D4DJ〜Uniquee Mix!!〜   作:熊0803

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Fourteenth Unique

 

 

 

 

 

 ピコン、と通知音が鳴る。

 

 

 

 パソコンで観ていた映画を止め、机の上に置いたスマホを見ると連絡が入っていた。

 

「ん、明石からか」

 

 ロックを解除して、トークアプリを開く。

 

 

 

 まほ:今いいかな? 

 水瀬彩音:大丈夫

 まほ:よかった。

 オーディションのことなんだけど、結果が返ってきたから伝えておきたくて

 

 

「おっ、ついにか」

 

 だいたい今週くらいには応募先から連絡が来るとは聞いてたけど、今日だったみたいだ。

 

 合否がわかったら教えてくれるというから楽しみにしてたので、嬉々として返事する。

 

 

 

 水瀬彩音:わかった、聞くよ

 まほ:できれば口で伝えたいんだけど、電話しても平気? 

 水瀬彩音:構わないよ

 

 

 

 既読がついてから少し間を置いて、画面が明石からの着信に切り替わった。

 

 応答して耳に当てる。

 

「もしもし、明石?」

『あ、水瀬? 突然ごめん、大丈夫だった?』

「ちょうど家で暇してたよ。いつも通り映画見てた」

『そっか。今日はどんなの?』

「ホラー。ちょっと古いやつ。そっちは?」

『さっきまでりんく達とバイナルにいたよ。解散したとこ』

「へえ、店に来てたんだ」

 

 ということは、四人でオーディション結果を確認したのかな。今日に限ってシフトが入ってなくて惜しい。

 

 けどまあ、こういうって最初は作った当人達だけの方がいいか。

 

「今週のスペシャルメニューを食べてくれたか聞きたいけど、先に本題からいこうかな」

『うん。その……』

 

 ん、何やら歯切れが悪そうだ。

 

 今回の挑戦にどんな成果を得られたのかドキドキしつつも、明石が続きを言うまで待つ。

 

『…………ごめん! あの曲、落ちちゃった!』

「あー……そうだったんだ」

 

 受け入れるのに一瞬、時間を要する。

 

 そっか。落選しちゃったのか。個人的にはすごくいい曲だと思ったんだけど。

 

『水瀬や新星くんにも沢山協力してもらったのに、ホントごめん!』

「や、なんで明石が謝ってるの。別に大丈夫だよ」

 

 自分の方がダメージあるだろうに、いい子だな。

 

 通話の向こうから漂ってくる空気は申し訳なさげで、どう言葉をかけたものかと逡巡する。

 

 

 

 残念だったね? それとも、今回はしょうがないよ? 

 

 うーん、ありきたりだ。それになんだかちょっと淡白な気もする。もう少し頭を捻って……。

 

「改めて、お疲れ様。すごく頑張ったね」

『……ありがと』

 

 不甲斐ないことに、これもありきたり。

 

 しかし明石のこれまでの労力を思えば、かける言葉はこれしかない。

 

『うー、悔しいなぁ。むにじゃないけど、結構自信あったのに』

「同感。愛本さん達はなんて?」

『残念がってた。あはは、最初から全部上手くいくことなんてないよな』

 

 今までの活動は順調そうだったし、これがユニットとしての初の挫折なんじゃなかろうか。

 

 でも、思ったより明石の声音は暗くない。

 悲しいっていうよりは、言った通り悔しい気持ちが大きいようだ。

 

『これを糧に、また次頑張ってみるよ』

「良かった。落ち込んでなさそうで」

『このくらいでへこたれてられないって。それに結果的には落選だったけど、得られたものは大きかったから』

「僕も今後、さらにパワーアップした曲が作られるのを楽しみにしてようかな」

『もー、また映画三昧にならないでよ?』

「それはもう日課だからなぁ」

 

 なんとなくそうなると思ってたけど、あまり心配する必要はないみたい。

 僕が勝手に気を揉むまでもなく、普通にいつもと変わらず前向きな明石だった。

 

