D4DJ〜Uniquee Mix!!〜   作:熊0803

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前々からちょっと書きたかったので、息抜き期間のこの時期に。

楽しんでいただけると嬉しいです。


First Unique

 

 

 特別ってなんだろう。

 

 特別になるとはどういうことだろう? 特別な人とはどんな人間のことだろう? 

 

 例えば、特別容姿が整っている。

 

 例えば、特別勉学や運動ができる。

 

 例えば、自分だけの()()を内に秘めている。

 

 数え上げればきりがなく、そして数え始めると案外簡単に想像できてしまう。

 

 

 

 

 じゃあ、普通ってなんだろう。

 

 普通であるとはどんなことだろう。普通な人とはどんな人間のことだろう? 

 

 この答えはけっこう簡単だ。

 

 だって僕自身がそうなのだから、わからないはずがない。

 

 

 

 

 そう、僕はどこにでもいる普通のやつ。

 

 水瀬彩音(いろね)、美月高校一年生の15歳。

 

 中肉中背の身長166cm。B型。誕生日は9月20日。

 

 趣味は音楽や映画鑑賞、ゲーム。特技は特に無し、突出した得手も不得手も見当たらず。

 

 彼女も生まれてこの方なし。友達はそこそこ。

 

 パッと思い浮かぶプロフィールだけでも、実に平凡。

 

 普通っていうのは、他の人と共通項が多くて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

 

 

 

 

 

 どうしてこんなことを往来の中で考えているのかって? 

 

 その理由も普通。

 

 思春期の男子特有の、ふと自分の存在を定義したくなるってやつだ。

 

 あるいはヘッドホンから流れてくる、君だけが特別だのなんだのという歌詞につられたのかも。

 

「〜♪」

 

 周囲の人に変な目で見られないよう、小さな声で歌詞を口ずさんだりしながら歩く。

 

 放課後のショッピングモールっていうのは、案外混んでいる。

 

 遊びに来た学生や、デート中らしきカップルなんてのがそこかしこにいる。

 

 僕もその一人で、CDショップに向かって進行中というわけだ。

 

「ねえ、この服超可愛くない?」

「超ヤバい!」

「フードコート行ってみようか?」

「ちょっと早くなーい?」

「いらっしゃいませー」

 

 音楽を聴いていても、人の声というのは案外入ってくる。

 

 爆音にして周囲をシャットダウンしようなんて、そんなスカした真似をする勇気もない。

 

 だから決まった音楽とまばらな喧騒が入り混じり、ちょっと面白かった。

 

 

 

 

 そのCDショップはいつも使ってる。

 

 どれだけ歩けば着き、どのタイミングでヘッドホンを外すのかもわかってる。

 

 途端に喧騒が大きくなったことを感じながら、僕は店頭に並ぶ華々しいアルバム達を眺めた。

 

「お、これ良さそう。しかもラスト一枚だ」

 

 しばらく吟味して、気になる一枚を見つけ出す。

 

 明るめな表紙に店員さんのポップがデコレートされたそれに手を伸ばす。

 

 いざ取ろうとしたその瞬間、横から出てきた誰かの手が重なった。

 

「「あっ」」

 

 女の子の声だった。

 

 びっくりしながら手を引き戻せば、隣にいる誰かさんも同じように引っ込める。

 

 偶然にも手に触れてしまった相手に申し訳なく思いながら、横を見て。

 

「…………明石?」

「水瀬、なの?」

 

 互いに顔を見て、目を見開く。

 

 金色のメッシュを入れたショートヘアに、愛嬌のある可愛らしい顔立ち。

 

 ここいらではDJ活動で有名な陽葉学園の制服に身を包み、白いヘッドホンを首から下げ。

 

 いかにも「特別」って感じの、その可愛らしい女の子を、僕は知っている。

 

 

 

 

 明石真秀(あかしまほ)

 

 中学時代、一番仲の良かった友達で、進学を機に交流を無くしてしまったやつ。

 

 そんで、普通な僕にとって色々な意味で……唯一「特別」だった、そんなやつ。

 

「……久しぶり」

「あ、ええと、うん。久しぶりー……」

「元気そうだな」

「そ、そうだね。水瀬も」

「…………」

「…………」

 

 それきり会話が途絶える。

 

 気まずい。お互いそっぽを向いて、下手っぴな笑いを浮かべるくらいには気まずい。

 

 いかにもな反応をした僕は、なんだか居心地が悪くなって踵を返した。

 

「じゃあ、僕はこれで」

「えっ、このCDは? 欲しいんじゃないの?」

「お前も欲しいんだろ。ラスイチだし、譲るよ」

「……いいの?」

 

 やや遠慮がちな問いかけ。

 

 ちらりとその表情を見れば、いくらか僕より背の低い彼女は上目遣い気味に見てきた。

 

 その仕草、表情に、記憶の中の明石が重なって、なぜか胸がキュッとなる。

 

