D4DJ〜Uniquee Mix!!〜   作:熊0803

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大変お久しぶりです。

楽しんでいただけると嬉しいです。


Seventeenth Unique

 

 

 

 

「もう7月だなぁ」

「そうだね。期末テストも近づいてきてるし」

 

 昼休み。

 今日も今日とて、近頃はスポーツドリンクが必需品になりつつある屋上で輝達と膝を突き合わせていた。

 

「二人とも自信は?」

「理系はあんまり……」

「英語のリスニングはそこそこ?」

「予想通りって感じの答えだな。というか、彩音は洋画を字幕で見てるからだろ」

「バレたか」

 

 やっぱり演者の声そのままだと、随所に生の感情がこもってるから見応えあるんだよね。ちょっとした単語学習にもなるし。

 あとはそれ系の見て気になった時に結構調べたりするから、歴史もちょっとはできる……かも? 

 

「……納得がいかん」

 

 そんなふうに話していたら、ぽつりと聞こえた呟き。

 振り向けば、光が憮然とした顔で眉根を寄せている。

 

「いきなりどうしたの? ネタキャラ扱いのこと?」

「あ、すまない。声に出ていたか。うむ、心が時々折れそうに……って違う! というか分かってるなら改善してくれたまえ!」

「いやあ。もう無理だろ」

「む、無理っ!?」

「あはは。なんていうか、定着しきっちゃってるよね」

「君らがそんなノリだからクラスの連中もだなぁっ!」

 

 うん、今日も良いツッコミ。

 

 はぁ、肩を落とした光に、段取りもなく合わせていた僕らはここらにしようとアイコンタクトしあう。

 

「で、何を悩んでるの?」

「そ、そうだった。実はこれなんだが」

「おっ、どれどれ?」

 

 難しげな顔を向けていたスマホの中身を、みんなで覗いてみる。

 

「これは……動画のコメント欄だな」

「おー、今回もすごい反応されてる」

「でも、これがどうしたの?」

「うむ。ここだ」

 

 むにむにおんりーさんからのコメントか。

 

 前と同じように、他と比べて長文で書き込まれている。それ以外は別に目立ったところはないが……

 

「どう思う」

「どうって?」

「相変わらず細かなとこまで見てる、としか」

「ええい、わからんやつらだな。みなも、君の見解は?」

「うーん……心なしか、指摘が鋭い?」

「あー、言われてみれば?」

 

 確かにそう言われると、だ。

 前々から忌憚のないコメントだったものの、より磨きがかかっているというか。かと言って攻撃的ってほどでもなくて。

 

「で、これが気に入らない原因? ここまで言われる筋合いはって?」

「いや、違う。むしろ率直なのは好ましい」

「まあ光の性格的にそうだよね」

 

 こと動画作成に関してプロ根性を持つ光だ。

 

 見る限り、良い点も悪い点も公平に見た上でのコメントだし、こういった正しい意味での批評は積極的に取り入れる。その上でより良いものを作るスタイルだろう。

 

「日を追うごとに精度を増していく此奴の意見に、非常に意欲を刺激されていてな。いずれは完膚なきまでに賞賛させてやろうと、近頃はますます意気込んでいる」

「いい傾向だね」

「だが、まあ、その……なんだ」

「歯切れが悪そうだな。勿体ぶるのはツッコミ待ちの時だけでいいけど?」

「誰が生粋の芸人だ……有り体に言って、有り余る意欲に対し適格なコンセプトが、現状乏しくなりつつある」

 

 ん? と顔を見合わせて首を傾げた。なんか回りくどかったぞ。

 

 僕らの中でも頭の回転が早い輝だけは、それからすぐになるほどという顔に。

 だが僕はそうもいかず、少々言葉の意味を噛み砕くのに時間を必要とした。

 

「要するに、詰まったってこと?」

「ぐっ。非常に、非っ常に屈辱的な要約の仕方をすれば……そういうことにならないこともない」

「すごい苦い顔じゃん」

 

