良平Side
2002年9月5日 ビルマ連邦社会主義共和国 マンダレー近郊 マンダレーハイヴ攻略作戦
灼熱の太陽がビルマの大地を焼き払う。
俺は94パーフェクトの管制ユニットに座り、目の前のハイヴを睨みつけていた。
サイコアリゲートルを不知火の皮で覆ったこの機体――俺の愛機。
そして、今、俺の背後にはイング・ブロがドッキングしている。
凄乃皇弐型を回収し、改修した機動要塞。
突撃砲、長刀、短刀――これが俺の武装。
「ダリル……準備はいい?」
無線からファム・ティ・ラン大尉の声。
第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケンの中隊長だ。
「いつでも」
俺は短く答えた。
ヴェアヴォルフ大隊はニコラ・ミヒャルケ少佐の指揮下。
朝鮮人民軍、大東亜連合軍、ビルマ軍――総勢、数千の戦術機がこのハイヴを包囲している。
援軍として、ビルマ軍のMiG-21バラライカ部隊、大東亜連合軍のF-4ファントム部隊が展開。
そして、インド洋から――ティルピッツが、面制圧砲撃を加える。
「総帥の切り札か……」
俺は苦笑した。
ベアトリクスのティルピッツ。
あの巨艦が今、ここで火を噴く。
遠くの海から、轟音が響く。
ティルピッツの主砲がハイヴの外殻を砲撃。
爆炎が上がり、ハイヴの壁が崩れ始める。
「今だ! 全機突入!」
ファムの命令が無線に響く。
俺はイング・ブロの出力を上げ、94パーフェクトを前進させた。
ドッキング状態のこの巨体がハイヴの裂け目へ突っ込む。
BETAの群れが、襲いかかる。
兵士級、戦車級、要塞級――無数の敵。
だが、俺は怯まない。
突撃砲を構え、連射。
長刀を抜き、短刀を逆手に。
「来いよ、BETAども!」
俺は叫んだ。
ハイヴの内部は、いつものように地獄だった。
暗く、湿った空気。 BETAの咆哮と、粘液の臭い。
94パーフェクトはイング・ブロとドッキングした状態でハイヴの通路を突き進む。
この巨体が、壁を薙ぎ払いながら前進する。
「ファム大尉、右翼に戦車級の群れ!」
俺の声が、無線に響く。
《了解! 中隊各機、右翼を抑えろ!》
ファムの冷静な指示。
第666戦術機中隊シュヴァルツェスマーケンは俺を中心に突入。
ヴェアヴォルフ大隊はニコラ・ミヒャルケ少佐の指揮で側面を固める。
朝鮮人民軍の部隊が後方から援護射撃。
大東亜連合軍のF-4ファントム部隊が上空から爆撃。
ビルマ軍のMiG-21バラライカ部隊がハイヴの外縁を掃討。
そして、インド洋から――ティルピッツの面制圧砲撃が、ハイヴの外壁を砕き続ける。
38cm主砲の咆哮が、地響きのように伝わってくる。
「総帥の切り札、すげえな……」
俺は苦笑した。
イング・ブロの荷電粒子砲が要塞級の突進を弾く。
俺は長刀を抜き、短刀を逆手に。
突撃砲を連射しながら、ハイヴの奥へ。
兵士級の群れが波のように押し寄せる。
「纏めて殲滅してやる!」
俺は脳の思考による操作で手足を動かそうとする信号を出し機体を動かす。
94パーフェクトの機動性が、イング・ブロの重装甲と融合。
このニコイチの怪物が、BETAを蹴散らす。
《ダリル君、左に戦車級!》
ファムの警告。
俺は、即座に旋回。
長刀で戦車級の脚を斬り飛ばす。
突撃砲で、頭部を吹き飛ばす。
「一匹!」
ハイヴの反応炉が近づいている。
この作戦の目的――マンダレーハイヴの反応炉破壊。
BETAの補給線を断つ。
人類の反攻の足がかりを作る。
「ミヒャルケ少佐、外郭はクリアですか?」
《ああ、ビルマ軍と大東亜連合軍が押さえている。ティルピッツの砲撃も効果的だ》
ニコラの声は冷静。
俺はイング・ブロの火力を全開にした。
ハイヴの内部が爆炎に包まれる。
要塞級が立ちはだかる。
「ファム、援護を!」
《了解! 全機、集中射撃!》
666中隊の火力が要塞級を削る。
俺は突進。
短刀で装甲を貫く。
長刀で核を斬る。
「落ちろ!」
要塞級が崩れ落ちる。
ハイヴの反応炉が目の前。
ティルピッツの最終砲撃が外から支援。
「今だ!」
俺はイング・ブロの全火力を反応炉へ。
爆発。
ハイヴが崩壊を始める。
《撤退! 全機、離脱!》
ファムの命令。
俺たちはハイヴから脱出。
マンダレーハイヴ攻略――成功。
