木中尉
衛士には向いてなかったのかな……そんな事は知ってますよ
「そろそろ……決着付けさせて貰います…」
《よくそんな状態で言えるわね。じゃあそうさせて貰うわ》
だが、衛士には向いてない人間には衛士には向いてない人間の戦い方があるのよ
分かりますよ、速瀬中尉…無傷で私を完封できると思っているのですか?
《少し痛くなるけど、抉らせて貰うわ!》
「ぐぅぅぅ……っ!」
才能のある衛士はいつだって一方的に勝てる
速瀬中尉、貴女は本気でこの模擬戦で実戦に活かして命を差し出せるか……
「……かかってこい!速瀬美月ぃぃぃぃぃっ!!」
腕がなくなっても足がなくなってもBETAに勝ちたいと思えるか
《遅い!抉らせて貰うわ!》
「!」
サブアームで掴んでるレールガンを握り構える
《――ちょーっとこれは拙いかもね》
サブアームで速瀬機を掴む
「捕まえた……」
掴んだ瞬間、握力を緩めなかったら抜けない
「速瀬中尉…貴女は将来有望で欲があります。だから……」
私は怖い顔で速瀬中尉を威圧する
《!》
「貴様はここで脱落しろ!」
「拙い、なんて力なの……抜けられない」と悟った速瀬中尉は少し不安な表情を浮かんだ
千載一遇のチャンスです…死んでも離しません!
こうなったらスピードは関係ない
「貰ったああああ!!」
《ぐああああああ!?》
ナイフで速瀬機の管制ユニットに向けレールガンを放つ
捉えましたよ……これでイーブンですよ……。
これは坂崎中隊長に習った奥の手
(早乙女、才能がある衛士は無傷で帰ろうとするんだ、その時は相打ちに持ち込むんだ)
(え?でも自分がやられたら…)
(馬鹿者!それをやれなかったら手も足も出ず貴様が死ぬだけだ。対人戦でやり合った時は気合いが入ってる方が生き残る。それをよく覚えとくんだぞ)
この話を始めて聞いた時は正気の沙汰じゃないと思った。
《ぐぅぅッ!……うぅッ!》
「ぐぼぉっ!」
互いに吐血ですか…結構深くいきましたね
もう一回やったら確実に死ぬ
模擬戦の途中で死ぬなんて…情けない
だが、私は逃げない!これしかない
速瀬中尉の顔色が真っ白に変わった
「隙が出来ましたね……これで」
速瀬機をサブアームから離しそのまま放り投げる
バランスを崩す速瀬中尉の不知火。
ゆっくりとゆっくりと墜落し地面に叩き付けそのまま倒れていった
《――速瀬機、管制ユニットに直撃と判断。致命的損傷、機能停止》
ヴァルキリーズのCPである涼宮中尉が速瀬中尉に告げた。
鈴乃Side
伊隅大尉の不知火と激しい撃ち合いをしている最中、ムーア中隊CPである根岸から報告が入る。
《大倉大尉、早乙女少尉が速瀬中尉を撃墜しました》
「――ッ!……ん?早乙女が速瀬中尉をやったのか」
「速瀬がやられたか。馬鹿者め……だが、大倉大尉……私を倒せると思うなよ?」
お互い縦横無尽に動き回る。
「(少しずつ圧されているが、ペースを落としてそこから120mm弾を)」
私はサブレッグのブースターユニットを噴射し上昇しつつ収納している突撃砲を握り構え120mm弾で発砲
弾が外れた、駒木を倒されたのも無理はない
射撃は正確、スピードは上がって距離を詰めようとしている
同じ不知火だぞ、そんなに変化はない筈……いや、違う。あのヴァルキリーズなら性能と出力が従来の不知火とは違う
機転を利かして戦ってる……与えられた任務を最優先する典型的な指揮官
そう撃ち合ってるうちに時間が経つばかり、そろそろ息遣いが荒くなってきた
ほんの一瞬の隙も見逃さず
「ッ!?」
「っ……!今の射撃も躱すか」
「(1対1か……相手は駒木を倒した伊隅大尉。そう易々と引き下がる訳はない。仕掛けるポイントは……)」
私はサブレッグのブースターユニットを噴出し最大全速で突撃砲を握り構え左旋回
「(左から回る!)」
網膜モニターで突撃砲の残弾を確認し伊隅機を捉えた
「そこだッ!」
36mm弾を放つ
しかし、躱される
焦りを感じ態勢を崩し伊隅機も反撃に出る
「!」
「伊達にヴァルキリーズの隊長務めてはいない!」
伊隅機が放った120mm弾が94サブレッグの命綱とも言われるサブレッグ左側を損壊
「サブレッグが…」
もう片方のサブレッグで右へと方向転換しつつ噴射しもう一度突撃砲を握り構え発砲
左腕に命中!
「くっ……!佐渡島の衛士は普通の衛士ではないというのか」
「(相手の態勢が崩れていない……ここまでか)」
突撃砲の残弾は5……予備のも含めてだ
近接戦闘をもう一度挑むしか
そう考えた直後、中破した早乙女機が94サブレッグに近づいた
ボロボロになった機体でよくここまで持ち応えたな……。
《大倉大尉、遅れて申し訳ありません。レールガンを返却します》
そう言った後、早乙女機は握り構えてるレールガンを94サブレッグに渡し返す
「感謝する、早乙女少尉。貴様は退くんだ」
《了解です》
早乙女機は大人しく退却した
「形勢逆転ね……」
「いい気になるなよ……」
伊隅機は94サブレッグに向かって最大全速で距離を詰める
「悪いが、脱落させて貰う!」
レールガンを握り構え伊隅機に目掛けて………!
「こっちこそそのままそっくり返すわ!」
放った
「ッ!此奴!」
直撃は出来なかったものの、時間が経つうちに推進剤はもうそろそろ限界に近付いてきた
私も含めて……舐められたら同胞団の長なんかやっていられない
「……レールガンの残弾はまだまだいけるが、推進剤は」
推進剤がなくなる前にレールガンを握り構え再度伊隅機に照準を向ける
《――こちらムーア4、今のとこ……レーダーに感あり!これは……》
紅林からの通信が来た
《ムーア5がやられそうです。援護要請を!》
「それは出来ない、早乙女機が速瀬中尉との戦闘でボロボロになった。真面に戦える状態じゃない」
《なら腕っぷしでやります、衛士の方である涼宮少尉は俺が拳で倒しました》
「……」
《その必要はないぜ!》
悠一の声だ
「ムーア2、現在地を」
《やっと紅林のとこに着いたからよ。一気に叩くぜ》
残るのは伊隅大尉、風間少尉、宗像中尉の3人
「分かった、風間少尉と宗像中尉の相手は豊臣、貴様に任せる」
《OK☆そうと決まれば徹底的に行かせて貰うぜ》
「……頼んだぞ」
あとは悠一に任せよう
もう片方のサブレッグを外し、レールガンを握り構える
「機動力は50%になったが……まだいける。サブレッグを失ったらただの不知火だ」
ツインアイが光り、態勢を崩さずそのまま突っ込む!