「いいよ。昔もそうだったろ」

「そう、だね。昔も……ね」

 

 あ、やべ。言い方ミスった。

 

 余計に気まずくしてどうするってんだ僕は。普通に考えてわかるだろ。

 

 ちょっとシュンとしたような明石の顔にテンパってた僕は、ついこんなことを口走った。

 

「あーっと、じゃあ飲み物」

「……え?」

「譲る代わりに、なんか飲み物一本奢ってくれ。今小銭切らしててさ」

 

 僕は何をまくしたててるんだろうか。

 

 これも中学の時とおんなじじゃないか。学習能力ないのか馬鹿。

 

 ほら、明石だってぽかんとしてる。ええはいそうです、僕は間抜けです。

 

「……ぷっ」

「んぐっ」

「あっ、ごめんごめん。でもおかしくてさ、ふっ、ふふふっ」

 

 緩く握った拳を口元に、明石がくすくすと可笑しそうに笑った。

 

 気恥ずかしさが一瞬で上限を飛び越えそうになる。

 

 でも……その笑い方が、なんだか懐かしい。

 

「水瀬、全然変わってないね、ふふふっ」

「……背もあんま伸びてないしな」

「中学卒業してまだ数ヶ月じゃん、これからだよ」

「そういうお前も変わってなくない?」

「むっ、私は色々成長してるよ」

「へえ、どこが?」

「トラックメイキングの技術、とか?」

「相変わらず好きなんだな。そういうの」

「うん、勿論」

 

 ニカッと笑う明石。

 

 その笑い方に、昔のように引きつけられてしまう。

 

「……やっぱり変わってないな」

「変わったって〜!」

 

 あ、口に出てた。

 

 変わってないってのは()()()()()()だったんだけど。

 

 ……まあ、いっか。

 

「ほら、買ってきたら?」

「あ、そうだね。ありがたく持っていかせてもらうよ」

 

 アルバムを手に、明石は店に入っていく。

 

 それから2分もしないうちに会計を済ませ、袋を持った彼女は戻ってくる。

 

「じゃあ、行こっか」

「うん。自販機ってこのモールのどこに……」

「もー、相変わらずだなぁ水谷。どうせならフードコート行こっ」

「え、ちょ」

 

 また手が! 

 

 引かれた腕につられて、反射的に足が前へと走り出す。

 

 ひどく懐かしいその感覚は、たった数ヶ月前までは当たり前だった。

 

 当然モール内なので多くの人にすれ違い、驚かれたり、微笑ましそうに見られたりする。

 

 それが恥ずかしくて、でも。

 

 あの頃の「特別」な時間に戻った気がした。

 

 

 

 

「はいこれ」

「さんきゅ」

 

 何やらゴテゴテした名前がついてそうな飲み物を受け取る。

 

 5時を回ろうかという時刻、フードコートはそれなりに賑わいを見せはじめている。

 

 その一角、二人用の座席を僕は確保した。

 

「席取りありがとね」

「ん、一緒に行ってもよくわかんなかっただろうし」

「あはは、確かに難しい顔をしてたかも」

 

 どうして女の子は呪文のような商品名をすらすら言えるのだろう。

 

 あれか、男がロボットアニメの機体の名前を暗記しているようなものか。

 

「あ、その顔くだらないこと考えてるでしょ」

「明石もあれか、魔法使いなのか」

「なにそれ?」

「あー、なんでもない」

 

 変なの、と笑う明石。

 

 自省しつつ、選んできてもらった飲み物を飲んだ。

 

「あ、これ甘い」

「水瀬、甘いもの好きだったでしょ。今は変わっちゃった?」

「んや、友達に男にしては甘党だなってよく言われる」

「中学の時も言われてたねー」

「それは……」

「良い映画を見ると集中して頭を使うから。だったっけ?」

「その通りだ」

 

 前にちょっと話しただけなんだけど、明石が覚えてたとは。

 

「今でも冷蔵庫のお菓子の山はあるの?」

「聞いて驚け、つい先日一部を占有地として勝ち取った」

「あはははっ、ついに独立しちゃったんだ!」

 

 見せつけたピースサインは、どうやら滑らなかったみたいだ。

 

 表情が乏しいからそれやるとちょっと不気味、というのが学友達からの評価。

 

 だけど、明石は笑ってくれた。

 

「明石はどうだ? DJのこと、やってるのか?」

「色々ね。機材の操作練習したり、セトリの作り方勉強したり……ってまあ、今のところ、肝心のパフォーマンスはやれてないんだけとね」

 

 準備期間中ってところかな、と恥ずかしそうに人差し指で頬をかく。

 

 はにかむような笑い方からは、十分楽しんでいることが一目瞭然だ。

 

「……なんか、よかった」

「へ? よかった?」

「陽葉での学校生活、楽しんでるんだなって。中学の時は……あんな感じだったから」

「……そうだね」

 

