深夜に失礼、更新です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
『Hey DJ! かませYeah Yeah Yeah! 気分上々↑↑の針落とせ 音鳴らせパーリナイ!』
イヤホンから流れるポップな音楽に耳を傾け、スマホの画面を眺める。
軽やかに歌い踊り舞う女の子は、熱狂する観客へと笑顔を振りまいていた。
更に隣でもう一人の小柄な女の子がステップを合わせ、サイリウムを回しながらキュートなウサ耳を揺らせば黄色い声が飛ぶ。
そして、燦然とステージの上で輝く彼女らに鮮やかな音色を与えているのは──
「いーろね」
軽く頭に乗せられた固い感触に、顔を上げる。
するとテーブルに軽く腰掛けた輝が王子様スマイルで笑いかけてきた。
「休んでた間のノート見せてくれてサンキュ。助かった」
「ん。おお」
ノートを受け取る。輝はふと僕が手に持つスマホへと目線を移した。
「また明石さん達見てたのか?」
「そんなとこ」
「熱心だね。最近ずっとじゃない?」
「まあね」
頷いて、画面に目を戻す。
以前、明石と電話した際のことだ。
陽葉のHPを探った結果、人気急上昇中の新ユニットとして明石達のアーカイブ映像を見つけた。
それを見た途端──有り体に言えば、彼女達に一目惚れした。
無論恋愛的な意味ではなくて、あの三人の作り出す世界観に、と言うべきか。
吹き抜ける風のように軽快な歌声を愛本さんが披露したかと思えば、度肝を抜くような演出を繰り出すむにちゃん。
その後ろでDJとして、彼女ら二人が最大限輝けるよう場を繋ぎ、回し、盛り立てていく明石。
まさに驚愕。大いなる衝撃。
舞台の上の明石達は何より輝いていて、心が沸騰したのではないかという興奮を今でも覚えている。
すっかり魅入られた結果、ここ一ヶ月ほどアーカイブが更新されてはその度に彼女達の世界に没頭し続けていた。
「近頃じゃステージ衣装も揃えて、ますます頑張ってるみたいでさ」
「彩音がそこまで夢中になるなんて珍しい。そんなにいいんだ、えーっと……」
「DJmash&りんくwithVJ Only、だ。正直もっと早く見ておけばよかったと今でも思ってる」
「名前長くない?」
「改名を目下検討中らしい」
本当に素晴らしい、明石達のユニットは。
それぞれが全力で楽しんで、楽しませて。まるで太陽のような存在感を作り出し、見るものを惹きつける。
これからどこまで成長し、大きくなるのだろう──自然とそう思わせてくれる。
「正直、陽葉の箱が一般開放されてたら通い詰めてたまである」
「ガチじゃん。箱とか言ってるし」
「これが〝推し〟という概念か……」
「まるで初めて感情を知ったロボットみたいだね」
「情動を得たモアイ像という意味では当たらずも遠からず」
「ぶふっ」
「二人とも、楽しそうだね」
肩を震わせる輝にしてやったりと思ったところで、ミナがやってきた。
「おかえりミナ。光は?」
「まだトイレで格闘中。それで、なんで盛り上がってたの?」
「今、ちょうど僕が笑うモアイ像になったって話をしててさ」
「あー……ナイ◯ミュー◯ア◯的な?」
「的な。あ、ガム持ってる?」
「持ってないね」
「ふはっ! ちょ、タンマタンマ! 脇腹痛いって!」
輝が更に轟沈した。途中から結託してたミナと拳を合わせる。
こいつの王子顔が崩れることは珍しいので、ついついやっちゃうんだよな。なお改める気は今の所ない。
「あ、なんか連絡来てる」
「その貝殻の飾り。また付けてるのか」
「うん。貰い物なんだけど、気に入ってさ」
「ふーん。それって最近よく遭遇するっていう?」
「あはは、そうそう。この前で三回目なんだけどね、商店街のお店の限定メニュー食べようとしたらばったり」
「春が来たのか」
「そんなんじゃないって。むしろそれは水瀬くんじゃない?」
「こいつ、言いよる」
別に明石とはそういう意味で進展してないし……ないし。
というか、毎回パフォーマンスの度にメッセや電話でついつい褒めちぎってしまうせいで怒られた。
「でもガチで怒ってはないんだよな……なんでだろ」
「え、何が?」
「あー、笑った笑った」
「復活したな」
「したよ。なんにせよ、日々に彩りが加わったのはいいことだよね」
「うん。いつか実際に目の前で見たいよ」
機会があれば、ぜひお目に掛かりたいものだ。
●◯●
さて、そんな風に明石達のファンとなった僕だが。