伊隅機は突撃砲を捨て長刀を握り構え、此方に斬りかかってくる
「ふふふ……」
私は嘲笑い、トリガーを引きレールガンを放った
「!」
伊隅大尉の不知火の管制ユニットに直撃。
《伊隅機、管制ユニットに命中。致命的損傷と判断、機能停止》
涼宮中尉が通信でそう告げた。
《――状況終了。模擬戦の結果、ムーア中隊の勝利となります。お疲れ様でした大倉大尉》
根岸曹長が通信でそう告げ激励の言葉を放った
「……風間、宗像は紅林を抑えられなかったか」
「……すいません大尉」
「2人共、紅鬼を甘く見たな」
「紅鬼……紅林二郎!?あ、あの帝国軍の……いや衛士訓練生の時に他のグループにいる衛士候補生達と喧嘩し一度も負けたことがないあの紅林なのですか?」
「知っていたか。まぁ……事前にそれを教えれば2人共プレッシャーになるかもしれないと思って言わなかったのだがな」
「……そういうことでしたか」
「とりあえず理由は後で聞く」
「「――了解ッ」」
国連軍副司令直属の部隊『ヴァルキリーズ』との模擬戦……勝ちはした。
しかし私は何故か釈然としなかった。
伊隅大尉が八百長で態と負けたのか?それとも本気で戦ったのか?
それは私には理解出来なかった
模擬戦が終わり、94サブレッグの推進剤切れと跳躍ユニット、左側のサブレッグが損壊で自力での帰投は難しかったので私は悠一の94フルアーマーに簡易ベルトを着けて2人乗りで格納庫へと帰投した。
94サブレッグはトレーラーに積んで回収するとの事だ
「――悠一」
「どうしたんだ?鈴乃」
「――今日助けられた分は必ず返す」
そう力強く私は悠一に言った。
「へへ、気にすんな。俺は俺の役目を果たしただけだ」
「……」
「そんなのは良いよ。同じ中隊の仲間だろ。助け合うのは当たり前さ」
「……借りっぱなしというのは私自身がどうも嫌で、恩返ししたいの」
「……鈴乃」
格納庫に機体を収容し、機体から降りると崇宰大尉と根岸曹長が迎えに来てくれた。そして2人の前に私達中隊は集合した。
「お疲れ様です皆さん、まさか副司令の直属部隊に勝てるとは思いませんでした」
「そうね。みんなよくやってくれたわ。……特に大倉大尉、よく伊隅大尉を抑えててくれたわね」
崇宰大尉が労いの言葉をかける。
「――はい」
「ん……どうしたの?」
気の無い返事をしてしまった。
勝てた事は私は心の底からは喜べはしなかった。あの状況に陥るまでにもっと私には出来る事があった筈だ。動き回って94サブレッグに負担をかけさせたのもその要因の1つだ。
「……いつもの鈴乃なら『私の実力だから当然』だろ?みたいなこと言うと思ったぜ」
悠一は少し笑みを浮かべてこう言った。
「……まぁまぁ、いいじゃないですか。きっと伊隅大尉との戦いで疲れているでしょう。94サブレッグはとりあえず部品の強度にまだ問題があるというのも今回の模擬戦ではっきり分かった事です」
と早乙女少尉は言ったが、貴女の撃震で不知火を挑んだのは勇気ある行動だ
捨身の戦法は恐らく都から教えられた。私はそう確信している
次の相手はB207小隊
無傷で収容した機体は僅か3機
……棄権するしかないな
XM3トライアル演習の成績だが、第一演習場にいるB小隊が圧勝
新米衛士とは思えない動きで、先任達を圧倒していた
一方、第二演習場は我がムーア中隊の圧勝だが、伊隅大尉率いるヴァルキリーズとの模擬戦で激しく消耗しており、次の模擬戦の開始まで出撃できる機体は先程言った通り3機しかない。
「紅林少尉、鬼頭少尉、佐竹、早乙女、豊臣少尉。1時間後、ブリーフィングルームに集合だ」
「え?俺まで…何でです?」
佐竹は疑問抱く
「大事な話を含めて、他の部隊との模擬戦闘を観戦だ」
「はぁ……」
とりあえず、ブリーフィングルームに集合かけた
彼らには話すべき事が山ほどある、ズルズルと引き摺る訳にはいかない
1時間後
国連軍 横浜基地
ブリーフィングルーム
私は強張った顔で、モニターに映ってる他の部隊との模擬戦闘を観戦しながらここにいる皆の前に話し出した
「今回の模擬戦闘、御苦労だった。これで我々は新たなる希望を見出す力を手に入れたことを意味する」
佐竹は「はぁ」と溜息をつき他の皆は頷く
早乙女は口を閉じたまま沈黙を貫いた
「XM3搭載機の動きどうだった?」
紅林が真顔で私に言い放つ
「はい、最初はGに耐えられるか心配だったんですが乗り心地は従来の戦術機と何も変わりません。ただ以前より動きが速くなりました」
紅林もそう思っていたか
「端的に言えば、撃震でアレは驚異的だと思います。大尉」
ほぅ、鬼頭もそういう風に捉えたのか
「俺も御二方の意見と同感です。改修を重ねているとは言え、撃震は鈍重な第一世代機。それがあれだけ身軽に動けば凄いとしか言えません」
悠一は淡々と言った。
佐竹は不安そうな表情で私に問いかける
「大倉大尉達が搭乗してる機体は不知火ですが、第三世代機で動きもいい筈ですがあまり差がなかったような気が……」
佐竹が言ったことは一理ある
差がない…か。
「佐渡島に配備された撃震の訓練は沢山見ましたが、あんなものじゃなかったですよ。ガッチョンガッチョンガッチョンと機体の重さの影響だからか動きが遅かったですね」
「ん?佐竹はXM3搭載の機体を配備され戦線へ投入する意味は全然あったと言いたいのか?」
「鬼頭さん、そういう意味になりますね」
このXM3搭載の戦術機が世界各国に広まれば、戦況はガラリと変わっていくに違いない
「それに、幾らXM3になれてるとは言えB207小隊のスコアがダントツですね」
「白銀武だったか?」
「ええ」
「操縦技術は見た事ないが、機体の特徴や欠点を見抜いて一人の少年が国連軍の副司令に直談判してまで新しいOSを作った事は凄いよ」
「完全に能力を引き出してるのが丸分かりだと言いたいんですか」
佐竹は白銀がXM3の考案者だと信じていないらしい
佐竹には悪いがこれは事実だ、受け止めろ
早乙女が口を開き真っ直ぐな目で私を見つめつつ話しかけた
「大倉大尉、少しよろしいですか?」
「何だ?」
「申し上げ難いのですが、白銀武は何やらせても無双かと」
「白銀本人はどう思ってるかは分からんが、個人的な考えではそうなるだろう」
「午後の部は参加するんでしょうか?」
「いや、棄権しようと考えてる。国連軍の戦術機を借りてまで模擬戦に挑みたくはない。部品交換や修復は時間がかかる。開始時間まで間に合わないよ」
「そうですか…午後の部は観戦するだけですね」
早乙女は残念そうに落ち込んだ表情を浮かべていった
「でもこれでBETAを倒すのが楽になると思いますし死ぬ確率も減少しますよ!」
と紅林はそう言って、私は左手首に付けてる腕時計の針を見て時間を確認し凛々しい笑みを浮かんだ
「言いたい事は山ほどあるが、その前にPXで食事を摂るぞ。食べる時間が無くなるからな」
私達はPXで食事をした後、午後の部の模擬戦闘が開始され暫くの間、拝借した会議室でその模擬戦闘の様子を観戦した。
恐らく誰もがXM3を認め、各国の軍隊での採用を願っていたと思う
対抗戦による評価も、勝敗は勿論だが、生まれ変わった機体を存分に味わう機会になり、どの部隊も午前とは比較にならないぐらい動きが洗練され、OSの新概念に衛士が慣れてきた事が伺えた。
この演習は大成功。誰もが未来への希望を見出して明るい気持ちで終わる――――筈だった。
安堵したその時、警報が鳴り響く
「何だ!?」
「!」
「これって…」
「警報が鳴ったって事はまさかBETAがここに来るって事か!」
佐竹は困惑し深く思い込んだ。
BETAの行動は人間には予測できない、そして同時にBETAの定期侵攻はいつやってくるかわからない。この演習期間中にBETAがやってこない場合だってある。
それが今、現実となってしまった。
悠一は即座に格納庫に向かう
「何処に行く!?」
「まさかBETAが現れるだなんて予想してなかった……俺は一足先に強化装備着替えて機体に乗り込む!鈴乃、今やるべき事は分かってるだろ?」
分かってるよ、それくらいは
「紅林、鬼頭は機体に乗って出撃準備を。私も出撃する」
何故BETAが横浜基地に現れたか分からないけど、出てきた以上完膚なきまで潰す!