 いわゆるネタ切れってやつか。明石曰く、クリエイターなら一度は必ず当たる壁だというけど。

 完全に享受する側の僕には迂闊に共感できないが、なんとなく大変だというのは分かる。

 

「色々とやってみたが、何を作ってもどうにも二番煎じのような気がしてね……」

「こりゃ重症だ」

「あはは……」

「やっぱりって顔だな? ミナは」

「何? そうだったのかい?」

「実はね。前にも増して投稿するペース早かったから、ちょっと心配してたんだけど」

 

 でも流石に言えなくてさ、と苦笑いを浮かべる。それもそうか。

 などと思っていると、突然光が頭を下げた。

 

「そういうわけで、すまない。せっかくの昼食時だというのに。気にせず話を続けてもらって……」

「いやいや、冗談は普段だけにしなって。ね、二人とも」

「そりゃ勿論」

「だね」

「へ?」

 

 僕らは手に持っていた箸やらスプーンやらを弁当箱ごと脇にやる。

 

「あー、紙とかペンはバッグが教室だからないし。とりあえずスマホでいっか」

「じゃ、俺が聞き取り役で」

「千条くんの過去の動画を開いておくよ。改めて何か気付くかもしれないし」

「お、おい、君達?」

 

 それぞれの役割は決まった。

 あとはそうだな。やっぱり、それっぽい雰囲気の方が盛り上がるだろうから。

 

「んんっ……チキチキ! 第一回、光の動画ネタ探しだいさくせ〜ん」

「よっ、待ってました!」

「どんどんぱふぱふ〜! ……とかでいいのかな?」

「ノってくれてありがとう二人とも」

 

 スベらなくてよかった。実はちょっとドキドキしてたので。

 と、そこで唖然としていた光がようやくハッと我に帰った。

 

「ど、どうしてわざわざそんなことを! 君達に迷惑をかけるつもりは……」

「あんな顔されてちゃ放っとけないからね。というか、ガチの悩み顔とか似合わないし」

「似合わないし!?」

「一人じゃ限界なんでしょ? これじゃテス勉にも集中できなさそうじゃん」

「た、確かにそうだが……」

「僕、いつも千条くんの動画を楽しみにしてるんだ。悩んでるなら少しでも力になりたいよ」

「ぐっ。む、むぅ」

 

 輝、僕、みなもと来て光が口ごもる。もうひと押しでいけそうだ。

 

「それに、どっちにしろこのままだと俺達に迷惑がかかる」

「な、何故だ。これは私の個人的な問題のはずだが」

「光は期末テストが終われば来るものを忘れたのかな?」

「期末テストの後? そんなもの、終業式と……」

「そ、夏休みだ。せっかくの長期休暇だぜ? 気兼ねなくみんなで遊べるようにしとかなきゃだろ?」

 

 指を立て、笑いながら輝が言う。

 またも表情を驚かせた光は僕とみなもを順番に見て、それに頷きを返した。

 

「プール行きたいよね」

「それに、夏祭りとかも楽しそう!」

 

 やっぱり楽しいことをするときは、余計な悩みを抱えないに限るよね。

 

 

 

 光はしばらく、口元をもごもごさせていた。

 

 しかし、次に顔を上げた時には。

 

「ふっ。確かにこの私がいつまでも燻っているなど、あってはならないことだな!」

「おっ。ということは?」

「そこまで言うのなら手伝わせてあげようじゃないか。私の最高な作品を生み出す一助になることを君達に許そう!」

 

 そう言い、胸を張る表情はすっかりいつも通りだった。

 

「おー、いい感じに調子乗ってきたな」

「うんうん、これでこそ光って感じ」

「三人寄ればって言うし。僕らは素人だけど、四人もいればきっといいアイデアが浮かぶよ」

「むしろ、知らないからこその意見というのもあるからね。どんどん貢献してくれたまえ!」

 

