D4DJ〜Uniquee Mix!!〜   作:熊0803

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お久しぶりです。

楽しんでいただけると嬉しいです。


Eleventh Unique

 

 

「またね、水瀬」

「じゃあ後でな、明石」

 

 手を振る明石を見納めて、教室から出る。

 

 途端にふっと気が抜けたように思いながら、購買を目指して廊下を進んだ。

 

 

 

 近頃は周りに人がいても、普通に明石と話せるようになってきた。

 

 別に誰が駄目と言ってもないんだけど、前にも新星が話してた通り、明石は可愛い上に人当たりがいいから、当然クラスでも人気者。

 

 対して特別人付き合いが上手じゃない僕は、少し気後れする訳で。

 

 

 

 だがどうにも、明石との会話が学校にいる中で一番楽しい時間になりつつあるのが悩ましい。

 

「なあいいだろー新星? 頼むよー」

「一回だけ! 一回だけでいいからさ!」

「ええ? そんなこと言われてもな」

 

 と、噂をすれば。

 

 前方の窓際で、クラスメイトらしき男子数人に拝み倒されている新星の姿が見えた。

 

「お前が今日来てくれたら絶対ウケるんだって! それに新星も気にいる子がいるかもしれないし!」

「助けると思ってさ! な!」

「うーん、助けるかぁ」

 

 何を話してるのか、なんて疑問に思うまでもない。

 

 昼休みの喧騒。

 その一片として聞こえてきた言葉を思えば、大体は察しがつく。新星の合コン勧誘はうちの学年じゃ有名だ。

 

 

 

 あいつ自身慣れているのか、人当たりの良さげな態度でのらりくらりとかわしているようで。

 

 ただ相手もなかなか粘り強いらしく、しつこく引き止められてるみたいだ。

 

「おーい、新星」

「ん? 水瀬?」

 

 ゆるく腕を振り上げ、その場に近づく。

 

 新星を誘っていた二人も、新星自身も怪訝そうな顔で僕の方に振り向いてくれた。

 

「ごめん、遅れた。購買行こうぜ。30個限定メロンパン、手に入れるんだろ」

「え? ……あ。うん、そうだったね」

 

 目の中に疑問符を浮かべた新星だが、すぐに頷いた。理解が早くて助かる。

 

「てことだから、新星借りてっていい?」

「い、いいけど」

「考えといてくれよな、新星」

「あー、それのことだけど」

 

 なおも言い募る同級生。

 

 離れていこうとするそいつらに、僕は新星の肩に軽く手を置いて言う。

 

「新星、今日は僕と遊ぶ約束してるんだ。また今度でいい?」

「へ?」

「な、新星」

 

 すかさずアイコンタクト。それだけで頭の回る王子様はまた察しの良さを発揮してくれたようだ。

 

「実はそうなんだ。先約してて」

「そ、そっか。先に言ってくれたらよかったのに」

「中々切り出せなくて悪いね」

「こっちもしつこくて悪かったな。いこうぜ」

「ああ」

 

 どこか残念そうに去っていく同級生達。

 

 その視線が切れたのを見計らって、パッと新星の肩から手をどかす。

 

「よし。じゃあメロンパン買いに行こう」

「え? あれ方便じゃなかったのか?」

「何言ってるんだ。今日こそは絶対買ってやるよ」

 

 ちょっと早足に歩き出すと、少ししてふっと破顔する声が聞こえ、隣に新星が続いた。

 

「毎度のことだけど、大変だね」

「まあ、もう慣れたよ。俺自身が積み上げてきたものの結果だからね、不満には思ってない」

「ふーん」

 

 そりゃあ立派な心構えだ。やっぱり人に注目される頻度というのが違うのだろう。

 

「というか、どうして水瀬は助け舟を出してくれたんだい?」

「え、あの仏頂面見たら普通そうしない?」

「ぶ、仏頂面? 俺が?」

「してなかったっけ。ほら、こんな感じで」

 

 さっきの新星の表情を真似て、どこかアンニュイな笑いを作ってみる。斜めに伏せた目には、「めんどくせーなー」的な感情を。

 

 

 

 きょとんとする新星。

 

 次の瞬間、ぶっと吹き出した口元を手で押さえてそっぽを向いた。

 