悠一Side
《HQよりホーネット3、詳細を報告せよ!》
《―――第二演習場トライアルエリア2にコード991発生!目視確認で3体!それ以上は不明ッ!》
《HQよりホーネット3、現在即応部隊が出撃準備中、敵の侵攻を阻止せよ!繰り返す敵の侵攻を阻止せよ!》
《馬鹿野郎!こっちは丸腰なんだ!ハンガーまで下がらせろ!》
《繰り返す、敵の侵攻を阻止せよ》
《―――クソッタレ!分かったから早く武器よこせ!》
クソ!格納庫で機体に乗り込みコクピットハッチを閉めた途端で他部隊の通信聴くと揉め事か?
こんな時に…大人しく従え!
《―――HQより各部隊へ。防衛基準体制1へ移行。繰り返す、防衛基準体制1へ移行》
《HQより演習参加中の各部隊へ。演習は即座中止。ソード、クラッカー、ストームの各隊は、ホーネット隊へ合流し――》
一体何が起こってるんだ!
冗談じゃない……と言いたいが俺はユーコン基地でBETAと交戦した経験がある
その中にある研究施設でBETAが放たれたんだ
笑い事ではない、これは
《エリア3のシャーク、ファルコン、ムーア、B207の各隊は即時合流し、敵の侵攻を備えよ》
画面モニターから根岸の姿が映った
《豊臣少尉、我が中隊の機体の中で唯一無傷なのは94フルアーマーと紅林機、鬼頭機だけです。敵は3体です。御武運を》
「…了解だ」
フットペダル踏み込もうとした時、佐竹が介入する
《豊臣、機体に傷付けるんじゃないぞ。修理やメンテが大変だからな》
「分かってるよ、んじゃ行ってくる!」
フットペダルを踏みこみ跳躍ユニットを噴出させ加速を上げそのまま出撃
「豊臣悠一少尉、94フルアーマー出るぞ!」
軍規に縛られてる状況じゃ真面な思考回路ではないな
紅林機と鬼頭機が94フルアーマーに近づく
《少尉、我々も御供します》
《大倉大尉を悲しませる訳にはいかない。君もそうだろ?》
「紅林…鬼頭…お前ら…」
と俺は涙ぐんでたが、そうは問屋が降ろさなかった
被害に遭った演習場に着くと、そこには溢れかえるBETAの群れでの光景であり部隊マーカーが次々と消えていく
これは訓練ではない、ただのデータでも何でもない!
実質にマーカーが消える度に………人が死んでいく……ッ!
おかしいだろ!?みんな経験者の筈だ!
凄腕の衛士の集いだったと思ったが、モブキャラみたいにあっさりと死んでいく
がっかりだぜ、一部の部隊を除いて
そうだ、BETAは俺達を戦争の魅力を強いられて取り込もうとしている
だから意図も簡単に衛士達は消えていくんだ
このままでは基地がやられてしまう
「……俺達は…俺達は生きて絶対に……!」
既に覚悟を決めていた、この世界に転生した後色々とあったが守るべき人が出会った
死んでいった衛士達の為に俺は、この戦争を……94フルアーマーで……!
「絶対に生きて帰る!恭子…鈴乃…もう誰も喪わせない!都の仇を取るまで俺達は死ぬわけにはいかねぇんだよ!!!」
そうさ、これ以上喪わせたくない!
「これ以上破壊させて……たまるかあああああああああっっっっ!!!」
だが、突然の事で情報は錯綜、指揮系統も混乱、その結果、実践装備に換装出来ない戦術機が続出。
決して多くはない数のBETAに翻弄され、残骸の山を築き、極東最大の国連軍基地は図らずも微弱さを露呈していった。
俺達もその残骸の仲間入りを果たそうとした、まさにその時―――。
上空から飛来する一団があった
《――ヴァルキリー全機、BETAを狩れ!一匹たりとも逃がすんじゃないぞ!!》
《了解――》
横浜基地司令部直轄の特殊任務部隊、A-01部隊―――通称ヴァルキリーズ。
圧倒的な強さでBETAを駆逐していく戦術機が本当の実力……そういう存在だと知ったのは、事が終わった後だった。
「そっちはどうだ?」
《大丈夫だ、BETAはいないようだ》
《此方も異常なしです。豊臣少尉》
紅林と鬼頭が無事で何よりだ
鈴乃が現場に到着したのは事が終わった後だった。
国連軍カラーの撃震だ
《遅れてすまない、機体を借りる手続きが手間がかかってしまった……佐竹が、借りる機体を間違えて御覧の有様だ》
つまり時間がかかったって言いたいんだな。
《佐竹は佐竹でヘマをする部分あるからな》
鬼頭は呑気に笑う
《しかしこれでは…俺達以外は安心して調査も出来ないかと》
紅林が言ってる事は一理ある。
後始末が大変だな……面倒なのは分かる。
《いついきなり瓦礫の陰からBETAが現れるか分からないからな……怖いと思わないか?》
まぁ、確かに…鈴乃も油断は禁物と自分の心で釘を刺す
《絶対安全領域…と思った場所に酷い目に遭ったな。無理もない……佐渡島の住民達も、あんな風に喰われたんだ……亡くなった人達の事を思うと悲しいと思ってる》
安全だと思った住民避難用シェルターが瓦礫の陰からBETAが入り込み、何人何十人喰われたんだ。
全く……一体誰が基地にBETAが現れるなんて予想できるんだ?
