あれ?予防接種に志望動機っているっけ?~勘違いから始めるVtuber生活~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
『温かい……みんな温かいなぁ……ぅぅぅごめん、ほんとうにごめん……優しい、ほんとやさしいぃなぁみんなぁ――――おわり、たく、ないなぁ』
初配信。
『あのねぇ? いまわかったんだけどねぇ? ヒトってねぇ? のみもの飲んでるとき息止まるんだよぉ? しってたぁ?』
お〇っこ我慢スマブラ。
『先輩が……ンっ、かわいい過ぎるから……。ぁ……っ、きこぇる。先輩の音、とくとくって……ぁれ? ちょっと……はやぃですね?』
ASMR配信。
それらの切り抜きを見せられた早乙女さんは、
「ばぶーーーーーーーーーーーーーー‼」
エビ反りブリッジで赤ちゃんになった。
……なんでぇ?
トリップしていた早乙女さんは我に返って、悔しそうに三波くんにスマホを返す。
「くっ……Vtuber初めて見たけど……良いじゃない」
「だろう?」
「というか本当に姫宮さんそっくりね。もはや疑似姫宮さんだわ。実質あたしは今、姫宮さんのお〇っことASMRを聞いたのと同義」
「だろうだろう。意外と似てるよな」
「特に心音最高。子宮の中で聞きたい」
「ごめん、流石にそれは分かんない」
ごめん、私、逃げて良いですか。
『あなたの子宮に入りたい』と言われて、膝が笑わない女子高生いるでしょうか? いやいない。
「ふふっ……同じ産道通った」
おぃ、そこの妹。どや顔でぽつり呟いても聞こえてるからな?
なんのマウンティングだ、それは。
どうやらこの場の味方は三波くんしかいないらしい。
私の足が若干、彼の方へ向く。
「でも切り抜きあって助かったな~。ここがレヴィアたんのすごいとこなんだよ。デビューしたばっかの筈なのに、配信の切り抜きめちゃ多い」
「そうね、いきなり1時間2時間の配信を見るのは布教に適さないわね……ねぇ、三波。他に堕天使様の切り抜きは無いの?」
うん、すっかり落ち着いたみたい。ボルケーノから
「ふふっ……喜べ、
だから聞こえてるんだって、妹よ。
邪悪な顔でぽつりと呟く伽夜ちゃんをジトっと見つめる。……今度、PC部の人にお礼の品を渡そうと思った。
「あの……それで早乙女さん。分かってくれた? 私と三波くんは、その」
「えぇ理解したわ。二人は【宵月レヴィア】の推し語りをしてただけで特に深い仲でも何でもないのよね」
「そっ! そうなの! ただのと……友だ、ち」
ぁれ? 友達、だよね? 言ってみたら恥ずかしくなってきた。……ぁれ? なんかこれどっちに転んでも複雑――――。
「そーそー、姫宮さんとは友達にして……共にレヴィアたんを崇拝する堕天使の【眷属】だよ」
いや、ほんとに複雑な気持ちだなぁ‼
ていうか三波くん、あれだけ「レヴィアたんに似てる」って言ってても気付いてないんだね。……良かったけれども。
「――――そぅ。なら良いのよ」
早乙女さんはスカートの汚れをはたくと、すらりと立ち上がった。
やけにあっさりした態度に加えて、その仕草は私が知っていたテニス部のエースの早乙女さんだった。
「三波、あんたが姫宮さんを傷つけてなければ、それで良いのよ。悪かったわね……それじゃ、あたし部活だから」
大人っぽい巻き髪を翻して、早乙女さんが遠ざかっていく。
――壁。
単純明快な距離が、壁となって、私の目に映っている気がした。
「……なぁ、姫宮さん」
三波くんが身を寄せて、私の耳に口を寄せる。
彼のささやき声が、耳を撫でた。
「行ってやってくんない?」
「三波くん」
私は壁から目を離さず、スカートをはたきながら膝を伸ばした。
「その一言、余計」
壁を一歩一歩、踏みしめて壊す。
今までは、この壁にオドオドするしかなかった。テニス部のエースの彼女は、ぼっちの私のことなんて眼中にないんだろうなって思ってた。
でも、そうじゃないって噴火したのは……貴女だ。
カーストに目を逸らして眼中に無かったのは……私だ。
「今更やめてよ」
袖をつまんで、下に引っ張る。
止められた早乙女さんが驚いて振り返った。その鼻先に、ちょっと、怒り混じりの言葉を投げる。
「あれだけ
袖から手首へ持ち替えて、引っ張る。
正面を向かせて、早乙女さんをまっすぐ眼中に入れる。
「ありがとう! 私のこと見てくれて! 心配してくれて! いっぱい褒めてくれてありがとう!」
「ぇぁ、へ?」
「調子良いかもだけど、勝手かもしれないけど……私、早乙女さんと友達になりたい! ……だめ、かな」
早乙女さんの目――――少し赤み掛かってるんだ。
そんなことすら今気づいた私を、早乙女さんはもじもじと見下ろして。
「一度だけ」
ぽたり、と。
言葉が雨垂れみたいに、私の顔に振りかかる。
「一度だけ、カラオケに誘ったんだ。姫宮さん、すごく申し訳なさそうにバイトだからって断って……あたし後から隕石のこと知って……悪いことしたなって思って」
うん、覚えてる。
あの時、私の頭の中には、新しい住居とか食費とか保険降りるかなとか、そういうことでいっぱいだった。
断った時点で嫌われたと思ってたんだ。ノリが悪いって。
でも。
「もぅ、平気なの? もぅ大丈夫なの? ……友達になって、無理、させない?」
ちがった、ちがったんだ。
だから、今度もちがうんだ。
「無理なんかじゃないよ。ごめんね、今度はいっぱい遊びに行こう?」
この繋がりを放したくないから。
しっかりと手を握った。
早乙女さ……早乙女ちゃんは、嬉しそうにぶわ~~っと鼻を膨らませて、私を抱きしめた。
「ばぶーーーーーーーーーーーーーー‼」
「いや、それは承服しかねる」
赤ちゃんになった友達の背中に、私は手を回した。
……なんかユサユサ動いてるな。
……なんかおっぱい擦り付けられてる気がするな。
……他意は無い、よね。