 そうして、昼休みはマンネリ脱却会議となったのだった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「納得いかなぁーい!」

 

 

 

 ばしん、と見事なタップ音。

 

 ぐるりとテーブルの上でカップが揺れて、中身をこぼすことなく元に戻る。

 それとは裏腹に、頬を膨らませて立ち上がっている大鳴門さんに僕はきょとんとした。

 

「えっと、ごめん。何か注文取り違えりした?」

「いや、違うよ彩音。ほらむにも、座りなって」

「むぅ〜!」

 

 これまた見事な膨れ具合。突いたら柔らかそうである。

 それでも明石の言うことに素直に従うところが、どこか大鳴門さんらしいというか。

 

「で、何が納得できないって?」

「パフォーマンスのリアクション!」

「え? でもみんないいねって言ってくれてるよ?」

「その証拠に、ランキングもまた上がってるしな」

「おっ、おめでと」

「ありがと」

 

 着々と人気を獲得してるようで、ファンの一人としては嬉しい限りだ。

 しかし、それならこの表情はどうしてなのか。僕も明石達と一緒に首を傾げざるをえない。

 

「けど、評価されてるのりんくと真秀だけじゃない」

「いや、むにのVJだって評判いいじゃん?」

「うんうん」

「VJいいね、じゃなくて、むにちゃんいいね! じゃないとダメなの!」

「それって、どっちも同じじゃー……」

「同じじゃないっ!」

 

 強い否定。なにやらそこの違いに強い思い入れがあるらしい。

 

「……同じ、だよね?」

「同じ、だな」

「むぅう!」

「あの……つまりそれって、パフォーマンスの時のVJという現象ではなく、それをやっている大鳴門さん自身が賞賛を頂かないと不服、という意味でしょうか?」

 

 疑問にピリオドを打ったのは、意外にも渡月さんだった。それで僕もピンとくる。

 

「あー、なるほど。つまりありていに言えば、名実共に認められたいってことね」

 

 今の状態じゃ中身だけ評価されてて、それをやってる大鳴門さんにも向いてるわけじゃない。

 自己表現の一種って輝も前に言ってたし、そこに重きを置く彼女の性格を考えるとその不満は不思議じゃないな。

 

「っ……ま、まあそうなんだけど……そこまで揃ってぶっちゃけられると……」

「あ、ごめん」

「はっ! ごめんなさい……!」

 

 渡月さんとシンクロして口に手を当てた。ついポロッと言っちゃったけど、あんまし良くない。

 

「でもさ、それってやっぱり同じじゃない?」

「だーかーらー!」

「あー、じゃあ僕からお詫びも兼ねて、提案いい?」

「何よ、アイデアでもあるわけ?」

 

 びしっと突きつけられた指先に挙げた手を下ろし、ふと思いついたことを言ってみる。

 

「要するに、ボーカルでユニットの顔の愛本さんや、パフォーマンスを回してる明石みたいに、このチームのVJこそ大鳴門さんだって知ってほしいんだよね。ならさ、普段からわかるようにしてみたら?」

「わかるように、って。宣伝でもして歩けってこと?」

「や、そこまでしなくても。こう、パフォーマンスを連想させることをしてみるとか?」

「連想……」

 

 ぬいぐるみ……最近知ったけどにょちおっていうらしい……と一緒に思案する。役に立てばいいけど。

 

 やがて、ぴこんと頭に明かりが宿った。

 

「じゃあ、こういうのはどうかしら! パフォーマンスの時に使ってる耳を普段から付けるのよ! そしたら一発でむにちゃんだって分かるわよね!」

「「却下」」

「はぁーっ!? なんでよ!?」

「むに、それだけは絶対やめとけ。後悔しかしないから」

「同感」

 