ふと思ってると鈴乃から秘匿回線が繋がり交信した。
《御二方に不安させたくはない。悠一、ユーコン基地での出来事覚えているか?》
「ああ、基地内にあるBETA研究所から流出されたんだろ?」
《これは個人的な推測だが、真面目に聞いてほしい》
ん?
《おかしくないか?》
「?」
《BETAがこの基地に現れたのは研究所がテロ襲撃され流出……恐らくキリスト恭順派の仕業だ》
テオドール・エーベルバッハ……!
彼奴が、仕掛けたっていうのか!
《彼の行動は表裏関係なく居場所ですら掴めていないんだ》
彼奴は、ベアトリクスにとっては因縁の相手であり『人類の敵』だ
早く…葬りたいのだろう
彼の行動だけは予想できない
これが今の現状だ
俺達は戦術機を操縦してるだけであって気にせず行動できる
いきなり襲われたって死ぬなんてない。
その上、強化装備を着て本物の機体の管制ユニットにいると来たもんだ。
そのおかげだからか他部隊のデータリンクは異常なし。全方位的に状況を見渡せる。
この安堵感がどれほどのものか、初めて知った。
BETAと戦った事は何度もあるのに、こんな思いしたことがなかった。
逆に言えば各国の衛士達が今までどれだけ身体を張っていたか分かる
唯依がXFJ計画を遂行し新たな戦術機の開発に感じていた意義は今ならわかる気がする
俺達が想像する以上の機体だろう……。
「…約一部隊、ガシガシと凄く動いてるのがいるぞ」
《ああ、『みんな』を助けてくれた衛士だろう》
『みんな』ね……。
ここは国連軍基地だからアメリカ人やドイツ人が一人二人いてもおかしくはない。
はは、戦術機のワールドカップだ。
《機体も違いますしエリートって感じしますね》
《そうだな…我々もよりよくテキパキと動かなきゃならないな》
鈴乃は紅林に対しこう言い返した
《紅林、不知火という戦術機の意義は分かるな?》
《94式戦術歩行型戦闘機……撃震、陽炎に続いて自国で開発した世界初の第三世代機…ですね》
《そうだ、横浜基地ではあの部隊しか配備されてない》
ヴァルキリーズの事を指してるな。
確かにあの部隊だけは特別扱いに近い
謎の戦術機部隊で闇深い。
《他の部隊と違って悪く言えば独占しときたかった。そう解釈するしかないですね》
鬼頭はスラスラと考察した
《国連軍では、その基地が建設された国の戦術機を配備するのが通例だそうだ》
鈴乃は冷静に解説し小さな笑みを浮かべる
渡したくないけど渡さなきゃいけないから数を絞った
だが1機2機渡した時点で同じじゃないか?
《詳しい事は分からんがな》
「気持ちは分かるけどよ、だからって撃震や陽炎みたいな機体を増やしてもな……機体の特徴や性能、出力、機動性、火力を考慮しないと動く棺桶だぜ」
《……撃震を見縊らないで頂きたい!》
ヤバ…怒らせてしまったか?
《確かに第一世代機であり旧式化となりつつ現役でまだ活動しているが、そのまま運用してる訳ではない。改修を施しかなり性能が向上している。がどんな機体であろうが必ず欠陥が出てくる。それでも現場で直行する衛士達は誇りをもって戦っている。今に至っては世界各国の戦術機ランキングでは常に上位だ。安全性、性能、機動力、シンプルな武装…全てにおいて高評価を得ている。開発に携わった技術者が汗水垂らして…》
ベラベラと長話し始めた鈴乃は撃震という機体の素晴らしさを語る
10分間だ
《…という事だ、分かったかな?》
全部理解した…とは言い切れないが、紅林と鬼頭が呆れ返ってる
《では一つ質問するぞ…豊臣少尉》
「はい!」
《本気で闘ったとして、熟練の衛士が操縦する撃震に敵うと思うか?》
そう言われると無理ゲーだ。
都ですら倒せなかったんだぞ
「……無理だ」
《俺は倒せると思います》
紅林が割込み答えを言い放った。
その自信どっから来るんだよ
《それは本気で言ってるのか?紅林》
《自分は元々整備兵です。機体の特徴はよく理解しています。武器がなくても腕っぷしでやれば何とかやれます》
まぁ、ヴァルキリーズの不知火を武器なしで脱落させたからな
《やり過ぎるとマニピュレーターが壊れるぞ、自分で改修してるなら私は構わないがな》
《豊臣少尉が呑気なだけで楽観的に考えてるように見えますね》
ぐ……!
言ってくれるじゃねぇか紅林
《大丈夫だ、私はお前の事を頼りにしてるからな》
鈴乃はクスっと笑みを浮かび俺に激励の言葉を放った
《そろそろエリアに移動する……ん?》
「どうした鈴乃、何か異変あったのか?」
《おい、あそこにいるのは……白銀武か?》
ん?
網膜モニターで確認すると、座り込んでる白銀と後ろ姿のまりもがいた。
《あ、本当だ。あの吹雪、白銀少尉が乗った機体でしょうか?》
《そうだろうな》
《なんて酷い……あれでよく生きてたな。まるで佐竹みたいだ》
おいおい、どういう意味だよ
白銀武がアンデッドマンだって言いたいのか?
それにしても落ち込んでるな――――まりもが話しかけている
だが怒られてる感じではない…
《無茶でもして戦術機を壊したな…あれは。佐竹みたいだ》
鈴乃、お前までもか!
とことん弄られてるな佐竹……察するよ。
《状況が状況だから仕方がない》
鈴乃は複雑な表情を浮かべる
《コクピットの中でじっと見ているだけではつまらない。大倉大尉、白銀武と神宮司軍曹の会話が気になりますが会話の傍受許可を》
鬼頭は白銀とまりもの会話を聞きたいと許可を得ようとした
気にはなるけどよ……プライベートの侵害にならないか。
《はぁ、仕方がないな。却下しても鬼頭は駄々捏ねるかもしれん》
許可を得たぞ…いいのかよ大倉中隊長さんよ。
《マイク感度最大にしろ。静かにしろよ》
「りょーかい」
俺は軽い返事を躱す
2人の会話を傍受しようとしたその時、まりもの背後から兵士級1体がそろりと近づいてきた
「…待て!神宮司軍曹の後ろからBETAがいるぞ!」
《!…》
鈴乃は察したようだ。
早く助けないと…そう思いつつ操縦桿を握り突撃砲でまりもの背後にいる兵士級を銃口に向けた。
《神宮司軍曹、早く逃げろッ!》
しかし整備不良なのか撃震の動きが遅い
ダメだ間に合わない!
