あれ?予防接種に志望動機っているっけ?~勘違いから始めるVtuber生活~   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第39話 始祖のパパ……その名は店長(ひっ、ひぇえええ)

おー……何も変わってない。

 裏口の扉を開けたら、梱包された段ボールの山とご対面。

 当たり前か、辞めてまだ一週間も経ってないんだから。

 

 ひんやりした倉庫を通り過ぎて――バックヤードの扉の前でいったん立ち止まる。

 立ち止まって、ドアにおでこをくっつける。

 

「……きまずいよぉおおおおお」

 

 思えば、店長との関係って複雑だ。

 そもそも店長との『パパ呼び』エピソードがあったから、眷属(みんな)がパパを自称し始めたし……ある意味、【始祖のパパ】とも云える。

 

「いや始祖のパパってなに?」

 私の実父(パパ)は姫宮建造だよ。

 

 ぷるぷるぷると顔を横に振って、冷静な考えを追い出す。

 勇気! 勇気を出せ、姫宮紗夜! 

 私は目を見開き、バァンとドアを勢いよく開けた!

 

「あの! 姫宮です失礼します!」

 

『ねぇ、パパぁ』

「はぁい、パパですよォ」

 

 画面の向こうのレヴィア(わたし)に恍惚と語り掛ける店長が、視界に飛び込んだ。

 

 そっ、とドアを閉じた。

 

 閉めたドアに背を預けて、ゆっくりと深呼吸する。

 

 ――うん、帰ろう。

 伽夜ちゃん抱っこして寝よう。

 

 はればれとした、やり遂げた想いで胸がいっぱいだ。脳裏に「ぴよぴよ~」と泣いてるギャルが思い浮かんできたけど、ウン知ーらな……ぃ。

 

 ガチャッ。

 

「へ?」

 

 背中に預けてた感触が消える。

 真っ白になった頭が吸い込まれるように倒れていって――肩を掴まれて止まった。

 振り返ると、そこには店長の笑顔があった。

 

「紗夜……おかえり」

 

「コケッコッコォォオオオオーーーーーーーーーー‼‼‼‼」

 

 あーーーーー‼ 私ってこんな声出るんだぃやぁあああああああああああああ‼

 

 鶏のような悲鳴を上げる私を、ひよこギャルが「ぴよー!」と泣いてる気がした。

 クリスマス前のチキンの如く、私は肩を掴まれたまま、店長に引きずり込まれた。

 

 バックヤードの内装は辞める前と何も変わってなくて……わぁ~懐かしい、なんて思う訳がない!

 

 この時、私の胸を埋め尽くしてるのは懐かしさなどではない。

 恐怖‼

 圧倒的恐怖‼

 

「おかえり紗夜。帰ってきてくれて嬉しいよ」

 ぁっ、ぇっ、ちがっ。

 

「分かってる分かってる。紗夜はこの店で一番のスマイルを誇る天使だもの。いつかは戻ってきてくれると信じてた」

 ちがぅ……ちがううぅぅぅぅぅ。

 

「最初は素直に辞表受け取ったけど……店長(パパ)気付いたんだ。娘の存在によってこの背中は支えられてたんだって」

 たおれてぇぇえええ。勝手に倒れててぇぇぇえええ。

 

「寂しくて、恋しくて、従業員(みんな)にも試しに呼んでもらったんだけど。やっぱり――――娘の代わりはいないなって」

 わぁぁぁぁぁあすっごい笑顔だぁぁぁぁぁぁ。

 

 これが親子の絆をテーマにした映画だったら、感動の笑顔なのに、すごいや。怖気しか感じない。

 

 店長は青ざめて震えてる私が見えてないんだろうか? 

 それとも―――――――

 

『えっち! 変態! もうヤダたすけてパパぁあああああああああああああああああぁああああああああああああ‼』

『ねぇ、パパぁ』

『ぅん! いいよ、パパ! 許してあげる』

『あはっ、パパだいすきーー』

『わ、分かんないパパ! わたしホントに分かんないのぉ!』

『ご、ごめっ、なさっ……! わたっ、わたしが悪かったから』

『パパとママがいるぅーー‼ うれしいっ!』

 

 さっきから最大音量でループ再生してる【俺得:宵月レヴィアの切り抜き】動画しか見えてないんだろうか?

 

「あ、これねー俺が作った動画。ネットにも出してない、完全自分用。いやーこのVtuber、紗夜と声が似ててね! これを支えに、この五日間乗り切れたのさ!」

 

 何なんだろう?

 何で私はこうも自分の配信を見せられることが多いんだろう。

 自分で見返すとかじゃなくて他人の手で。

 

 でも私はもうこんな程度じゃ恥ずか死なんてしない(どっかの誰かのおかげで)。

 バイト(ここ)で培った100%のスマイルを、店長に向ける。

 

「そうですかそうなんですねじゃあもうそれでよくないですかねぇほんとに」

 

 ここまで一息で言った。

 早くて聞き取れないかなっと思ったけど、店長は「んー」と首を傾げながら微笑んでる。

 

「たしかに宵月レヴィアでも良いんだけど……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()~~~」

 

 怖気が冷気に代わって、背筋が凍る。

 そんな私に構わず、店長は指で頬をぽりぽり掻きながら言った

 

「紗夜の新しい挑戦を見届けたい気持ちはあるんだけども」

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