 あの二十センチ以上ありそうなビックイヤーを普段使いしてたら、悪目立ちなんてもんじゃない。

 確実に自分も周りもいたたまれないことになる。こら愛本さん、「一回見てみたーい」とか言うんじゃありません。

 

「恐縮ですが、私もそう思います」

「麗まで!? あーもう、ならどうしろって言うのよ!」

「でしたら……こういうのはどうでしょう?」

 

 何やら検索した画面を渡月さんが明らかにする。

 ちょっと頭を傾けて見ると、通販サイトのようだった。そこにはピンクのウサ耳カチューシャが。

 

「これならアクセサリーの範疇でしょうし、きっと大鳴門さんにもお似合いですよ」

「うんうん! 似合うよ絶対!」

「そ、そうかな?」

「うん! 私、これ付けてるむにちゃん見てみたい!」

「まあ、それくらいならまだ……どう?」

「いいんじゃない?」

 

 ごりっごりのコスプレっぽくなるあの耳よりかは、ちょっと派手目の装飾品くらいで絶妙な落とし所じゃなかろうか。

 それ言ったら、輝とかいつも王子様オーラ身につけてるしね。オミットできない分あっちの方が不便そう。

 

「おしっ、そんじゃポチっちゃうか!」

「あ」

 

 迷いなく即決お買い上げだった。

 でもそれ、渡月さんのじゃ……同じことを思ったのか、満足そうな本人以外も苦笑してる。

 

 まあ、うん。なるようになるでしょ。そのままにするような子じゃないと思うし。

 

「あんたも、アドバイスありがとね」

「ん。これで差し引きゼロってことにしといてよ」

「ふふん、今からみんなのあっと驚く顔が楽しみだわ!」

 

 気合は十分そうである。何故だろう、光がスベる時に近いものを感じる。

 

 

 

 その時、ピコンと通知音が鳴った。

 発生源は大鳴門さんのブレザーから。取り出した彼女はスマホを開いて、得意げに笑う。

 

「どうしたの?」

「昨日アップしたイラストにリアクションが来たのよ。ふふん、今回も上々ってとこね」

「あ、サウザーライトさん! この人、いつもむにちゃんの絵に感想くれる人だよね!」

「固定ファンってやつかもな」

「それならもうちょっと素直な書き方しなさいよね、まったく」

「サウザーライト……」

 

 なんか聞き覚えが……どこでだっけ。

 あっ、あれだ。光が動画投稿する時に使ってるアカウント名が、確かそんなんじゃなかったか。

 

 え待って、マジか。同じ名前の別人って線もなきにしもあらずだけど、もしそうだとしたら面白い偶然だ。

 

「どうしたの彩音、楽しそうな顔して」

「んや、世間って意外と狭いなあと」

「?」

 

 明石の純粋な疑問の目がちょっと可愛かったりして、誤魔化すように咳払いを一つしてみる。

 

「そういえば、このメンバーは夏休みの計画とか立てたりしてるの?」

「うん、いろいろ話してるよ。海とか、バーベキューやりたいとか。あとは夏祭りとか。ほら、毎年やってる町内会主催の」

「あれね。去年は受験だったから行けなかったけど」

 

 街の風物詩の一つにもなっている。近頃は商店街にも張り紙が出され始めた。

 

 昔は兄貴と一緒にだったな。よく食べよく遊ぶ人だったので、普通に体力差でバテてた記憶がある。

 中学からは気が向いたら行ったりって感じで……二年の時は、確か。

 

「どうしたの? 私の顔、何かついてる?」

「っ。あー、いや。今年は夏祭り、どうしよっかなって。うん」

「……そっか」

 

 あーもう、僕はまた誤魔化して。

 

 でも、そうか。明石は、夏祭りに行こうとしてるのか。

 

 

 

(……水瀬、行こうか迷ってるんだ)

 

 

 

 

((……ふうん))

 

 

 

 

 どこかで、何かが重なった気がした。

 

 

 

 





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