外の空気が、心地いい。
俺は機体を止めて、静かに息を吐いた。
ダリル・ローレンツとして。
この勝利は、始まりだ。
ベルリンへ。
テオドールへ。
俺たちは進む。
人類のために。
ファム、ニコラ――皆と共に。
マンダレーの空の下で、勝利の余韻に浸りながら。
次はベルリン。
俺は静かに拳を握りしめた。
この戦いが、俺の戦いだ。
ハイヴの残骸が崩れ落ちる音がまだ耳に残っている。
だが、俺は前を向く。
生き残った者として――――この大地で、戦い続ける。
テオドールSide
ドイツ民主共和国 ベルリン市街地 RLF隠匿施設
「マンダレーハイヴが陥落したか……」
俺は端末に映る報告を静かに見つめた。
画面に広がるのは崩壊したハイヴの衛星画像と作戦成功の報告。
ベアトリクスの切り札――ティルピッツの砲撃とイング・ブロの突入。
そして、あの男――ダリル・ローレンツの活躍。
ズーズィ・ツァプが隣で静かに言った。
「横浜、佐渡島、重慶に続いてマンダレーは4番目に攻略したハイヴとなったわ」
俺はゆっくりと頷いた。
「ツァプ、そんなことは想定内さ。それにイング・ブロという機動要塞……あれは元々アメリカが開発した代物だ」
ズーズィはわずかに目を細めた。
「ええ、あの機体はダリル・ローレンツが操っていたわね。リユース・ベアトリクス・デバイスを搭載したサイコアリゲートルの衛士よ」
俺は、静かに息を吐いた。
ダリル・ローレンツ。
あの男は、生きていたか。
いや、生き延びた。
あの戦場で、俺の知る限りでは死んだはずだったが……。
ベアトリクスの手で蘇ったのか。
「――で? 奴は次、何処を狙っているんだ」
ズーズィは、端末の地図を指さした。
「ポパールか敦煌辺りと推測している。その次はマシュハドでしょうね」
俺は、目を細めて地図を見つめた。
「ツァプ、君の推測は必ずしも正しいとは限らない。が、この状況から冷静に判断すればポパールを攻略するだろう。だが、幾ら精鋭揃いの朝鮮人民軍がいても苦しい戦いを強いられるだろう」
ズーズィは静かに頷いた。
「ええ。ポパールハイヴは補給線が長く、周辺のBETA密度も高い。ティルピッツの支援があっても、損害は避けられないわ」
俺は椅子に深く腰を下ろした。
マンダレーの陥落。
人類の反攻が、加速している。
ベアトリクス……お前は、どこまでやるつもりだ。
アイリスディーナも動いている。
ベルリン近郊の失踪事件――国連軍の部隊を、俺が片付けた。
だが、それも時間の問題。
彼らは、来るだろう。
ここへ―――俺の元へ。
俺は静かに拳を握りしめた。
まだ、終わらない。
この戦いは。
テオドール・エーベルバッハとして。
RLFの指導者として。
俺は戦い続ける。
人類の未来を俺のやり方で守るために。
ズーズィが静かに俺の横に立った。
「……マスター、次の一手は?」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「準備を進めろ。ベルリンを、死守する」
ズーズィは静かに敬礼した。
俺は窓の外を見つめた。
曇天のベルリン。
嵐が来る。
だが、俺は怯まない。
来いよ―――ベアトリクス、アイリスディーナ。そして、ダリル。
俺はお前たちを待っている。
この街で。
最後の戦いのために。
悠一Side
イギリス・ロンドン 国連軍施設 宿舎
「マンダレーハイヴが陥落しただと!?」
俺は端末に映る報告を睨みつけ、思わず声を上げた。
鈴乃が隣で静かに頷いた。
「ええ、ナチスドイツ時代で活躍したティルピッツを修復して前線で面制圧砲撃したそうだ。それに不知火の皮を被ったアリゲートル……いやサイコアリゲートルも攻略作戦に参加したそうだ」
俺は息を呑んだ。
「それを操るのは一人しかいねえよ」
鈴乃は、静かに俺を見つめた。
「ダリル・ローレンツ――いや、徳川良平と呼ぶべきかな」
「!――何故、奴の本名知ってるんだ?」
鈴乃は淡々と答えた。
「ユーコン離れる前にディーゲルマン中尉から教えて貰ったよ。あの男はお前と同じ違う世界から『転生』された事もな」
俺はゆっくりと椅子に腰を下ろした。
あの日の記憶が蘇る。
音楽趣味が合わない俺たちは喧嘩別れした後、俺はトラックに轢かれそうになる義足野郎を助けようとしたが間に合わず一緒に事故死したんだ。