「くッ。くっ、くくくっ」

「おい、めっちゃ笑うじゃん。そんな似てなかった?」

「だ、だって。水瀬、口だけ笑ってて、あと、超真顔……ぶふっ」

「お気に召して何よりだよ」

「わ、悪かったって。でも、あんまりにもアンバランスで」

「小学校時代、にらめっこして付いたあだ名が石仮面だった話する?」

「くっ、ははははっ!」

 

 ついに脇腹を押さえ始めた。

 

 まあ、爽やかイケメンの珍しい表情を見られたので良しとしよう。

 

「まあ、新星のそういうとこは尊敬するけどさ。別に難しく考えなくても、気が乗らなきゃ乗らないで断っても良いんじゃない」

「……そっか」

「ん?」

「いや。ありがとな、水瀬」

「ん。あ、もし新星だけメロンパン買えたら、僕がもらおう」

「ちょ、おい。そりゃないでしょ」

 

 今度は慌てる新星。

 

 普段は付け入る隙がなさそうな完璧超人のそんな姿が、ちょっと面白かった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「明石さん達のユニットの楽曲作成にアドバイス?」

「うん」

 

 昼休み。

 

 弁当に舌鼓を打つ最中、持ちかけた話に輝は眉を片方上げる。

 

「なんか、曲のメロディを作る技術がないらしくてさ。手助けしてあげられないかな」

「ふむ」

「あ、もちろん輝が無理のない範囲でいいんだけど」

「んー、作曲ねえ」

「やっぱ難しい?」

 

 僕の問いかけに、箸を弁当箱の縁に乗せた輝は顎に指を置く。

 

 雑談から一転、僕なりに真面目にしたつもりの相談に、親友は真剣な横顔で考えてくれていた。

 

 屋上のベンチに腰掛ける輝はそれだけで様になって、周囲にいた女子がキャッと声をあげる。

 

「一応、できないことはないよ」

「おっ」

 

 やがて、返ってきた言葉は期待のできるものだった。

 

「でも俺も作曲法を勉強してるわけじゃないし、知ってる曲のメロディから彼女達の希望に沿ったものを紹介するくらいになるけど、それでもいい?」

「確認してみるよ」

 

 スマホを出して明石に連絡を取ってみる。

 

 

 

 水瀬:突然ごめん、水瀬だけど。この前の作曲のことで少し進展があった

 

 

 

 メッセージを送って、弁当を食べながら返信を待つ。

 

 数分後、気づいてくれたのかトーク画面に返信が表示された。

 

 

 

 明石:今確認した! 連絡ありがと。それで進展って? 

 

 

 

 輝の言葉をなるべく簡潔かつ要点を押さえて打ち込み、送信する。

 

 既読マークがついてからしばらく。次の返信は了承の言葉が送られてきたの、でほっとした。

 

「いいってさ」

「じゃ、引き受けるよ」

「突然だったのに、ありがとね」

「いや。この前のコンクール以来、特に次の予定も入ってなかったから。最近はただ弾くだけじゃマンネリ化してきたし、俺にとってもいい刺激になるかもと思って」

「さすが。月高の王子は頼もしいな」

 

 よかった。これで明石達の手助けをすることができそうだ。

 

 さて、後は。

 

「それで、お返しは何にしたらいい?」

「ん? あー、特に考えてなかったけど。他ならぬ彩音の頼みだったし」

「そういうわけにもいかないだろ、わざわざ時間を割いてもらうのに。僕にできる範囲でお返しはするよ」

 

 自分ができないことを人に任せようっていうんだから、無償労働なんてありえない。

 

 

 

 輝は「本当によかったんだけどなあ」などと、何故か微妙に笑いながら言った。マジの王子様かこいつは。

 

「彩音は変わらないね」

「突然どうした?」

「なんでも。うーん、そうだなあ。明石さん達の曲が完成するまで、バイナルでの飲食を彩音の奢りでとか?」

「……来店頻度とメニューの相談をさせてもらっていい?」

 

 バイト代の半分は貯金に回してるけど、流石に毎日こられるとキツいし。いやしかし、大変なことを頼んでる手前……。

 

「冗談だよ冗談。流石に人の懐を圧迫するようなことを見返りにしないって」

「じゃあ、別に欲しいものがあるってこと?」

「ああ。一つ思いついたよ」

 

 ぴっと輝が人差し指を立てた。

 

 そうして満を辞したような雰囲気を作って、本当の対価を要求してくる。

 

「これから先、何か明石さんのことで困ったことだったり、悩み事があったら、真っ先に俺に相談すること」

「……それ、お礼にならなくない? 既にやってるし」

 