『まあでも、終わったと思ったら結構気が抜けちゃってさ』

「燃え尽きた?」

『ってほどじゃないけど。今日はもうユニットのことは休憩の気分』

「じゃ、軽く雑談でもしようか」

『うん、そうしたい』

 

 とりとめのない会話が始まる。

 

 明石は普段の二割増しにテンションが高いような気がした。ずっと気を張り詰めさせていた反動かな。

 

 僕の方からも積極的に話題を提供して、楽しませることに努めた。

 

「で、その時ちょうど先生がポインターで黒板叩いたのと、光の頬杖がずれて起きたのが同時でさ。みんな笑ってた」

『なにそれ、凄いタイミング。え、その後はどうなったの?』

「先生が「そこまで強くやったか……?」とかぼやいて、見事に全員死んだ」

『あっ、あはははっ! それは反則でしょ!』

 

 誰が一番不憫だったかって、額を机に打った上に叱られた光だろう。しばらくしょげてたし。

 

 お気に召したらしい明石は、しばらく笑った後にはあと一息ついた。

 

『あー、お腹痛い。ほんと、笑わせるの上手いよね』

「どうかな。喋り慣れてる明石だからかも」

『そっか。……ねえ、水瀬』

「ん?」

 

 ふと、明るげな声の裏に何かを含ませた明石は。

 

『ありがとう』

「あ、うん。どうも。……えっとこれ、何に対してのお礼?」

『色々、かな。うん、色々』

 

 

 

(曲作りを手伝ってくれたし。こうして元気付けてくれることも。それに……頑張ったねって、言ってくれたから)

 

 

 

 交流を再開してから何度か聞いたその言葉。

 

 なのに、これまでのどれより深い意味があるように聞こえたのは、僕の気のせいか。

 

『前に水瀬、大事な友達って言ってくれただろ? 私も、また友達になれてよかったって思ってるっていうか』

「それならよかった」

 

 少しホッとした。

 

 まだ心のどこかで、どこまで元通りになれたのか、近づいていいのかとか考えていたから。

 

『だから、さ。大事な友達、なんだから……』

「うん?」

『……名前で呼んでも…………いい?』

「うん…………………………………………はい?」

 

 

 

 そうやって、気が緩んでいた僕にとって。

 

 

 

 躊躇いがちに、か細い声で通話越しに告げられたものは、一瞬で意識を吹き飛ばすだけの力があったのだ。

 

 

 

『ほ、ほら! 中学の時を足せばもう一年以上の付き合いだし!? これを機に、そろそろいいかな〜って思うんだけど!』

「お…………あ……うん…………?」

『だ、駄目……かな?』

 

 長く。

 

 オーディションの結果を聞いた時とは比べ物にならない時間が、かかった。

 

 音が言葉として脳に染み込み、意味を分析して、認識するまでに体感で何分も費やした末に──。

 

「い……いんじゃ、ないです、かね……」

『っ! ほ、本当にいいの!?』

 

 や、あの。今冗談とか嘘とか言える余裕、マジ無いから。

 

 部屋の中の微かな音さえ入ってこない。比喩なしに全神経がスマホへ……明石の方へ集中しているのがわかる。

 

『へ、へへ。やった』

「……明石?」

『あっ、なんでもない。と、とにかく! そういうことなら、次会った時からはいろ……し、下の方で呼ぶからな!』

「お、お好きにどうぞ?」

『じゃあ、また今度ね! お、おやすみっ!』

 

 始めた時とは正反対のかなり上擦った声を残して、通話は切られた。

 

 ツー、ツー。

 無機質な音を繰り返しているスマホを耳から離して──直後、ウォータースライダーさながらに椅子を滑り落ちる。

 

「っはぁあぁあぁぁ…………」

 

 びっっっっくりしたぁ!!!?? 

 

 は? は? なに、えぇ? さっきの何? 何だったのマジで? 不意打ちすぎてヤバすぎたんだが? 

