あれ?予防接種に志望動機っているっけ?~勘違いから始めるVtuber生活~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
バイトやめてきた。
というより「やめさせられた」って言った方が近い。
『いいねいいねぇ! お姉ちゃんやっぱ最高だねぇ!
もう収益化の条件クリアしちゃったよ⁉ すごいよぉ!
これからも一緒に配信頑張ろうね、お姉ちゃん! あ、ちなみにバイト先に辞表出しといたから、もう行かなくてよいよ』
これが、妹が起こしにやってくる微笑ましい日常シーンのセリフである。
ぅぅうう、朝から胃が縮んだよぉお。
珍しく
マジだった。
「怖い……もう怖い……伽夜ちゃんが怖い」
私の筆跡そっくりの辞表を見た時の寒気は、未だに収まらない。
春のお日様はぽかぽか温かいのに、胸の中は冷え冷えだった。
冷え冷えな原因は分かってる。
朝日に照らされた通学路からスマホに視線を落とす。
そして【宵月レヴィア】のYUTUBEチャンネルを見る。
わぁ~~、4桁超えてりゅ~~~~~。
色々悟った私の顔をパァ~~とお日様が照らす。
そして笑顔のまま、私はガクンと膝から崩れ落ちた。
「どう、しよ……どうしよどうしよどうしよどうしよぉ~~~~⁉」
不安に叩き伏せられた私は、ひしっと電柱にすがりつく。
――――バレてたらどうしよう⁉
昨日、配信が終わった後ふと考えちゃったんだ。
……もしクラスの誰かがあの配信を見ていたら? って。
そんなのあるわけないじゃーんと思って寝ました。
起きたらチャンネル登録者1万人超えてました。
「お願ぃ、嘘だと言って……」
もう一度、【宵月レヴィア】のチャンネルを見る。数字は変わらなかった。
「あぅぅ……こ、こんなことならボイチェンすれば良かった……いや、日頃からボイトレしていれば……」
どれだけ後悔しても、もう遅い。
クラスに友達はいないけど、それでも何度か声は交わしたことはある。
例えば……宿題写さしてと頼まれた時とか、放課後の掃除を頼まれた時とか、クラス委員の雑用を頼まれた時とか。
あれ、なんでだろ。なんか無性に悲しく……と、とにかく!
当然だけど、私の声と宵月レヴィアの声に違いは無い。
クラスで【Vtuber界隈】に詳しい人はいないと思うけど、でもチャンネル登録者が増えれば、認知度が増えれば、それだけバレる確率高くなるわけで!
「……いや、よく考えてみて」
私は努めて冷静さを取り戻しながら、校門をくぐる。
クラスの誰かにバレると言ってもさ、この世界にはすごいエンターテイナーはたくさんいるわけで。
クラスで話題になるレベルなんて、登録者ウン十万超えのトップVtuber位にならないと。
つまり……そこまで気にしなくても、良いかも。
「うんそうだ絶対そうだ! そうだよ、私が思う程、みんな私なんかに興味ないよ! アハハッ、胸が軽くなってきた!」
気付かない内に自意識過剰になってたよ。
はーぁ、杞憂杞憂♡
私は胸を撫で下ろしながら、教室の戸をサラッと開けた。
「好きなVtuber? 【宵月レヴィア】かな。
昨日、初配信したばっかの子なんだけどさ……切り抜きあるよ。見る?」
クラスの
「三波くぅーん‼ ちょっと私と一緒に来てほしぃィィィなぁァァあああ‼⁉」
談笑中、否、布教中の彼の袖を引っ張って、私は彼を教室から引きずり出した。
ホームルーム開始を告げるチャイムが後ろから聞こえてきた。
そうして教室とは反対側の校舎、その裏の日陰まで来た時に、彼――三波恭介君が声を掛けてくれた。
「あの~もうそろそろ良いんじゃない?」
「え……っ⁉」
だから今気付いた。
袖をつまんでるだけと思っていた私の手は……三波君の手を握ってた。
「ひゃあ⁉ ご、ごごごめんなさいっ!」
私はパッと彼の手を離すと、慌てて頭を下げた。
彼は後ろ手で頭を掻きながら、首を傾げた。
「いいって謝んなくて。で、俺を連れ出したのはなんで?」
…………………………まずい。
私は頭を下げて顔が見えないことを良いことに、たらたらと汗を垂らす。
どうしようどうしようどうしよう何か言わなきゃ、でも何言ったらいいの⁉
「え、はっ、その、あの……あ、の」
う~~うるさいよ心臓ぉ! 前髪をササッと降ろして、赤くなった顔を隠す。
なんで!
よりによってなんで……三波くんが【レヴィア】を知ってるの⁉
彼の名は三波恭平。学校を代表するイケメン君だ。
スポーツ万能・成績優秀で『フィクションご出身です』と言われても納得しちゃうくらいの美男子。
そんな人が、彼が、どうして。
そうこう考えてる内にどんどん辺りに静寂が包んで――――サァァァァッとどこからか風が吹いた。
日陰に咲いた桜の花びらが、私と彼の間に舞い込む。
「もしかしてさ姫宮さん――――好きなの?」
「……ひぃえ⁉」
バクンッ‼ と心臓がひと際強く胸を叩いた。
ぼわって顔が熱くて熱くてアダメだ訳分かんなくなってきた!
「そ、そんな! ちが……っ! 私なんかが三波君と」
「宵月レヴィア、好きなの?」
「だなんて………………エ?」
桜の花びらを押しのけて、ぐいっと一歩踏み込んだ彼の顔。
その切れ長クールな瞳の中にある輝きは――伽夜ちゃんと同じだった。