あれ?予防接種に志望動機っているっけ?~勘違いから始めるVtuber生活~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
「いや怖すぎるでしょおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー⁉⁉⁉」
翌日の朝、私は自分がやった
おかえり、正気。グッバイ、狂気。
でも妹は、いや世界は未だ狂気に憑りつかれたままだった。
「ひぃゃっほぉおおおう‼ トレンド入りいただきましたぁぁああああ‼」
SNSのトレンドに『宵月レヴィア』の名前があって、そのすぐ下には『リスナー 食べる』の文字もランクインしてる。
ナンデェ?
「おねーちゃん! なに辛気臭い顔してんの、喜びなよぉ‼⁉ ユッケ食べただけで経済ちょっと動かしたんだよ⁉」
「喜べるかぁああーーっ‼⁉」
そう、ロープや包丁と同じく伽夜ちゃんが用意したのは、生の牛肉。
私はそれを切って食べただけ。(生なのに甘くて美味しかった)。
言うなれば、生肉咀嚼ASMR。
うん。
冷静に考えたら、収益化記念配信でやることじゃない。
そして、うん。――――スパチャの金額がすんごいことになってる。
どれだけすごいかと言うと、怖くて見れないくらいにすごい額になっている。
「たまらないわねアハハハハハーーーー‼ ヤンデレ路線は大成功よーーーーー‼」
「ヤンデレで済むレベルじゃないよねぇ⁉」
「つぶやきの数もすごいよ! 見てよこれほら!」
伽夜ちゃんがSNSに投稿された、レヴィア関連のつぶやきを見せてくれた。
『もう無理死にたいて思ってたけど、この配信見て変わった。ねぇ、ぼく美味しい?』
『死んだらもうこの娘に会えないんだなぁ……食べてもらえないんだなぁ』
『どうせ死ぬなら、堕天使様の空腹を満たしてあげたいと思った』
ぐわぁあああああああーーーーーー‼
頭が……頭がおかしくなるぅっ‼
私は頭を抱えて、悶え苦しむ。
分かんない、もうこの世界が分かんない……。
とにもかくにも、もう世間で【宵月レヴィア】はリスナーを殺して食べた初めてのVtuberとして認知されてた。
「なんで……どうしてこうなるの……こうなったの?」
「お姉ちゃん! 嬉しいのは分かるけどボーっとしないの! 遅刻しちゃうよ?」
そっかぁ伽夜ちゃんには、私が嬉しそうに見えるのかぁ。
私は幽霊みたいに頼りない足取りで、月曜日の学校へと登校した。
「すごいよ、大手大御所のVtuberからコラボのお誘いどんどん来てるよ。あっ、焼き肉店の公式アカウントからフォローされた」
「そうなんだぁ」
「ぅわわわわまだ登録者数伸びてる。ていうかヘブンズライブの所属Vtuber全員が増えてる。ぇ、これ大手の仲間入りできるよ? ユッケ食べただけでヘブンズライブ大手になってくよ?」
「そう……なんだぁ」
「すごいすごーい! カルト、カルト的人気! 堕天使だし間違っちゃいないよね! あっ、今度タランチュラ食べませんかって大手Vtuberからお誘い来たよ⁉」
「ぃやーーーーーーっ!!!!」
紗夜スは走った。
必ず、かの狂瀾怒濤のV
教室に着いた頃にはへとへとになっていた。
「ひゅ、ひゅかれた……!」
でも学校なら私はただの【姫宮紗夜】だ。朝のバズり騒動から離れたかった。いったん【宵月レヴィア】から思考を切り替えたい。
「すぅーー……はぁー……」
深呼吸して、乱れた息を整える。心を落ち着かせる。
そうよ、紗夜。また自惚れかけたんじゃない?
こんなことは前にもあったじゃない。だいじょうぶだいじょうぶ。
【姫宮紗夜】も【宵月レヴィア】も、
私は胸を撫で下ろしながら、教室の戸をサラッと開けた。
「ねぇ、朝のトレンド見た? ヤバくない?」
「見たみた~、リスナー喰い堕天使。こわ~~」
「でも声とか喋り方かわいー♡」
「Vtuber初めてだけどさ……もうさ……パネェ」
「な~パネかったなぁ。なんかぞくぞくしたわ」
クラスのトレンドに、堕天使が降臨していた。
……気づかれないように自分の席に座る。
そうしてゆっくり息を吐いて落ちつオチッ、オチツッ! オチツイテ…………っ‼
「あれ? てかさー。この声……姫宮さんっぽくない?」
どこからともなく飛んできたその言葉に、ビクッと肩が跳ねる。
「え?」「あれ」「あっ」「たしかに」。ざわざわと、空気がざわざわと。
――――じっ、と視線が全方向から照射された。
「ひぅ」
涙出てきた。