 

「なんなの? 一日一回可愛いことしないと気が済まんの?」

 

 アホなセリフが口から飛び出す始末。

 だって仕方がないだろう、一歩踏み込めたと思ったら五歩くらいぶっ込まれたんだ。

 

 

 

 ああ。これ、次会う時どうしたらいいわけ。

 

 どんな顔で、どういう感情を抱けばいいの? 頼むから、誰か教えてほしい。

 

 沸騰した顔に手を当てて、誰も見てないのに隠そうと躍起になりながら思った。

 

 

 

 

 

 僕も今日はギブアップだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 駅前に広がる広場。その一角にあるベンチで、みなもは読書に耽っていた。

 

 授業の合間にあと少しで読み終わる所まで進め、家まで待ちきれずにここで落ち着いたのだ。

 

 その指はまさに今、最後の一ページを繰らんとしている。

 

「……ふぅ」

 

 

 

(うん、面白かった。周りから怖がられて、人を信じられなかった男がある出会いをきっかけに大切な人達を作っていく話。最後はきっかけをくれた女の子と結ばれてハッピーエンド。すごくよかった)

 

 

 

 本を閉じ、前髪の下にある眼鏡のさらに奥で目を輝かせた。

 

 そうして顔を上げたところ、少し離れた場所に見覚えのある人物が歩いているのが見える。

 

 

 

(あれって……)

 

 

 

 近隣でも有名な陽葉学園の制服。鮮やかに揺れる金髪は見間違えるはずもない。

 

 肩を落としており、どこか気落ちしている様子にどうしたのかと思わず注視してしまう。

 

「?」

「あっ」

 

 それに気がついたのだろうか。不意にこちらへ振り向いたことで目が合う。

 

 みなもは曖昧な笑いを浮かべ手を振った。

 

 

 

 が、すぐに焦る。

 

 今の自分は学校に行くモードだ。彼女と遭遇する時は決まってオフなので、誰なのか認識できない可能性がある。

 

 そんな予想に反し、少しの間だけ首を傾げていた少女は表情をぱっと明るくさせて近づいてきた。

 

「もしかして、みなもくん……だよね?」

「そうだよ。奇遇だね、愛本さん」

 

 りんくはやっぱり! と言わんばかりに笑顔を浮かべた。

 

「わー、凄い! また会っちゃった!」

「この間ぶり。あ、どうぞ」

「ありがとう!」

 

 自分ばかり座っているのも気が引け、端に寄るとりんくが横に腰を下ろした。

 

「よく僕だってわかったね? いつもと結構違うんだけど」

「あ、確かに制服だ! うーん、なんていうかビビッ! ときたんだよね。あ、みなもくんだ! って」

「び、びびっときたんだ?」

「うん!」

 

 そっか、と納得を返す。

 数度目の遭遇ともなれば慣れるもので、自信満々に直感的な根拠を誇る様にもあまり驚かない。

 

「愛本さんも制服だけど、学校の帰り?」

「うん。さっきまで友達といたの。商店街にあるお店でね」

「へえ。良いお店?」

「うん! いっつもみんなで行ってるんだ」

 

 興味を唆られた。

 街中の至る場所で出会す活発的なりんくが常連にしているとは、よほど気に入っているのだろう。

 

 しかし詳しく聞こうとする前に表情がみるみると暗くなっていき、大きくため息をついた。

 

「ど、どうしたの?」

「実は今日、残念なことがあって……」

「残念な……」

「友達がすっごく頑張って作ったものが採用されなかったんだ。それがちょっぴり悲しい? 悔しい、みたいな?」

「なるほど。それは惜しかったね」

「みんなですっごく楽しみにしてたのにな〜……こんなことざらだよ、って言ってたけど、私にも何かできたんじゃないかなーって考えちゃって。そのせいでお腹も空いてくるし」

「えっ、お腹が空くの?」

 

 採用、と言うからには何かしらの応募だったのだろう。

 二度目のため息がこぼれ落ちるのを見て、随分期待していたのだと確信を深める。

 