 明るかった明石の笑顔が、段々と暗いものになってしまった。

 

 きっと僕も似たような顔だろう。

 

 

 

 今でも時々思う。

 

 

 

 中学の時、僕はどうして()()()()()をしてしまったのだろうと。

 

 あの頃、もっと上手くできていたら、大人だったら。

 

 もしかしたら、今も明石と……

 

「……水瀬はどうなの?」

「普通だよ。勉強して、バイトして、友達と遊んで。明石みたいに、何か特別打ち込んでるわけじゃないけど」

「あはは。水瀬らしいや」

 

 さっきまでより、少しだけ落ち着いた風に笑う明石。

 

 一息つくようにストローを咥え、みるみるうちに中身が目減りしていく。

 

「でも、そっか」

「明石?」

「たった数ヶ月だけどさ。互いに知らないこと、たくさん増えてたよね」

「……そうだな」

 

 でも、それは高校生になってからだけじゃない。

 

 あの頃も僕は、僕達は、多分互いのことを知り尽くしてはいなかった。

 

 それは感情とか心とか想いとか、多くが不明瞭なもの。

 

 本人でないと知り得ない、特別なもの。

 

 

 

 

 自分以外の誰かを完全に知ることはできない。

 

 普通に考えて、そんなのできっこない。 

 

 完全に、完璧に理解しようなんてのは、誰もがすぐに諦める。

 

「……なあ、明石」

「ん? なに?」

 

 でも。

 

「僕、高校入学の時に携帯変えて、アドレスとか番号とか変えたんだけどさ」

「あー、そういえば私もそうだ。トークアプリの方もアップデートで一回消えちゃってさ」

 

 いや、だからこそ。

 

「だから、その」

「……?」

 

 怖気付く。

 

 その言葉を形にすることが何故か恐ろしくて、とんでもない難行のように思えてしまう。

 

 そんな風にビビる臆病な自分を、なんとか押しのけて。

 

「今日再会したのも何かの縁ってことで。もう一回、交換しないか?」

「え……」

 

 

 

 

 

 もう一度知りたいって、そう思うことも普通なはずだ。

 

 

 

 

 

「あ、嫌ならもちろん断ってくれていいぞ。中学時代の付き合いとかリセットしたいっていうやつもいるし」

「い、嫌じゃないっ!」

 

 うわびっくりした! 

 

 叩きつけるように勢いよくテーブルに置かれたプラスチックカップに肩が跳ねる。

 

 それに、何より驚いたのは明石の必死なような、ちょっと怒ったような顔だった。

 

「嫌じゃないに決まってるじゃん!」

「ちょ、明石声がでかい……」 

 

 これ、結構本気で怒ってるな。

 

 前はどうやって宥めてたっけ……

 

「それとも何? 水瀬は私のこと、そんな風に思ってたの?」

 

 む、それは聞き捨てならない。

 

「それこそ違うに決まってるって。僕から言い出したんだぞ?」

「じゃあ、どう思ってるのさ」

 

 どうって聞かれても……

 

 流石に正直には言えないし、誤魔化すしかない。

 

「とにかく、僕はできればまた明石と話したい。そう思ってる」

「む、なんだかはぐらかされた気がするけど……まあいいよ。はい」

「ん、さんきゅ」

 

 互いに情報を伝え合いながら、携帯を操作する。

 

 数分後、僕の携帯には明石の新しい連絡先が追加されていた。

 

「ん、できた」

「私も」

 

 そこで次に何を言おうか迷ってしまった。

 

 画面の中にある文字列を見つめているのが妙に恥ずかしくなって、視線を上げる。

 

 すると、不思議と同じようにしていた明石と目線がかち合って、今度は心臓が跳ねた。

 

「じゃあ……また、よろしく」

「う、うん、よろしく」

 

 ……なんだ、このやり取り。

 

「じゃっ。じゃあ私、そろそろ行こうかな〜、なんてっ」

「え、あ、おう」

「ま、またね!」

 

 ああ、という返事は待つことなく、席を立った彼女は足早に去っていった。

 

 そのままフードコートから出ていく……かと思ったら、直前で立ち止まる。

 

 不思議に思っていると、明石はこっちに振り返った。

 

「……今度、連絡するね」

「あ、うん」

 

 それしか言えなかった。

 

 妙に赤い明石の顔をぼけっと見ているうちに、彼女は行ってしまう。

 

 後ろ姿を目で追って、見えなくなったところでようやく緊張が途切れた。

 

「ふぅ……なんで変に緊張してるんだ僕は」

 

 こんなのは久しぶりだ。

 

 妙な気疲れを感じながらも、携帯の中にあるものを見つめて。

 

 

 

 

 

「……また、特別になるのかな」

 

 

 

 

 

 そんな独り言が、周りのざわめきにかき消された。

 

 

 

 

 

 

 





読んでいただき、ありがとうございます。

作者は真秀ちゃんが推しです。
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