D4DJ〜Uniquee Mix!!〜   作:熊0803

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楽しんでいただけると嬉しいです。


Thirteenth Unique

 

 

 

 

 待って待って、本当に待ってくれ。

 

 何を、僕の親友は今、目の前で何をやってるんだ!? 理解が追いつかない!? 

 

「サイン、ですか?」

「はい。それ以外には何も望みません」

 

 僕が混乱に陥っている間にも、輝の奇行はとどまることを知らない。

 

「そんな。新星さんほどの人が、私のサインをだなんて……」

「ご謙遜なさらずに。あの日の貴女が奏でた繊細にして大胆な旋律。他の追随を許さぬ美技。どれほど心が打ち震えたか。いつか同じほどにという気持ちで、俺は頑張ってこれたのです」

「きょ、恐縮です」

 

 危うく目が眩みそうになるほどの王子様オーラを全開で向けられ、渡月さんは目を白黒させていた。

 

 しかし、少し何かを考えた後、おずおずと恥ずかしげに言う。

 

「……そこまで言っていただけて嬉しいです。その、私でよろしければ」

「! ありがとうございます!」

 

 いいんだ!? 

 

 

 

 かくして、驚いたことに輝が渡月さんをその気にさせた。

 

 今度は右の胸ポケットから取り出されたペンと共に受け取った色紙に、彼女はサラサラと印していく。

 

「これでよろしいでしょうか?」

「はい……!」

 

 恭しく、返された色紙を輝は受け取る。

 

 自分の手の中に収まったそれを見下ろし、女の子だったら思わず見惚れそうな表情を浮かべた。

 

「ああ、今日はなんて良い日だ……」

「…………」

「ん? 彩音、そんなところで何してるんだい? こっちに来なよ」

「だっ……」

 

 れのせいだと、と喉から飛び出した言葉を食い止める。

 

 落ち着け、僕。

 ここでツッコんでも何かに負けたような気がする。あくまで、あくまで冷静に…………よし落ち着いた。

 

「「!?」」

「お前、はしゃぐのはわかるけど荷物落としちゃいかんでしょ」

「ああ、そうか。拾ってくれたんだな、ありがとう」

「まったく、気をつけなよ」

 

 スタスタと近づいて、立ち上がってる輝に鞄を返す。

 

「ねえ、今一瞬で表情消えたわよ……」

「水瀬、昔から切り替え早いから……」

「ん?」

「な、なんでもない!」

 

 明石と大鳴門さん、いま内緒話してたような。

 

 まあ、おおかた輝の行動についてだろうけど。きっと本人に聞こえないようにしたんだろう。

 

 

 

 そんなこんなで席に着き、ようやくお疲れ様会のメンバーが揃った。

 

 僕と輝が頼んだ飲み物が来るまでの時間で、輝とは初顔合わせの愛本さんや、改めて渡月さんと自己紹介をする。

 

 その間に、おかしかった空気も少し落ち着いた気がした。

 

「さてと。お騒がせしたね」

「すごいすごい! 二人とも、映画みたいだったよ!」

「愛本さん、そんな、大げさです」

「いえ。俺としては、まさしく人生最大の好機と言えました。こちらは額縁に入れて大切に保管させていただきます」

「そ、そこまでしていただくほどの価値は!」

「何を仰います。俺にとっては至宝ですよ」

 

 どうやらまだバグってるみたいだ。再起動させたいけどスイッチどこだろう。

 

「新星くんって、こんな一面もあったんだ……」

「なんか最近のあんたに似てるわよね。類は友をってやつかしら」

「大鳴門さん、それどういう意味?」

 

 流石にここまでブレーキ自分でへし折ってないんだけど。

 

 ちょっと明石さん? なんで若干目ぇ逸らすの? え、嘘でしょ普段こんなになってる? 

 

「こほん。なにはともあれ、今日は水瀬も新星くんも来てくれてありがとう!」

「こちらこそ、呼んでくれてありがとう」

我が女神(マイレディ)の携わった曲を拝聴できる機会をくれたこと、改めて感謝するよ」

「あはは……えー、完成にこぎつけたのは、ここにいるみんなの力があったからです。特に、いきなりだったにも関わらず頑張ってくれた麗には本当に感謝してる」

「いえ。こちらこそ初めての挑戦で、とても楽しかったです」

「うん。あとはオーディションの結果を待つばかりだけど、ひとまずはってことで……」

 

 おもむろに明石が持ち上げたグラスに、察して自分の飲み物を手に取る。

 

 他の面々も同じようにして、それを確認した彼女が一際笑顔で言った。

 

「お疲れ様! かんぱーい!」

「「「「「乾杯ー!」」」」」

 

 重なる声と、ぶつかるコップの音。

 

 周りのお客さんの迷惑にならないくらいで取り交すと、いきなり愛本さんが身を乗り出した。

 

「真秀ちゃん真秀ちゃん! 早く二人にも聞かせてあげようよ!」

「わかってるって」

 

 こちらを見た明石が、仕方なさそうに笑う。

 

 それは愛本さんの押しが強いからか、それとも僕が彼女と同じ待ち切れない顔をしていたせいか。

 

「早速なんだけど、いいかな?」

「いよいよ、だね」

「待ちに待ったよ」

 

 

 頷き、自らのスマホを取り出す明石。

 

 その指が画面をスワイプスするのさえドキドキしながら、差し出されたそれとイヤホンを受け取る。

 

「はいこれ」

「サンキュ」

 

 片耳ずつはめ込み、画面に表示された音声ファイルの再生ボタンを……クリックした。

 

 

 

 

 

 瞬間──音楽が弾ける。

 

 

 

 

 