とても嬉しいことに、彼女達はバイナルを溜まり場にしてくれている。
三人で、あるいは明石一人でよく訪れるため、前にも増してバイト中の僕のやる気も上々だ。
「彩音くん、これあそこのテーブル席に持っていってもらえる?」
「了解です」
トレイを片手に、カウンターを出る。
心なしか歩く姿勢も我ながら洗練されてきてる。
逸ることのないよう足取りを調節しながら指定された席に行けば、本日も来店した明石達がいた。
「さんせっとすてーじ? 何それ?」
「学園祭で開催されるパフォーマンスコンテストなんだけど……」
談笑している彼女らに、ひとつ咳払いをしてから近づく。
まず初めに気付いたのはむにちゃんだった。明石は愛本さんに何かしら説明するのに熱中している。
「ご歓談中失礼します。ご注文の飲み物です」
「あ! 水瀬君!」
「やあ愛本さん。今日も元気だね」
「うん! だって昨日のステージも最高だったからね!」
「アーカイブ見たよ。素人意見だけど、どんどん上達してると思う」
「えへへ、ありがと〜」
嬉しそうに笑う子だ。変に謙遜されるより素直な反応なのは性格が出てると思う。
順に飲み物を置いていき、空いたグラスを回収していたら、愛本さんの隣からじとっとした目線を感じる。
「どうかした?」
「……なんでもないわよ」
「あ、そっか。むにちゃんさんも愛本さんとすごく息が合ってると思うよ。パフォーマンス始めたばっかなんて信じられないくらいだ」
「あっ……そ、そう。ちょっと違うけど……でも、ありがとう」
肩を跳ねさせたむにちゃんはボソボソと返事してくれた。
うん、やっぱり一人だけ褒めるのも違うよな。
「ていうかあんた、いつもあたし達に付きっきりじゃない? 平気なの?」
「今はお客の入りも少ないし、マスターが気を回してくれてさ。そうだ、明石も……え、なんで身構えてんの」
「最近の水瀬、何言ってくるか分かんないだろ」
「そんな警戒せんでも。ただ明石達を応援してるってだけだよ」
「なぁに真秀。あんた照れてるわけ?」
「照れてない!」
明石の様子に苦笑してしまう。やっぱやりすぎてたかなぁ。
でも頬を赤らめた明石はちょっと新鮮だ。や、輝と違ってわざとからかうようなことはしないけど。
「そうだな、じゃあ一言だけ。今回も最高のDJだった」
「……ありがと」
「あー、真秀ちゃん嬉しそう! 可愛いー!」
「ちょ、ひっつくなりんく!」
「推し箱の仲良さに感無量」
「あんた何言ってんの?」
しまったつい本音が。
「んんっ。で、ステージがどうって話してたけど。次の話?」
「そうそう! 真秀ちゃんがね、学園祭のさんせっとすてーじ? に立てるかもって!」
「へえ、学園祭か。そのサンなんとかっていうのは?」
「サンセット、ステージね!」
愛本さんを押し戻した明石は、姿勢を正すと説明してくれた。
「陽葉学園で人気の上位八ユニットが参加できる特別なステージなんだ。夕暮れの光に照らされて学園祭を締めくくる、最高の舞台なんだ」
「つまり、普段にはない特別なチャンスってことなんだね」
「そういうこと。ステージに立つのはパフォーマンス、集客力、人気、技術、全てがトップクラスの猛者達! そこに加わることができればアガること間違いなしだよ!」
よほどそのサンセットステージに熱を上げているらしく、瞳がどこか遠くを見つめている。
ステージに立つ自分を想像しているのだろうか。
夢想に耽る表情はどれほどの期待なのかを感じさせ、見ているこちらも今からドキドキしてくる。
「ねえねえ、むにちゃん」
「何よりんく」
「真秀ちゃんと水瀬君ってさー、やっぱり……」
「しっ。野暮なこと言わないの」
ああ、僕も生でそのステージを見られたらな。
陽葉の学園祭は一般開放するのだろうか。
だとしたらなんとしても……っと。まだ〝かもしれない〟の状態で期待しすぎてもプレッシャーになってしまうか。
「じゃあ、その夢が叶うことを祈ってるよ」
「うん、頑張る! そのためにはもっとユニットの人気を獲得していかないとなー」
「またリミックスコンテストに応募してみる?」
「いやー次のリミコンはまた先だし」
「だったら、こっちに応募してみるのはどう?」
おっ、むにちゃんからの提案があるようだ。
そういえばこの子、上の名前なんていうんだろ。今更だけど知らないや。
タブレットがテーブルに置かれ、明石達と共に画面を覗き込むのだった。
●◯●
流れ始めたのは、いわゆる告知動画。