 みなもは困った。というのも、異性から悩み事を聞くという経験には乏しい。

 ガラの悪い連中をひと睨みして退けるのとはわけが違う。上手くやる方法というのがよく分からない。

 

 どうしたものかと思案した時、ふと膝の上にある本が目に入る。

 

「って、ごめんね! いきなりこんな話」

「そんなことないよ。……その、僕は詳しく知ってるわけじゃないから、下手に何か言えないけど。でも、〝落ち込んだ時こそ、自分らしく〟でいいんじゃないかな」

 

 思い切って、そう言ってみる。

 りんくを見ると、ぱちくりと目を瞬かせてはいるが、みなもの発言に引いている様子ではない。

 

 これならと、もう少し勇気を出して続かせる。

 

「この本にあったセリフなんだけどね。何かが上手くいかなくて落ち込んだ時って、いつもの自分を忘れがちになると思うんだ。やり方が間違ってたんじゃないか、もっと良い方法があったかも、って」

「それって、今の私みたいに?」

「うん。だけど結局、終わったことは終わったこと。飲み込んで、自分なりに次に活かす方法を考えた方がずっと良い。そんな考え方に共感してさ」

 

 そういう経験ならみなもにもあった。

 コンプレックスだったこの目つき。隠すことしかできず、昔はそこからずっと進めなかった。

 

 でも、今は別の考え方ができている。不安と失敗を恐れて俯くばかりではない。

 おかげでこうして、顔を合わせては言葉を交わす知人も一人できた。

 

「愛本さんもそのことを、ずっと引きずりたいわけじゃないでしょ?」

「ううん、全然違うよ!」

「ならやっぱり、愛本さんは愛本さんらしく、前向きに明るくいればいいと僕は思う。そのお友達も、元気な愛本さんが見たいだろうし」

 

 勝手な想像になるが、りんくの友達だ。自分のせいで天真爛漫な彼女が落ち込むのを喜ぶとは思えない。

 

 

 

(うう、差し出がましい意見だったかな。名前さえ前に会った時にお互い知ったばかりのやつから説教じみたことを言われて、怒ってないといいけど)

 

 

 

 最後まで話し切って一種のテンションが下がったのか、不安がよぎる。

 

 自分の考えも混ぜてはいたものの、七割方が本からの受け売り。時間が経つにつれ、どんどん膨れ上がり──。

 

「自分らしく……私達のっぽく……うん、うん! それ! それだよ!」

「あ、愛本さん?」

「みなもくん!」

「は、はい!」

 

 思わず背筋を伸ばして返事をする。

 

 次の瞬間、ひと一人は空いていた距離をぐっと詰めてきたりんくにぎょっとさせられた。

 視界を埋め尽くさんばかりの綺麗な顔とキラキラ輝く瞳は、眼鏡というフィルターがなければとても直視できない。

 

「ありがとう! おかげで私、やりたいことが分かった気がする!」

「そっ、それは良かった。ちょ、ちょっとは役に立てたみたいで」

「すっごく立ったよ! 私、絶対にチャンスにしてみせるからね!」

「が、頑張ってね?」

 

 どうやら思いついたことがあるらしく、居ても立ってもいられない様子で立ち上がったりんく。

 

 そのまま行くかと思われたが、何歩か進んだところでみなもに振り向いた。

 

「みなもくん! いつも助けてくれてありがと! またお話しようねー!」

「うん。僕でよければ、いつでも」

 

 満足げに頷き、またね! と手を振って走り去っていく。

 

 見送って、しばらくしてからほっと安心した。初めてのことだったが何とかできたようだ。

 

「助けられたな……」

 

 アドバイスのヒントをくれた本をまた見下ろす。

 

 なんとなくそれが先ほどまでよりもさらに良いものに思えて、読み返してみようという気になる。

 

 願わくばりんくの試みが成功するようにと思いながら、みなもはまた一からページをめくり出すのだった。

 

 

 

 

 

 





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