 まさしく飛び出すように始まったイントロに、ハッと喉が震えた。

 

 圧倒される暇もなく、怒涛のごとく音の調べは軽やかに音階を次から次へと飛び移り、頭へ流れ込んできた。

 

 

 

 パレードのように賑やかな序盤が終われば、一気に曲調は静かなものへと。

 

 伸びやかに、それでいて嫋やかに、耳朶を打つビート。

 

 少しずつこちらをそこから先へ誘っていると予感させる溜めを段階的に経て。

 

 

 

 そしてまた、爆発する。

 

 再び心の中に広がる音という名の鮮やかな色彩が、体の全てを内側から満たして。

 

 

 

 気がつけば、足踏みをしてた。

 

 その曲が内包する世界に支配されてしまったのか、僕の意思に関わらず肩が小刻みに揺れる。

 

 ただ没頭していたくて、いつの間にか目を閉じ、残りのほんの数十秒を聞き届けるのに注力し。

 

 

 

 そうして、終わる。

 

 名残惜しさを残させない、最後の最後まで楽しげなリズムのままに、一分半が過ぎ去った。

 

「…………ふぅ」

 

 ゆっくりと、息を吸い、吐く。

 

 すっかりと浸ってしまった意識を、体を慎重に現実へと引き戻し、余韻から醒める。

 

 

 

 イヤホンを外す。

 右端まで画面上のバーが到達したスマホを、そっとテーブルに置いた。

 

「どう……かな?」

 

 顔を上げれば、どこか不安そうな明石が。

 

 彼女だけじゃなく、愛本さんも、大鳴門さんや渡月さんも同じ眼差しを送ってきて。

 

 そんな四人に、僕は天井を仰ぎ見、万感の思いを込めて呟く。

 

 

 

「────宇宙(ユニバース)

 

 

 

 全てが収束された答えだった。

 

 何がとか、どこがどんな風にとか。

 伝えたいことが頭の中を埋め尽くして逆に語彙力が死んだ結果、唯一溢れ出た言葉がそれだった。

 

「最高だった……もう、自分の中の何かが弾け飛んだ気分だよ……」

「えーと。良かったってことでいい?」

「至上」

「さらにランクが上がった!?」

 

 感極まった。ここまで心を揺さぶられたのは久しぶりだ。

 

 前にCDショップで遭遇した女の子の言ってた意味が、ちょとわかったかも。 

 まさに宇宙を見たような感覚だった。

 

「もう、なんていうか……この曲を生み出してくれてありがとうって言葉しか出てこない」

「わー! 気に入ってくれて良かった!」

「大げさなリアクションねえ。まあ、悪い気はしないけど」

「良かった……あの、新星さんはどうでしたか?」

 

 ほっと胸を撫で下ろし、渡月さんが不安げに僕の隣を見る。

 

 イヤホンを取って、輝はいつもの3割増しで良い笑顔を浮かべた。

 

「見事な一曲でした。しっかりと明石さん達のイメージを確立しつつ、メッセージ性もある。偉そうな口ぶりになってしまいますが、文句の付け所がないです」

「そ、そうですか。よかった……」

「ありがとう、新星くん」

 

 さすがは輝。僕が言語化できなったことを全て言ってくれた。

 

 音楽の先輩からのお墨付きをもらってはにかんでいる明石へ、気を取り直し改めて言葉を贈る。

 

「やったな。ちゃんと感じられたよ、明石達だけの特別な色(ミックス)

「! うん!」

「まっ、これなら採用間違いなしよね」 

「さて、どうだろうね。あとはオーデションの審査をする人たちの采配次第だよ」

 

 得意げだった大鳴門さん、冷静な一言を浴びせられてガクッと肩を落とした。

 

「あんた、相変わらずしっかりしてるところはしてるわね……」

「はは。多少は不安も持っておかないとね。自分が最高のパフォーマンスを発揮できたと感じても、評価をする側の感性と必ず合致するとは限らない」

「評価され慣れてる輝らしい意見だな」

「もちろん、これを聞けば僕も明石さん達や我が女神(マイレディ)の努力が無駄になるとは思わないけど」

 

 それも確かに。

 この曲にはいろんなものが詰まっていた。音の一つ一つに至るまで、丹精こめているのがわかる。

 

「その辺り、どう感じているかな?」

「……うん。今回の作曲を通して、どうすれば聴く人を楽しませられるのかとか、自分の理想を実現できるのかとか。いっぱい考えて、勉強になった。たとえオーディションの結果がどうなっても、絶対に後悔はしないよ」

 

 自分の胸に手を当てて、回顧した明石は頷いた。

 

 多くのものを発見して、身に付けることができたのだろう。とても晴れやかな表情だ。

 

「えー! そこは絶対受かってるって思っとこうよー!」

「そうよ。確かに期待しすぎは良くないけど、このむにちゃんが認めた曲なんだから。自信持ちなさい」

「良い結果を信じましょう、真秀さん」

「みんな……うん! そうだな!」

「上手くまとまったみたいだね。じゃあ、堅苦しいのはこの辺りでやめておいて。お祝いをしようじゃないか」

「賛成。今日は楽しもう」

 

 元々はそれが目的だったわけだし。

 それに、オーディションがどうあれ……少なくとも僕は、完全にあの曲の虜になっていた。

 

「はいはーい! 私、ピザ食べたーい!」

「この時間に重いの食べるわね!?」

「だってお腹ペコペコなんだもーん」

「りんくさん、凄い……」

「はいはい、じゃあご飯も頼もうか」

 

 

 

 そうして、僕達は日が暮れるまでその場を楽しんだ。

 

 

 





読んでいただき、ありがとうございます。
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