「それで二人はこの世界に飛ばされたのか……」
鈴乃が、静かに呟いた。
「ああ……そもそも俺と良平はそんなに仲良くなかったし、寧ろ険悪だった。『殺し合う運命』なのは事実だけどな」
鈴乃は、俺の肩にそっと手を置いた。
「転生者同士で、それぞれ別場所で戦ってるのも不自然ではない。悠一、彼の事は“ダリル”と呼んだ方がいいぞ。本名を捨ててまでこの世界に……生きる意味を探してるかもしれない」
俺は静かに頷いた。
「奴は既に見つかってるかもな。――666の連中がいるんだ。あの3人がいるから大丈夫だろう」
ファム、シルヴィア、アネット、そして他のメンバーたち。
シュヴァルツェスマーケン。
奴らなら、良平を支えてくれるはずだ。
鈴乃は少し心配げに言った。
「そう願いたいが……」
俺は端末の画面を閉じた。
マンダレーハイヴの陥落。
ベアトリクスのティルピッツ。
そして、ダリル――良平の活躍。
この世界は変わり始めている。
BETAのハイヴが次々と落ちていく。
だが、テオドールはまだいる。
ベルリンで待っている。
俺は静かに拳を握りしめた。
良平―――お前も、生きてるんだな。この戦場で。
俺たちは別々の道を歩いている。
だが、いつか――いや、今はそれどころじゃない。
サンダーボルト作戦。
ベルリンへ。
俺は鈴乃の手を握り返した。
「行くぞ、鈴乃」
「ああ」
彼女の瞳に決意が宿る。
マンダレーの勝利は俺たちの励みになる。
ティルピッツの咆哮が遠くから聞こえてくる気がした。
ロンドンの霧の中で俺たちは準備を進める。
テオドールを止めるために。
この戦いを終わらせるために。
豊臣悠一として。
皆と共に―――絶対に勝つ。
鈴乃Side
2002年9月6日 イギリス・ロンドン 国連軍施設 大会議室
佐渡島同胞団は西ドイツ軍やイギリス軍との共同会議を行う。
私は、会議室の長テーブルに座り、周囲の面々を見回した。
西ドイツ軍からはキルケ・シュタインホフ少佐とヨアヒム・バルク大佐。
イギリス軍からは複数の将校。
そして、佐渡島同胞団からは佐竹博文、木元桃花少尉、浪岡常吉少尉、佐古大和少尉。
悠一は私の隣に座り、恭子様は少し離れた位置で腕を組んでいる。
ヴァルキリーズの伊隅みちる大尉、柏木晴子少尉、築地多恵少尉も偽名で参加している。
テオドール・エーベルバッハの脅威に対する、共同作戦の最終調整。
サンダーボルト作戦――ベルリンへの大規模侵攻。
「同胞団の到着により、戦力は大幅に強化された」
キルケが、静かに切り出した。
「ティルピッツの活躍でマンダレーハイヴが陥落した今、RLFの補給線にも影響が出ているはずです」
バルク大佐が頷いた。
「――テオドールのネットワークは予想以上に広範だ。だが、我々の連携で、それを断ち切れる」
佐竹が、にやりと笑った。
「同胞団の戦術機も、全機調整済みです。94シリーズのフルアーマー、サブレッグ、ブルG……それにヘッドのニコイチも、佐古たちの手に渡りました」
佐古が、目を輝かせて言った。
「任せてください! あの機体、最高です!」
浪岡と桃花も、静かに頷く。
私は皆の顔を見ながら、静かに言葉を添えた。
「RLFの内部協力者のリストも、イェッケルン議員から共有されたわ。東ドイツ軍や政府内の裏切り者……これで、ベルリン突入時の混乱を最小限に抑えられる」
イギリス軍の将校が地図を指さした。
「空挺部隊と海軍の支援も約束する。ティルピッツはインド洋から回航中だ。ベルリン近郊での制圧砲撃を、期待している」
悠一が低く言った。
「テオドールは、簡単には落ちない。だが、俺たちは全員揃った」
恭子様が、静かに微笑んだ。
「ええ。ヴァルキリーズも、同胞団も、フッケバインも、ツェルベルスも……すべてが、ここに」
私は悠一の手をテーブルの下でそっと握った。
彼も握り返す。
この会議は決戦の前触れ。
ベルリンへ――――テオドールの根城へ。
RLFを、終わらせるために。
私は静かに息を吐いた。
私たちは勝つ。 日本帝国本土防衛軍の大倉鈴乃として。―――悠一の傍らで。皆と共に。
ロンドンの会議室で運命の歯車が、確実に回り始めた。
サンダーボルト作戦――始動。
ベルリンの空に嵐が来る。――――――私たちは、準備できた。