《悠一ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!》
鈴乃が俺に合図し俺の94フルアーマーの二連装突撃砲で兵士級に向け120mm弾を放った。
―――やったか!?間に合ったのか!?
狂乱状態になった白銀が叫び荒れ始める
「―――うああああああああああああああ~~~~~っ!!!!」
―――ッ!!?
ヴァルキリーズの不知火3機が現場へ駆けつけその長である伊隅大尉が白銀を呼び掛けた
《―――おい大丈夫かッ!?しっかりしろッ!》
―――何がどうなってやがる!?
《――ヴァルキリー2、貴様はそいつを見ておけ!ヴァルキリー6、貴様は周囲を警戒!防疫班と医療班の到着を待てッ!》
《了解!》
《了解!》
《残りはついてこい!それから貴様!深緋色の不知火の衛士……豊臣少尉!》
御指名されたなこりゃあ。
黙ってはいられない、返答しよう
「ああ、大丈夫だ!!」
《良い腕だ》
誉め言葉として受け取っておくぜ、伊隅大尉
伊隅大尉やその部下2人が乗る不知火が現場から去った後、白銀がまりもの生死を彷徨い大きく叫び声をあげた。
「―――まりもちゃんッ!まりもちゃんッ!まりもちゃあぁぁんッ!!」
《―――おい貴様ッ!やめろ!それに触れるなッ!》
「――まりッ――まり――うあああああああッ!!」
事が終えた後、俺達は横浜基地に戻り乗ってきた機体は格納庫に収納し管制ユニットから降り強化装備のまま話し合いをしていた。
「…神宮司軍曹は一体どうなったんだ!?」
鈴乃は詳しい表情で言い放った
「分からない…別の不知火や装甲車の陰になって、見えなかった」
……。
「気になるなら聞きに行きましょうか?」
と佐竹はこういうが、どんな顔で合わせればいいんだ?
「佐竹よ、万が一にも万が一だったらどうするんだ?」
鬼頭は佐竹を咎める。
確かに一理はある……が確認しない訳にはいかないよな
「それはともかくだ、ここにいてもする事はないしとりあえず一度部屋に戻ろう」
「だな。一度着替えて部屋に戻ろう」
どれくらい時間経っただろうか
横浜基地は今慌ただしい状態となっている
白銀達もあの光景を見て驚いただろう
………まりもは、今どうしてるだろうか?
借用してる会議室の中でムーア中隊の面々がコーヒーをゆっくり飲んでる途中、慌ただしい表情の佐竹と複雑な表情を浮かんでいる根岸の2人が鈴乃の元に駆け寄り現状報告する
「大倉大尉、朗報です!神宮司軍曹は生きてます!」
鈴乃は佐竹の言葉を聞いた途端、脳裏で『?』を浮かぶばかりだ
「すまない、詳しく聞かせてくれないか?」
とそっけない表情を浮かんだ。
根岸が佐竹の代わりに報告する
「博文下がってて。大倉大尉、神宮司まりも軍曹の生死についてですが」
「神宮司軍曹がどうしたんだ?」
………。
「今はICUで徹底的に検査と治療を受けています。病状次第すぐ回復するかと」
生き延びた……のか?
根岸は報告終えると安堵な笑みを浮かんだ
「ん?」
早乙女はキョトンとしつつ小さな笑みを浮かべる
俺も、少し安心してホッとした
「神宮司軍曹、無事だったんだな」
「はい!これも大倉大尉達がギリギリのところで救助したおかげですよ」
と根岸は言ったが、鈴乃は小さな笑みを浮かべる
「いや、私は陰で見えなかった。悠一が神宮司軍曹を救ったんだ。それを誇りに思え」
俺は……やっと一人前の衛士になったんだな。
嫌われ者だった俺が……結果を示したんだ。
「それでみんな様子がおかしかったんですね…」
佐竹は少し安堵な表情を浮かぶ
「まぁ、そういうこったぁ。俺は一人の衛士の命を救った……でもその事を受け入れられない連中がいる。言われっぱなしでは何も出来ませんでしたっていうのは言い訳にしか捉えられねぇ」
俺がそういうと鈴乃が誇らしい笑みを浮かびながら言い放つ
「では私から言わせて貰う。『みんな』は神宮司軍曹を救い出した。ただ、36mm弾の直撃を受けたBETAは原形を留めない程破壊されて、軍曹はその残骸の中に埋もれてしまった。最初は不安の気持ちがいっぱいだったけど、ちゃんと救出された!そうだな?根岸」
「はい!」
そうか、白銀が半狂乱で叫んでいたのは、そういう事だったのか。
「ただ、BETAの体液を全身に浴びてしまいましたから…」
精密検査が必要って訳だ。
体液を浴びて死んだ例がある訳でもないが……溶解液や硫酸で皮膚が爛れ体が溶けて死んだ例がある
きっと大丈夫だろう、大丈夫だ。
「皆は安心して、終わったことを喜べ。さあ、カップを持って…」
鈴乃はコーヒーカップを持つ乾杯する
「よく頑張ったな!そして生還おめでとう!カンパーイ!」
鈴乃は祝杯の言葉を言うと、皆揃ってコーヒーカップを持ち乾杯した。
……終わったのか。そうか、終わったんだ。
終わったんだ……。
……いやまだ終わってない。彼奴との決着をつくまで舞台から退場する気はない
平和ってのは戦争が始まる前のインターバルだ。
まだ終わらないこの戦争を、藻掻き足掻き俺達は人類を救おうとしている
それだけは事実だ
鈴乃Side
―――実のところ、XM3トライアル演習でのBETA奇襲では、私達の預かり知らないところで多くの犠牲者が出ていた。
あの瞬間、まさに横浜基地は戦場だった……刹那の判断が生死を分けるといった事が至るところで見られた
即ち神宮司まりも軍曹の生還は、単なる戦場でのよくある一幕で過ぎなかった。
私と悠一、紅林、鬼頭、佐竹、根岸。その他諸々もそれを理解していなかった訳ではない
ただそれでも、目の前で死に直面していた人間を救うことが出来た充実感は、私達の心に深く刻み込まれていた。
特に、悠一は私の人生の中で最も深い関係まで至った男だ。
想いは相当強かったかもな……。
最初出会った時は口が軽い男だったが、今に思うと口が軽いだけでなく衛士としては嫌われてるが戦術機の操縦センスはある。
この出来事は私達想像以上にこの世界の未来に影響を与えていた。
何故なら、この一件は神宮司軍曹だけでなく、一人の少年の運命を大きく変えたからだ。
その少年の名は―――――白銀武。
落ち込む彼を励ましていたまりも。
そのまま死んでいたら彼はそれを自分の責任だと思っただろう。
ところがそうはならなかった。彼は…白銀は大きな心の傷を抱えずに済んだからだ。
これが何故、世界の未来に影響を与えたと言えるのか?