厳かなメロディを携えて動き出した画面には、独特な衣装を纏った女の子達が現れる。
『私達は新しい才能を求めています。応募規定は、〝Photon Maiden〟をイメージしたオリジナル曲であることのみ。採用された楽曲はフォトンメイデンの新曲として──』
綴られる言葉が意味するのは、楽曲のオーディション。
しっかりと作り込まれた世界観と映像。かなりお金をかけていることがわかり、個人が作ったものでないことが察せられた。
「これって、フォトンメイデンの?」
「真秀ちゃん知ってるの?」
「大手プロダクションのオーデションで選ばれた子達のユニットで、最近デビューしたんだ。期待のニューカマーだよ」
「つまりプロってわけだ」
そういうこと、と頷く明石。
なるほど。同世代くらいに見えるけど、明石達とは違うこういう形での活動をしてる人間もいるのか……
「……ん? あれ?」
「どうしたの?」
「いや……」
動画に写ってる四人の女の子達。
選び抜かれたというだけあって見目の良さだけじゃなく、一種のオーラのようなものを感じさせる。
うちの一人、長い髪の女の子がどっか見覚えがあるような……。
「……まあ、気のせいか。うん、なんでもない」
「そう?」
「それで、これに応募するってこと?」
「そ! 話題作りにはもってこいでしょ? ついでにあたし達の知名度もあげちゃおうって作戦よ!」
「でも、オーディションに受かればってことだろ? これ、プロモ応募するようなものだし。とても私達じゃ……」
「いいえ、真秀。あなたなら出来るわ?」
むにちゃん、自信たっぷりに言い切った。
でもこの口ぶりだと、なんだか明石に全振りしているようにも思えるのだが……
「ええっ、まさか私に丸投げ!?」
「そんなことないよー! 一緒にやろうよ! みんなで曲作るなんてワクワクするよ!」
「いや、まだ作るとは……」
「僕もやってみたらいいと思う」
「水瀬まで!?」
裏切ったの!? と言わんばかりのリアクションをされてしまうが、あえて僕は冷静に答える。
「明石、前にオリジナル曲作りたいって言ってたろ。一皮剥けたいって。これがいいチャンスじゃないか?」
「でも、流石に規模が……」
「気後れする気持ちは、あると思う。でも逆に、だからこそ限界を超えられるんじゃない?」
「うう……」
「真秀ちゃん……」
「ううっ!」
僕の言葉と愛本さんの眼差しに挟まれて、明石が声を上げた。
その横で優雅に紅茶を嗜むむにちゃん。わりと図太いなこの子、やりきったと言わんばかりの態度だ。
「か、仮にやるとしてもだよ? 私ビートは作れるけど、メロが……」
「メロって、曲の流れ自体の話?」
「そう。最低でもギターか鍵盤に長けてる人を頼らないとな……」
ああ、そういうことね。
中々踏み切れないとは連絡を取り合う中で一度言ってたことがあるが、技術的な問題もあったんだ。
「はい! じゃあじゃあ、私ピアノできるようになるっ!」
「はぁ!? 今からか!?」
「うん! だってそうしないと曲が出来ないんでしょ?」
「て言っても、一日二日で出来るものじゃ……」
「やってみなくちゃわからないよ!」
「そんな無茶な!」
ふむ……ギターか、あるいはピアノができる人間か。
愛本さんの溢れ出すやる気に任せてみるのも手だ。そもそも彼女達のユニットの問題、僕は部外者だし。
でも、どうせなら何か手助けしたい。友達に対してそう思うのは、果たして僕が欲張りなのだろうか?
「よかったら、知り合いを一人紹介できるかもだけど」
「え? 本当!? だれだれ!?」
「友達なんだけどね。ことピアノに関しては誰より腕が確かだと思うよ」
「水瀬、それって……」
明石に頷く。そっち方面でも輝の勇名は中学時代から轟いてたからな。
「忙しいやつだし、暇があるかどうか確認してからになるけど。ちょっと話を通してみるよ」
「本当にいいの?」
「まあ、首突っ込んで話聞いた以上はね」
「案外やるじゃない、あんた」
「ありがとう水瀬くん!」
「でもほんと、あんまり期待しないでね」
キラッキラな目をしてる愛本さんに、一応一言断りを入れて。
そうと決まれば、後で輝に連絡を……いや。事が事だし、学校で直接顔を合わせて頼んでみるか。
これで彼女達の活動がますます盛んになれば、ファンとしても嬉しいところだ。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回、あの子も登場です。