 今でさえあれやこれやとアドバイスされているのに、これじゃあ何もしないのと同じだ。

 

「いいんだよ。俺がそうしたいんだから」

「……わかった。じゃあそれで」

「なんというか無欲だな、輝は」

「さあ、どうだろうね」

「?」

 

 曖昧な答えに首を傾げても、輝は肩を竦めるだけだった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 で。

 

 

 

 早速その日の放課後、輝も明石達も予定が空いていたので、バイナルに集合する運びとなった。

 

「と、いうわけで。アドバイザーとして連れてきた友達の……」

「新星輝です。よろしくね」

「大鳴門むによ。よろしく」

「新星くん、今回はありがとう。改めてよろしくね」

「大鳴門さんは初めまして。明石さんも、こちらこそだよ」

 

 気さくに挨拶をする輝。

 明石は親しげに、今日ようやく苗字を知れた大鳴門さんは少し警戒した感じだ。

 

「あれ? 愛本さんは?」

「それが、やっぱり自分でもピアノ練習しておく! って聞かなくて。まだ学校」

「ああ、そういう」

「ごめんね。あとで今日話したことは伝えておくから」

 

 ユニットのリーダーがそれでいいのか感は若干あるけど、奔放そうな愛本さんらしいといえばらしいか。

 

「そうしたら、自己紹介も済んだし本題に入っていいかな? オリジナルの曲を作成するんだよね?」

「うん。それなんだけど、今回は私たちのユニットの、ってわけじゃないんだ」

「というと?」

「実は……」

 

 簡潔に例のユニットの応募コンテストの説明がされる。

 

 最後まで静かに聴いていた輝は、理解したようにひとつ頷くと顎に指を当て、考える姿勢に入った。

 

「……なるほど。つまり、そのユニットの世界観に沿った曲を作る必要があるわけだ」

「うん」

「何か、そのユニットの曲とかはある?」

「もちろん。これまでリリースされた曲は用意してあるよ」

「じゃあ、聴かせてもらうね」

 

 明石の差し出すタブレットとイヤホンを受け取って、輝はフォトンメイデンの曲を聴き始める。

 

 

 

 その間、僕らは手持ち無沙汰になってしまう。

 

 どうしようかと視線を彷徨わせ、ふと対面に座っている明石と目が合ってしまった。

 

「「あっ」」

 

 意識していたわけでもないのに、それがあまりに同時で、どちらからともなく逸らしてしまう。

 

「なーに仲良くしちゃってんのよ」

「べ、別にしてないよ」

「どうだか。ていうか、あんた」

「ん? なに大鳴門さん」

 

 大鳴門さんが少しびっくりした顔をする。どうしたんだろうか。

 

「大丈夫?」

「へ、平気よ。ん、んんっ! それよりこの人、本当に頼りになるんでしょうね?」

「ちょっと、むに」

「あーまあ、不安になる気持ちもわかるよ」

 

 僕や明石は輝の人となり、そしてピアノの腕前を知ってるけど、大鳴門さんからすれば初代面の男子。

 

 

 

 密やかに囁かれた彼女の懸念はもっともだと思う。なにせ初めての作曲活動なのだ。

 

 短い付き合いだが、大胆なようでいて基本的に慎重なタイプのようだし。確実性を知っておきたいのだろう。

 

「でもこれに関して、僕は万全のイエスを返せるよ。プロの演奏の補助にお呼ばれすることもある、って言えばわかるかな」

「ふうん? まあ、お手並み拝見ってところかしら」

「まったく、この子は……」

 

 ツンと澄ました態度はなんとも大鳴門さんらしいではないか。

 

 なんとなくだけど、光のことも思い起こさせるな。

 

「……なるほど。こういう感じか」

 

 そうやって言葉を交わしていると、輝が曲を聴き終えたのかイヤホンを外す。

 

「ありがとう、明石さん」

「う、うん。でも、もういいの……?」

「大丈夫。大体わかったから」

 

 はっきりと頷いた輝が、スッと表情を引き締めた。

 

 

 その瞬間、僕を含めて全員が彼の雰囲気が変わったことに気がついただろう。

 

 

 

「じゃあ、本格的に曲の方向性を決めていこうか」

 

 

 

 その輝は、僕の友人ではなく。一人の音楽家としての顔だった。

 

 

 





読んでいただきありがとうございます。
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