それを語るには、白銀武についてももう少し詳しく知る必要がある
私は横浜基地の格納庫で情報屋の伍代と遭遇し彼の情報を聞く為、彼の存在について着目した
「態々すまないな、伍代。白銀武について聞かせてくれないか?」
見た目は20~30代と見られる男性で白髪のセミロングに左目の泣きぼくろで黒のロングコートと衣装を身に纏い煙草を吸ってる男こそ伍代だ。
顔を合わさずに彼と接触し情報を聞き出す
「白銀武か……大倉大尉、この情報は高いぞ」
「ああ、報酬は必ず払う」
「表でも裏問わず有名人だよ、彼は香月夕呼から期待感を抱いている」
「それは分かってるが、冷静に考えてみればただの少年にしては頭が冴え過ぎている」
「まぁ、大尉の言いたい事は御尤もだ」
伍代は本題に入り白銀武の素性を明かした
「まず彼はこの世界の人間ではない。大尉には信じ難い事だけど別世界から転移したんだ」
別世界……それってつまりBETAがいない世界
信じ難いが、伍代が言ってる事は信憑性がある。
「2か月前、彼はこの世界に来て横浜基地に単身で入って来たんだ。勿論不審者と思われ警備兵に拘束されたが彼は何かを知ってるような素振りを見せた」
そこに現れたのは国連軍副司令の香月夕呼博士という訳ね
「彼は元々普通の人間だ。この世界のようにBETAは襲来せず人類の存亡の危機はないさ」
彼は何故この世界に来たのか…何故BETAと対峙し人類の未来のために戦うのか?
それは私だって同じだ
「彼の境遇は運良く香月女史の研究欲を刺激し、破格の待遇で基地に置いて貰った…そして第207衛士訓練分隊に配属され、『彼女』達と再会」
成る程……そういう事が。
道理で戦術機の新型OS…XM3を推奨する訳か
「パラレルワールドって言ったら分かるかい?」
伍代は小さな笑みでこう語る
「一言で言えば並行世界……もう一度言うけど白銀武はこの世界の人間ではない」
彼がこの世界の人間ではない事は理解した。
ただの少年ではないと
「最初は分隊のお荷物だった。が彼はこの厳しい訓練課程を熟し総戦技演習に合格。そして…」
「XM3の開発、その演習トライアルに繋がった……」
私は頭に追いつくのを必死だ。この世界で何が起こってるのか―――
分からない……がXM3のおかげで戦術機開発は一歩前進したことは確かだ。
「彼はオルタネイティヴ5を阻止しようとしている。人類がBETAに負けた時は一部の人類を宇宙に逃がして第二の地球を探す旅に出発するのは彼にとって悲しい出来事になり得るからだ。地球に残った人類は自分達だけ何とか凌がないといけない」
確かにそうだ。
残った私達が地球に蔓延るBETAと戦うのは、正直厳しい。
白銀はそれを阻止しようとしている
「でも、それを納得できない者がいるのは大半だ。この戦争を早期終結させたいと強く思う女性がいる」
「……!」
早期終結…BETA大戦を。
心当たりがあり過ぎる
私は悟った。
「ベアトリクス・ブレーメ……」
「ご名答だ。彼女は一刻も早くBETAを消滅したいだろう」
恐る恐る話を聞き続ける。
気持ちは分からないまでもないが…………。
「話を戻そう。白銀武は地球にいる人類と一致団結して戦っている……それは事実だ」
と誇らしげな笑みを浮かべ煙草を一本吸いながら語り続ける
「『人類の滅亡を防ぐには仕方がないかもしれない。けどG弾を落とされて地球が無事で済むはずがない』彼の立場からすればそうだろうな。G弾は横浜ハイヴ上空で2発壊滅させた代物だ…それを大量に投下したらどうなると思う?」
下手すれば地球が消滅する
そう言わせたいのね……。
「地球が…」
「そうだ。香月夕呼はそんな最悪の計画を後ろに控えた最後の砦だ。地球を取り戻す最後の希望…」
最後の希望……香月副司令が地球の運命を。
白銀は何としても成功させたかった―――――。
「彼の技術を皆に共有し香月女史はそれを元に新型OSを開発して貰った。それがXM3だ」
………。
「彼は香月女史に利用されてる――――これも事実だよ」
「……それで?」
「使い棄てにするとしてもまだまだ利用価値がある……彼にしかできない事。彼はただの衛士ではない。ここまで言ったらもう理解出来てると思うが」
人類の救世主……白銀武が救世主。
私は死地に赴く軍人のように表情を引き締め伍代の話を聞き続ける
「と思っていた彼はあの演習で神宮司まりもを救ったのは白銀ではなく豊臣悠一。斯衛軍の問題児が彼女を救った。そして今に至る」
ご立派な事だ……確かに悠一が神宮司軍曹を救った。
白銀武の事については十分理解した。
私はそっけない顔で伍代にテログループのリーダーであるテオドール・エーベルバッハの潜伏先やその情報を聞き出した。
「テオドール・エーベルバッハか……ああ、彼も白銀同様表も裏問わず情報が乏しすぎるけど、貴重な口コミでやっと掴んだよ」
「聞かせてくれ」
「良いだろう―――ただ、この情報だけは高く付くよ」
「構わない」
「まず、彼の潜伏先は………東ドイツのベルリンに拠点としている。が、その拠点として住処にしてるのは国家人民軍のベーバーゼー基地、ラーテノー、ノイルピーンの2つは『別荘』。テロリストのメンバー達の憩いの場所だ」
ベルリン……彼の本拠地はそこで間違いないだろう
故郷が恋しくて再び帰ってきたとでも……狡賢いやり方だな
「他はソ連の研究施設の一部を接収し研究員数十名が人質という形でESP発現体を製造し極秘裏で、ある『少女』のクローンを11体を『戦場』に送ったのさ」
ある少女……誰なんだ?
全く想像がつかない……何の為に。
「その『少女』は18年前の東ドイツで義兄であるテオドールの手によって処刑されたリィズ・ホーエンシュタイン……彼女そのものだよ」
「リィズ・ホーエンシュタイン……?」
「そうだ。彼は恐らく義妹を喪った悲しさを紛らわす為にリィズそっくりのクローンをソ連の研究員達が11体作らせたんだろう」
――――非現実過ぎるが、存在してるのは間違いないだろう
だが、どうやって彼女の遺伝子を?
「シュタージの武装警察軍参謀だったハインツ・アクスマンが作った負の遺産の一つだ。彼はリィズを強姦し、不特定多数の人間により心や精神を崩壊した。当然そんな事を毎日繰り返したら子供は生まれる。しかしアクスマンはリィズの意思を背きその赤子を堕胎したんだ」
胸糞悪い話だ―――リィズは彼の慰み者として……いや玩具にされたんだ。
子供を産めない体に……。
私はリィズの遺伝子をどうやって入手したのか問いだした。
「どうやって手に入れたんだ?アクスマンは……」
史上最低最悪の機会主義者として当時の世間は彼の行動を批判した。
「精子ドナーを使い、彼女の血筋がある人間を他国に住んでる家族に託したんだ」
「養子として託したのか?」
「これはリィズの意思かどうかは分からないが『本当の幸せを私の血筋が流れてる子供達を、他の国に住んでる皆に託したい』自分の子供達を彼女みたいにはなりたくなかったんだろう」
本当の幸せ……彼女が最期に託した希望という訳か。
成る程……。
「それを実行したのは第666中隊潜入任務から……3年前だ」
!
「アクスマンに攫われた時点で彼女の運命は悪い方向に進んでいっただろう。本人は既にこの世からいないから真相は闇の中だよ」
伍代はそう言いつつ吸い終えた煙草をエチケット袋に入れる
そしてテオドールの個人情報を記載している書類を私に渡した
「大倉の姐さん、これはサービスだ」
書類の中身を見ると………?
その中身を見た私は怒りを通り越して厳格な表情になった。
「此奴、ナタリー・デュクレールを見捨てようとしていたのか!」
「ああ、彼は彼女の事を使い棄ての道具として扱われたそうだ。そしてヤクを染めてハイになってるそうだ」
彼は何故東ドイツの『最後の希望』として英雄になったのか?
当時の第666中隊の衛士達は何のために革命に参加したんだ?
シュタージを打倒する為か?自己欲求の為か?
テオドールは何故テロリストに堕ちてしまったのか?
それは本人しかわからないだろう……。
「ベアトリクスの姐さんは相当激怒してるようだ」
ベアトリクスに知れ渡ったという事はリークしたのか。
テオドールは東ドイツシュタージを打倒しようとしていた英雄であるが、テロリストに堕ちていった事はかつての仲間達に知れ渡っている
人類の敵だ。と
世界中に敵回されても彼は動じない訳か
「こんな悲劇ばかりが次々と目の前に起こるのが『主』とやらの定めた事でなければ、自分たちは何の為に戦い、何の為に血を流し、何の為に散っていったというのか。BETAは何の為にこの地球へとやって来て、その目的も意図も告げることなく人類を好き放題に蹂躙し、殺戮と破壊を繰り返しているのか。そして人類は、矮小で愚かな人類は何故、この期に及んでも手を取り合えぬどころか争いを絶やすことが出来ないというのか。……己の内に巻き起こる幾つもの疑念を全て貫く答えを寄越してくれるものは」
ん?
何が言いたいんだ?
「当時の彼はこう思ってただろう。666の副官のアネットも政治家のグレーテルも最後まで、彼の考えに賛同を示してはくれなかった。だがそれでもテオドールの信念は変わらなかった。そう、かつてカティアが東と西とで手を取り合おうとしていたように、別たれたものを一つにしようとしていたように、自分もそれをするだけでありその為にはこの地上にある全ての穢れを取り払わなければならない。西も東も大国も亡国も関係なく、愚かで醜い争いを続ける人類同士を一つにする。その唯一の方法。それは恭順派の唱える通り、主の思し召しの下に全ての人類を集わせる事……」
それがキリスト教恭順派の最終目的か。
「いつまで経ってもバラバラの世界と人類をこの手で一つにしその果てに、国家や体制といった得体の知れないものに全てを奪われ引き裂かれるような悲劇は、テオドールやリィズを行き止まりへと追い詰めたあんなおぞましい出来事は、二度と起こさせたくない……ユーコン基地に占領した難民解放戦線やそれを加担した人間が可哀想だ」
「!」
「察してると思うが、利用されたのさ…ナタリーはテオドールによって戦力の駒として扱われた。これは事実だ」
……彼は骨の髄まで腐ってしまった
もう手遅れだ
テオドールは…………何れ暗殺される。
「一つ聞いて良いか?」
「何だい?」
「何故そこまでテオドール・エーベルバッハやベアトリクス・ブレーメの事を知っている?」
「街中ではあらゆる人間が何かを見ている。人目を忍ぶなんて不可能さ」
危ない橋を渡ってまで情報を入手してるのか
凄い収集能力だ……。
「感謝する伍代、恩に着る」
「姐さんも気を付けて。彼はアイリスディーナの部下であった故、相当強者だ」
伍代は冷静な笑みを浮かんだ
「あ、言い忘れたけどベアトリクスの姐さんは子供いるらしい」
「え?」
「とは言っても恋人だったユルゲン・ベルンハルトの間で産んだ子供ではないよ。恐らく、当時の心境ではハニートラップを主とした任務が多くて不特定多数の男達を籠絡しまくった。当然の如く、彼女は妊娠と出産を繰り返し任務に支障が来るからかその子供はすぐに施設に預けたらしい」
絶句……絶句だ。
「リィズとは違い彼女は子供を産めない体になる事は避けている。常に避妊具やピルを所持していたからだろう」
成る程、事前に仕込んでた訳か
「それと彼女はシュタージに入省した時、既に処女を喪ってる。ユルゲンに捧げたんだろう……」
「そうか、改めて感謝する」
私は情報を入手しその場から立ち去った。
白銀が正気に戻り精神的に落ち着いた
数時間前は狂乱状態だったのに今は何ともなく通常の健康状態だ
伍代が掴んだ情報を入手し格納庫から出て、第三会議室に戻ろうとするがそこで白銀と遭遇した
「白銀少尉」
「……ん?」
私の顔を見た途端、キョトンとした表情を浮かんだ
元気のない顔だな。
「知らない衛士と話すのは緊張するのか?」
私は彼に向け言い放った。が
「大倉鈴乃大尉ですよね?」
「ああ、そうだ。今は――」
「大丈夫、知ってます。オルタネイティヴ4関係……訳アリで呼ばれたんですよね?」
まあ、大方それで合ってるが……本来の目的はXM3トライアル実習の参加という口実だけだ。
香月副司令は何を考えてるか理解し難いが、我々人類の為に奮闘しているという熱意だけは伝わった。
「ご想像にお任せするわ。で、今まで医務室にいてたのか?」
「まあ……俺もBETAの体液浴びましたからね、まりもちゃんを……いや、神宮司軍曹を探してる時に……」
あれが溶解液だったら確実に即死だ。―――白銀武という少年は運がいいんだか悪いんだか…。
「ただ、強化装備を着てたんで、検査も軽くて済んだって訳です。それでも今までかかりましたけど」
どうやら異常は見られないようだ。
良かったな、白銀。
「それはお疲れ様だ。元気のない顔して……部屋でゆっくり休め」
「あ、いやこれは……」
?
何だ?
「いや、何でもないです」
何でもないって事はないだろ?
目が泳いでる……誤魔化しは通用しないぞ
「…何か悩んでいるのか?」
「いや、そんな事は―――」
「そういう時は素直に白状すればいい。少しお喋りしようか?」
「いやでも……」
「実は私、確かに訳アリだが、豊臣少尉とは少し事情が違うんだ。白銀少尉がみんなより物知りなら、何か分かるんじゃないか?と思ったのだが……」
「はあ……。でも俺だって、知ってたって言えない事ありますよ」
「喋れる範囲で構わない。隠し事は無用だ」
「……?」
「気になったか?」
「はあ~、分かりましたよ。お喋りしましょう。でもまずは大倉大尉からですよ?」
私は白銀に全部正直に話した。
佐渡島での戦いや佐渡島同胞団設立、明星作戦、出雲奪還作戦、ユーコン基地での出来事やその場所でテロリストに占領された事件の事まで隅々まで話していった。
2時間くらいか、いやそれ以上だ。
「じゃあ次は、白銀少尉の話を聞かせて貰おうか?」
「いいですけど……別に、単に自信を失った奴の泣き言ですよ?」
「いいんだ。誰かに聞いて貰えばサッパリする事だってあるだろ?」
「そう……かもしれないですね…」
私は第三会議室に戻り伍代から渡された封筒の中身を空け皆に見せつけ知らしめつつそれについて話した。
「何だありゃ?」
「白銀武についての情報だ。他のもあるがまずは白銀の事を話す」
「おいおい、こんな情報どうやって手に入れたんだ?」
「あとで話す」
悠一、早乙女、佐竹、鬼頭、紅林、私の6人だけの共有だ。
私は白銀に関する情報に記載している書類を手にし、伍代が調査した情報源を読み上げる
内容は………。
白銀武が秘密裏に行っていた実験……それは、『元の世界』に戻り、とある理論を回収してくる事だった
その世界の物理教師、香月夕呼が思いついた理論。
詳細は不明だが、それは人間の人格をまるごとコピーしてしまう革新的な技術だった
とは言え、戦術機に関節思考制御が採用されている事からも分かるように―――人間の思考をデータ化して利用するといった技術が、この世界にない訳ではない。
また、白銀武の帰還実験には量子力学上の、所謂『シュレディンガーの猫』で語られる理論に基づいた装置が使われた。
その実験では、一時的に『この世界』の誰もが彼の事を忘れ去る副作用があったのだが――実験終了後に記憶が戻らない場合の対策として、彼女は記憶のバックアップシステムを用意していた。
世界の全員が『彼』の存在意義を忘れたままでも、『彼女』が憶えていればどうにかなると考えたのだろう
記憶のバックアップが可能だという事は人間の思考をデータ化している事を示している。
白銀が理論を回収することに何の意味があったか?
それがオルタネイティヴ4の成否に大きく影響するからだった。
では、その理論を元に香月副司令は一体何をしようとしていたんだろう?
思考をまるごとコピーする。やりたくても出来なかった事が、白銀のおかげで半ばチート的に解決を見た。
彼女の行動……その全ては―――――
「……悠一、横浜基地の副司令室で何か見たことは覚えてるな?」
「え?ああ…あのシリンダーに入ってた人間の脳味噌の事か」
「そうだ」
「あれがどう関係しているんだ?」
早乙女は目を瞑り頷く
佐竹は挙動不審
鬼頭は唖然としている
紅林は絶句とした表情を浮かんだ
「人間の脳味噌が横浜基地に……」
鬼頭は唖然としつつ驚愕した
「私が入手した情報は正式なものではなく裏で入手したものだ。そこは理解してくれ」
悠一は「ああ、分かったよ」と一言を添える
「そのシステムの名は――――00ユニットだ」
夕呼Side
「……社、いよいよ仕上げにかかるけど………いいわね?」
「………はい」
「最後に何か伝えることはある?もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれないわよ」
「…………またね」
「あら」
「もう一度会えますから、会いたいですから」
「そう……。じゃあ、始めて頂戴」
これは00ユニット開発の最終局面よ
この時、僅かに手が空いた隙に、私はふと、別の事を考えた。
気を散らしていい場面ではない事は分かってる……もう一つ重大な懸案があったのよ。
対策は打ってある。だから心配は無用―――改めてそう判断した。
けれでも何故かスッキリしない。
経験上、これは何処かに思考の漏れがある事だとは信じていた。
だが、それを追求する事は出来なかった。
スタッフの声が彼女を現実に引き戻したから―――そう、この先も私にはこれを追求する暇は与えられなかった。
00ユニットに想定外の問題が発生し、その対策に尽力せざるを得なかった。
そしてそれが、誰もが予想だにしない未来へと繋がる事になるけど、今はまだ語る時ではない。
私は天才で優秀な物理学者だけど神の領域にまでは達していない
即ち、抗えない運命が待ち受けていた……。
良平Side
東欧州社会主義同盟所属戦術機空母『ヴィリー・シュトフ』
中隊長執務室
中隊長執務室で俺は呼び出されソファーに座り雑談していた
アネットもいる。
横浜基地でのBETA襲来は俺達のところでも知られていた
基地内でBETA研究所が何者かに襲撃されそれを解放していた
考えなくても誰の仕業か分かっている……。
彼奴だ……彼奴が仕組んでいた
幾ら考えても何も答えが出ない
ニコラから送った情報は少し見覚えがある
XM3という新型OSだ
それを開発したのは、白銀武
だが、RBDならXM3だろうがどんな戦術機だって勝てると俺は信じていた。
中隊長執務室にいるのはファム、アネット、俺の3人
厳粛な空気だ……下手な行動は出来ない。
テレビに映ってるのは子供向け番組のように見えるが、これはプロパガンダだ。
『時事カメラフォーカス』と書いてる文字を強調し番組は始まった
北朝鮮のアナウンサーは生粋な朝鮮語でナレーションを読み上げる
《昔から伝わる話に『瓶商人の九九』もあります。ある日、瓶を売る為に市場に向かっていた瓶商人が道端に背負っていた瓶を置いて、こんな皮算用をしたとのことです――――まず、瓶を売って雌鶏1羽を買おう。次は卵を産ませて、10羽、100羽に増やそう。次は、多くの鶏が産んだ卵で牛も買い大きな立派な家も建てよう。将来の自分の姿を想像しながら手足をバタバタさせていたら、瓶を倒して割ってしまったという瓶商人の九九》
番組の途中、アナウンサーは政治的な発言を放とうとした瞬間。番組の途中、ファムがリモコンで別のチャンネルに変える。
音楽番組が放映され高岡早紀の『悲しみよこんにちは』が流れてきた。
観たくないものは蓋をするとはこういう事だ
「この曲は良いわね」
満面の笑みで曲を聴いている
夢の中でこの歌、このメロディが流れている。特にこのサビの部分は何度聴いても鳥肌が立つ
―――――俺は、今回も生き残ってみせる…!
佐渡島での作戦の準備は整えてる
いつでも出撃できる……!
俺の運命は、俺が決める!
ファム達を守るのは……俺なんだから
心の底から深く思い込んだ
いつかBETAがこの世から消滅する事を常に願って。
The end of the Yokohama incident
今回の話は殆どマブラヴSFの本編シナリオを参照して書きました。
マブラヴアニメ第二期放映される訳ですが、第一期ではクーデター編で終わってそこからがXM3トライアル演習…横浜事件から始まると思います。
今作はアニメより追いついてしまったので今後はマブラヴSFの本編シナリオを参照して書くかもしれません。
ここからが凄い展開だよね……。
次回はいよいよ甲21号作戦……佐渡島奪還作戦です。
漸く来たか……佐渡島を無事奪還できるかがポイントですね
次回のお楽しみに
2部作になるかも?